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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 法力国家ストレリチア編 ~

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【第26章― 神の審判 ―】平和にお買い物

この話から第26章です。

いつもより、少しばかりシリアス要素が多めに入る章になる予定です。

そして、長くなると思われます。

 (わざわい)というものは決まって油断している時にこそ起こるモノ。

 そして、それは今回の事件も例外ではなかった。


 それは闇の中で起きた。


 全ての光が失われた町。

 空から全てを貫くような閃光。

 それを受け、倒れる長身の男性。

 周囲から響き渡る悲鳴。


 その中で場違いにも高らかに笑う子どもの声。


「あはは~っ。()()()()()()()()()()~」


 ―――― そこで目が覚めた。


「夢……?」


 その夢を視た人物は滝のような汗をかいている。


 ()(らい)()……。

 予知夢とも呼ばれるそれがその人物の夢視(能力)だった。


 それは、誰の未来かは分からない。

 だが、起こる可能性が比較的高いとされる夢。


 人によって、その能力に差はあるが……、それを視た人物は、それを確信してしまった。


 それは近い未来に起こる現実だと。


****


「え……と、後は、魔力を内包させた紙……。くわ~! そんなんこの法力国家にあるのか~?」


 今日の水尾先輩は、朝から妙にテンションが高かった。


 まあ、買い物に出ること自体久しぶりだからその気持ちは分からなくもないのだけど。


「……まだ買うんですか~?」


 疲れたように九十九がそんなことを口にする。


「まだまだ~!」


 水尾先輩はそう叫ぶ。


「女の買い物って……迫力あるよな」


 九十九は何かを諦めたように、溜息を吐いた。


 彼の両腕には大きな袋が既に二つ。


 その膨らみ方を見れば、その袋には、既にみっしり品物が詰められていることは分かるだろう。


 水尾先輩の話によると、これらにあまり魔力を通したくないため、所有者の証である印付け(マーキング)ができないそうだ。


 つまり……、誰かが持つしかない。


「久々の買い物だもん。仕方ないよ……」


 わたしたちは、基本的にはあまり城の外には出ていないことにしていた。


 まあ、目立ちたくもないし、目立つわけにもいかない。


 だから、それは仕方がないと思っている。


「それにしても……、あれからもう一月(ひとつき)か。早いモンだな」


 九十九の言う「あれ」とは、「大聖堂での大神官告白事件」のことだ。


 あの日から、もう一ケ月ぐらい経った。


 楓夜兄ちゃんが帰国した以外は、まあ、特に大きな事件も起きず、まったりと平和に過ごしている。


 変わったことと言えば、時々、ワカが半分、惚気のような相談をしてくるぐらいかな?


 当人は本気で困っているかもしれないけど……、「甘い言葉を言われるのが困る」って……、かなり、贅沢な悩みだよね?


 ごちそうさまです。

 そろそろお腹いっぱいでもあるけど。


 心配されていた大神官の髪も、既に元の長さに戻っている。


 あの場で髪を切り落としてしまったが、それは人払いしていたこともあって、目撃者が少なかったことが幸いだった。


 すぐにグラナディーン王子殿下の判断で、カルセオラリア……、機械国家の王子殿下へと使いを出し、超強力育毛剤とやらを購入してきたそうだ。


 その判断の早さが凄い。


 そして、その国にそれがあることを知っていたことも。


 何ために作られた薬だったのかは謎だけど、もし、発毛剤だったなら、需要が高そうだと言ったのは誰だったか……。


 以前、飲んだことがある姿を消す効果のあるすっごく不味い薬も、確か、カルセオラリア製だったはずだ。


 しかし……、機械国家なのに薬まで作っちゃうってすごいね。


 その育毛剤は強力だった……。

 確かに凄い効き目だった。


 それは認める……が……、同時に、かなり大きな問題があった。


 使用した途端、凄い勢いで伸び始めて……、丸一日伸びることが止まらなかったのだ。


 あれだけ伸びたら、世のお父さん方は大喜びかもしれないが……、その状況を観察する役目を請け負った人間としては、あまり思い出したくない光景でもあった。


 わたしはまだ明るい時間帯だったが……、夜中、担当することになった九十九と雄也先輩はもっと大変だったことだろう。


 夜に部屋いっぱいに広がるように伸びていく髪。


 ただのホラーでしかない。


「……で、後、どれくらい買うんですか?」


 わたしは水尾先輩に確認する。


 結構な量を買い込んだのに、この様子だと、まだ足りないらしい。


「う~ん。後は、さっき言った魔法力が込められた紙……、ああ、込めることのできる紙でもいいんだが……。この国では難しそうだな~」

「法力を込めることの出来る紙ならありそうですけどね~」


 この国は法力国家だ。

 だから、魔法よりは法力を中心としたものが溢れている。


「……ま、まだ買うんすか?」

「それと……、等身大の木材。こっちの方が手に入りやすそうだし、先に行くか」


 誰の等身大なんだろう?


