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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 法力国家ストレリチア編 ~

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仲が良いのか悪いのか

「そっか……。あの若宮がこの国の王女殿下だったのか」


 二人に話した時、水尾先輩が最初に口にしたのがそれだった。


「私はそこまで彼女と面識があったわけじゃねえが……、アレだろ? 高田とよくいた演劇部の部員。確か……、三年生が引退した後に部長になった覚えがある」

「はい」


 一学年上の水尾先輩が、「三年生」と言うとなんだか不思議な感じがするね。

 わたしにとって「三年生」って自分たちのことだったから。


「学校でやったヤツなら、アレが面白かった。『氷ノ(さと)』。ヒトオオカミの里に紛れ込んだ少女の話。確かあれで里を護る巫女役やってたよな」

「……氷の……よく覚えていますね」


 水尾先輩が言うのは二年生の時、文化祭で演劇部が上演した劇の話だ。


 禁忌の里と言われている場所に、うっかり紛れ込んでしまった少女が、そこで巻き込まれた出来事。


 そしてそこで彼女は衝撃の展開を目にすることになる……とか。


「演劇部オリジナルだったんだよな~。時代劇みたいなチャンバラがあるのが良かった」

「へえ……、中学演劇で殺陣(たて)というのは珍しいね」


 水尾先輩の言葉を聞いて、雄也先輩がそう言った。


「ワカが殺陣好きだったんですよ。当てないギリギリ感と当てたように見せる演技力。その兼ね合いが楽しかったそうです」


 だから既存の脚本では難しかったらしい。


 中学生向けの演劇台本はどちらかというと自己啓発系のものが多いらしくて、彼女はそれが苦手だったそうだ。


 曰く、「自分の考えを他人に押し付けるな」と。


 それで……、ワカや他の演劇部員たちが書き下ろしたり、文章を書くのが好きな人間に頼んだりしていたと聞いている。


「たて?」


 九十九が雄也先輩の言葉に反応した。


 確かにある程度、芝居というものが好きじゃないと、「殺陣」なんて言葉を知らないと思う。


「水尾先輩が言ったチャンバラ……、乱闘などの立ち回りすることだよ。中学校演劇部では指導者を探すのも難しかったから我流らしいけど」

「お前は詳しいな。部活は確か、ソフトボールじゃなかったっけ?」

「友人が演劇部だとたま~に、無理矢理、付き合わされるんだよ。主に脚本読みとかね」

「……ってことは、お前も芝居するのか?」


 九十九が変な顔をした。

 まあ、わたしには似合わないよね。


「人前に立つのが苦手な人間にはムリだね。脚本読みだって、台本見ながらセリフ合わせだけをやっていたし」


 こう見えてもわたしは大勢の前に立つと緊張しやすいのだ。


 文化祭だって、表舞台に立たず、裏方を務めた。

 尤も、不思議とソフトボールだけはそこまで緊張しなかった気がするのだけど。


「刀を持つ王女殿下か。普通なら引くところだけど、あの若宮なら似合いそうだよな」


 九十九がそんなことを言う。

 知らないって言うのは幸せだね。


「別の意味で退()くと思うよ。正直、わたしは全力退避したかったから」


 練習期間に入ると、何度か巻き込まれた人間としてはそう思う。


 彼女が鬼の姫をやった時なんて似合い過ぎて鳥肌モノだった。


 男性役者相手に一歩も引かずに切り結ぶとかどんな演技力なんだろうね。


「若宮……恵奈さん。『ケルナスミーヤ=ワルカ=ストレリチア』。割とアナグラムに近い名だったんだな。だが、全く気づかなかった。俺もまだまだだ」


 雄也先輩はそんなことを言うが、それも仕方がないと思う。


「だけど……、若宮って、確か10歳よりも前から人間界にいた覚えがあるんだが……」


 九十九が思い出すように虚空を見る。


 わたしも彼女とは小学校三年生ぐらいの時に会話した覚えがあるから、その記憶に間違いはないと思う。


 因みにその従兄妹という立場にあった高瀬に関して言えば、小学校の入学式会場にいたことは間違いないから人間の可能性が高いらしい。


 ホッとしたけど、やっぱりどこか残念に思ってしまう。


「この国の王女殿下は七年ほど前に姿を消したという噂が一時期あった」

