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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 法力国家ストレリチア編 ~

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敵意の基準

「ところで若宮、どうやってこれからは解放できるんだ?」


 九十九は、背より高い位置に磔と言うより宙吊りの拘束椅子に捕まっているようなわたしを見上げながらワカに声をかける。


 この細い枝は何本ぐらいだろう?

 この角度からはよく分からないけれど、下に行くほど数がある気がする。


 わたしの体重を支えられている辺り、見た目よりはかなり頑丈なんだろうね。


「力技」


 答えは一言だった。


「は?」


 九十九は短く聞き返す。


「仮にも拘束魔法が簡単に解除できたらダメでしょ? だから、力技しかないの」

「……つまり、術者の意識を奪えば良いのか?」


 何気に過激なことを口にする九十九。


「いやん、笹さん。そ~ゆ~方向の力技じゃないのよ。分かってるくせに~。それに術者が意識を失って解けるような魔法でも困るっしょ」

「いや、ここは一度くらい試す価値はあると思わないか……?」


 どうやら、九十九はここに至るまでの度重なる展開に、ワカに対して敵意を隠す余裕はなくなったらしい。


 まあ、まだ殺意じゃないだけマシだと思うけど。


 さっきまでの神官たちに対して彼が放っていたものの中には、間違いなく殺気のようなものもあったと思う。


「おっや~? 笹さん、いつからそんなに黒い子になっちゃったの? おね~さん、悲しいわ~」

「若宮と比べたら、大半の人間は白か灰色だと思うが?」


 さらに、困ったことを言い出す九十九。


「そして、少し会わない間に言うようになったね、笹さん」

「弱みを見せたら危険な相手だと十分過ぎるくらい分かっているからな」

「十分、弱みも隙も見せてくれてると思うよ、笹さんは。でも、そろそろその戦闘態勢止めてほしいんだけど」

「……若宮がその姿勢を止めたら考える」


 そうなのだ。


 困ったことに、この二人は和やかに普通の会話をしているようで、その実、今も隙を伺い合っていた。


 少しでも気を抜くと再び、攻撃に突入しそうな状況。

 わたしが下手に口出しすることが出来なかったのもこの辺にある。


 なんだろう、この武闘派たちは。


「まあ……、笹さんに対しては、この高田を使って更に揺さぶりをかけるってことも出来なくはないけれど……、仕方ない。ここは私が折れてあげますか」


 そう言いながら、ワカは先ほどまでの圧力を緩めた。


 そして、わたしに近づき、その近くの枝を一本、手折る。


「私は一応、お願いする立場だしね」


 そう言いながら、二本目に手をかける。


 それを見て、九十九も警戒心は解かないまでも、攻撃態勢は止めたようだ。


「わたしを使って更に揺さぶりって……、具体的にはどうする気だったの?」


 その言葉に嫌な予感しかしない。


「そりゃ~、高田の服に突き刺さっている枝を増やしていくとか~。刺さっている枝を強引に揺さぶって『きゃ~、いや~ん! 』な状態にするとか?」

「おい、こら。そこの外道」


 九十九はまだ警戒心を解かない。


 ……というか、ワカの発言にますます強めていっているような気もする。


「いやいや、かろうじてまだ道は踏み外してないっしょ? これが私の敵なら手心を加える気はないけどね。あ、笹さん的には残念だった?」

「人をなんだと思ってやがる?」

「多感なお年頃の青少年」


 かなり良い笑顔で答える彼女を見て、九十九がげんなりとした表情を浮かべる。


「……わたしの服が多少、破れた所で誰が得するかって話なんだけど……。どうせなら、そ~ゆ~役割はボンッ、キュッ、ボンッ! な方に任せたいな」


 寧ろ、その状況になるのは周りにとって凶器な気がする。

 目の毒的な意味で。


 九十九だってあまり見たいものではないだろう。


 いや、もしかしなくても、わたしが多少、露出した所で彼は無反応な可能性が高い。

 そして、そんな状況はかなり気まずい。


 確かに反応されても困るけど……、そんな九十九は想像できないな。


