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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 法力国家ストレリチア編 ~

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いつもと違う流れ

「九十九さんに『労い』……、ですか?」

「はい。何か良い案はないかと思って……」


 わたしは恭哉兄ちゃんの定期検診を受けている時に相談してみた。


 魔力の封印を解放した後の確認はまだ続いている。

 前よりはかなり落ち着いたらしいので、その間隔は長くなってはいるのだけど。


「以前、『なでなで』をしたら、絶叫されてしまって……」

「ああ、姫と話していましたね。しかし、『なでなで』……ですか?」


 恭哉兄ちゃんは少し戸惑った顔をする。


「わたしは何も持っていないから、あげられるご褒美なんて、それぐらいしか思いつかなくて」

「……いいえ、それは光栄なことだと思いますよ」

「でも、逃げられた」


 あれは驚いたけど、なんとなくショックだったのだ。


「栞さんが九十九さんに差し上げたいのは物でしょうか? それとも、感謝の気持ちでしょうか?」

「感謝の気持ちが籠った何か……と言うのはちょっと贅沢かな?」

「感謝を形に残したいということですね」

「そうなの!」


 恭哉兄ちゃんの言葉に、こう自分の中にあるしっかりとした形になっていない気持ちが伝わったみたいで嬉しかった。


「一般的な貴族なら感謝を称号や特権を書面に記しますが……、栞さんが求めているものとは違いますよね?」

「ああ、感状のこと? それはちょっと違う気がする」

「栞さんは本当に日本の文化がお好きなのですね」


 恭哉兄ちゃんが何故か苦笑した。


 ぬ?

 また言葉の選び方を間違った?


 遠回しに武士呼ばわりされた気がする。


「個人的な意見ですが、先ほど言われた『なでなで』はかなり良いかと思います」

「え!? もしかして恭哉兄ちゃんもなでなで好きなの?」


 実は、男の人って想像以上になでなで好きが多い!?


「……えっと、なでなでが好きと言うよりも、自分よりも強い魔力を持っている人間に感謝の気持ちを持って触れられる行為は、かなり心地良いのです。それが、清らかな魔力であったり、自分と相性が良い魔力であるならば、かなりの恩賞となることでしょう」

 

 それで、九十九や雄也先輩があんなに穏やかな顔になったのかと納得した。


 魔力が清らか……?

 もしくは、相性とかについては、自分でもよく分からない。


「そうなると……、魔法国家の王女殿下である水尾先輩から感謝の気持ちを込めて触れられたりすれば……、大半の人間はころころり~っとなっちゃうのかな?」


 彼女はこの世界でもかなり上位の魔力所持者だ。


 そうなると……、かなり多くの人間に心地よさを提供できるってことではないだろうか?


「相性もあるでしょうが、恐らくはそうでしょうね」

「えっと……、それは、一般的な……、誰でも知っているような知識?」

「一般的ではないと思います。ですが、王族の方々は御存じかもしれません。私も王子殿下より伺いましたから」


 一般的ではない知識を教えてもらえたことで、ちょっとだけ得した気分になる。


「感謝の気持ちを込めて……、触れる……、か」

「強い思いは何よりも自分と相手の力となりますので」


 魔法を使う時にもそう言うね。


 でも……。


「……それは魔力を押さえていてもできること?」

「魔力は抑えられても、気持ちの強さは変わりませんよ」

「なるほど! ……と言うことは、感謝の気持ちをもって、相手に触れればご褒美としておっけ~ってことだね?」

「残念ながら、形には残せませんけれどね」

「いや、確かに少しだけ残念ではあるけれど、感謝の気持ちを伝えることに意味があると思うんだ」


 悪い感情ではなければ、嫌がる人間は少ないと思う。


 この前は「なでなで」だったから逃げられたのだ。

 それならば、それ以外なら、大丈夫だろう。


 しかし、今一つ確信が持てないものがある。


「……ってことで、実験してもらっても良い?」

「はい?」


 あれ?

 恭哉兄ちゃんの目がまんまるになった。


 言葉を省略しすぎたかな?


「えっと、恭哉兄ちゃんがわたしに触れれば分かるかなって」

「それでは逆ですよ」

「逆?」

「はい。王族の血を引く栞さんの方が、私より間違いなく魔力は強いです。勿論、魔力干渉により、多少の影響を与えることはできるでしょうが……」


 なんと!?

