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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 法力国家ストレリチア編 ~

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神子の才能

「なんでオレが呼ばれたのですか?」


 高田を部屋まで送り届けた後、オレはすぐにクレスノダール王子の部屋に戻った。


 部屋を出る時、「後で話がある」と言われたからだ。


 基本的にオレの主人は高田だが、彼女の指示がない限り、王族の依頼を拒絶することはできない。


 それが例え、若宮のように苦手な相手であっても、腹が立っている時でも、連日の疲れですっげ~眠い状況でも!


「保存食の追加でも?」

「そんなミオルカのような扱いせんといてや」


 クレスノダール王子の帰国の際の保存食はオレが作った。

 餞の意味もあったので、今回は材料費も貰っていない。


 水尾さんの食事に比べれば、微々たるものだし。


「嬢ちゃんのことやけど……」


 まあ、そうだろう。


 わざわざ高田のいない状況で話がしたいってことは、彼女に聞かれたくないことだというのも分かる。


「兄貴はいりますか?」

「いらん。アイツを巻き込むとかなり面倒になる」


 いつもと口調、イントネーションが違う辺り、真面目な話なのだろうと思う。


 だが、その気持ちは分かるが……、話の内容によっては、オレは報告する義務もある。

 オレたちは兄弟であるが、同時に兄貴が司令塔(上司)でもあるのだ。


「嬢ちゃんの……先ほどの慰め。ツクモは、受けたことがあるか?」


 それだけ聞くと怪しい意味にとれる……が、今はそこに反応するとややこしいことになりそうなのでだまっておく。


「労い……、という形で何度か」


 嘘は言っていない。


 肩を揉まれたことはないが……。


「なるほど……。癒しの実績があるわけか」

「癒されましたか?」

「癒されたし、邪気も祓われた」


 邪気が祓われた?


「その割には彼女を力強く抱き締めてましたが?」

「あの行動に邪気を感じるなら、見ている人間の心が穢れているだけだな」


 確かにあの時は驚いたが、王子から邪な心は感じなかった。

 だから、少し、反応が遅れたのだが。


「会えるはずがない、会いたくて堪らない人間の気配を感じさせてくれた相手に、感謝をしないヤツはいないだろ?」

「え?」


 ちょっと待て?

 なんだ、それ。


「嬢ちゃんは……、神子(みこ)の才があるかもしれん」


神女(みこ)の?」


 法力が使えないはずの、あの高田に?


神眼(しんがん)は持ってないようだから、普通は降臨や受肉などを介して実体化をしてない神や精霊を視ることはない。法力を使うことも多分、できないだろう。だが……、神降(かみお)ろしをする可能性はあるかもしれん」

「神降ろし?」


 降臨や受肉はともかく、初めて聞く単語だと思う。


「神を受肉させる器になりやすいってことだな。もしかしたら、思念体の影響も受けやすいかもしれん。それは、分神の影響か、神の御執心のせいかは分からんけど……、条件が合えば、祖神(そしん)変化(へんげ)をする可能性はある」

「祖神変化?」


 それはどこかで聞いたことがある気がした。

 でも、詳しくは知らない。


祖神(そしん)は生まれる前に自分の魂の基となった神のことやな。因みに分神は、神から神力(ちから)を分け与えられたこと。祖神変化は……先祖返りみたいなもので、その基となった神の姿に変化してしまうことや」

「基となった神に変化する? 人間が?」

「一時的に神を受肉させているのかもしれんが、その辺は俺も詳しくない。専門家(ベオグラ)に聞いた方が良いだろう」


 確かに、神様ってやつに関しては、大神官以上に詳しい人間はいないだろう。


 だが……。


「クレスノダール王子殿下は……、何故そう思ったんですか?」


 オレのそんな問いかけに王子は一瞬、目を見張って……、下を向いた。


「嬢ちゃんの癒しの気配の中に……、何故か、リュレイアの気配を感じた」

「な!?」


 リュレイアって、確か……、あの占術師の名前だよな?

 既に亡くなったはずのその人の気配を何故……?


「普通ならありえん話だ。だが……、俺が彼女の気配を間違えることはない。あの時、あの瞬間、確かに、リュレイアがここにいた……」


 そんな気配……、近くにいたオレには全く分からなかった。


 だが、それがもし本当ならば、それはなんて、幸福で……、そして、なんて残酷な話なのだろうか?


「始めは心地よいほどの癒しだけだったが……、不意にその気配が混ざって……、それで……、嬢ちゃんの右手を通して……」


 王子は自分の口を手で覆いながら、そう言った。


「分かりました。それは、大神官にお話ししておきます」


 それ以上、話させたくなくて、断ち切るようにオレはそう言った。


「そうしてくれ。あんなものが外に漏れたら……、間違いなくあの嬢ちゃんはこの国に縛られる。神降ろしまでできるような本物の神子はこの国でも今はいない。ほとんどが法力を使う程度の神女だ」

「それも十分凄いと思うのですが……」

「神の力を借りられるのと、本物の神を降臨させたり、受肉させられるような存在。どちらが凄いと思う? 精霊召喚の上位版だ。普通は、肉体や精神が耐えられんことだぞ?」


 言われなくても、それは分かっている。

 人の身で神を劣化模倣(コピー)するのとは、全く意味が違う。


「オレにできることはありますか?」

「まずは専門家(ベオグラ)に相談。この部分の話においては、ヤツ以上の人間はこの世界に存在しない。……ああ、占術師は除く……か。彼女たちは神眼と千里眼を持っとる反則級の存在だからな」


 確かに神については大神官以上の人間はいない。

 ……が、占術師?