「同じく多感のお年頃の乙女としてはかなり冷静ね。普通はこの状況でも十分、慌てるレベルでしょうに」


 さらに枝を折りながら、ワカがどこか困ったような顔を向けて、わたしに言った。


「ワカからは敵意も害意も感じないからかな」

「え?」


 そこで枝を折っていたワカの手が止まる。


「本気じゃないって分かっているから、わたしにそこまで酷いことはしないでしょ」


 わたしはそう続けた。


 勿論、ここの結界が作動しないってのもある。

 この場所が大聖堂でも王城でも城下以上に強い結界があると聞いているから。


 でも、それ以上に……、もっと厳しい判定をするものをわたしは知っていた。


 それこそ、僅かな攻撃姿勢を見せるだけでも反応してしまうほど優れた防護がわたしにはあるのだ。


 それも……、魔法国家の王女殿下すら慌てさせてしまうほどのものが。


 それがまだ働いていないってことは、ワカには敵意も害意もないってことだ。


 いや、敵意ある魔法国家の王女殿下っていうのもちょっとどうかと思うのだけど……。


「……ちょっと笹さん、この子、かなり甘くて心配になるんだけど」


 ワカは明らかに戸惑っている。


「知ってるよ。だから、オレが苦労してんだよ」


 九十九はそう言いながら、大袈裟に肩を竦めた。


 失礼な。

 一応、口にしないだけで、わたしの中でちゃんと根拠はあるのだぞ?


「ところで……、まさかとは思うが、先ほどからやっているそれが解呪方法か?」


 先ほどからワカがわたしの周囲にある枝を一つ一つ丁寧に手折っている状況を指さして、九十九がそう問いかけた。


「うん。だから、言ったじゃない。力技しかないって。これ、ある程度の強さの魔法も跳ね返しちゃう優れものでさ~。本来は、拘束魔法っていうより防御魔法なのよ」


 そう言いながら、てへっと舌を出すワカ。


 そこで、とうとう九十九の怒りは頂点に達したようだ。


「高田、マジで『命令』してくれ。オレが術者をぶっ飛ばす!」


 いつもより低い声で、しかし、笑いながらも、かなり物騒なことを口にする九十九。


 彼のこんな状態を見るのは恐らくは初めてだと思う。


「……嫌だよ」


 ある意味、この場ではかなり合理的な攻撃手段ではあるのだろう。


 命呪と呼ばれている強制命令魔法は九十九を無意識状態にする。


 そこには彼自身の悪意、害意は存在しないから結界も動かないかもしれない。


 ……そう考えると、この国の結界って、本当にかなりザルなんじゃないかな?


「まあ、気長にこうポキポキと折っていけば、自重(じじゅう)で高田も降りると思うけど」


 なんか、その言い方はかなり嫌だった。

 自分の重さでぽっきり折れるってことだよね?


「因みに何キロぐらいだ?」

「落としたくはないから、バランスよく手折って……、100本も折ったら体重、50キロの娘さんは落ちるけど?」

「……ってことは、100じゃ全然、足りないな」

「ちょっと、高田! 笹さんに体重教えてるの!? ヤダ! 不潔!!」

「教えてないよ」


 教えなくても知っているんだよ、この男。


 わたしだって好きで知られているわけじゃないのだ。


「護衛が把握するのは当然だろ? あまり重いと担ぐのも一苦労なんだ」

「担ぐですって! 高田、いつの間に大人の階段を……」

「いや、さっき袋詰めにされたのを見てたでしょ? わたしの扱いは、日頃からあんな感じだよ」


 あれを大人の階段だとは思いたくない。

 どこの世界の大人だ?


「袋詰めにしたのは初めてだったはずだが?」

「基本、お荷物扱いじゃないか」

「オレにはそんな気はない。一番、持ち運びしやすい体勢を選んでいるつもりだ」


 そんなわたしたち二人の会話を見て、ワカは何かを察したのか溜息を吐いていた。


 うん。

 場所が変わったとは言っても、そんな短期間で簡単にわたしたちの関係が変わるわけはないね。


 因みに、わたしを捉えていた無数の枝については、九十九が得意とする「伐採魔法」であっさりと枝払いされました。


 それを見たワカ曰く珍しいけどそれなりに高位の魔法らしい。

 実は、「伐採魔法」……、侮りがたし?

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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