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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 法力国家ストレリチア編 ~

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見習神官と少年

 長くなった髪を翻して、高田が走り出す。

 どうやら、また追われ始めたようだ。


 あまりにも食いつきが良すぎて、こっちの方が罠なんじゃないかと勘ぐってしまう。


 そもそもここに来ることになったきっかけも、どこかおかしい気がしていたのだ。

 高田は特に気にしてなかったみたいだけど。


 魔気の調整についてなら、わざわざ城下に出る必要はない。


 本当に城内が問題だというのなら、大聖堂でこれまで通り雑務をするだけでも十分、試せるはずなのだ。


 さらに、城下に出てからすぐではなく、気が緩むような時間帯に刺客が現れるなんて出来すぎている。


 まるで、オレたちをよく知っている人間が裏で糸を引いているようなそんな気配がひしひしとするのだ。


 そして、そんな人間に心当たりは一人しかない。


 高田が細道から袋小路のある方向へ曲がっていく。


 歩いている時はそこまで意識しないのだが、彼女の走る姿は思ったより様になっていた。


 陸上部のように型に嵌った綺麗なフォームではないのだが、少なくとも走り慣れている姿勢である。


 あの様子では、恐らく、長距離でもあまり苦にならないだろう。 

 疲れない走り方をしていると思う。


 まあ、走り始めのスタートダッシュに関しては、そのままヘッドスライディングしてしまいしそうなほど勢いのある地面の蹴り方だったりするのだが。


 高田の封印が解放されてから暫くの間。


 彼女は自分の魔力にかなり振り回されていた印象はあった。

 それでも、水尾さんの指導という名のストレス解消により、かなり落ち着いたと思う。


 あれはオレたち兄弟にはできなかった。

 少なくとも、短時間では無理だったと思っている。


 彼女は、何故かまだ魔法を使うことが出来ないままだが、昔は使えたのだ。


 ここまで来たら、もう焦る必要はないだろう。


 彼女の魔気が以前より分かりやすくなったことで、オレの方にも明確な変化が表れていた。


 それは、前以上にはっきりと感じる高田の気配。


 封印されていた頃は、彼女の居場所はなんとなく分かる程度のものだったのが、今ではどこにいても確実に分かる自信がある。


 それどころか、恐らく多少の感情まで判別できるようになった気がする。

 本人に確かめたわけではないので、それが正しいかは判別できない。


 元々、魔気は感情で変化することが多いので、その事自体は不思議じゃない。


 思考までは分からないが、それでも彼女の状態を知る上で、これはかなりありがたい。

 素直に見える女だけど、実は多少、きつい状況を隠そうとするのだ。


 正直、阿呆だと思う。

 疲れていても疲れてないと笑い、痛みがあっても我慢してしまう。


 人としてはご立派だと思うが、彼女の身を案じる護衛としては厄介としか言いようがない。

 無理したツケはどこかで必ず現れるのだ。


 その時に慌てるのは本人ではなく、確実に周りにいる人間なのだから。


 オレは浮遊魔法で建物を飛び越えて、柱の陰に潜んで待機した。


 相手は成人している大人ばかりだが、その捕獲対象となっているのは、見た目は力がないように見える女だ。


 本気で追い詰めようとせず、遊びのように手を抜いているのが分かる。


 相手も気が進まない部分があるのだろう。

 調子に乗らない限りはそれらを我慢してやる。


 今、必要なのは相手の油断だ。

 侮られているぐらいがちょうどいい。


 七人目の男はどうやら説得型のようだ。

 なんとか言葉を使って、高田の気を引こうと努力しているように見える。


 だが、甘い。


 ああ、見えて高田はかなり扱いづらいのだ。

 言葉で説得するのなら、兄貴や大神官ぐらい弁の立つヤツじゃなければ無理だろう。


 普通に言った所で全く聞いちゃくれねえぞ、あの女。


 相手をまっすぐ見つめて、丁寧に言葉を選んで拒絶の意思を伝える。

 そんなアイツもアイツだよ。


