表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 法力国家ストレリチア編 ~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

457/2788

微妙な変化

「気のせいか……。ワカはクレスとよく一緒にいるようになったね」


 わたしはなんとなく、最近、気になっていたことをワカに尋ねる。


「そう? もうすぐ定期船が動くし、帰るための準備に付き合わされているだけよ? ベオグラは高田の相手で忙しいようだからね。そうなると、私ぐらいしかいないのよ、彼の相手」

「ふ~ん」


 確かに、前より恭哉兄ちゃんとわたしが一緒にいる時間も増えている気はする。


 それだけ「青羽(せいう)」の神官さんが、わたしに対してしでかしたことが大きいのだろう。


 そして、護衛である九十九も前より傍にいるようになった。


「城下にも出ているそうだね」

「城で何の準備をしろと? 食料品とかちょっとしたものって、城下に出なきゃないのよ?」

「そうなの?」


 でも、九十九は結構、いろいろ揃えている気がする。


「城にいて、いろいろと揃えている笹さんがおかしいの。何なの? あの男。どこからあの極上お菓子の材料を手に入れてくるのよ?」

「当人に聞いてよ。この隣の部屋にいるんだから」

「焼き菓子製作中の料理人に、声なんかかけられるわけないじゃない」


 普通はそうなのだけど、九十九は話ながらでもできる人だ。


 うん。

 ワカが言うように彼はおかしいと思う。


 わたしなら、焼き菓子炭化コースまっしぐらだ。


「でも、案内するほどのこともないのよね~。クレス、私よりいっぱい、店を知ってるから」

「まあ、この国も初めてじゃないみたいだしね」

「笹さんほど美味しいわけじゃないけどさ~。それなりに美味しいお菓子を提供してくれるところもあったから、今度、行きましょ。笹さんの驕りで」


 笑顔でとんでもないことを言うこの国の王女殿下。


「……王女殿下が(たか)らないでよ」

「王女殿下が自由になるお金を持っていると思って?」


 そう言われたので、わたしは素直に考えてみる。


 近くにいる王女殿下……、水尾先輩はお金を持ってるけど、その基本は九十九から渡されているものだ。


 その名目はお小遣いではなく、わたしの護衛代金と魔法の授業料らしい。

 最近では、わたしの魔気調整講習料も追加されていると言っていた。


「持っている人もいるかもしれないので、なんとも……」

「まあ、確かに持ってるけど。そうじゃないと、ここまで自由なこと、できないわね。高田のその服はどう?」

「すごく……、気を使います」


 本日の衣装……、変形巫女服。


 何故、変形かと問われると、和服なのに肩口部分が外れているからだと答えさせていただきます。


 さらに二の腕が露出……。

 こんな巫女服知らない。


 そして、ついでに頭にもかなりでかい紅いリボンもつけられている。


 少し動くたびに揺れて、なんとも動きにくい。

 胴が真っ白じゃないだけ救いはあるけど。


 最近、ワカは午後に会うたびに服を着替えさせるようになった。


 前のように一度にいろいろと着替えるよりは、一日一着限りなのでちょっとだけマシだと思うことにする。


「え~、笹さんも見惚(みほ)れていたじゃない」

「あれは、呆れて固まっていたって言うんだよ」


 あれを見惚れていたとは言わない。

 すごく言葉を探していたし。


「むう……」

「まあ、勉強の時間に着替えさせるよりはマシだけど」

「それじゃあ、ベオグラから説教を食らうわ」


 怒られる自覚はあるらしい。


 だから、これまで恭哉兄ちゃんの前ではさせたことはないのか。

 納得。


「しかし……、笹さんの好み、難しい。やはり、セーラー服シリーズで行くか?」

「ちょっと待て」

「何? 笹さんみたいなことを言って」

「これまでの衣装は皆、九十九の反応を見てたの?」

「え? 気付かなかった? たまには違う装いでドッキリ大作戦!」


 気付くはずもない。

 毎回、奇抜な衣装過ぎて……、そんな心の余裕はないのだ。


「わたしが人間界にいた時にハマっていたゲームの主人公の衣装が出てきたときはどうしようかと思った」

「似合う体形と髪型で良かったね」

「そこじゃない!」


 確かに背は低いし、凹凸も少ないことは認める。


「笹さんにもさせたかったけど、全力で拒否られたから……」

「一応、打診してみたのが怖いよ」

「え~? でも、見てみたくなかった? 笹さんの闇の魔法剣士バージョン」

「……見たくない」

「ちょっと葛藤があったね。ある意味素直」


 ワカはそう言って笑った。


「なるほど……。ワカの自由になるお金はこんなところに使われているのか」

「こんなことぐらいしか楽しみがなくて」

「兄王子殿下にしてもらえば良いじゃないか。ノリノリでやってくれるよ」

「恥じらいがある方が楽しい」


 いっそ、恥じらいを捨て去れば、こんなことをしなくても良くなるのだろうか?

