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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 法力国家ストレリチア編 ~

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【第19章― 出会ってしまった二人 ―】衝突事故

この話から、第19章です。

いきなり不穏なタイトルから始まりました。

「困った。真っ剣に困った」


 わたしは、今、広い大聖堂の廊下で立ち竦んでいた。


 恭哉兄ちゃんは急に入った大神官のお仕事があると言う話だったので、当分、目覚める様子もない楓夜兄ちゃんを他の神官にお任せして部屋から出ることになったのだが……、わたしは今回もしっかり道に迷ってしまったらしい。


 このパターンはもう何度目となるだろうか?

 ここまで来ると、もはやお約束と言うしかないだろう。


 こんなことになるのなら、「見習神官」に門まで送らせると言ってくれた恭哉兄ちゃんのありがたいお言葉に、遠慮せず素直に甘えるべきだったと今更ながら後悔する。


 でも、わざわざわたしのために、他の人の手を煩わせるというのもどうかな~とつい思っちゃったんだよね。


 その「見習いーズ」さんにだって本来は別のお仕事があるのだろうし。


 先ほどまでいた部屋に戻ろうかどうか迷ったけれども、前に進めばいつかはどこかに行き当たるだろうとも思ってしまう。


 それに、さっきの部屋の前に立ったとしても、気付かず通り過ぎてしまう自信すらわたしにはあった。


 それに、どんなに迷っても、セントポーリア城下の森よりはマシだとも思っている。


 少なくとも人が造った建物内で、ここに人間がいることは保証されているのだ。

 楓夜兄ちゃんと歩いた時だって、神官たちと何人もすれ違っていた。


 だから、人気(ひとけ)がない、方向感覚を狂わせるような場所よりは生きて帰ることができるだろう。


 そんな考えてながら、また足を進める。


 多分、こっちの方向から来たと思ったのだけど……、なんで他に曲がるような通路もなかったはずなのに、わたしはしっかり迷っちゃうのだろうね。


 我ながら、アホだと思う。


 誰かに出口を尋ねたくても、この場所は不思議なほど静かだった。

 これだけいっぱい扉があるというのに、物音一つしない。


 いや、確かに賑やかな聖堂ってのもちょっとおかしいとは思うのだけど。


 でもの場所は、ただ静かというだけではなく、不自然なほど人の気配がしなかったのだ。


 以前、セントポーリア城下にあった聖堂に立ち寄ったことはあるが、その聖堂はここより小さかったけれど、人の気配はあった。


 ジギタリスの聖堂ではなく、城樹内も静かで人の気配も感じにくかったけれど、ここまでではなかったと思う。まるで、ここが立ち入り禁止区域のようだった。


 いや、違う。

 自分の気配すら分からないから不自然なのだ。


 いつもなら手を叩けば音がなるのに、その音すら響かない。


 この廊下の仕組みはよく分からないけれど、もしかしたら、音がどこかに吸い取られているのかもしれない。


 魔界ならそんな技術が使われていてもおかしくないと思う。

 試しに、その場で飛び跳ねてもみたけど、それでもやはり何の音もしなかった。


 ここまで徹底していると……なんだろう。

 ちょっとホラーな印象もある。


 風景が変わらないのはせめてもの救いと言える……のかな?


 確か、恭哉兄ちゃんといた部屋から出た直後はそんな感じはなかった。


 自分の足音は小さかったけどちゃんと聞こえていたはずだ。

 変だって思わなかったし。


 そう考えると、もしかしなくても、うっかり迷っているうちにどこか変な空間に紛れ込んじゃったかな?


 でも、今の所、誰も出てこない。


 変な黒い服を着た三人組が現れることもなく、どこかの紅い髪の人の襲撃や、高貴な人の追っ手もない。


 だから、そこまで身の危険を感じてはいないのだと思う。


 まあ、この国は悪意ある人間に対して結界があるらしいから、その点については大丈夫だと信じたい。


 どんな結界かは具体的に聞いていないから分からないけれど。


 どれくらい歩いたかは分からない。

 あまり考えたくはないけれど、先程からずっと同じような廊下が続いている気がする。


 RPGのダンジョンでたまにある無限回廊ってやつじゃないよね?


