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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 人間界編 ~
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少年は大いに迷う

 さて、あの後、オレたち兄弟は帰宅したわけだが……、そこに待っていたのは予想通り、兄貴のお説教という素敵なフルコースだった。


 言葉の配慮が足りないとか、護衛の自覚が足りないとか、教科書ぐらいちゃんと開けとか、よくもまあ先程の会話を細部まで覚えているモンだと我が兄ながら感心してしまう。


 オレには真似できない。

 いや、正直真似なんかしたくない。


 特にねちっこく言われたのがアレだった。

 高田自身に家の玄関を開けさせたこと。


 魔界人の気配があったにもかかわらず、さらには結界が解除されたのが分かっていたのに、アイツに戸を開けさせたのは護衛失格だと何度も言われまくった。


 なんでも、あの戸にはトラップが仕掛けてあったらしい。


 勿論、仕掛け人は兄貴。

 触れると軽く電流が走るようになっていたそうだ。


 それも、ご丁寧に男女で差を付けて。


 男が触れば麻痺。

 女なら静電気程度。


 一度限りの簡易結界を戸に張っていたとのこと。

 本当にいい性格していると思う。


 くそったれめ!

 オレが触って麻痺になってしまったら、あの場で高田がパニックになるじゃねえか。


 それにしても……、高田はこれからどうするのだろう。


 このままじゃどうにもならないことは、アイツも自覚していたことは分かっている。


 そして、それは、地球上のどこに行っても同じことだというのも理解していた。

 何よりも、魔界も安全な場所じゃないことまでも見抜いていたのだ。


 じゃあ、どうするべきなんだ?


 どちらにしても、オレらがここで護り続けるのも近い将来、限界がくるだろう。

 だからといって、この場を離れたところで特に何かが変わるわけではない。


 強いて言うならば、巻き込まれる人間の種類が変わるだけだ。


 魔界に行ったところで、アイツやオレらがのんびり生きていけるような居場所があるわけではないと思っている。


 利点をあげるならば、人前で全力を出して魔法をぶっ放しても、結界はともかく、記憶操作とかの証拠隠滅をする必要がないぐらいだが、それは相手も一緒だろう。


「ミラージュと……、王妃か……」


 どういう(つて)があったかは知らないが、王妃はミラージュを……、魔界ですら謎の国と呼ばれる国を使って、魔界ではない異世界で彼女を狙った。


 そう考えることが一番自然な流れだろう。


 国王陛下は公言していないが、その血を引く以上、自覚はなくても、彼女は王位継承権第二位となる。


 それだけ、我が国には陛下に近い血筋の王族がいない。


 だからこそ、王位継承権第一位の王子を脅かす存在がいないとされて、王妃の権力が無駄に強くなっているのが問題となっているらしいが。


 陛下自身に権力は勿論あるが、その強権を振るって懐の膿を出すタイプではない。

 基本的に私欲、私事を優先しない方なのだ。


 そして、王妃はああ見えても、現大臣の娘でもあり、強制排除すれば周囲に与える影響は決して弱くないという点がある。


 そんな事情があるから、余計に王妃が野放しにされてしまうのだ。


 もともと陛下自身は第二王子であった。

 本来、王位を継ぐ立場にあったはずの第一王子は身体が弱く、早く死んでしまったらしい。


 そして、それによってその周囲に継承権を持った人間がいなくなったという経緯がある。


 だから、即位前に単独で貴族を含めた国民の支持や承諾を得ることはかなり難しかったとも聞いている。


 王子としては人望がなかったわけではないけれど、そのことと国王として支持されるのは別の話らしい。


 その辺についてはよく分からん。

 オレが生まれる前の話とか以前に、そんな偉い人間たちの駆け引きに興味が湧かないのだ。


 そんな事情ではあったが、もともと幼い時から婚約していた大臣の娘との婚儀により、王族としての立場は強固でもあった。


 だが、何故か、第一王子には婚約相手がいなかったとも聞いている。

 身体が弱かったことと関係があるのかもしれない。


 だが、オレたちの立場からすれば、なんとも面倒な話だというしかない。


「今の王子は……、資質が有るとも無いとも言えないんだよな~」


 何というか、全てにおいて半端なのだ。


 魔法の才、魔法力の質、魔力の量については、勿論、一般に比べれば高い方だが、他国の王族と比較するとやや劣るという。


 それに、国民からの人気や評判も低くはないが、高くもない。

 ま、これは母親である王妃のせいかもしれないが。


「お前に資質云々を問われるのは王子殿下も不本意だろうな」

「うわっ! 兄貴!?」


 背後からいきなり声を掛けられて、驚いた。


 いや、完全に気配を消して弟の部屋に入って来るなよ。

 暗殺者か?