 恭哉兄ちゃんは大神官だから、てっきり魔力もわたし以上かと思っていた。


 いや、だって、目に見える魔力の流れも結構凄いし。


「それはつまり、好都合ってことだね?」

「は?」


 再び、恭哉兄ちゃんの目がまんまるになった。


「恭哉兄ちゃん、いつもありがとう!」


 わたしは感謝の気持ちを目いっぱい込めて、恭哉兄ちゃんの両手をしっかりと握る。


 届け!

 これまでの渡し損ねた「ありがとう」の気持ち!


「あれ?」


 なんか……、いつもの魔力の流れと違う?


 無意味に風が出たわけでもなく、うっすらとオレンジ色の光がわたしの手から流れて……、恭哉兄ちゃんの手に残り、消えてしまった。


「……これは……?」


 恭哉兄ちゃんが、自分の手のひらを見つめて呆然としている。


「どう? どう? 何か伝わった?」


 反応が欲しくて、思わず尋ねていた。


「これは、大変素晴らしいものですね」


 そう言いながら、恭哉兄ちゃんが物凄い笑顔をわたしに向ける。

 眩しくて目が眩むかと思った。


 ワカ、この人、絶対、表情筋、生きてるよ!!


「惜しむべくは……、手袋伝いだったことでしょうか。少し、もったいなかった気がします」

「外してもう一回しようか?」

「いえ……。それでは貴女の魔力の質も変わってしまいます。私からの干渉がないわけでもないのですから。それに……、『ご褒美』というものはたまに頂けるものだから嬉しいとは思いませんか?」

「おおう!?」


 恭哉兄ちゃんが、笑顔全開だ!

 しかも、今回はちょっとお茶目な笑みだよ!


「それにしても……、実験でこれほどとは……」


 再び両手を見つめている恭哉兄ちゃんにそう言われてから気付いた。


「あ、実験だったね」

「はい?」

「すっかり忘れていた。恭哉兄ちゃんに感謝を伝えることがご褒美になるかもって分かったら嬉しくって……。頭から実験のことすっ飛んでいた」


 そう言えば、そうやって手を握ることになったはずだったのに……。


「貴女と言う方は……」

「でも、感謝の気持ちは本当だよ」

「これほどの魔気を送っていただいてその気持ちを疑うことはありませんよ。その意味でも大変、嬉しいです」


 その微笑みは優しげだったけれど、少しだけ淋しそうにも見えた。


「ワカ……、王女殿下はくれないの? 感謝の気持ち……」

「王子殿下から感謝していただいたことはありますが……、姫からはないですね」

「あ~、男女ってこともあるのか……」


 しかし、この方法なら多用はしない方が良さそうだけど、ここぞという時には良いかもしれない。


 良いことを聞いた。

 でも……。


「自分より魔力が強い人間にはこれほどの効果はないのでしょう?」

「ここまでの効果は難しいでしょうね」


 これでは、九十九や雄也先輩にはともかく、わたしより明らかに魔力が強い水尾先輩には感謝の気持ちを伝えることが難しいってことになる。


「ですが、感謝の気持ちを伝えることに意味があるのでしょう? それならば、ミオルカ様にはしっかりと伝わると思いますよ。」

「そっか~。そうだね! ありがとう、恭哉兄ちゃん!」


 無力な自分が嫌だった。


 でも、心からお礼をいう事なら、わたしにだってできる。

 魔法はまだまだ使えないけれど、それでも、この方法なら、少しは大丈夫って思える。


「恭哉兄ちゃんは魔法使いみたいだ」

「魔法使い?」

「少しだけ、迷いが飛んでいった気がする」


 こう痒いところにようやく手が届いた安心感みたいな気持ち。


「これでも、迷える子羊を救う神官の身ですから」


 その言葉で、さらに霧が晴れる気がした。


 彼は迷った人間を救うための神官。

 それも、最高位の大神官のお言葉だ。


 それでも、何故か神様に対する信仰心みたいなものは全く湧かないのだけれど、この人の言葉なら、どこまでも信じられる。


 そんな気がしたのだ。


 ―――― ああ、わたしは、本当に人間界で良い人たちに出会った。


 それは、勿論、恭哉兄ちゃんに限った話ではないのだけど、心底そう思えた。

 見えない何かに感謝しよう。


「さて、少し話が長くなってしまいましたね。魔力の調子を見ましょうか」


 そう言って、恭哉兄ちゃんは大神官モードに戻り、いつものようにわたしの状態を確認してくれたのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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