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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 法力国家ストレリチア編 ~

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味方が欲しいだけ

「二人とも、気は済んだ?」


 わたしはため息をつく。


 先ほどまでの二人のノリはよくわからないけど、九十九がワカに振り回されていたことは理解した。


「まあ、割と」


 ワカは笑顔で答える。


「も、もっと早く止めろ」


 九十九は肩を落として膝を付いていた。


 止めようにも、暴走を始めたワカは気が済むまで走らせた方が良いので、落ち着くまで黙っていただけだ。


「ところで、ワカ。確認したいんだけど、王位継承権って放棄できないものなの?」


 この辺については国ごとで違うかもしれないので、ちゃんと聞いておきたいところではある。


「あ~、二人しかいないから下手に継承権を放棄できないってのがある。今、私が放棄して兄に何かあったら、王位をスムーズに継ぐことができる存在がいなくなっちゃうってことだからね」

「……ってことは、今、兄王子殿下に何かあれば……」

「私に王位が転がり込んでくるわね。確実に。面倒だけど、それは避けられない話だから仕方ない」

「……これ以上、この女に権力をもたせてはいけない」


 九十九が全てを諦めたような顔でそんなことを口にした。


「それ相応の責任も背負うことになるのよ。あ、笹さんが半分背負ってくれるなら考えるけど」


 聞きようによっては求婚とも取ることができるような台詞をワカは口にした。


 その台詞は冗談っぽく聞こえるけど、半分は本気だと思う。


「ムリだ」


 九十九はそのことに気付いたのか分からないけど、きっぱりとお断りをする。


「私がいない間に弟妹誕生を期待していたんだけどね。まあ、年齢的にタネ切れでもおかしくないか」

「ネタ切れじゃなくて?」


 なんでタネ?


「王女殿下の言葉にしては品がねえぞ!」


 そういう九十九の台詞で、ワカの言った意味を理解した。


 いや、なんで、九十九はすぐ理解できたのか?

 そこが気になる。


 男の子だから?


「私の評価を下げようにも限界はあるだろうし」

「わたしを友人として城に招けばさらに下げられるってこと?」

「あら、酷い。なんでそんな黒い考え方しちゃうのかしら?」


 そう言いながら、ワカは九十九とわたしを交互に見る。


「で、お二人さん。ここまでの感想は?」

「面倒くせえ」

「複雑な事情に巻き込まれそうだなと」


 九十九とわたしは素直に答えると、ワカが苦笑した。


「さっき言ったように、私は味方が欲しいだけ。先ほど話した問題については極力巻き込まない努力はするけれど、うっかり巻き込んでしまったらごめんなさいってことで!」

「絶対、巻き込まれる。王族の事情ってやつはそういうもんだ」


 既に何度か王族の事情に巻き込まれているっぽい九十九が言うと、説得力がある。

 まあ、それをこの場で口にする気はないけど。


「ワカも少し知っているみたいだけど、わたしの方も結構、めんどくさいよ? その辺についてはどう思う?」

「別に? 私情で諸国に書状を配る恥晒しなんか知ったこっちゃないわ。高田を嫁にしたいってなら自らの足で探し出せっての」

「……なんで嫁?」


 そこまでの話はしていなかった気がするんだけど……。


「魔力が強い他国の王族すら嫌悪感を顕にする王子が、自国の封印されるほど強い魔力を持っている貴族の血を引く娘を国際捜索手配って普通の状況だと思える? 嫁候補に無理強いして逃げられたから追いかけ回しているって考えるのが普通でしょう?」

「この世界の普通ってよく分からない……」


 そして、それが普通の世界ってちょっと嫌だ。


「あのバカ王子は単純に見えて突き抜けたお馬鹿キャラだから、普通の基準に当てはまらないのは分かっているんだけどね。手配書まで他国に送りつけるほどの執着って普通に考えても異常なの」


 ワカはさらに何のフォローになってもいない言葉を続ける。


「わたしがなにかしでかした可能性を考えないの?」

「良い? 高田。人間界の指名手配もそうだったけど、普通、悪人の手配書って罪状込みで送るものなの。そうしないとその犯罪者の危険性が全く伝わらないからね。流石に国際手配にでっち上げの罪状をつけちゃうと面倒なことぐらいはあの王子も知っていたみたいだけど……」


 ワカはひらひらと手を払うように振る。


「でも……、私には、高田がそこまでの魔力があるようには見えないんだけどね。まあ、兄なら視えるのかしら?」


 どうやら、魔気を誤魔化しちゃうぞ作戦は成功していたらしい。


 ワカの言葉を聞いて九十九と顔を見合わせて思わずニヤリとしてしまった。


「それとも血筋が何気に良いとか? お母様が人間で……、お父様が王族……、セントポーリアなら、大臣の隠し子……、とか?」


 大臣?