「うげ~。荷物が増えるのか~」

「だらしないな~、少年」


 人に持たせておきながら、こんなことを言う水尾先輩。


「自分で持ってから言ってください!」

「新しい魔法」


 ぼそりという水尾先輩。


「うぐっ!!」


 九十九は、水尾先輩から彼が知らない魔法を教えて貰うために、荷物持ちの役目をすることになったのだ。


 本来、わたしの護衛である彼が、彼女の買い物に付き合うことになっているのはそんな理由からである。


「魔力を通せないから男手がどうしてもいるんだよ。私、筋力はあまりないし」


 確かに魔力の封印を解放した後は、わたしの方が単純な力は強くなっている気がする。


 体力とかもついた実感はあるから、今後はただの足手まといではなく、少しだけ足手まといになるだろう。


「それなら、なんで雄也先輩は誘わなかったんですか?」

「先輩が魔法に釣られると思うか? それにもっと大きな対価を求められても困る」

「対価?」

「そう対価。この場合、バイト料。無理言って付き合ってもらうのだからタダってわけにはいかないだろ?」


 ああ、なるほど。

 九十九より、雄也先輩の方が値も張りそうだ。


「それに、あの先輩と一緒に行動するよりは、お前たちといる方が楽しいからに決まってるだろ? ……っと、丁度良い大きさのものがあった」


 そう言って、水尾先輩が選んだものは木材……というか、ぶっとい樹……にしか見えなかった。


 これは……、大樹国家と呼ばれるジギタリス産かな?

 いや、それよりも問題は……。


「どこが等身大だ~!!」


 九十九の突っ込みは至極当然のことだと思う。


 水尾先輩が指し示したのはどう見ても……、太さや長さがわたしや九十九……どころか、水尾先輩や雄也先輩よりも大きい。


 持つどころか……、うん、ピクリとも動かないね、これ。


 どうやら、引きずることも、わたしでは難しそうだ。


「恭哉兄ちゃんよりも大きそうなんですけど……」


 わたしが知る限り、人間で一番大きい知人は恭哉兄ちゃんである。


 精霊まで入れたら……、船の中で楓夜兄ちゃんが呼び出したあの精霊さんだけど……、この樹は明らかにそれよりも大きかった。


「ああ、これぐらいの方が良いんだよ。長いなら、切るなり削るなりするから」

「……それなら、始めからこっちのやや短いヤツを選んでくださいよ~。オレ、こんなの持ったら、流石に押しつぶされちまうかも……」


 彼にしては弱気な発言。


「九十九、自分の腕力を上げる魔法は?」


 それなら、印付け(マーキング)にはならないだろう。


「一応、使えるが、少し成功率が低い。だからまだ自信がないんだよ」


 わたしの言葉に九十九が溜息を吐いて答えた。


 そんな彼に対して水尾先輩は……。


「ダメもとであるなら使っとけ、使っとけ。それを墓柱にされたら寝覚めが悪い」

「ぼっ!?」


 笑顔でそう言いきった水尾先輩の言葉に、九十九は絶句した。


 それにしても……、水尾先輩は何を考えているのだろう?


 ある魔法を使うためだって言っていたけど……、こんなものたちを使った魔法なんて……、どんなのか予測も付かないや。


 それは九十九も、同じらしい。

 先ほどから買う物を見るたびに、疑問符を浮かべているのがよく分かる。


 もしかして、雄也先輩なら……、分かるのかな?


「とりあえず、それ以外の物はわたしも手伝うよ」


 わたしが言うと、九十九は凄く変な顔をした。


「お前に持たせるぐらいなら、素直に台車を使う」

「台車があったのか。……って、なんで今まで使わなかったの?」

「……目立つだろ。普通はここまで買い物しないし、大きいものは魔力を通して、収納するから」

「なるほど」


 それでも、わたしに荷物を持たせたくないのか、どこからか台車を召喚した。


 しかし……。


「載せにくい」


 台車の幅は80センチぐらいだけど、樹は目測で長さ2メートル越え。

 太さは……、台車と同じくらいだから直径80センチぐらい?


 重さについてはよく分からない。

 簡単に持てないぐらい重いことだけは分かるけど。


「これって……業務用の運搬車がいるんじゃないの?」

「魔界のどこにそんなものがあると思っているんだ?」


 どうやら運搬車はないようだ。


 仕方なく、店員さんに手伝ってもらって台車に載せ、人目を避けて通用口まで運ぶことに成功。


 そこから、さらに大聖堂の地下室までは、九十九が額に汗して運ぶことになったのだった。


 でも、なんで男の子って意地を張るんだろうね?

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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