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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 法力国家ストレリチア編 ~

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敵に回してはならぬ者

「お前ら一体……、何やってんだ?」


 オレは思わず、そう言っていた。


「え~? 笹さん、こ~ゆ~のお嫌い?」


 首謀者は妙に良い笑顔で両手を広げる。


 その反対に被害者は……、何とも言えぬ顔をしていた。


 ここは高田が借りている部屋だった。

 呼び出されるなり、テラスへと締め出され、再び呼び出されて現在に至る。


「嫌いじゃないが、モデルは不満そうだぞ」

モデル(マヌカン)については、別に良いのよ。私が楽しければ」


 なかなか酷い言い草である。


 高田は基本、服に拘らない。

 いつも、兄貴が準備したものを文句言わずに着ている。


 その土地に合わせた服で、高田が抵抗なく着ることができるような服を渡しているためだとは思う。


 しかし……、この国の王女殿下は違った。

 自分が彼女に着せたいものを着せていた。


 宿代と思えばかなり安いものだが、それでも、複雑なのだろう。


 オレたちが大聖堂からこの城に移り住んで一週間ほど経過していた。


 午前中、聖歌時までの二刻(二時間)ほどこの王女殿下の勉強時間に付き合い、昼食後、二刻ほどの自由時間。


 その後、さらに二刻ほど王女殿下の戯れにお付き合いするという流れだった。


 兄貴と水尾さん、クレスは王女殿下に拘束されることはなく、基本的に被害者となるのは高田とオレだけ。


 今は、その王女殿下に付き合わされている時間なのだが……、今日はお喋りではなく、ファッションショーのように、高田が次々と着せ替え人形になっている。


 今回は、オレへの被害は、着替えの間に外へ出される程度なのでそこまで大きくないが、高田の心労がたまっていく様子は目に見えて分かりやすかった。


「さっきのとどちらがお好き?」

「メイド服なら、長い方。短いのはメイドっぽくない」


 短いのも見る分には嫌いじゃないが、女中の格好としては長い方が落ち着く。


 これは、ガキの頃、セントポーリア城で侍女たちを見ていた影響もあるかもしれない。


「ほほう。なかなか通だね、笹さん」


 だが、着せ替えと言っても、この国の服が一度も出てこないのはどういうことか?

 人間界での仮装(コスプレ)というやつである。


「なんで、こんな服がこんなにあるんですかね?」


 高田がようやく口を開く。


「しかも、なんで(あつ)えたかのようにぴったりなんですかね?」


 それはオレも思った。


 先ほどから高田が着せられているのは、どう見ても、オーダーメイドのようにピッタリなのだ。


 メイド服はともかく、チャイナドレス、アオザイってのは体型を強調するかのようにサイズがちょうど良かった。


「ああ、一部は雄也さんからの提供だからね」

「は?」


 思わぬところから、自分の兄の名が飛び出し、オレの目は丸くなったと思う。


「……ならば何も言えぬ」

「いや、お前はもっと抗議しろよ!」


 そして、なんで微妙に武士なんだよ!?


「笹さんはその辺、気にしないだろうから。良い服、持っていませんか? と聞いたら、ノータイムで提供されたよ? チャイナはちょっとベタだけど、アオザイはなかなか良い趣味よね~」


 いろいろと突っ込みどころが多すぎる。


 兄貴はそれらをどこで着せるつもりだったのか?


 そして、当事者である高田も、どこか意識が明後日の方向に飛んでいるようで、さっきからどこか心ここにあらずという印象だった。


 女ってのは、様々な服を着るのが好きだと思っていたが、高田や水尾さんを見ていると、そうでもないんだなと思う。


 いや、今回の場合、コスプレっぽいのも一因なのだろうけど。


「笹さんはなんか持ってない? なんなら来て欲しい服の希望とかでも良いよ。すぐには無理でも、近いうちに準備するから」

「オレが女の服を持っているように見えるか?」


 高田は収納魔法が使えないから、彼女の服の管理は確かにオレがしている。

 だが、それを告げることはしない。


「見えないから希望でも良いと言ったのだよ。流石に下着とかはダメね。そう言ったのは当人に直接交渉して、二人っきりの時に見せてもらって。でも、水着ならデザインによるかな」

「……オレをなんだと思っているんだ?」

「お年頃の少年?」

「年頃の少年が皆、露出を好むと思うなよ?」


 いや、確かにある程度好むことは認めるが、あまりにも露骨なのは周囲の目というものもあるために自重する。


 それも年頃の少年の特徴だろう。


「じゃあ、何が良い? 浴衣とか? 巫女服とか? 振袖とか?」

「なんで、和服縛りなんだよ?」

「日本人として」

「その髪色と瞳の色で言い切るな、ストレリチアの王女殿下」


 服ねえ……。

 あまり考えたとこともないが……。


 チラリと高田を見ると、彼女はすっかり疲れている様子だった。

 少し気の毒に思う。


「ミニスカとかどうよ?」

「それは、若宮が見せたいだけだろ?」

「別に笹さんに見せたいんじゃなくて、私が見たいの。高田も笹さんの口からなら納得して着てくれそうだから」


 そうか?

