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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 法力国家ストレリチア編 ~

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大神官の不在

(みそぎ)の期間?」

「はい。そのために、私は明日から一週間ほど、大聖堂に来ることができないのです」

「それで……、今回の検診はいつもと違ったわけですね」


 いつもより念入りに診られた上……、何故か抱き締められてしまった。


「その間の検診は、クレスか雄也さんの立会いの下、『青羽(せいう)の神官』にお願いしてあります」

「……九十九が立ち合いではないのですね」


 それはちょっと意外。

 基本的にはわたしの傍にいるのは九十九なのだ。


「九十九さんには刺激が強いかもしれないとの判断です」

「刺激?」

「片側とは言っても、上半身が肌着だけの状態になりますので……」


 少しだけ気まずそうな顔で、恭哉兄ちゃんはそう言った。


 わたしの検診は左半身……、具体的には左肩から腕にかけて剥き出しにして、確認してもらっている。


 そのためか、九十九に言われるまで、肩口の紐が見える状態が恥ずかしいと思えなくなっていたのだ。


 感覚の麻痺と言うやつである。


 いや、でも、お医者さんみたいなものだから気にしなくても良いと思っているのだが、わたしの感覚が変なのかな?


「わたしは気にしませんけど……」


 そもそもわたしが少し脱いだぐらいで、九十九に刺激を与えるとは思えないんだよね。


 流石にいきなりは駄目だろうけど、前もって事情を話していれば納得してくれるとは思う。


「…………そこは気にしてください」


 ぬ?

 珍しく、恭哉兄ちゃんが肩を落とした?


 でも……、既に温泉でバスタオル一枚の状態を見られているらしいし、夢の中では本物のわたしじゃないけど、下着姿まで見られている。


 あれはわたしじゃなかったけれど!


 それらよりは露出してないから良いのではないかな?

