愛は人を変える?
「等身大の木材……ってか、ぶっとい2メートル越えの大木を、収納魔法無しで運ばせるとは……。なかなか笹さんも災難だったね」
帰宅……ならぬ帰城後、ワカの部屋に行って先程のことを話したら、そんな感想が返ってきた。
流石にワカでもそれはやりすぎだと思ったらしい。
「うん。あれは多分、2メートル越えていたと思う。でも、どんな巨人の等身なんだろうね」
「いいな~。2メートルの男。その大きさにトキメクもんがあるね~」
ああ、恭哉兄ちゃんは大きいもんね……という言葉をわたしは呑み込んだ。
今の時点で下手にからかうと、あまりよくない結果になりそうな気がしたし。
「わたしは背が低いから、もっと背が近い方が良いな~。顔見るたびに首痛くなりそうだし」
「ああ、高田はアンダー150だもんね~」
「その言い方止めてよ。どうせ、わたしは四捨五入しない限りは150には届きませんよ。それに……、ワカも似たようなもんでしょ」
「それでも150はあるもの。高田はマイナス5センチ~」
「たかが5センチ!」
「されど、5センチ。その差を詰めることが出来ないことには変わりないでしょ。その『たかが5センチ』程度の差が」
「ううっ。まだ伸びる! これからこれから!!」
わたしはまだ望みを捨てていない。
「ふっ。高田は今、15歳……。男の子は高校生からでも十分、伸びるけど、女の子は中学生くらいで大体決まってしまう。つまり、一般女性の成長期は過ぎてるってことよ」
「今更、平均が当てはまるとは思えないけど……」
わたしの身長は平均を下回っている。
この身長じゃ、小学生だ……。
「笹さんは160から165の間ぐらい?」
「う~ん。多分、それぐらい……かな? でも……まだ伸びているっぽいよ。少し前に、成長期のお約束、関節が痛いって嬉しそうに言っていたから」
本当に嬉しそうに言っていたのだ。
何気に九十九も身長については気にしているからね。
「そのままなら釣り合ってるんだけどね~、キミたち。笹さんに成長止めるように言ってて」
「釣り合っているかはともかく、九十九にそんなこと言ったら張り倒されるよ」
「え? 笹さんって、まさか……、女に手を上げる系?」
「基本は上げない。でも……、突っ込みの時は別」
突っ込む時の九十九も、基本は口だけど。
「どれだけ突っ込み体質なの!? いや……、高田がそれだけボケてるのか!?」
ワカは失礼なことを言った。
わたしはワカほどボケたことは言っていないつもりだけどね。
「大神官さまは高く見えるけど……、どれくらい?」
「測ったことないから分かんない。身長計がないし」
「クレスが、確か、179って言っていたから……、二人の身長差を考えると185ぐらいかな」
2メートルには届かないけれど、男性としても高い方だと思う。
「笹さんのお兄さん、雄也さんは?」
「175くらいじゃないかな?」
「え~? もっと高く見える感じだけど……」
「水尾先輩が近くにいると、分かるよ。水尾先輩は、169だって言っていたから」
「自己申告でそれなら元生徒会長の実際は170かもね。でも、良いな~。長身の美人さんって……。男装も似合うし、芸の幅が広がるわ~」
そう言うワカは、どこまでも演劇が好きなのだなと思う。
「それは本人の前じゃ禁句だよ。何気に気にしているようだし」
「いや、それなら何故、最初に男装で挨拶するの?」
ワカの言うことは尤もだけど……。
「いろいろあったのだよ」
わたしはそう言うしかなかった。
水尾先輩にとって「男に見える」、「男装が似合う」、「同性にモテる」等は褒め言葉の意味であっても禁句なのだ。
「あんな言動や容姿なのにね~。勿体ない」
いや、勿体ないって言うけど……。
「なんでも、お父さんがずっと男の子を熱望していたらしいのだけど……、水尾先輩のお母さんは、もう子どもを産みたくなかったらしくって……。それで、水尾先輩がああなったと」
そんな話を以前、していた気がする。
「何? 父親の強制なわけ? 妻がもう生みたくないからって、娘を男っぽく育てるなんて……、ひどい話ね」
「いや、どっちかっていうと当てつけらしいよ。ずっと『お前たちの中の誰かが男なら……』ってこぼされていたらしいからね」
確か、そんなことを言っていた。
「ああ、なるほど。『そんなに息子が欲しかったなら私がなってやる! それであんたは満足かい!! 』ってな感じなのね」
