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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 法力国家ストレリチア編 ~

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日常茶番劇

「ようこそおいでくださいました」


 異国の少女連続誘拐未遂事件から一週間後。


 大聖堂の会堂と呼ばれている場所で、大神官の立会いの下、この国の王女と年近い少女による謁見が行われていた。


「私はこの国の王女、ケルナスミーヤでございます。本日は、身勝手な申し出にも関わらず、お引き受けいただき、心より感謝いたしております」


 つまりは……、茶番である。


「拝謁を賜りまして、恐悦至極に存じます。不調法の身なれど、精一杯、お相手を務めさせていただきます」


 少女はそう言いながら、深々と頭を下げた。


「……『お前は武士か』とかいろいろ突っ込みたいことはあるけど、まず、言いたいのは、高田!」

「はい」

「何、その服? すっごい可愛い~!!」


 そんな叫びで、のっけから雰囲気がぶち壊れたことは分かった。


「……着せられた」


 少女は心底不本意だと言わんばかりの顔をしている。


 まるで人間界で言う中世のドレスのように、ローブの中にこれでもかとフリルが詰め込まれていたのだ。


 幸い、ドレス丈はロングでもミニでもなくミディ丈と言われる膝が隠れるぐらいの長さではあるが、それでも、彼女にとっては短い方になる。


 さらにそれがティアードフリルと呼ばれるフリルを重ねた状態になっているのだ。

 普段、着ることはない装いに、黒髪の少女は仮装をしている気分になっていた。


「この気遣いは……、笹さんのお兄様ですね!」


 満面の笑みで、王女は少女の後ろに跪いていた黒髪の青年へ顔を向ける。


「お久しぶりです。人間界でお会いして以来ですね。本日は、よくぞ主人を飾り立ててくださいました。心よりお礼申し上げます」

「ご無沙汰しております、王女殿下。ユーヤ=ルーファス=テネグロと申します。王女殿下はこのような装いをお好みだと伺いまして、準備させていただきました」

「それで……、笹さんもたちの恰好もちょっと騎士風なのか。似合うから良いけど。良い仕事をありがとう、ユーヤ殿」

「お褒めに預かり、光栄の至りに存じます」


 黒髪の青年は深々と頭を下げた。


「高田、見習いなさい。これが敬語。貴女のは武士言葉よ。全体的に突っ込みたいけど、一番は、なんで、『恐悦至極』なの? 時代劇でしか聞いたことがないんだけど」


 王女の言葉に、この場にいる人間が二人ばかり肩を震わせた。

 笑うことをこらえたらしい。


「日本語としては間違ってないでしょう?」

「使いどころ! 少なくとも女子が使うのはおかしい」


 王女は再び、少女へと向き直る。

 そこへ……。


「僭越ながら、私も、ご挨拶をさせていただいてもよろしいでしょうか? 王女殿下」

「あ……はい……って……」


 王女は思わず目を見張った。


 すらりと手足の長い黒髪の……少女が、()()()()()()微笑んでいる。


「こちらでは初めまして、王女殿下。ミオルカと申します」

「生徒会長!?」

「人間界ではそのような役職を務めさせていただいたこともあります」

「……シオリのお連れですね。行き届かぬ部分はあるでしょうが、ゆっくりされてください」


 そう言った後……、王女は友人に向かって鋭い視線を送った。

 その瞳には「先に言っておけ」と言う強い意思を感じる。


 因みに、本来なら、水尾にも栞と同じような衣装もあったのだが……、当人が、「それを着るぐらいなら、男装をした方がマシだ! 」と言い切った結果、こうなったのだった。


「ご無沙汰いたしております。王女殿下。この度は、主人だけではなく、我々までご招待いただき、誠にありがとうございます」

「台詞と顔があってないよ、笹さん。まあ、私は楽しいから良いけどね」


 王女はそういうが、黒髪の少年は苦虫を噛み潰したかのような表情を変えずに言葉を続ける。


「人払いをしている大聖堂で、こんなやり取りをする必要があるでしょうか?」

「ないよ、全く」


 そんな少年の疑問に、王女はあっさりと答えた。


 もともと、この大聖堂には関係者しかいない。


