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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 人間界編 ~
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選択も解釈も自由

「……何って言うか……、随分、若宮とはタイプの違う女だったな」


 真理亜を送り届けてから、九十九はそんなことを言った。


「うん」

「知らない男に対しては大人しそうに見えたけど、あの彼氏に物事をはっきり言ってたな。それも、遠慮がない感じか? よく言えば、天然ってやつ」


 まあ、真理亜の評価としてはそんなのが多い。


 ワカは彼女のことを計算高いって言うけど、わたしは彼女が本当に計算できているなら、もっと敵を作らない方法もあると思う。


 彼女は、四方に敵を作りすぎているから。


「でも、お前の友人なのに悪いけど、オレは仲良くできそうなタイプじゃないな~」

「そうなの? 男子ってあんなに可愛い系にめろめろ~ってなっちゃうんじゃない?」


 九十九の評価はわたしにとっては少し意外なものだった。


 それほど、真理亜は男子生徒に高評価なのだ。


「顔や体型で選んでどうするんだよ?」


 さり気なく「体型」と言ったね。

 まあ、無理はない。


 彼女を見た時、最初につい目がいってしまうのが大きな胸だからだ。


「それに、自分のことを『ボク』って呼ぶような女は好きになれない」

「……いや、一人称で決められても」


 どうやら、九十九は頭が固いらしい。


 年頃の少年らしく、胸には視線がいったみたいだけど。


 そ~ゆ~考え方も個人の自由だから、口にはすまい。

 でも、どうしてだろうね?


 少しだけ安心している自分がいた。


「……水に近い……か?」


 九十九がポツリと言った。


「何が?」

体内(たいない)魔気(まき)の話」

「はい!?」


 九十九の不意の言葉に思わず大きな声を出してしまう。


 だって、魔気って、身体から感じられる魔力の気配とかそういったものだった気が……。


「声がでかい。そして、何、驚いてるんだよ。人間にだって魔力ってやつがあるって話は知っているだろう?」

「あ、ごめん。でも……」


 いきなり魔法の話をされたら、びっくりするのは仕方ないと思う。


 心の準備が足りてないのだ。


「お前たちの学校に多いのが『水』系。オレたちの学校は……、『火』が多い気がするな」

「ほほう? じゃあ、わたしは?」

「……お前から魔気は感じられないって言ってるだろ? でも、属性分けすれば『風』なのは間違いない」


 なるほど、わたしは「風」属性ってやつなのか。


「じゃあ、あの校門の前にいる真面目そうな佇まいのお嬢さんは?」

「マジメかどうかは置いておいて、あの女は『地』だな……。ついでに従姉妹の方は、多分、『水』じゃね?」

「いや、わたしに問われても……」


 聞かれてもよく分からない。


 今まで、魔力とか無縁の世界にいたんだし。


「オレの感知能力があまり高くはないってのもあるんだろうけど……。なんか、高瀬の方は読みにくいんだよ。『水』の気配が強いのに、少しだけ『風』の気配も混ざっているような気がする」

「そうか~。やっぱり得体が知れない度合いではワカより高瀬のほうが上なのか」


 わたしは妙に納得してしまった。


「お前……、ヤツらと友人、だよな?」

「友人でも分からないものは分からないんだよ。少なくとも、あの歳で親戚とは言え、殿方と同居しているような人間はあまり普通とはいえないと思うけどね」


 つい最近知った衝撃の事実。


 高瀬はなんと年上男性と一緒に暮らしているんだそうな。

 少女漫画……いや、どちらかと言えば、少年漫画か?


 「同棲」ではなく「同居」と本人も激しく主張していたので、甘い関係という印象はほとんどなかったんだけど。


「その男とは親戚なんだろ? 別に良いんじゃね?」


 九十九はその辺り、あまり、気にならないらしい。


 やはり、魔界人だからかな?


「う~ん。でも、やっぱり従姉妹としては多少なりとも気になるわけですよ。こう色めき立つような年代の男女が寝食を共にするというのは……」

「うおっ!?」


 突然のワカの参入により、驚く九十九。


「ワカ……、『色めき立つ』という表現はちょっと……」

「そう? 『色めく』の表現に比べて、ちょっとしたことで興奮や動揺の見られるお年頃な私たちにふさわしい表現だと思うけど? ね? 笹さん?」

「……オレに同意を求めるなよ」


 胸を押さえながら、九十九は返答する。

 かなりビックリしたらしい。


「随分、時間が掛かったね。お陰で顔も見たくないヤツに声かけられて参ったじゃない。油断した~。()()()()()()()()あそこまで最接近するまで気付かなかったなんて、不覚すぎる」


