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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 法力国家ストレリチア編 ~

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本心からの言葉

「は?」


 ワカの発言に九十九は目を丸くする。


「でも、それと同時に笹さんとも会えるとは思ってなかった。この辺りは嬉しい誤算ってやつですな」


 邪気のないワカの笑顔を見て、思わず九十九がわたしの方を向く。


 まるで、助けを求めるかのように。


「多分、本心から言ってるよ」

「……何故そうなる?」


 九十九は疑いの目をわたしにまで向けるが、信用できないのは仕方ない。


「高田に会いたかった。だから、使える手を使って高田を城に招いた。どこも論理破綻はしてないと思うけど?」

「高田に会いたかった。だから、高価な褒賞を用意して183人もの見習い神官を使って城下で拉致を働かせた。十分、おかしいだろ!?」


 それぞれの言い分がぶつかる。


 そして、互いに退く気はないらしい。


「それなんだけどさ~、笹さん。私もちょっと解せないことがあるんだけど、落ち着いて聞いてくれる気はある?」

「若宮の言葉次第だ」


 九十九は分かりやすく警戒を強める。


「笹さんってさ。それなりに腕に覚えがあるからその歳で護衛なんて危険な仕事やってんでしょ?」

「そんなんじゃねえよ。単に成り行きだ。それに……、身寄りのない人間ができることなんて限られてるだろ」

「身寄りがない? それはちょっと申し訳ないことを言わせちゃったね」


 初めて聞いたためか、ワカは少し戸惑ったようだ。


 そして、そんなワカを見て九十九はさらに怪訝な顔をした。


「でも、ある程度の信頼がなければ異性の護衛なんてさせないはずなのよ。魔法か護衛か武芸か安全性か賃金かのいずれかを買われたことは間違いないと思うのよね。私なんて、外に出たいのに適する護衛がいないから却下されるのよ!」

「単に人材不足だろう。オレたち兄弟ぐらいしか条件を満たせなかっただろうし。それに、若宮は護衛とか関係なく城を脱出してるだろ?」


 ワカの主張に対して、九十九は淡々と答える。


「む?」

「この国の王女殿下が何度も城を脱走していることは耳にしている」

「いやん、笹さんったら~。自己評価低い割に有能なんだから~」

「環境が良いだけだ」


 きっぱりと言い切る九十九に、今度はワカの方が眉を(ひそ)めた。


「ねえ、高田? なんで、笹さんはこんなに自己評価低いの? 自虐ってほどじゃないから良いけどさ~。人によっちゃ、気分を害するよ?」

「それをわたしに言われても……」

「高田が直接の雇用主じゃなくても主人扱いされるなら、雇用者に対するメンタル保護も大事なの。守られて『きゃ~、私、お姫様扱いされてるぅ』って喜ぶだけのバカ女じゃないならね」


 数カ月ぶりに聞くワカの厳しい言葉に、思わず、わたしの顔がピリッとした。


 わたしが彼女のことを「親友」と呼ぶ理由はこういったところにある。


 本来ならば言いにくいようなきつい言葉でも彼女はしっかりと口にしてくれるのだ。


 単に思いつきを口にしているだけではない。

 ワカは口調ほどきつい性格ではないのだ。


 刺さる言葉ほど慎重に選んでいる。

 …………多分。


「まあ、非戦闘員とは言え、成人男性8人も倒しているような少年は、普通よりも優秀だと理解なさいな。そうじゃなきゃ、その見習神官たちも哀れだわ」

「それだ」

「どれだ?」


 ワカの言葉に九十九が突き刺すような目を向けたが、彼女は動じること無く応じる。


「見習い神官たちを選別したってお前は言ってたよな? つまり、その非戦闘員って奴らも選んだってことで良いか?」

「そう。戦闘特化型だと高田に万が一のことがあってもいけないかな~って思って」

「素人の生兵法は大怪我のもとだって聞いたことはないか? オレがいなかったら、こいつ、確実に怪我してたぞ」

「それ、本当?」


 ワカの声が一段、低くなった。


「腕掴まれて痣になったのと、突き飛ばされて少し擦りむいたぐらいだよ。怪我ってほどのものじゃないから」


 それらだって、いつものように九十九がすぐ治してくれた。


 傷自体は大したことないし、自然治癒でも十分治るのに、彼は本当に過保護だと思う。


「…………無傷で連れて帰れと言ったのに……」


 ワカはかなり低い声を出した。


 空気が凍りつくのが分かる。

 明らかに彼女の背後に怒りの炎が見えた気がした。


「掴んだヤツと突き飛ばしたヤツの特徴は? 素人だから、装束を変えるなんて頭も使わないでしょう」


 口元に笑みを浮かべながら、淡々と尋ねるワカ。

 これはかなり怒っている気がする。


「掴んだのは二人目。黒の衣装だったのは覚えているんだけど……」


 そもそも、この国の見習神官たちは皆、黒を基本とする服だ。

 だから、これだけでは何の特徴にもなっていない。


 せ、せめて……顔ぐらい……も、覚えてなかった。


「掴んだ手も黒い手袋だったし……」


 この国にそんな見習神官はごまんといるだろう。


 わたしは事件の目撃者にはなれないようだ。


 なんで探偵ものの主人公とか助手とかはちょっとしたことでも覚えているのだろうね。

 その記憶力に脱帽したくなる。


「見習いは皆、黒服だろうが。高田の手を掴んで痣をつけたヤツは、背中に金色で『全ての物には神宿る』とグランフィルト大陸言語で書かれていた。袖口にも金の線が入っていたと思う」

