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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 法力国家ストレリチア編 ~

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特別な扱い

「クレスだけ大聖堂のベオグラの部屋の横ね。そちらについては後で、ヤツに案内させるわ。他の方々は、城内に準備しました」


 大聖堂を出た後、大神官はお仕事のためそこに残った。


 そして、わたしたちを案内するワカは妙にご機嫌なのが、気になった。


 なんだろう?

 なんか……、ちょっとだけ、いや、かなりひっかかる?


「なんや、俺だけ離れとるんか」

「目的が違うから。そこはご承知くださいな」


 ワカは楓夜兄ちゃんに笑いかける。


 その姿を見て、さらに少しだけ複雑な心境になる。


 わたしがいろいろ気にしすぎなのかな?


「ここの四部屋をお使いください」


 そう言って、ワカ自らが案内してくれたのは……、特徴があまり見当たらない飾り気がない扉だった。


「自炊もできるし、愛を語れるバルコニー付きよ!」


 部屋をあけながら、上機嫌なワカが簡単に説明してくれる。


 白い壁に、青い絨毯。備え付けの家具もあまり飾り気はなかった。

 正面には大きな窓があり、そこにテラスがあるのが見える。


「……いや、誰と愛を語るの? ロミオさま?」

「そこは笹さんっしょ?」


 笑顔で答えるワカ。


 自分なら、こんな目立つところで愛を語らないと思う。


「部屋は高田の好みに合わせたつもりだけど……、いかが?」


 それで、すっきりした印象があるのか。


 一応、友人であるわたしに気を使ってくれているらしい。


「嫌いじゃないけど、壁が白すぎて落ち着かない気がする」

「あ~、そうね。笹さんが鼻血を出して汚しても困るか」

「出さねえ!!」


 わたしの後ろから九十九が突っ込む。


「なんでわたしの部屋で九十九が血を流すかは置いておいて、そんな状況だとほとんどの壁は汚れると思うよ」


 黒なら、目立たないかもしれないけれど、大半は血に染まれば汚れると思う。


「まあ、色は変えられるから大丈夫よ」


 ワカがそう言って、壁に張り付いているボタンを押すと、壁の色がクリーム色になった。


「ここで色の調整ができるようになっているから。イメージをすれば柄も浮かぶわ」


 おおう。

 これは魔法っぽい。


「他の部屋も()()()()()()()()()()、こんな感じになっています。趣味を先に伺っていなかったので……。調度品も不都合や足りないものがあれば、取り替えや追加もできますので、なんなりとお申し付けください」


 ん?

 何か、今、おかしくなかった?


「ちょっと待て」

「何? 笹さん」

「なんで、オレの部屋を除いて……なんだ?」


 案の定、九十九が反応する。


「笹さんの部屋はこの隣。護衛でしょ? 嬉しい?」

「……いや、誤魔化すな」

「笹さんの部屋はね。ちょっとだけ特別仕様なの」

「は?」


 頬を赤らめながら、ワカがそう言った。


 その時点で思いっきり嫌な予感しかしない。

 九十九の顔は分かりやすくそう言っていた。


****


「なんだ、こりゃああああああああ!?」


 その部屋の中を見るなり、九十九の絶叫が響き渡る。


 それでも、周囲から人が来る気配もないので、結界か何かが事前に張ってあるのかもしれない。


「目に痛い」


 わたしは素直にそう言った。


「ビビッドピンクか。なかなかの趣味だな」


 雄也先輩がそう口にする。


 なるほど、この目に痛い色はそんな名前なのですね。


「私としては、この部屋の色より、あちこちのレースやフリルが気になる。これを少女趣味と言って良いものか……。判断に迷うところだな」


 水尾先輩も周りを見回してそう言った。


 言われてみれば、確かにベッドを含め、あちこちに小さなレースやフリルが施されている。

 壁もよく見れば、小花が散りばめられているほどの念の入れようだ。


 これはわたしの部屋よりも明らかに手間がかかっていることだろう。


「なんの嫌がらせだ!?」

「え~~~~? ピンクとフリフリは男のロマンでしょう?」

「それはたぶん、こ~ゆ~意味じゃねえ!!」


 九十九はそう叫んだ。


「高田はどう?」


 いや、そこでわたしにふられても……。


「桃から生まれる夢を見そう」


 そう答えるしかなかった。


 いや、桃はもっと色が薄いけど、なんとなく。


「あら、素敵。笹さん、気に入った?」

「阿呆かあ!?」


 九十九が叫びたくなるのも無理はない。


 でも、彼がいなければ、わたしがこんなからかいの対象だったのかな?