「そういや、あったな。昔過ぎて忘れてた。でも……、それっぽい人間がいたんじゃなかったけか?」


 雄也先輩の言葉に水尾先輩が反応する。


「考えられるのは、代わりになる人間を置いたのだろう。中心国の王女殿下が他国への修行前に行方をくらますなど、普通は立派な醜聞になるからな」

「やっぱりあまり良くないことなんですね。ワカはその辺、しっかりしてそうなんだけど」


 色々計算した上で無茶をやる。

 そういうイメージが人間界ではあった。


「七年前……、つまりは8歳ぐらいだ。今より判断も幼く、ある程度、感情だけで行動してもおかしくはないね」

「あの女は常に感情に忠実に行動している気がするけどな」


 そう言いながら、被害者になりやすい九十九はため息を吐く。


「王女殿下の話はともかく、話を聞いた限りでは、クレスの方は一応、解決したってことで良いのか?」


 水尾先輩がそんなことを口にする。


 わたしから大神官から聞いた話をする前に三人とも、楓夜兄ちゃんと占術師が実の姉弟であることを知っていた。


 それならば、もっと早く言ってくれたら良かったのに。


 でも、なんで分かっていたのかは少し疑問。

 やっぱり魔気とかそ~ゆ~のが分かるってことなのかな?


「実の姉弟だったと知って、暴走しかかりましたが大神官さまのおかげで大丈夫でした。その後、時間が経って会った時はほとんど吹っ切れていたようなので……、多分、問題はないと思います」

「切り替え早いな」


 水尾先輩が思わずそう口にした。


 楓夜兄ちゃんが気持ちをすぐに切り替えられたのには、そのワカの存在もある気がしないでもないけれど……、一応、そのことを口にするのははばかられた。


 想像で簡単に言っても良いことはないだろうしね。


「で、そのクレスはまだ戻って来ないんだが……、まだ大神官猊下に何か用事があるのか?」


 九十九が疑問を口にする。


「本人がそう言うならそうじゃないのかな?」


 嘘は言っていない。


 わたしを送り届けてから、水尾先輩と雄也先輩が戻ってきても楓夜兄ちゃんはまだ戻ってこないのだ。


「久しぶりの再会だ。いろいろと情報交換もあるんだろう。今は定期船も動かず、どの国も鎖国状態だ。他国とのやりとりで得るものは大きいだろう」

「なんだ、その情報国家みたいな視点は?」

「旅に情報は大事だよ」


 にこりと笑う雄也先輩。

 その顔を見て怪訝そうな顔を見せる水尾先輩。


 この二人は仲が良いのか悪いのか本当によく分からない。


 セントポーリア城下からの流れで、水尾先輩が一緒に来てくれることになった旅ではあるけれど、元々は、三人で移動するところだった。


 三人だったら町や村にある宿に泊まることはなく、コンテナハウスで夜を明かすことになっていただろう。


 しかも、雄也先輩はすぐに動けなかったから、九十九と二人で暫く過ごすというある意味、とんでもないことになっていたかもしれない。


 その時はその時で何か考えることになっていただろうけど、結果として水尾先輩が一緒に来ることになってくれたのは本当に良かったと少し前に雄也先輩はわたしに言っていたのだ。


 ただその気持ちを彼は水尾先輩に伝えたかは分からない。


 水尾先輩の方も、雄也先輩からの言葉を素直に受け取りそうもないし。


 雄也先輩は、少なくとも水尾先輩を嫌ってはいないと思っている。


 そして、雄也先輩自身は、水尾先輩から敵意を向けられる理由に心当たりがあるみたいだし。


 それに水尾先輩も雄也先輩に対して苦手意識は見て取れるけど、それは憎悪とかそんな感じの感情ではない気がする。


 彼女の口調が合流した直後よりは幾分、柔らかくなっているのがその理由だ。


 でも、人間は感情を隠したりごまかしたりできる生き物なので、単純に表に出さなくなっただけかもしれない。


 それに当事者間でしか分からない事情もあるだろう。


 そういった意味では、部外者であるわたしが下手に首を突っ込んでも事態をかき回してしまうだけだ。


 だから、基本的には何も言わないことにしている。


 全ての人間が、同じ考えを持てるはずもないのだから。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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