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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 法力国家ストレリチア編 ~

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見習神官対策

「誘眠魔法……、その眠らせる魔法って、誰にでも効果があるの?」


 わたしが九十九に尋ねる。


「完全に相手の隙を突けば、かなりの確率で効果を発揮するな。人の行動、感情、意識に関する魔法……、精神系魔法や神経系魔法ってのは、元々の魔法抵抗力に加えて、強い精神力の持った人間には弾かれやすいんだ」

「強い精神力?」


 つまりは、根性とかそう言ったものだろうか?


「逆に言えば、身構えていない不意打ちや混乱している思考では、魔法への抵抗が難しい」


 そう言えば、水尾先輩もそんなことを言っていた気がする。


 どんなに魔法耐性が高い人間も不意打ちには弱いって。


 だからこそ、船で皆が水尾先輩の魔法によって眠らされてしまったわけだしね。


「だから……、わたしが囮をやった方が良いってことなんだよね?」


 一人目はかなり慎重な人だったのだろう。


 確かに人通りのある神殿通りでの犯行ではあったが、それでもわたしと、すぐ隣りにいた九十九の目すら掻い潜って、目的のものを一度は手中に収めることには成功したのだ。


 でも、その後は不思議なほど隙が大きい人だった。


 九十九の魔法によってあっさり眠ってくれたから助かったのだけど、もう少し魔法に対する抵抗が強い人だったらわたしはここでこうしてはいなかっただろう。


 二人目はわたしが九十九に支えられて柱から通りに出たところで現れた。

 その人は、隠し事ができない真っ正直な人だったんだと思う。


 結果は、露骨な誘い出しに苛立った九十九の手によって物理的に眠らせられることになったのだけど。


 あの時は素手だったためか、あれでも結界が反応しなかった理由はよく分からない。


 ……素人にもはっきりと分かるほど見事な正拳突きだったのに。


 そんな経緯があったために、三人目が現れる少し前に、わたしと九十九は少しだけ距離をとってみた。


 わたしが一人で、神殿通りから少し曲がった細道をフラフラ、キョロキョロと歩いてみたのだ。


 それは、相手からすれば、あからさまな行動だったかもしれないが、その意図を知りたかった。


 それに、本当にわたしだけが狙われているのかを確認したいという目的もあった。


 そうして……、やはり三人目がわたしの前に現れることとなる。


 三人目はわたしが一人だと分かると、分かりやすく命令口調の上、無遠慮に手を伸ばし、力尽くで、わたしを捕まえようとした。


 その手を寸でのところでするりと交わし、九十九と先に決めておいた地点までなんとか全力で走り続け、例の場所で壁に向かって突き飛ばされることとなる。


 そして、壁が消え、倒れている他の見習神官たちの姿を見て動揺している間に、背後から九十九が眠らせたのだ。


 九十九としては眠らせるだけじゃ足りなかったようだが、それ以上やると流石に結界が反応していたと思う。


 わたしは魔力の封印を解放してから、明らかに体力面が向上していた。


 魔法は使えないままだったけど、走る速度は上がり、筋力、持続力は分かりやすいぐらいはっきりと上がっていたのだ。


 魔法使いと言うよりも、戦士や武闘家系方向の成長という部分が気になるところだったけれど、今まで使えなかった魔法がいきなり使えるようになるという不自然な現象よりはマシだと思う。


 そうして、四人目、五人目と対処も慣れてきて……、先ほど六人目が壁向こうの袋小路に沈んだところである。


「それにしても……このままじゃ、戻れないね……」


 元々、城下には試験的な意味で来ていたのだ。


 魔気の調整最終試験として、わたしや九十九が連れ立って歩いても不自然じゃないか? という趣旨の実験であった。


 見習神官たちが多い城下を誤魔化せなければ、もっと上級な神官たちや魔気に敏感な貴族もいる城内で歩くことなどできないと、そう雄也先輩に言われて、二人して一日のんびり城下で過ごすことにした。