 こ~ゆ~のって隠す方がかえって、恥ずかしいと思うのだけど。


 胸をどんっと出すのは流石に無理。

 そこまで女を捨てられない。


 でも、今回、肩をむき出しにするけれど、分厚い胸当てはしっかり覆っているし……。


「栞さん?」

「はい」

「九十九さん、本人に伺ってください。恐らくはそれが一番、良いでしょう」


 そう言う恭哉兄ちゃんは、彼しては珍しい種類の迫力があった。


****


「~~~~~~~」


 目の前でいきなり九十九が机に突っ伏した。


「だ、大丈夫?」


 結構、凄い音がした。


 テーブルに置かれていた食器類の音がするぐらいには。


「左半身……、肩を出すってどれぐらいだ?」

「これを半分、脱ぐ」

「…………今までずっと?」

「うん。左手首から、肩まで、シンショクが進んでいないかを確認するために。服の上からだと見落とすことがあるらしい」


 まあ、恭哉兄ちゃんに限ってそれはないだろうけど。


「『青羽(せいう)の神官』っていくつぐらいだ?」

「七十歳らしいよ」

「七十……」


 そもそも、正神官はともかく、上神官以上となると、大神官を除いて、二十代はいないらしい。


 どれだけ恭哉兄ちゃんが特殊な存在かが分かるね。


「立ち合いはクレスか、兄貴? 水尾さんじゃないわけは?」

「水尾先輩はあまり、高位の神官たちの前に立たせたくない。魔法国家の王女殿下を知っている人かもしれないし」

「あ~」


 九十九は天井を仰いだ。


「それに、水尾先輩も……、楓夜兄ちゃんも王族だから、あまりこんな雑事に関わらせたくないってのもある。なんか申し訳ない」

「そこは気にするところじゃ……。クレスも?」

「うん。楓夜兄ちゃんも止めておいた方が良いかなと。王族と言うのもあるけど、最近、ちょっとお疲れみたいだしね」


 ここ数日、楓夜兄ちゃんは何か考え事をしているように見えるのだ。


 リュレイア様のことを考えているか、それ以外のことなのかは分からないけれど、真剣そうなので、あまり別のことで煩わせたくはない。


「それで……、九十九と、雄也先輩にお願いしたいんだけど、駄目?」

「お前が、抵抗ない……なら……良い」


 九十九はなんかいろいろと迷いながらそう言った。


「抵抗?」

「いや……、オレにしとけ」

「ありがとう、引き受けてくれて」


 九十九が引き受けてくれて、正直、ホッとする。


 なんだろうね。

 なんとなく、嫌な予感がしているのだ。


 だから、九十九にいて欲しかった。


 念のため、雄也先輩にももう一度、話しておこう。


 先に恭哉兄ちゃんが話したのは雄也先輩だったからね。


****


 若宮の襲来があった後……。


「恭哉兄ちゃん……、大神官さまが一週間ほど別の用事で大聖堂からいなくなるらしいんだよ」

「へえ……」


 高田からそんな話を聞いた。


 この国へ来てから暫く、それは初めてのことだ。


「それで、検診は代わりの神官にお願いすることになるらしいのだけど……」

「それは困るな。大神官はともかく、他のヤツが信用できるとは限らん」

「それは大神官も考えたらしくって、立会人をつけた方が良いって。雄也先輩とか楓夜兄ちゃんとかね」

「……信用できない神官なのか?」

「いや、高神官の中の『青羽(せいう)の神官』だから、ある程度大丈夫だとは思うけど、念のためって判断」


 青羽……上から五番目か。

 だが、高神官ならば、技術的にも大丈夫だろう。


「診察中に背後にいるだけで良いから」

「? 診察?」


 なんか……、変な言葉が聞こえた気がするぞ?


「検診だからね。基本的に、左手首から肩までの状態を見るの」


 そう言いながら、彼女はアミュレットがついた左手首から、その肩までをすすっと指し示す。


「…………ちょっと待て」

「ぬ?」

「まさか診察って……、肌を出すのか?」

「うん。左上半身だけね」


 ―― ごんっ!


 額を割るかと言うような音が頭に響いた。


「だ、大丈夫?」


 高田の慌てるような声が頭上から聞こえる。


 オレは、ゆっくりと顔を上げながら確認することにした。


「左半身……、肩を出すってどれぐらいだ?」

「これを半分、脱ぐ」


 襟元を握りながら、そう言う。


 なるほど、和服のような構造だから肩は出しやすそうだ。


「…………今までずっと?」

「うん。左手首から、肩まで、シンショクが進んでいないかを確認するために。服の上からだと見落とすことがあるらしい」


 淀みなく答える。


 そこに羞恥心はない。

 本当に診察と割り切っているのだろう。


 だが……。


 ――――こいつの羞恥心が完全に吹っ飛んだのは大神官(貴方)のせいですか!?


 そう叫びたかった。


「『青羽(せいう)の神官』っていくつぐらいだ?」

「七十歳らしいよ」

「七十……」


 七十なら……、大丈夫か?

 流石に、そういった方面の欲が働くとは思えない。


「立ち合いはクレスか、兄貴? 水尾さんじゃないわけは?」


 肌を出すなら女性である彼女が一番適任だと思うのだが?


「水尾先輩はあまり、高位の神官たちの前に立たせたくない。魔法国家の王女殿下を知っている人かもしれないし」

「あ~」


 オレは思わず上を見る。


 確かに彼女に関してはそう言った事情があった。

 魔法国家のことがはっきりしない今、下手に表に出るわけにはいかないのだ。


「それに、水尾先輩も……、楓夜兄ちゃんも王族だから、あまりこんな雑事に関わらせたくないってのもある。なんか申し訳ない」


 こいつは変な所で気にする。

 それぐらい、甘えても誰も文句は言わないだろうに。


「そこは気にするところじゃ……」


 そう言いかけて、気付く。


「クレスも?」

「うん。楓夜兄ちゃんも止めておいた方が良いかなと。王族と言うのもあるけど、最近、ちょっとお疲れみたいだしね」


 そうなると……、残る候補者は兄貴ぐらいしかいねえ!!


「それで……、九十九と、雄也先輩にお願いしたいんだけど、駄目?」


 そこで、オレにも話がきたわけか。

 そして、ここで上目遣い。


 最近、妙に多用されている気がする。

 身長差が広がったせいもあるだろうけど。


「お前が、抵抗ない……、なら……、良い」


 いろいろ複雑だが、兄貴だけに任せるよりは良い。


 いや、兄貴だけに任せたくはない!


「抵抗?」


 きょとんとした顔をする。


「いや……、オレにしとけ」


 ここは言い切った方が良いだろう。


「ありがとう、引き受けてくれて」


 彼女は、オレの葛藤も知らないかのように笑った。

 

 ―――― その後、立ち合い人を引き受けて大正解だったと心底思うのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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