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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 法力国家ストレリチア編 ~

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婚姻の約束

「俺がケーナに求婚したのは数日前。ベオグラが禊に入って、二日ぐらいの時やったかな。嬢ちゃんの騒動があった次の日ってことになるわ」


 クレスはそう言った。


 オレや高田があの神官の後始末でバタバタしていた時にそんなことがあったのか。


 しかし、告白ではなく、いろいろすっ飛ばして求婚。

 出会ってどれくらいの期間だ?


 いや、王族ならそんなものかもしれない。


 それに、「大神官がいない時」を狙うなら、確かにそのタイミングしかないのか。


 大神官がその禊とやらのために大聖堂……、城から離れるのは一週間という話だった。

 その間に、返答までもらうことを考えたら、早めにするしかないのだ。


 若宮を本気で落とすつもりなら、その障害は二つある。


 兄王子と大神官だ。


 でも、兄王子の方は、若宮を溺愛しているが、同時に幸せを願ってもいる。

 遊びではなければ問題はないだろう。


 だが、大神官は違う。


 あの人は若宮にとっても、明らかに特別な存在だ。


 当人がどれだけ意識しているかは分からないが、無意識に比べられる可能性もある。


「で、結婚してくれ言うたら、『今は無理』『まだ考えられん』『ごめんなさい』と謝られたわ」


 若宮が謝った?

 そこだけは想像できん。


「まあ、グラナの相手が決まってねえからな。今の状況でジギタリスの……、それも第二王子は難しいと私でも思う」

「なんで難しいんですか?」


 オレがそう質問すると、水尾さんや兄貴だけではなく、何故か高田まで変な顔をした。


「若宮はグラナ……、兄王子を王位に()けたがっている。そこは分かるか?」

「はい、それは始めに聞きましたから」

「でも、兄王子に婚約者はいない。国での立場としてはまだ不安定なんだよ」

「王子なのに?」

「王子だから」


 いや、だから、それはなんでなんだ?


「えっとね、九十九。ワカが王位を継がないためには、この国の王族とは関係ない貴族とかに嫁入りするか、他国にお嫁に行くかしかないのは分かる?」

「それは分かる」


 何故、高田が説明してくれるのかは分からないけれど……。


「だけど、同時にそれは兄王子にも言えることだとは思わない?」

「……ああ、そうか」


 この国は男女のどちらが国を継いでも問題がないのだ。


 そして、第一位であっても、王位に即けるわけではない。


「どちらも王位継承権を手放すことはしないでしょう。それは、どちらにも何かあった時困るから。ワカも保険の意味で、兄が継ぐギリギリまでは握っておくといった」

「そうなん?」


 クレスが高田の言葉に反応する。


「うん。自分が継承権を投げ捨てた後、兄に何かあったら王位を継ぐ人間がいなくなって国が荒れるからって。即位が決まっても、念のために兄に子ができるまでは持っておくって言っていたよ」


 それだけを聞くと、積極的に狙ってはいないが、王位が転がり込むように待っている印象もある。


 まあ、若宮に限ってそれはない。


 本当に欲しいなら、あの女は、いろいろな手段を駆使して奪い取るだろう。


 わざわざ、我が儘王女を演じる必要はない。

 ……半分以上は素だろうけど。


「若宮は兄に王位を渡したがっているのに、周りが許さないってことだろ? 面倒だよな。アリッサムみたいに長子継承にすれば良いのに」

「現国王陛下に今更、御子ができたところで、王位継承権の放棄も難しいな」


 兄貴がそんなことを言う。


 オレと同時に高田も疑問を持ったようだ。


「御子が生まれた時点で放棄というわけにはいかないのですか?」

「嬢ちゃん、赤子や幼児は死にやすいんや。生まれたからって安心はできへん」

「……あ」


 高田の顔色が変わった。


 この世界は命が軽くて……、病に弱い。

 王族であっても、そこに例外はないのだ。


 病に対しては、魔力の強さは関係なく、等しく死ぬ。


 いや、無菌状態で育てられ、病に対する抵抗が少ない王族こそ、病に弱い可能性があることを、オレは人間界で思い知った。


 ある意味、外に出ている王族の方が強いかもしれない……とも。


「夫婦仲が良くて結構なのだが、これ以上は王の年齢的にも難しいだろうな」


 な、仲が良い?

 なんで、そんなことまで知ってるんだ? 兄貴。


 この国の王とその妃の姿なんて、オレはまだ見たことすらねえぞ?

 そして、仲が良いってどの意味だ?


