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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 法力国家ストレリチア編 ~

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【第24章― 甘くて苦い ―】そのままのキミでいて

この話から第24章に入ります。

章タイトルはシュガー&ビターではなく、柑橘系なイメージ。

この章と次章は主人公が恋だの愛だのに巻き込まれる予定です。……多分。

「愛してるよ」


 頬を染めながら、私は目の前にいる整った顔立ちの少年に自分の想いを伝える。


「あ~、はいはい」


 だが、その少年は素気無(すげな)く相槌程度の返答をした。


 なんという男だろう。


「ちょっと、笹さ~ん。もう少し思案してくれても良いんじゃないの?」

「それは、市松模様のクッキーを頬張りながら言う台詞じゃないよな」


 にっこり笑う料理上手な少年。

 うん、なかなか手強い。


「え~、このクッキーを食べながらだから言いたくなるんじゃない。他の人にも言われたことはない?」

「『嫁に来い』はよく言われるな」

「くっ! 告白ではなく求婚か! それに勝る言葉がない」

「勝たなくて良いから」


 私は珍しく笹さんと二人きりで過ごしていた。


 年頃の男女なので、当然ながら部屋の扉は開け放たれている。


 この状況は彼の主人でわたしの友人でもある高田が、大神官に用事があるとかで大聖堂に行っているためだった。


 まあ、封印の解放後の定期検診とやらなのだろうけど……。


 周囲には焼き菓子の甘い匂いが漂っているが、残念ながら当事者たちの雰囲気は甘くなる様子がなかった。


 友人の従者教育が完璧なのか、彼自身が潔癖なのか分からないが、見事なまでに隙が無い。


「ところで、笹さんは心配じゃないの?」

「何が?」

「高田とベオグラよ! 二人っきりで大聖堂の一室! そこから始まる危険な恋!」


 私は拳を握って主張するが……。


「……あの大神官猊下がそんなタイプか?」


 笹さんは慌てることなく、冷静にそう返した。


 うん。

 手強い。


「いや、あ~ゆ~男ほど、危ないって言うでしょ? もしかして、ヤツが少女趣味だったらどうするの?」

「高田が聞いたら怒るぞ」

「高田は怒っても可愛いから良いのよ」


 私がそう答えると目の前の少年は大きく溜息を吐いた。


「二人っきりと言うのなら、この状況もそうだろう?」

「おや、意外。笹さんがそんなことを言うなんて……。惚れたかい?」

「……いや、大神官猊下の苦労が偲ばれるだけだ」

「あの男、笹さんほど響かないのよね~」


 私の幼馴染である「ベオグラーズ=ティグア=バルアドス」は20歳にしてこの国最高位の大神官の座に就いた男である。


 外見はかなり良いのに、中身は女性に対する気遣いも、王女に対する心遣いもない生真面目で堅物なつまらない男だ。


「響かない?」

「例えばさ~、笹さんは私が目の前で着替え始めたらどうする?」

「アホ王女って叫ぶ」

「……なかなか酷いけど、多少なりとも慌てるでしょう? でも、そんな状況でも、ヤツは涼しい顔をするの」

「……まさか、やったのか?」

「いや、たとえ話だから真に受けないで」


 かなり昔、似たようなことはしたけど。


「いろいろな神女(みこ)が迫っても、さらりと交わしちゃうのよ。実は兄さまとデキていても驚かない」

「若宮が驚かなくても、王位継承的に大問題だろう」

「そんなことでも、真面目に考えて答える辺り、笹さんって本当に良い男よね」


 冗談でも、例え話でも、相手の話をちゃんと受け止めて返してくれる。

 その辺りは本当に好感が持てる。


「オレが良い男って本気で言ってるなら、若宮は見る目がない」

「あら、自虐?」

「大神官猊下の方が良い男だからだよ」

「男目線の話ね」

「男だからな」

「まあ、確かに」


 男は仕事ができる同性って憧れるらしいけど、女は仕事しかしない融通の利かない異性など願い下げだ。


 亭主元気で留守が良いって言葉も否定はしないけど、傍にいて共感してくれる夫の方がずっと良いとも思う。


「一緒にいて面白くない男は嫌なのよ」

「面白いだけじゃ飽きるぞ」

「……あら。それなら笹さんは高田と一緒にいて飽きる?」

「高田は面白いだけの女じゃないからな」


 ……ちょっと、笹さん。

 何気に今、凄いことを言ったの気付いてる?


 無自覚?

 ここは遠慮なく(つつ)くべき?