「九十九、よく見てたね」


 わたしは感心する。


「いや、間近で見たお前は何故覚えていない?」

「あんな状況でまじまじと観察なんてできないよ」


 そんな余裕はなかった。

 そう言うことにして欲しい。


「で、突き飛ばした方は、袖や襟、裾に赤い小さい花が散りばめられていた。手袋は赤。髪は金色、瞳は茶色系。背は高い方だと思う。髪留めも赤かったから、赤が好きなやつかもしれん」

「突き飛ばしたヤツの方が具体的だね。まあ、その気持ちは分からなくもない」


 先ほどまでの怒りが少しだけ解けたのか、ワカの声が少し元に戻った。


「怖い思いをしたってだけなら一人目がダントツなんだけどね。その割に怪我はしてないんだよ。なんか手慣れた感じだった……。でも、ある意味、一番、丁重に扱ってくれたかもしれない」


 それに……なんとなくだけど、どこかで会ったことがある気がするんだ。

 雰囲気というか、()()というか。


 向き合った瞬間に、何故か優しさを感じたと言うか?


「その一人目が高田を拉致直前までしたって人だよね?」

「黒髪で特徴のない顔。手際は見事だったけど、詰めが甘い感じだった。服は黒地に……多分、黒の刺繍」

「黒地に黒の刺繍? ちょっとそれは珍しいわ。最近の見習神官はなんか競って派手にする傾向だったから。そんな地味目の神官に声かけたかなあ?」


 ワカが頬に手を当てて考え込んでいる。


 この状況だと、服からの匂いと口を塞がれた際の手袋からの匂いが少し違った気がするのは黙っていた方が良いかな?


 なんとなく、匂いで判別するって、ちょっとだけ変態ちっくだしね。


「4人目以降は大丈夫だったの? その……怪我とか……」

「立ち止まって出方を待つんじゃなくて、逃げるようになったからな。簡単に腕を取られなくなった。それに小芝居もするようになってし」

「高田が小芝居?」


 あ、ワカが芝居って部分に反応した。


 元演劇部として、そこが気になったのかチラリとわたしに目をやる。


「4人目以降は、壁際に追い詰められて絶体絶命の窮地って感じの表情をするようになった」

「ほほう。確かに小芝居だね」


 いや、正しくは単に疲れてもう走れないって感じを出したかったんだけど……、九十九にはそう見えたらしい。


 残念ながら、わたしにはお芝居の才能はないようだ。


「で、袋小路……、壁際に追い詰めて優位に立ったと油断した見習神官の後ろから、笹さんがガツンっと一発お見舞い?」

「誘眠魔法を使っただけだ。4人目からは一切、物理攻撃はやってない」

「それ以前はやったってことでおっけ~?」

「と、突然、襲撃されたんだ。少しぐらい相手に八つ当たりぐらいさせろ」


 ワカのツッコミに思わず、九十九はそう答えていた。


「そんな状況で八つ当たりって言っちゃう辺りが、笹さんの人の良さを表してると思わない?」

「そうだね」


 ワカが笑いながらわたしに同意を求める。


 襲撃相手に反撃するってのは、正当な報復だと思う。

 でも、九十九はそれに八つ当たりが入っていると口にした。


 言わなければわからないことなのに。

 私情が混ざった感情で人を攻撃したくはないってことなんだろう。


「しっかし、護るためとはいえ、相手の意識を奪うための魔法が使用可能ってことよね? 自分が攻撃されてるなら納得できるんだけど……。神殿街の結界って結構、穴あきってことか~」


 ワカが大袈裟にため息を吐く。


「そう言うことだな。国王陛下や王子殿下にしっかり伝えておけ。今のままじゃ、賊が自分の身を護るための攻撃まで正当化されかねないぞ」

「いや、『賊』って時点で害意がある状態だと思うのよ、笹さん。流石にそれは結界もお仕事してくれるわ」


 ワカが困ったように笑いながら少し視線をそらした。


 そこで、わたしは先ほどから気になっていることを口にしてみる。


「ところで、ワカ? さっきから気になっていることがあるんだけど……」

「なんでしょう、高田?」


 わたしの問いかけに笑顔で応じるワカ。


 だが……。


「用件はわたしに会いたかった……ってだけじゃないでしょう?」


 そう言葉を続けた時、彼女の視線は少しだけ横に動いたのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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