「国王陛下に今後、子ができるかはおいといて、若宮が他国に嫁ぐ意思か、降嫁する意思を見せれば良いだろ? 婚姻じゃなく、婚約ではだめなのか? 婚約なら解消できるだろ?」

「王族の婚約は、本当に婚姻の約束だ。解消は外聞に響く」


 オレの言葉に水尾さんが答えた。


 まあ、普通に考えても相手の人間の方が嫌だとは思う。

 解消されるかもしれない約束事なんて。


 その相手によってはふざけんな! ……ってなることだろう。


「降嫁するにしても、この国にいる適当な年代の男は、大神官ぐらいだ。国外は、適齢期が多いが、最高で5年近く縛り付け、その果てに婚約解消となれば……最悪戦争だぞ」

「? 大神官なら理想的だろ?」


 いろいろな意味で。


「大神官は相手が誰であっても、婚姻の意思はないとのことだ」


 ああ、なるほど。

 その答えはひどくあの方らしい。


 でも……。


「婚姻の意思がないなら、逆に良いんじゃないか? 解消となっても文句は言わんだろ?」

「阿呆か。それは逆に困る」

「どういうことだ?」


 しかも「阿呆」とか。


「グラナディーン王子殿下は、健康体だ。よほどのことがない限り、このままお健やかに25歳を迎え、この国での譲位可能な年齢となる。そうなると、王女殿下の婚約解消の理由がなくなるだろう? 大神官猊下の意に反する」

「それなら、ずっと婚約状態を続ける……とか?」

「…………九十九、それはワカが結婚できなくなるよ」

「……そうだな」


 高田が眉を下げて言う。


 確かに、そこまでは彼女も望むことではないだろう。


 いや……、どうだろう?

 自分が望まないヤツに嫁ぐよりは、生涯独身を貫くような予感もある。


「それに加えてもう一つ、困った話があるんやけど、聞く?」

「加えんな! 嫌な予感がする! 聞きたくねえ!!」


 クレスの言葉に、水尾さんが叫んだ。


「あのディーンが、平民の女に入れ込んどる」

「阿呆か~~~~~~~~!!」


 その言葉は誰に向けられたものだったのか。


 水尾さんの叫びは、それを聞いた全員を代表したものだったことだろう。


「王族が……。それも、継承権第一位が軽率なことやってんじゃねえ!!」

「まだ手は出してないはずやけど」

「そこじゃない! 既にそんな姿を周囲にさらしてるのが問題だって話だ!!」


 水尾さんの怒りは、王族として尤な反応だと思う。


「因みに情報提供はユーヤ。周囲もまだ……、本人すら気付いとらんかも」

「は?」


 水尾さんの目が丸くなる。


「自覚は……、してないだろうな。あの方も大神官猊下と同じで、自分を律することができてしまう人間だ」

「なんでそんな状態なのに分かるんだよ」


 兄貴は読心魔法を使えないはずだ。

 ……多分。


「当人は妹に似ているから……の感情だと思っているだろうな。だが、明らかに熱の種類が違う。大事な妹が傍にいても、視線が彼女の方を向きたがっているからな」


 妹……。

 それも、若宮に似てるのか。


 そいつは、会いたくねえな……。


「平民の女性ってことは……、『神女(みこ)』でもないのですね」


 高田が、抜け道を探す。

 平民ならともかく、「神女」なら、ある程度、傍にいることぐらいは許されるかもしれない。


「法力に近い力もあるため、『神女』のような存在ではあるけれどね。さらに神への舞いを踊れる女性らしい」

「……それなら、とっとっと、『神女』に仕立てれば良いだろ? 『神舞(しんぶ)』ができれば、聖歌も覚えるだけだ。正神女なら、少なくとも傍に侍らせて問題はねえだろ」


 水尾さんがそう言う。

 なかなか凄い発言だ。


「彼女は表向き、神女になれないんだよ」


 表向き?


「ど~ゆ~ことですか?」


 兄貴の言葉に対するオレの疑問を、そのまま高田が口にしてくれた。


「神官も神女も、見習になるためには五体満足を要求される。盲目を謳っている旅芸人にその資格がない」

「……盲目……。全然見えねえのか?」

「らしいね。生活する分には問題ないみたいだけど……」


 兄にしては少し歯切れの悪い言葉。


「…………」

「高田?」


 なんだか、彼女にしては迫力ある顔をしていた。

 魔気に少しだけ怒りも孕んだ気がする。


「なんでもない。ちょっと考え事してただけ」


 考え事で……、あの顔?


「彼女は精霊に愛されとるみたいやからな。目が見えれば、周囲も身分に関係なく納得はすると思う。この国で神の御使いにもなる精霊に愛された者を否定するんはおらん」


 どうやら、この国の兄王子殿下は精霊使いのような女が気になっているというのは分かった……が。


「嬢ちゃん、眉間にシワ、寄らせすぎや」

「……ああ、うん」


 高田がさっきからおかしい。

 そして、それは周囲も気付いていて、その理由を尋ねない。

 

 後で、確認しとくか。

本日二回目の更新です。

次話は本日22時更新予定。


ここまでお読みいただきありがとうございました。

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