「……答えにくいことを聞いても良いでしょうか?」

「占術師なら、我が国にも一人おる。基本的にはどの国も一人は囲っとるはずだ。ただ……、その能力は当然ながら個人差はある。そう言った意味では、あのリュレイアは大神官と肩を並べるほどの存在だった」


 オレの問いかけを察し、先に答えを言われた。


 だが、気になるのはそれだけではない。


「『(めし)いた占術師』という存在を聞いたことがあるのですが……」


 「盲いた占術師」……、盲目の占術師は、オレが生まれる前には歴史上から姿を消したと言われている。


 それでも、あちこちで未だに目撃証言があるらしいので、生きているのだと思う。


「リュレイアの師だな。彼女については……、期待するな。気まぐれで不吉なことを軽いノリと笑顔で告げる存在だ。寧ろ、関わるな」

「へ?」


 な、なんかイメージが……?


「目の悪い振りしただけの紛い者も多いが……。一度でもあの占術師に会ったことがあれば絶対に騙されることはない。それだけ……、次元が違う存在だ。良いな? 絶対に関わるなよ。絶対だからな」


 なんだろう?

 この人間界で観た芸人のような念の押しようは……。


 そこまで言われてしまうと、逆に、何かのネタフリとしか思えないが……、気にしたら駄目なんだろうな。


「王子殿下は会ったことがあるんですね」

「一応、リュレイアの師だからな。何度か会ってる」


 そこで、王子の肩が何故かプルプル震えだした。


「……クソっ!! あの時、『姉弟のように仲が良いのは結構だけど、後で泣きたくなければ行きすぎちゃダメよ、リュレイアの可愛い王子さま』って言ってたのは、そ~ゆ~ことかあ!! はっきり言えやあ!! あんな言い回しで4歳児に分かるかあ!!」

「うわあ……」


 突然、王子がキレた。


 でも、漏れ聞こえてしまったその内容については、同情するしかない。


 15年以上昔に、既に予言を聞いていて、その通りの道を進んでしまった後だと気づいてしまったのだ。


 自分を殴りたいだろうし、はっきり言わなかった占術師も張り倒したいことだろう。

 それが、八つ当たりだと分かっていても。


「すまん、取り乱した」

「……いや、静まったようで良かったです」


 オレは息を荒げる王子に対して、そう答えるしかなかった。


「九十九にも随分、世話になったな」

「いや……、オレも大分、王子殿下に救われました」


 何よりも……、この王子がいなければ、高田は既に取り返しがつかない状態になっていた可能性もあるのだ。


 感謝してもしきれない。


 いや、オレ自身は船の中では大変な目にはあったけど……、それ以上に得られたものが多すぎて、感謝の言葉だけではとても足りないのだ。


「ちょっと失礼。()()()()()

「へ?」


 王子はオレの前髪を掬い取って、その唇に当てた。

 何度か見た……この国で最上級の感謝を表す行動だ。


 男相手でも緊張する。


「オレも……、お返しを……」


 この王子には本当に感謝している。


 だから、同じように返すべきだと思ったのだが……。


「あ、ええわ。これを男にされるの嫌や」


 片手を突き出して、あっさりと拒否された。


「………………オレも嫌ですけど!?」


 そんなオレに対して……。


「あの嬢ちゃんを、頼むわ」


 神妙な顔をされてそんなことを言われたら……、何も言えなくなってしまう。


「……自分でできる限りのことはします」


 足りないなら、足りるまで努力をする。


 オレにはそれしかないのだ。


「それとな。嬢ちゃんに男が抱き付くたびに、あまり過剰な反応したらあかんで? あんなん、挨拶みたいなもんや」

「……してるつもりはないのですが……」


 それでも顔に出ているかもしれない。


「無自覚か。困ったもんやな。でも……、嬢ちゃんが相手に応えんうちは。見守っとき」

「え……?」

「嬢ちゃんの手。背中に回されんかった。本当にただ親愛の情なんやけど、ちゃんと警戒されとったわ」


 高田の……、手の位置なんて気にしたことはなかったな。

 どうなんだろう?


 オレの時は……、回されたことどころか思いっきり、突き飛ばされた気がする。


「あれだけこんまくて、可愛ええ主やと大変やな。まあ、いつかは誰かに応える日が来るんやろうけど……、ちゃんと我慢するんやで?」

「……分かってますよ」


 だから、距離をとる必要があるのだ。


 それぐらいは分かってる。

 いつまでも一緒にいられないことだって分かっているのだ。


「発情期もな」

「ぐっ!」


 そんな挑発的な王子の笑みに、オレはそれ以上の言葉を返すことができなかった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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