 ここのところ、水尾先輩と過ごすことが多かったせいか、久しぶりに二人っきりではあるが、そこに甘い感情はなく、わたしはうっかり魔気をぶっ放さないかビクビクしてしまったため、そこを九十九に注意されてしまうぐらいであった。


 わたしは、相変わらず魔法は使えないのに、何故か魔気の大放出はしてしまう。

 それも無意識に。


 だから、感情が高ぶりすぎず、平常心で行動しろと水尾先輩にも言い含められていたのだが、こんな落ち着かない状況で平常心を保ち続ける自信はない。


「この状況だと、メシ、食うのも難しそうだな」


 九十九が少し後方に目をやった。


 どうやら、またお出ましのようだ。


「今度も一人みたいだな」

「……仲、悪いのかな?」


 そう言いながら、不自然じゃないように九十九に手を振って離れる。


 それを確認すると、九十九が背を向けて去っていく気配がした。

 わたしもくるりと踵を返し、歩き始める。


 向かうは人気が少ない細い道。

 相手だって人目に付くことは望まないだろう。


 明らかに人通りが少ない方向へたった一人で獲物が向かっているなら、暫くは黙って見守ってくれるはずだ。


 その方がお互いに好都合なわけだし。


「でも……このままじゃダメな気がする」


 わたしは細道に入りながら、一人呟く。


 今は良いのだ。

 わたしの体力も九十九の魔法力もあるから。


 それでも、相手だって馬鹿じゃない。

 巧くいかなければ対策を講じるのが普通だろう。


 集団で襲うとか、伏兵を置くとか。


 それに、いつかは九十九の存在に気付いて先になんとかしようとするだろう。

 わたし一人ではこの状況をどうにもできないのだ。


 その九十九については、不思議な事がある。


 実は、誰にも言ってはいないことだが、魔力の封印を解放してから上がったのは、体力などだけではなかった。


 九十九の場所がなんとなく分かるようになったのだ。


 雄也先輩や水尾先輩も数メートルぐらい近ければ分かる。

 だけど、それは目で探すのとそんなに変わらない。


 だけど、九十九だけはなぜか違う。


 大聖堂にいた時からなんとなく気付いていたが、本当にどこにいてもなんとなく居場所が分かる気がする。


 それが壁越しであっても、距離がそこそこあっても。


 はっきりと分かるわけではない。

 あの部屋のどこかにいるかな~ぐらいのぼんやりとした感覚。


 それでも、方向音痴の身としては大変ありがたいことでもあった。


 大聖堂内で部屋がわからなくなっても、九十九がいる方向へ向かうだけで、彼の姿がその近くにある。


 そして……、それはこんな同じような建物が並ぶ通りでも発揮されていた。

 目標地点に迷うことなく迎えるので、この部分での作戦失敗は今の所ない。


 気配の話なら間違いなく水尾先輩が一番だ。

 魔力が解放されてから、彼女が凄いと言われるのが本当によく分かった。


 機嫌が良くても悪くても見える紅い炎。

 それが水尾先輩の魔力の気配。


 常に見えているわけじゃないのに、一度見ただけで脳裏に焼き付くイメージ。


 それなのに、離れていても分かるのは九十九の方だった。

 でも、それが嬉しいかと問われたら、役に立っているのは認めるけど、微妙だと答える。


 それに、考えとかが分かるわけではないけれど、居場所が筒抜けになっているってなんかすっごく複雑だ。


 そして、わたしにそんな力があることを知られるのは物凄く嫌だった。


 望んで得た力ではないけれど、なんか覗き見をしてしまっているみたいで、自分が汚い存在になったような気さえする。


 だから、知られるわけにはいかない。

 特に当人だけは!


 わたしはそう強く誓う。


 あの紅い髪の男の人はそんな感情ないのかな?

 わたしのことを堂々と覗き見しているっていう真正のストーカー(変態さん)


 いや、自他ともに認める変態なのだから、まともな思考を期待してはいけないのだろうけど。


 こうしている今の覗いているのかな?

 困ったもんだよね。


 まあ、彼については好意ではなく、好奇心らしいから、飽きたらいつかは()めてくれるのかな?

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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