 気楽に、いつも通りで、と聞いていたのだが、いざ、王女と対面した時、何故か雰囲気は一変したのだった。


「でも、皆さんがわざわざこんな格好をしてくれているから……、つい?」


 そう言いながら、王女は栞へと先ほどとは別種の視線を送った。


「ワカがそれなりの雰囲気を出していたから、つい?」

「俺も王女殿下に従ったまでだが?」

「それなら、私も流れを変えるわけにはいかないだろ?」


 栞も、雄也も、水尾も、その場の雰囲気に流されたと言う。

 一人、馴染めなかったのは九十九ぐらいだろう。


「俺は見ていておもろかったで」


 少し離れたところで、茶色の髪の青年は笑顔でそう答えた。


「オレは肩も凝ったし、すっげ~緊張したんだよ」

「それでも、ちゃんと軽鎧を身に着けて、私に跪いてはくれたのね、笹さん」

「オレも着せられたんだよ!」

「似合ってる。カッコイイよ、笹さん」

「嬉しくねえ!」

「でも、そのカッコイイ笹さんよりも……、やっぱり高田よね~。何、この愛らしさ」

「動きにくい、気を遣う、落ち着かない、そろそろ脱ぎたい」


 栞はあえて笑顔でそう返答する。


 もともと小柄で、「美人」と言うよりは「可愛い」という表現が似合う少女である。


 黙っていれば人形のように可愛らしいことは、この場で否定する人間など……、当人ぐらいだろう。


「そして、この残念さ。そして、それでこそ、高田って感じがする辺りがますますもって残念だわ」


 王女はそう溜息を吐いた。


「ところで……連れの女性? って富良野先輩のことだったのね。なんで、言わなかったの?」


 何故か「女性」部分に疑問符が付く。

 だが、そこは仕方がないだろう。


 完璧なまでの男装の麗人がそこにいるのだから。


「ああ、それ、悪いけど事情があって私が高田に口止めしていたんだ。驚かせたいから、黙っておけって」

「……なるほど。それなら仕方ないです。しっかり驚かされましたから」


 王女も水尾に対してはあまり強くは出られないようだ。


 この部分は人間界の先輩、後輩の関係と言うところだろう。

 あるいは……、単純に距離の問題か。


「ところで、ケーナ。俺もお世話になってええんか?」

「定期船が休航延長したのだから仕方ないでしょう? 幸い、大聖堂も城も、今は部屋余りの状態なので問題ないと思う。兄にも許可はとったわ」


 もうすぐ定期船が再び動き出すかと思われたのだが……、その休航期間中に海流が変わったのか海の魔獣である海獣たちの出没地点が変わってしまったらしい。


 人間の都合だけで、海獣と呼ばれる生き物たちを狩ることはできない。


 十メートルを超えるものが多く、魔法と似たような能力を有しているため、簡単に狩れる存在でもないのだが。


 結局、新たな航路を確立できるまでは、定期船はまた、休航となったのだった。


「ほな、おおきに」


 クレスはその言葉に笑顔で応える。


「礼ならそこのベオグラに。兄に直接掛け合ったのは、彼だから」


 王女はそっけなく大神官に顔を向けた。


「なんや、提案はお前か」


 そのことに少し、残念そうに言うが……。


「でもまあ、助かるわ」


 大神官にも同じような笑顔を向けた。


「貴方に何かあれば、周囲が困りますから」


 それに対して、大神官は涼しい顔でそう答えた。


 実際、クレスの立場を考えれば、当然のことである。


 普段の言動から忘れがちではあるが、彼はジギタリスの第二王子なのだ。

 不測の事態が起きれば、責任問題となってしまう。


 それを思えば、目の届く位置にいてくれた方が良いと、大神官も、グラナディーン王子も考えたのだった。


「なんや、いけずやな~」


 そう言いながらもクレスは気にした風ではない。


 普段の言動はともかく、彼も自分の立場は分かっている。

 迂闊なことはできないのだ。


「では、改めまして」


 王女はその場を仕切りなおしてこう言った。


「皆さんを歓迎いたします。口調や態度については、正直、固くない方が好みですが、それぞれの立場もあることでしょう。場に応じて臨機応変を心がけてください」


 そう言いながら、王女は大聖堂の扉に手をかける。


「それでは……、こちらが用意したそれぞれのお部屋にご案内いたしましょうか」

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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