 相手の精神的な動揺を誘うなら、挑発的な言葉で感情を逆なでして煽るぐらいが良いのに、変な所で誠意を見せている。


「貴女が来てくれないと、大神官様がっ!」


 高田の対応にしびれを切らせたのか、見習い神官は少し声を荒げた。


 大人のくせに余裕がない。

 いや、それよりも相手はもっと気になることを口にした気がする。


「大神官……だと?」


 気配を消しているにも関わらず、思わずオレはその言葉を口にしていた。


 この国で絶大な人気とかなりの権力を持ち、高田の恩人にして現在も庇護してくれている人間。


 思い出せば、今、高田の前にいる見習い神官以外にも「大神官」という単語を口にした見習い神官はいた気がする。


 その時はそこまで深く考えなかったが、もしかしたら、実はあの人が今回のことに無関係じゃなかったとしたら……?


「大神官さまが……、どうかしましたか?」


 高田も気にかかったのか、見習い神官にそう尋ねていた。


 その大神官は、ここ数日、神官たちの試験の準備ってやつで忙しくしていたことは知っている。


 高田の方は、体調の確認などで毎日会っていたみたいだけど。


 ただ……、その試験の内容自体は聞いていない。

 オレたちには直接関係がないので気にもしていなかった。


 だけど……、もし、それが神官たちの昇段試験みたいなやつで、今回のことがそれに使われていたとしたら……、これまでの根底が覆されてしまう可能性がある。


 黒幕が入れ替わるってことか?


「お、お前のような信者には関係ないことだ」


 明らかに見習い神官は動揺していた。


「それならば、尚更、貴方についていくことはできません。もしも、大神官さまがわたくしのことをお呼びだというのなら、勿論、従いますけど……」


 高田の言葉は彼女の立場からは当然の反応だといえる。


 だが、その丁寧な返答は相手にとって挑発となったようだ。


 正論は時として相手の神経を逆なでることがある。

 今回は、それに当てはまってしまったようだ。


「たかが信者風情をあの御方がお相手すると思うな!!」


 見習い神官は激高し、その怒りはそのまま目の前の少女に向かう。


 オレは素早く、転移魔法で相手の背後へ回ってそのまま、意識を奪った。


「ぬう……、詳しい話を聞きたかったのに……」


 そう言いながら平気そうな顔をしていても、やはり、大人の怒りをその身に受けて怖くないはずがない。


 倒れた見習い神官から目をそらしつつ、高田の右手は左の二の腕を落ち着きなく触っていた。


「思ったより、老けてんな。すぐキレたから、てっきり俺たちと変わらないかと思ったけど、三十代後半くらいか?」


 遠目には分からなかったが、少し後退している額は髪を伸ばしたぐらいでは誤魔化せない。

 髪の毛を上で纏めようとするために側頭部の薄さも目につく。


 そして、神職についている割に、かなりデ……いや、ふくよかな体型。

 これは、節制もあまりできていないのではないだろうか?


 だから、見習い止まりということだと思う。

 実際、担ぐと、これまでの見習い神官の中で一番、重量を感じた。


 こいつ……、間違いなくオレの1.7倍はあるだろ?


「だ、大丈夫?」


 それだけオレの表情が変わっているのか、見た目の問題なのか、高田がなんとも言えない顔で声をかける。


「もっと自分に対して身体強化系を使えないときついかもな」


 そう言いながら、倒れている見習い神官たちの上に重ねる。


 この重さでうっかり目覚めそうな気もしたが、それでも彼らは目覚めない。


 地面に接している三番目のヤツは、かなり細身だったからそのうち中身が出てしまいそうな気もする。


 だが、魔界人の身体はある程度頑丈なので、置き方に気を使えば圧死することはない。


 それに、オレたちに対して、これだけのことをしてくれたんだ。


 それでも、オレには神官を罰する権限などないので、これぐらいの仕返しは許してもらいたい。


 そう考えると、もう少し置き方を考えて……、死なない程度にもっと苦痛を与える方向でやるか?

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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