 いや、それは無理か。


 仮装(コスプレ)である以上、どうしたって抵抗がある。


「高田は笹さんの好みの装い、知らない? 制服以外で」


 わたしは少し考えて……。


「……白の下着、上下お揃いで。中心にピンクのワンポイントリボン」


 ちょっと思い出したことを口にしてみた。


「……いや、それ、どんな状況!? ま、まさか……」

「前に会話で聞いたことがあるだけ。それに、わたし、上下おそろいの下着は持ってないな」


 そもそも、この世界で下着の上下を揃えることができるのだろうか?


「どんな会話だと突っ込みたいけれど……。それより、ダメよ。女子たるもの、いつ、何時(なんどき)でも心の準備をしなきゃ。城下に買いに行く? セクシーなのも結構、あるよ」

「なんで法力国家の城下にセクシーな下着売り場があるんですかね?」


 法力国家だとなんとなく保守的というか、守りに入るような下着の方が多そうなんだけど。


「大神官や兄さまのために?」

「……いやいや、それはおかしい」

「まあ、神官や神女(みこ)って基本、禁欲的な生活だから、下着ぐらいは……ってなるみたい。どこかで羽目を外したくなるのでしょうね」


 と、羽目を外してばかりの王女殿下が言う。


 妙な説得力だ。

 でも、どこか納得できない。


「あ~。でも、白の上下お揃いの下着か。清純派っていうか、結構、ベタなものが趣味なのね、笹さん」

「黒や赤って言われるよりは良いよ」


 まず、絶対にわたしは身に着けないから。


「お前ら、オレがいない間に何の話をしてやがる」


 背後から声が聞こえた。


「いや、いないからこそのお話でしてよ、笹さん。だって、高田の下着がなくても、笹さん、買いに行ける?」

「…………ないのか?」

「いや、聞かないでよ」


 そんな真顔で聞かれても困る。


「ん~? でも、サイズアップしたでしょ?」

「…………ノーコメント」


 さ、流石にこの場で返事はしにくい。

 いや、少し、胸が苦しくはなった気がするけど、問題ない範囲だし。


「ほらね」


 何故か誇らしげなワカ。


「買いに行くか?」

「「へ? 」」


 そんな意外過ぎる言葉にわたしもワカも目が丸くなった。


 いや、買いに行くかって……そんなに簡単に申し出ても大丈夫な話?


「服については、水尾さんも買いに行きたがってたんだよ」

「あ~、びっくりした。笹さんが『見立ててあげる』って話になるかと思って、正直、焦ったわ」


 うん、わたしも焦った。


「変態か、オレは」

「いやいや、愛しい彼女の下着を見立てるのは彼氏の特典でしょう?」

「……それ、ある程度仲が進んでないと無理だろ?」

「この機会に進めるのです!」

「若宮が進めたいならそうしろよ。……ったく、今日もこいつに変な服を着せやがって」


 どうやら、この服も九十九の好みではない様子。

 眉間のシワがそう言ってる。


「可愛いでしょ?」

「……違和感しかない」

「じゃあ、笹さんはどんなのが好きなの? セクシーなの? キュートなの? らぶり~なの? びゅ~てぃほ~なの?」

「その中なら、キュート」


 いや、真面目に答えなくても、良いんだよ、九十九。


「ほほう、活発で愛らしい路線ですか」

「高田に着せるなら……だろ? セクシーやビューティフルはこいつに該当しない。ラブリーは単に苦手」


 なんか、今、どさくさに紛れて喧嘩売られた?


「なるほど、露骨なフリフリはダメか……。好きな服装ジャンルは? ナースとか猫耳とか、ポリスとか女教師とか?」

「……その中にはないな。でも、和服は嫌いじゃない。その変形はどうかと思うが」

「あ~、笹さんは拘り派だったもんね。よし、明日は十二単を用意しよう」

「それはやりすぎ」


 九十九が突っ込む。


「それは着たくない」


 わたしもそう言った。


 絶対に重い!


 しかし……そうか……。

 九十九は和服が好みなのか。


 そう言えば、制服も和服ではあるんだよね。

 セーラー服はある意味、日本の文化だ。


「そろそろ、大神官さまにお伝えしても良い? 王女殿下のお遊びが過ぎますって」

「え~? 遊び相手で遊んで何が悪いの?」

「性格?」

「意地? 根性? いや、脳?」

「二人とも酷い! って、笹さん、ものすごく酷い!!」


 ワカがそう叫ぶが、毎度付き合わされているのだ。

 これぐらいは言わせて欲しい。


 滅多に着ない服を着るのは……、嫌いではないのだけどね。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