「そういうことだって。真央先輩は外見だけだけど、水尾先輩は行動まで変えちゃってね~。でも……、結局、中身が変えられるわけじゃないから……」
「ああ見えて、あの先輩方は女性らしいからね」
「わたしより女らしいかも……。虫とか爬虫類、両生類とかそういうのは駄目だし、怖い話も苦手。確かお化け屋敷とかも駄目だったはず」
中学校の時にそんな水尾先輩を見た覚えがある。
「いや……、ホラーはともかく、虫とか両生類とかは私も苦手。爬虫類はデカけりゃ好きだけど……」
「セントポーリア王子殿下に送り付けた大蛇とか?」
「ああ、確かに『みけらんじぇろくん』は、大きかったわよ」
普通は大きい爬虫類って怖い気がするのだけど。
「わたしは割と見るだけなら爬虫類系も昆虫も平気。捕まえろとなると難しいけどね」
「その辺、高田は図太いんだろうね。作り物の幽霊とかも割と平気っしょ?」
「……でも、ドロドロに崩れたゾンビは嫌かな」
ゾンビを倒すようなゲームは声だけでも嫌だし、倒すたびに、どんどん崩れて現れるゾンビがRPGにもいたけど……、アレは可愛い絵柄でも嫌だった。
「ああ、リビングデッド系が駄目か~」
「日本の幽霊とかは儚げとかのイメージがあるけど……、ゾンビは魔術によって動かされているってヤツでしょ。その設定から既に嫌なんだよ」
「黒魔術にはお約束だもんね~。動く屍って」
「……キョンシーとかはそこまで嫌じゃないんだけどね」
「形がまだ人に近いせいかしらね」
それは、自分でも分からない。
「法力や魔法にもあるの? 人を蘇生させたりするってヤツ。RPGではお約束だけど」
「どうだろう? あったとしても、禁呪とか、遣い手を選ぶとかそう言うヤツなんじゃない? 治癒ですら、遣い手を選ぶんだし」
まあ、「治癒魔法」を見ている限り、確かにゲームみたいに誰でもホイホイ使えるとは思えないね。
「でも、大神官さまなら、契約できそうだよね。生命の神とか……」
「……あれが……、人の生死という世の理を乱すような男に見える?」
見える。
しかも、喜んで。
世の理を乱したいのではなく、神に逆らいたいって気持ちは絶対残ったままだと思っている。
「ワカの命がかかったら別じゃない?」
「いや、あの男は絶対、私でも迷いなく見捨てる。そう言うヤツよ!」
ワカの中のイメージはそうなっているらしい。
つまり、まだ恭哉兄ちゃんは本性を一部、隠しているってことなのか。
まあ、知らない方が幸せってことだろうし……。
これはこれで良いのかもしれない。
「何?」
「いや、大神官さまに対して、ワカが随分、素直になったなと思って。『私でも』……ってことは、それなりに大事にされている自覚はあるのでしょう?」
つまり、あの恭哉兄ちゃんから想われているという自信も生まれたってことだよね。
「あれだけ愛だの恋だのから離れていると思っていた男が……、あれだけ露骨に態度を変えたのよ? それも、人前でとんでもない発言をかましてくれるし」
「ああ、『心から愛しています』ってやつ?」
正直、あれは凄く羨ましかった。
もし、自分が言われるなら、あんな台詞が良いと思うぐらいに。
「そっちじゃない!」
それ以外になんか印象的な台詞ってあったっけ?
その台詞だけがしっかり頭にも耳にも残っているのだけど……。
「発情期に関しては私がなんとかしてくれるでしょ? ってやつ!」
「……いや……、あれはどう考えてもワカが悪くない?」
その前に言った罵倒の数々に、とどめの一言が特に酷かった。
それなのに、あんな言葉をかけ、笑って許してくれた恭哉兄ちゃんは、凄いとすら思ったのだけど。
「それでも……、人前であれはない!」
「ワカの方もないと思うよ」
最後の言葉に関しては、九十九も妙にダメージを受けていたし。
関係ないのに巻き込まれたなんて……、災難だよね。
「高田も笹さんから言われてみなさいよ。『お前がなんとかしてくれるんだろ? 』ってキメ顔で!」
「……言われてもお断りだからな~」
まあ、まず言うことはないだろう。
九十九はそ~ゆ~キャラじゃない。
楓夜兄ちゃんや雄也先輩なら似合いそうだけど……、そもそも彼らは発情期にならないだろう。
それにしても……、ワカからいつもほどの覇気が感じられないと思うのは、わたしの気のせいかな?
それだけ、恭哉兄ちゃんとラブラブしているってこと?
愛は人を変えちゃうんだね。
ここまでお読みいただきありがとうございました。