 ワカが苦々しそうにそう言った。


「顔も見たくないヤツ? そこまでの表現は若宮にしては珍しいな」

「アレは特異的な存在なの。具体的に言うと同じ空気を吸っている事実も嫌になるぐらい。個人的には、地球上に存在するなってレベル」

「そりゃ、またひどく嫌われたヤツもいたもんだな」


 ワカの言葉で誰に会ったかはよく分かった。


「ああ、来島(くるしま)に会ったってことだね」


 ワカがそこまで嫌っているのは彼ぐらいだろう。


「そういうこと」

「来島? 来島ってあの来島?」

「連呼するな」


 ワカは分かりやすく不快感を露にする。


「そっか……。九十九は確か同じ中学校だっけ」

「やっぱりアイツのことか。珍しい苗字だからな。まあ、アイツの性格上、人懐っこくもあるからそれなりに会話する方だし。でも、何故そこまで嫌う?」

「性格が嫌。あの妙に馴れ馴れしい上に、空気も読まず余計な一言を言う。簡単に私に触れるなっての。その他諸々に理由はあるけど、長くなるから以下略! 終了!!」


 どうやら思い出しただけでも、腹の立つ存在らしい。


 因みに、その話題の人物のフルネームは「来島(くるしま)(はじめ)」という。


 一応、わたしとは小学校が一緒だったのだけど、その当時は、話したことはほとんどなかった。


 別々の中学校に入り、たまたま同じところによく現れるのでなんとなく話すようになったのが、彼との友人関係の始まりである。


 そして、それを知ったときのワカの怒りは激しいものだったとは余談。


 話し相手としては話題も豊富で、結構面白いけど、異性としてはどうかなって感じ。

 いや、なんというか、あの人の彼女ってかなり余計な苦労をしそうなんだよね。


「まあ、スキンシップ過多な感はあるかな。男女問わず……」


 九十九も面識があるのかそんな事を言う。


「好意のない男に触れられるほど不快なものはないわ。あ~、鳥肌が立つ。連れは常識人っぽかったけど、挨拶だけで真っ赤になるなんて不思議な現象見せてくれたし」


 ワカはわたしより大人だ。嫌いな人間とも笑顔で話せる。


 だが、その後の反動はかなり激しい。

 我慢した分だけ、しっかりと発散させる。


 主に、わたしにぶちまける形で。


「ああ、ソイツも知ってる。深谷(ふかや)だ。深谷(ふかや)清哉すみとし。女性限定で、近くによるだけで真っ赤になるんだよ」

「それは難儀な体質だね」


 わたしはその図を想像した。


 そんな体質では、彼女はともかく異性の友人ができにくいだろう。


「体質なら仕方ないとは思うけど、それなら共学受けなければいいのに。中学校と違って男子校は……、ああ、この辺にはなかったっけ。それならまあ、妥当……?」


 ワカが少し考えて自己解決した。


「ところで……、テストの出来の方はどうだった?」


 話題を変えるかのように、九十九がそう切り出す。


「う~ん? まあ、無難な出来? いつも学校で受けていたテストが何も役に立たないのは意外だったけど、あれはあれでありかなと」


 頬に手を当てて答える。


 ワカが「無難な出来」というのなら、結構な結果なんだろう。

 彼女はそう言う人だ。


「わたしもそこそこかな。英語の道案内が楽しかった」

「道案内で楽しいって何だ?」


 そこでわたしはふと思った。


 地球にはいろいろな言語、文字がある。


 日本は漢字、カタカナ、ひらがなに加えてアルファベットもあるが、文字について地域差はない。


 話し言葉に関しては地域によって様々な方言があるけど、意思の疎通ができなくはない。

 但し、世界に目を向けるとそれだけで文字も音声言語も莫大な広がりを見せる。


 では、異世界……異星である魔界の言葉ってどうなんだろう?

 この地球でも魔術っぽい文字はあるけど、それと同じってことはないと思う。


 でも、会話そのものは、九十九も雄也先輩も普通に問題なくできているわけだし……、彼らは人間界の……いや、この国の言葉を勉強してきたんだろうか?


 でも、魔法の詠唱は、なんとなく英語っぽかったんだよね。


 そんな風に考えているわたしをよそに、ワカと九十九は普通に会話を続けている。


「まあ、受かったらまたよろしく、笹さん」

「ああ。またよろしく」


 九十九がふっと笑った。


 その返事と表情に納得したのか、ワカも珍しく何の裏もない笑みを見せた。


 なんとなく、今出てきた校舎を見つめる。

 見ると他にも校門を出る前に校舎を無言で見つめている生徒が何人かいた。


 その胸に抱いている思いは皆、同じなんだろう。


「どうした?」


 九十九が声をかける。


「この学校の生徒になりたい気持ちは……、この場にいる皆、一緒なんだろうな~って思ってね」

「そうね。皆、受かりたくて勉強してきたんだろうし」


 ワカも賛同してくれた。


「高田の場合はアレよね? 元生徒会長との約束もあったし、余計に頑張ったんじゃない?」

「うん。あの人に前、会った時、『絶対、また後輩になれよ』……って言われたよ」


 最後に会ったのは大分、前の話だけど。


「なんだ、それ?」

「高田はね~。元生徒会長のお気に入りなのですよ。今は、この高校にいるけど、中学の時はホント、妬いてしまうぐらい仲が良かったわ」

「…………ふ~ん」

「あら? 笹さん、不機嫌?」


 ワカが含み笑いをする。


 絶対、なんか誤解している顔だ。


「対して若宮は上機嫌だな?」

「それはもう。中学生ぐらいの恋愛事情は微笑ましいものですよ。焼餅もまだちょっと色付く程度で、焦げ焦げになるほど激しいのはないものね~」


 ワカもまだ中学生なのに、そんなことを言う。


「まあ、どう解釈しようと自由だけどよ~」


 そう、解釈は自由なのだ。


 九十九の複雑な顔も、わたしの言葉も……。


 どう受け止めようと、本人にしか本当の答えは分からないのだから。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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