 いや、やめておこう。


 今の段階では微妙だと思う。

 下手に突っつくと、意固地になっちゃいそう。


 でも、吹っ切ったら人目を気にせず驀進(ばくしん)しちゃうタイプにも見える。


 いろいろ考えて、別角度の話を持ってきた方が良いと結論付けた。


「ところで、笹さん」


 私は(つつ)きたい衝動を必死にこらえて別の話にする。


「なんだよ」

「ここ2,3日。高田の露出が減った気がするんだけど。特に首元」

「良いことだろう?」

「なんで? 最悪じゃない! あれだけ小さくて可愛いのよ? しかもそれなりの脚線美! そして、一押しは健康的な鎖骨! あれを出し惜しみしてどうするの?」


 高田は人間界でしっかり身体を鍛えていたせいか、無駄な肉があまりない。


 スラリとした元生徒会長ほど削ぎ落されてはいないけれど、逆に言えば、彼女よりも女性的なラインだ。


 さらにあの健康的な身体ってかなり羨ましい。

 胸元に重いものがないから、肩も凝らないし、何より動きやすそう。


「悪い、オレ、大放出より、()()()()()()だから」


 涼しい顔して、さらりと言う少年。


「なんですって!? それでも男なの? 笹さん。守りに入るなんて……」

「男だからだろ? あまり肌が見えていると、遊んでいるように見える」

「ほうほう。『ボクだけのキミでいて欲しい』というヤツだね」


 その気持ちは確かに分からなくもないけれど、ちょっとばかり嫉妬深い彼氏になりそうね、笹さん。


 それは少し面倒かも。


「だから、若宮の格好も割と目の毒なんだよ。もう少し押さえて欲しいんだが」

「え? 何? お前が欲しい?」

「言ってねえ」

「あら、残念。そうよね~。その言葉は高田に使うべきだわ」

「使わねえ」


 いや、この台詞は冗談抜きで、高田はかなり喜ぶと思うのだけど?


 あ~、でも、笹さんはこの程度でも露出と思うのか。

 まあ、元生徒会長や高田はこんなタイプの服は暑くもない限り着ないと思うけど。


 でも、スリットが深く入った服って足技が出しやすくて好きなのよね~。

 それにその下も素肌を見せないように穿いているから問題ないと思ってたわ。


 でも、多感な男の子が反応している姿を高田に見せるのもちょっと申し訳ないか。


「分かった。ちょっとは考える」

「おう、頼む。ちょっと胸元、開きすぎだ」

「……ああ、こっちか」


 笹さんの言葉がなければ、上はこのまま、下だけ重装備になるところだったわ。


 なるほど、胸か。

 胸ね……。


「どっちだと思っていたんだ?」

「この脚線美かと」

「そっちは蹴るためにしっかりガードしてるだろ。それに……、足のラインは水尾さんの方が綺麗だと思ってる」

「……笹さんって結構、ムッツリさん?」


 何、この爽やかな外見の裏側に隠れた思春期少年の下心。


 しかもその対象は高田ではなく、元生徒会長ですってよ、奥さん。

 一体、どこで見たのかしら?


 やっぱり油断できない少年だわ。


「男ってそんなもんだろ?」

「いや、ベオグラは違う。ヤツにそんな心なぞない!」

「断言したな」

「神官には多いのよ。もしかしたら、不能なのかもね」

「やめろ、その言葉。オレまで抉られる」

「おや、笹さんもまだな人?」


 あらあら、それは大変。


「……待て。なんでそっちに話を持っていく?」

「高田がいないから? いたら、流石にこんな会話しないわ。高田には少しでも綺麗なままでいて欲しいもの」

「…………お前こそ、同性好きなんじゃねえのか?」

「わたしは同性愛者じゃなくて、純粋に高田()き。でも、これは恋愛じゃなくて、愛でたりからかったり、弄んだりしたいだけなのよね~」


 感覚的には犬や猫などの小動物。

 あの素直な反応が好きだから、あまりすれて欲しくはないのだ。


 勿論、それはこの目の前にいる少年も同じ。


 でも……、男の子はどうしたって、「発情期」があるから。

 流石に彼に「そのままのキミでいて」とは言えない。


 言ったら面白そうではあるのだけどね。


「待て。今、不穏な言葉があったぞ」

「まあ、高田に関しては笹さんに譲るから。大事にしてあげてね」


 勿論、手を出すことは許さないけどね、護衛くん。


「? なんだ、今、なんか変な気配が……?」


 あら、想像以上に良い勘してるわ。

 威嚇の魔気も出していなかったのに。


 流石、準神官の昇格試験を無傷でやりとげた男。


 あれって、実はベオグラも感心してたのよね~。


 そう言えば、あまり人間に関心を持たないように見えるあのベオグラが、この高田たちにはいつもより、親身になっている気がしている。


 これってクレスの友人だから?

 それ以外に何かある?


 ちょっと調べてみるか……。

出オチになってしまった。


ここまでお読みいただきありがとうございました。

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