「なかなか金をかけた悪戯だな」


 水尾先輩が壁に触れながら言った。


「せっかくなので、ファーストインパクトに全てをかけようと思いまして」

「嫌がらせに力を注ぎこみすぎだ!!」

「それに見合った成果が得られれば、問題なっしんぐ!!」

「オレにとっては全てが大問題だ!!」


 九十九。

 その反応が、ワカの求めているものだと思うよ。


 この国の王女殿下は本当に退屈していたようで、先ほどからずっと笑顔だ。


「この枕はここにおくからね」


 そう言いながら、ワカはパステルピンクの枕をベッドに乗せる。


 その枕に何か書いてあるように見えるけど……。


「……『YES』と読めるのだが?」


 九十九がその枕を見ながら、ワカを睨んだ。


「裏は勿論、『NO』よ!」


 満面の笑みで主張するワカ。


「新婚……、かな?」


 二人の会話を聞きながら、雄也先輩がそう口にした。


「すっげ~な。これは手作りだろ?」


 水尾先輩が興味深そうにその枕を見ている。


「一週間もあれば、これぐらいはできますよ」


 ワカは笑顔でそう言うが……。


「少年が突っ込み疲れてきたようだな」


 水尾先輩が言うように、九十九は、既にしゃがみこんでいた。


「昔、テレビで見たことがあるけど、どう使うの?」


 わたしは傍にいた楓夜兄ちゃんに聞いてみる。


 確か、新婚さんをお招きするバラエティー番組だった気がする。


「今夜、『おっけ~』かどうかやなかったんか? そんなん使わんでもええのにな」


 楓夜兄ちゃんの言葉でなんとなく用途は分かった。


 いや、今まで誰にも聞いたことはなかったから本当に分からなかったんだ。


「……つまり、楓夜兄ちゃんは『お~るおっけ~』ってこと?」

「ちゃうちゃう。会話が大事言うことや。枕でいちいちメッセージを伝えんでもええやろ?」

「でも、照れくさいからそうするんじゃないの?」

「確かに口に出さない奥ゆかしさも良いな」

「ユーヤはそっちか。俺は口に出して欲しい派や」


 うん。

 そんなところで無駄に良い顔されても困るよ、楓夜兄ちゃん。


「そっちに話を膨らませてんじゃねえ!!」


 あ。

 九十九が顔を真っ赤にしながら復活した。


「これは()()()使()()


 そう言って、九十九は()()()()ワカお手製の()()()()


 わたしを含めて、周囲の空気が凍り付いた気がした。


()()()阿呆なことをしでかしたら、全力で投げつけろ」


 ああ、なるほど。


「YESを?」

「……NOに決まってるだろ。」

「あ~、びっくりした。笹さんが積極的になっちゃったかと思った」


 ワカがホッと胸を撫で下ろしている。


 正直、わたしもびっくりしたよ。


 いや、さっきの説明からすると、この枕の本来の使い方って夜のお誘いとかそういった時っぽいから。


「あ? それなら扱いに困る物を人に押し付けてるんじゃねえ」

「本来の用途で使えば良いじゃない。高田が部屋にいる時でも。ああ、笹さんはエブリデイ、おっけ~な人?」

「……高田、やれ。使うのは今しかない」


 九十九は「NO」を突き付けるではなく、投げつけよと言っている。


 目が据わっている辺り、ちょっと疲れが見え始めたようだ。


「いやいやいや。初日からそれはまずいでしょ」

「……ちょっと待て、高田。それって初日じゃなきゃ投げてるってこと? ひっど~い!!」


 ワカは笑いながらそう言った。


 まあ、なんというか……。

 枕については、寝心地が良ければ、柄は問題にならないのだけど。


 それにどちらかと言えば……、この部屋の色を早く変えた方が良いんじゃないかな。

 目に痛すぎる。


 わたしは妙に抱き心地の良い枕を抱えながら、溜息を吐くしかなかった。


「よし! ()()()()()()()()()()()()


 だから、友人がポツリと満面の笑みで呟いたその不穏すぎる言葉については、無視することにしたのだった。


 しかし……、この調子だと、やっぱり九十九の精神状態に多大な影響がありそうだけど、大丈夫かな?

書いていて楽しい話でした。


ここまでお読みいただきありがとうございました。

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