「言われたとおり、教科書を開いているのは感心なことだが、考えているのがそういうことなのはあまり褒められたものではないな。集中してない証拠だ」

「ある意味、将来のことだから悪くはないだろ?」

「たわけ。お前が国のことを憂えるなど10年早いわ。それに長く王子殿下に会っていないくせに、よく勝手なことを言えるもんだな」

「確かに長く会っていないのは認めるけど、資質は努力で身に付くものじゃねぇだろ。才能の問題だ」


 オレはふとあの王子を思い出す。


 高田の異母兄妹だが……、似ているところはまったくなかった。

 どちらも完全に母親になのかもしれん。


「努力も才能の一つだ。王子殿下は御歳15になられてから、魔法も上達された」

「まあ、王族は変動期になりやすいらしいからな」


 その辺り、分かりやすくて羨ましい。


「だが、悲しいかな、我が弟は15になっても何も変わらない。嘆かわしい限りだ」

「ほっとけ」

「他人の資質をとやかく言う前に、己れ自身を見つめ直すことだな」

「……兄貴に言われたくないな。本性を見せたら、あの親子だって絶対退()くぞ」


 少なくとも、千歳さんはともかく、高田は退()く気がする。


「本性は他人にそう見せないから本性と言う」


 さらりと自身が黒いことを認めている。


「……特に用がないなら出て行ってくれないか?ここは一応、オレの部屋と言われるプライベートな空間なんだが?」

「可愛い弟を心配してるだけなんだが……、冷たいヤツだ」


 そんな言葉を笑顔のまま言いやがった。


 オレは、全身が身震いする。


「ぐ、ぐわぁああ~。と、とりっ、鳥肌が~!! 気色悪いこと言ってんじゃねぇ! クソ兄貴!」

「はいはい、出て行ってやるよ」


 手をヒラヒラさせながら、兄貴は退場した。


「人をおちょくることを生き甲斐にしてんじゃねぇだろうな」


 ブツブツが浮き出ている腕を見ながら、オレは溜息を吐いた。


 オレの兄貴は性格と口と根性と底意地が悪い。


 表面上は性格が良さそうに振る舞うから騙される女は多いかもしれないが、少なくとも男にはあまり容赦をしない。


「……まさか、高田のようなガキまで守備範囲だとは思わないが……」


 自分の兄ながら、その辺りはよく分からない。

 なんとなく、あの兄貴は女なら小学生から老女までオールオッケーな気がする。


 しかし……。


「どんな心境の変化があっても高田には手を出せないだろうな」


 そして、それはオレも同様で。

 護るべき相手ということもあるのだが、それ以上に確かな呪縛がオレたち兄弟にはあるのだ。


 それこそが「命呪」と呼ばれる「絶対服従命令魔法」。


 代々、各国の王族でも限られた者のみ伝わるとされる秘法で、同時に邪法でもあると説明されている。


 ソレによって、オレたち二人は縛られているのだ。


 そして、そんな秘術であるそれを使うということは、国王陛下が自分の娘のことをどれだけ案じているかの表れだろう。


 そうでなければ、わざわざ()()()「命呪」と呼ばれる縛りをオレたち兄弟に施す必要もない。


 オレたちに課せられた呪い……。


 一つは、高田が今日知ったばかりのもの。

 彼女が口にする「命令」の言葉で、一時的に催眠状態になり彼女の言葉とその指示に拒否権なく従うもの。


 そして、もう一つは、オレたち自身が有る言葉を口にしない限りは、発動しないもの。


 そちらの方は知る必要がないと考えたのか、兄貴も彼女に伝えようとはしなかった。

 それを知れば、彼女は複雑な気持ちになるだろうから。


 余計なことを考えられるのは嫌なのだ。


 できるだけ、彼女に負担をかけたくない。

 その気持ちは昔から変わることなく続いている。


 そして、これからも変わることはないだろう。


 そう思いながら、オレは教科書に向き直り、その両の目を閉じたのだった。

平成最後の投稿となります。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

少年が両目を閉じてしまったので、2章は終わりです。

嘘です。

単純にせっかくなので、元号改正に合わせたかっただけです。


次回更新は、令和元年初日です。

本日と同じく、三話更新となりそうです。

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