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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 法力国家ストレリチア編 ~

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気分を変えて

「……どうして、こうなった?」


 城下で、わたしは呟いた。


「あの若宮に相談した時点で、こうなることは予測できなかったのか?」


 九十九はそう言うが……。


「いや、相談したわけでは……」


 なんか流れでこうなったというか……。


「ま、天命だと思って、諦めなさいな」


 ワカは上機嫌だ。

 今回は許可をとっての外出。追われる心配もない、とのこと。


 なんで許可しているのですか? 王子殿下。


「そんな天命、嫌だな……」

「まあ、地元の人間が案内する店なら大丈夫だろ」


 水尾先輩もちょっと機嫌が良さそうだ。

 ここの所、ずっと城に籠っていたからだろう。


「私じゃなくて、クレスの紹介で、申し訳ありませんが。私、結構、城下のこと、知らないんですよ」

「ああ、そっか。王女だもんな。でも……、なんでクレスが知ってんだ?」

「ややな~、ミオ。俺がどれだけ、この城下に来とると思っとる?」

「他国の城下の洋品店まで知ってるのはおかしいだろ?」


 そうなのだ。

 現在、わたしたちは、城下のちょっとお洒落なお店の前に来ていた。


 わたしや水尾先輩の洋服を買いに来たわけである。


 因みにワカは献上品が多いため必要ないのだが、面白そうという理由でついてきた。

 だから、あえて、もう一度言おう。


 なんで許可しているのですか、王子殿下!


「ここに装飾品を卸しとったから。この国は法具以外の装飾品が結構、売れるんやで?」

「あ~、自分の法力を消したくないからね。何も込められてない方が好まれるのも分かるわ~」


 そう言えば、楓夜兄ちゃんは装飾品を売っていた人だったね。


 今思えば、それもお嫁さん探しの一環だったのかな?


「じゃ、行きましょか。高田に似合う服があれば良いのだけど」

「似合っても、着てくれないからな、高田は……」

「ですよね~。勿体ない」


 変な所で意気投合しているワカと水尾先輩。


 そんなに服って大事かな?

 動きやすくて楽な方が良いと思うのだけど。


 それに……、それを言うなら、水尾先輩も似たようなものだと思うのはわたしだけ?


***


 中に入ると……、服の多さに眩暈がした。


 うん。

 わたしには向いていないと結論付るしかない。


 百貨店の洋服売り場のような状態を想像していたけれど、目の前にも、壁にも、上にもぎっしり服だらけ。なんでこんなに必要なの?


「これとこれなんかどう?」

「違いが分からない」


 ワカが持っている服はどちらも同じように見える。


「こっちの袖がパフスリーブで、こちらのはバルーンスリーブ。そんでもって、襟のところがラウンドネックになっているし、さらにはUネックになっている」


 間違い探しでしょうか?

 説明されても違いが分かりません。


 わたしの表情で全てを察したようで、ワカは他の服に突撃していった。

 どうやら、わたしの意見ではなく、自分で探すようだ。


 まあ、楽で良いけど。


 ワカなら極端に珍妙な服を選ぶことはないだろう。

 わたしが変な服を着ていたら怒る友人だから。


「結構、品揃え良いな。魔法耐性があるやつもある」


 水尾先輩もいろいろと手にとっては見ている。


「最近、ちょっときつくなってきたからな。そろそろちゃんと考えないと。今のままじゃ、近いうちに破られる」


 あれ?

 水尾先輩は、サイズダウンしたのではなかったっけ?

 実は、サイズアップの方だった?


 そして、破れるではなく、破られる?

 なんで?


「ところで、高田は服、見ないのか?」


 水尾先輩がわたしに向かって尋ねる。


「あ~、わたしにはよく分からないので」

「デザイン的な意味で? 機能的な意味で?」

「どちらもです」


 自分に似合う服も、服に備え付けられている付加価値もさっぱり分からない。


「じゃあ、教えてやる」

「へ?」

「魔気の流れを視るように、この服を視てみろ」

「魔気の流れを視るように?」


 魔界人の眼は基本、魔気の流れが視えるようになっているが、相当大きな流れではない限り、くっきりはっきりと視ることはできない。


 少なくとも、わたしの目はそうだった。


 眉間の辺りに意識を集中すると、薄っすらと、空気の流れが色づく感じだ。


 それと別に知人限定で近付くと仄かにそれぞれの匂いがする……、くらいかな。

 匂いで判別って、ちょっと変態ちっくだよね?