 そういや、王妃殿下の父親がなんとか大臣だとか聞いた覚えが……。


 でも、王妃の父親っておいくつぐらいなのでしょうか?


 王妃よりも若いらしいわたしの母も、既に三十代の中盤に差し掛かっているところですが?


「彼女についてこれ以上の詮索はしないように願います、ケルナスミーヤ王女殿下」


 そう言いながら、九十九はわたしを後ろに隠しつつ、ワカの前に立つ。


「貴女が自国の問題に巻き込みたくないように、こちらとしても巻き添えになるような自体は避けたいのです」


 おおっ!?

 なんか、九十九が護衛騎士っぽい!


「あら、残念。でも、今のは格好良かったから許しましょう、笹さん」


 そう言いながらワカはどこからか扇を取り出して半開き、自分の口元に当てる。


「で、話はそれまくったけど、お返事を聞かせてもらえるかしら? 異国のお嬢様?」

「……だそうだが、どうする? オレはお前の意思に従う」


 わたしの前にいる彼の背中からそんな声がする。


「きゃ~、かっこいい、笹さん! 惚れ直すぜ!!」

「へいへい」


 まるで、本気にしていない様子の九十九。


 でも、茶化しているけど、ワカはその言葉自体は本心からそう言っている。

 それを伝えたら、九十九はどんな顔するかな?


「護衛くんはこう言ってるよ、高田。だから、貴女次第ってことになるね」

「うん、考えさせて」

「「え? 」」


 ワカと九十九の驚くような声が重なる。


 あれ?

 わたしが返事の保留するのって、そんなに意外だったんだろうか?


「え~、どうして~? この城に来たほうが、城下とかお外でちょろちょろするバカ王子から身を隠しやすいよ~?」

「行かないとは言ってない。でも、九十九はともかく、他にも連れがいるからそちらにも聞いてみないと」


 ある程度意見をまとめていたから反対はされないと思う。

 もともと、来る予定はあったんだし。


 でも、王位継承とかそんな厄介そうな問題が起こる可能性があるなら、そう簡単に返事をしてしまう訳にはいかない気がした。


「連れってクレス?」

「違うよ。女性。ここに来るまでにいろいろと助けてもらっている人」


 ここで水尾先輩の名前を出して良いのか迷った。

 兄王子とは面識があったけど、ワカとの面識は魔界人としてはなかったはずだ。


「それも気が強い人だな。怒らせると面倒な人」

「おおう。それは確かにちゃんと意見を聞いとかなきゃだわ」


 九十九の言葉にワカが納得する。


「それに受け入れる若宮の方も、根回しがいるだろ?」

「兄と王なら問題ないわ。私が二人を説得できないほど無能だと思って?」

「これは、オレが常々言われていることだが……、事後承諾は絶対、やめろ。混乱の元だ。口だけでも先に打診したという形を作っておけ」

「ぐぬぬ……。笹さんにその辺を諭されるとは……」


 それを九十九が誰から常々言われているのか。

 聞かなくても分かる気がした。


「オレたちは一週間後、大聖堂に顔を出すからその時に返事する。高田も……、それで良いか?」

「う、うん」

「なんで大聖堂? 直接、こっちに来たら良いのに」

「大神官さまに高田の状態を見せる必要があるんだよ。魔力の封印を解呪したけど、記憶の方はそのままだから何が起こるか分からんそうだ」


 これは本当のことだった。

 ただ……、本当は毎日健診だったりしますが。


 恭哉兄ちゃんは忙しい合間を縫って、わたしの状態をチェックしてくれているのだ。


「記憶は戻してない……。ああ、だから魔界人として違和感あるのに高田としての違和感ないのか」

「どういうこと?」

「高田との会話は魔界人っぽくないの。人間界で、普通の会話している感じ。だから、今まで変わった気がしないのよ」

「分かったような、分からないような?」

「まあ、そこは私の感覚の問題だから、深く考えないで大丈夫。それなら一週間後、色良い返事を期待して準備しておくわ」


 先ほど出した扇で軽く仰ぎながら、ワカは笑顔を向ける。


「期待って裏切られるものだよね?」


 わたしがからかうようにそう言うと……。


「あらやだ、怖い、この子」


 ワカはそう言って、なんでもないことのように笑った。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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