 普通、男からミニスカを希望されても嫌じゃねえか?

 なんかオヤジくせえし。


 だが、何か一つぐらいリクエストをするのなら……。


「高田限定なら、中学の制服」

「はい?」


 高田が反応する。


 それは、先ほどまで以上に妙な顔だった。


「あら。これはこれはある意味、御馳走様?」


 見たことがある服で疲れにくいと思ったのだが……、二人の反応を見ると、何か選択を間違えた気がしないでもない。


「中学の制服なら、私が着てたやつがあるか。ちょっと待ってね」


 そう言いながら、若宮がにやにやと笑いながら、部屋の隅へ移動する。


 いや、あるのかよ。

 あってもおかしくはねえけど。


「……なんで、制服?」


 高田が訝し気に聞いてきた。


「先ほどまでのよりはマシだろ? コスプレっぽくはねえし」

「中学校卒業した後に中学生の制服を着るのは、十分、立派にコスプレだよ」


 高田は大きく肩を落とした後。


「男の人って……、制服好きなのかな……?」


 と、何やらぶつぶつ呟いている。


 少し前まで着ていた服でも、抵抗はあるようだ。


「さあ、高田! 笹さんのリクエストに応えてあげて!」


 そう言って、若宮が制服を取り出した。


「承りました、王女殿下」


 分かりやすく慇懃無礼な返答。


 それを見届けた後……、オレは部屋から追い出された。


 風が涼しい。

 この部屋からは城下が見下ろせる。


 そう言えば、オレが眠らせた見習い神官たちはどうなったのだろう?


 高田を襲ったヤツらはあの後、どうなったのか。

 それを聞くことを忘れていた。


 神殿通りの方向へ目を向けながらぼんやりと考える。


 高田がここに来て以来、若宮は脱走をしなくなったらしい。

 本当に退屈をしていたということだろう。


 それを思えば、褒賞に釣られたとはいえ、あの見習い神官たちの犠牲も無駄ではなかったと思えなくもない。


 このまま、何事もなく、過ごせれば良いのに……。

 オレはそんなことを考える。


 でも、いつだって、望みは簡単に叶わない。

 そんな分かりきっていることを、オレは僅か数分後にそれを痛感することになる。


「なんか……、雰囲気、違わねえか?」


 服装は同じ。


 でも、微妙に何かが違う気がした。


「そりゃ、一応、高校生が中学の制服を着たら違和感あるよ」

「いや、その辺は大丈夫なんだが……」


 彼女はもともと、15歳には見えない。

 だが、今のこの姿は、記憶にある高田の姿とは少し違う気がするのだ。


 これは……、魔力の封印を解除した結果なのだろうか?


「……サイズの問題」


 若宮がぼそりと不機嫌そうに言った。


「サイズ? ああ……」


 これは若宮の制服だった。


 だから、上半身も下半身もサイズが違うのは当然で、オレが感じたのは、丈もあるが、胸囲と胴囲の問題だろう。


 高田は先ほどから少し、腰部分を何度か調整しようとしているし。


「笹さん? どの部分について納得した?」


 若宮が露骨に冷たい視線を飛ばしてくる。

 同時に、高田も同じような視線をオレに送ってきた。


 いや、これって、どう答えてもオレにマイナスしかない気がする。

 えっと……、将棋で言う詰みってやつか?


「私が高田より太っているって言いたいの!?」

「言ってねえ!!」

「じゃあ、わたしがワカより胸がないって言いたい?」

「それも言ってねえ!」


 どちらも思っただけだ。


 そして、不用意にそれを口にすれば、いろいろと後が怖いことぐらいは流石に分かっている。

 だが……、、退路は既になかった。


 結果として、無言を貫いたオレは……、若宮によって、服を貫かれる刑に処されることになる。


 二週間ほど前に高田が若宮にされたことだった。


 男の服を貫いて、何が楽しいか理解はできない。

 まあ、ズタボロと言うほどではないけれど。


 だけど……、どう返答するのが正しかったというのか?

 答えは結局出ないままだった。


 だが、女の着替えに付き合うと、碌なことにならないことは学習できたと思う。


 そして……、そのまま先ほど少しだけ考えた見習い神官たちのことについても、すっかり頭から離れてしまったのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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