 でも、他の人の感じ方はどうなっているか分からない。


「意識を集中させて……」


 水尾先輩に促されて、言われるままに眉間に力を入れる。


「高田、魔気が漏れてきた」


 九十九に言われて、少し抑える。


 うぬう……。

 自分を押さえながら、意識を集中って難しい。


 服は、ぼんやりと輪郭がぶれてきて……、青い服に透明水彩画のような薄い赤色の滲みが広がって……、消えた。


「何が視えた?」

「火……、属性?」

「そう。この服には火属性の魔力……、正しくは火耐性が僅かに込められている。耐火……、燃えにくいってことだな」

「なるほど……」


 これが属性付加と言うやつなのだろうけど……、かなり眼が疲れる。

 服を見るたびに集中するのは辛い気がした。


 魔界人は、皆こんな苦労をして、服を選ぶのだろうか?


「もっと簡単に見る方法はないのですか?」

「品質札を見る」

「は?」


 そう言って、水尾先輩が服の襟部分を掴んで見せてくれたのは、値札と並んで、グランフィルト大陸語で「火に強い」とあった。


「魔気の流れが視える人間ばかりじゃないからな。こういった店の商品は古着も含め、大半の品物には品質札が付いている。取り扱う量が多いからな。個人でやっている行商人や小さな店では口頭で商品を紹介するから品質札は付けないこともある」


 言われてみれば、こういったお店に来るのは初めてだった。


 セントポーリア城下では露店みたいな場所だったし、ジギタリスやその他の場所も大きな店では買い物をしていない。


「ただ自分の眼を養う意味でも、商人が気付かない付加に気付くためにも、視ることは大事だけどな」

「勉強になります」


 確かに、今までは九十九に頼り切っていたけど……、少しは自分でもできるようにならなければいけない。


 このまま、彼ら兄弟に世話になり続けるわけにはいかないのだ。

 ちゃんとできることが増えたなら、努力をしなければ!


「ちょっと……、わたしもいろいろと見てみます」


 そう言うと、水尾先輩が嬉しそうに笑った。


 そうは言ったものの、全てを集中してみるのは疲れる。


 少し、絞った方が良いだろう。

 集中しすぎると、魔力が漏れ出すようだし……。


 ざーっと流し見る。


 うん。

 特に何も視えない。

 

 そもそもパッと見て分かる物なら、苦労はないだろう。

 少し奥の方に行ってみても……、特に目立つ物は見当たらなかった。


「おい、高田。目的を見失ってないか?」

「ほ?」


 九十九に肩を掴まれて気付く。


 気が付くと、大分、奥の方まで来ていたようだ。


「うぬう……。難しい」

「服買うのに、そんなに神経使ってどうするんだよ」

「いや、やはり買うなら付加価値がある方が良いじゃない?」

「まずは必要な物を揃えてからにしろ。付加価値についてはそれからで良いから」


 確かに、わたしたちは、RPGゲームに出てくる主人公たちみたいにずっと同じ服を身に纏っているわけではない。


 いざという時に着ることができるような服……、勝負服みたいな物はそう多くなくても良いだろう。


 まあ、ある程度は、TPOに合わせた服を雄也先輩が準備してくれるけどね。


「じゃあ……、九十九、離れてくれる?」

「なんでだ?」

「女性の肌着に興味があるなら構わないけれど?」


 わたしは、近くにある下着売り場を指さしながら、そう言った。


「…………分かった」


 興味があると言われたら、どうしようかと思ったが……、彼は素直に回れ右をしてくれた。


 さて……肌着……インナーウェア売り場。


 コルセットのようなものから、薄布でできたものまで幅広い。

 人間界で見たようなものも結構ある。


 セントポーリア城下で売られていた肌着は、コルセットが中心で、基本的に肌着はかなり布地が多かった。


 そして、基本的にかなりきつめ。

 いろいろ潰す文化でもあるのか? というぐらいだった。


 ジギタリスはコルセットほど固くはなくても、布地が広いという点においては変わりなかった。


 これらは、同じ大陸のせいかもしれない。


 しかし、このストレリチアでは……、何故だろう?

 神に仕える神女(みこ)たちが着るとは思えないものまである。


 凄いなあ……。

 この紐で、どこを隠すのだろう?


 何気なく品質札を見ると「男性魅了効果」。


 これ……魔力関係ないよね?


 そもそも、相手に肌着を見せるような段階になっているのなら、既に魅了が完了しているのではないだろうか?


 サイズ表記についてはよく分からないから、ワカに確認しようかな。


 わたしはそう思ってワカを探したら……、ワカは楽しそうに服を選んでいた。

 その横には自然に楓夜兄ちゃんがいて……。


 でも、なんだろう。

 そのことに凄く違和感を覚えたのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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