 今にして思えば、大聖堂に何度も来ているために慣れているはずの楓夜兄ちゃんと来た時でも、案内人がいたぐらいだ。


 それは迷子防止だったのかもしれない。


 外から見た限り、狭いとは思っていなかったけど、逆にここまで広いとも思っていなかった。


 そして、恭哉兄ちゃんと話していた部屋の前の廊下は黒い絨毯だったが、いつの間にか今は新緑のような緑色の絨毯に変わっていることに気づいた。


 ずっとまっすぐの通路ではあったけれど、ひょっとしたら、そこが何かの分かれ道だったかもしれない。


 わたしは、懐にある小袋から、通信珠を取り出した。


 いつもは薄っすらと光っているこの小さな珠は、今は電池が切れたみたいに光が消え、本来の石の色であるクリーム色になっている。


 この状態はセントポーリア城下の森とセントポーリア城内でも見た覚えがあった。


 だから、分かる。

 この状態になってしまうと、この通信珠は使用できないのだ。


 雄也先輩の説明によると、普通の町や村などの結界は心配ないけれど、城など重要な建物がある結界の種類によっては携帯用通信珠が使用できなくなることがあるらしい。


 城内で連絡を取り合いたい時には備え付けの通信珠を利用するか、その結界に対応した通信珠が必要となるそうだ。当然といえば当然の話だと思う。


 あまり考えたくはないが、敵対する人間たちが来襲した時、できる限りの連絡手段を断っておくことは重要だろう。


 このやり方なら内部に裏切り者がいない限り、連絡を取り合うことができなくなるのだ。


 勿論、これだけの大国だ。


 ある程度のクーデター対策は考えていると思うが、魔界は基本的に身内を信じる傾向が強い気がする。


 完全な性善説とはちょっと違うのだろうけど、自分の味方と思われる人間をあまり疑わないと思っている。


 命や罪の重さなどを含めた倫理観というやつが、人間界より少し緩い気がするのもこの辺にあるのかもしれない。


 身贔屓(みびいき)というか、身内の庇い合いというか。


 だから、内部にある膿も簡単に切り捨てられないのだ。


 でも、大聖堂の方は結界があっても、携帯用通信珠はちゃんと使えるって楓夜兄ちゃんは言っていた。


 だから、わたしも深く考えずに部屋を出たのに……。


 その時に使用できるかを確認しておくべきだった。今のこの状態、通信珠は完全に沈黙している。


 まさか……電池……いや、魔界で電気はないから魔力切れ?

 もしくは、この通信珠が壊れちゃったとか?


 考えてみれば、わたしの安全対策って、この通信珠が起点となっている気がする。


 この通信珠を使用して、九十九を呼んで、状況を変える……。

 つまり、この通信珠が使えなければ助けは来ない?


 いやいや、こんなに広い場所だ。

 わたし以外にも迷子になった人間は一人ぐらいいるだろう。


 その時に何の対策もしていないとは思えない。

 

 そんなことを考えていた時だった。


どおんっ!


 後ろからいきなりの轟音と……。



 ―――― ずきぃんっ!


 背中にかなり強い衝撃を受けて声を上げる間すらなく、前方に吹っ飛ばされた。


「かはっ!」


 これはまるで、マット運動の練習中に倒立ブリッジを失敗して、背中から落ちて強打した時のような衝撃にとてもよく似ている。


 あまりにも自分の背中が痛くて、呼吸がうまくできなくなってしまった。


「なんで、この時間、こんな所に人がいるのよ!?」


 そしてその後に、割と理不尽な言い分の声が背後から聞こえたかと思うと……、ぐらりと急激な眠気に襲われた。


 この感覚には覚えがあったが、それ以上に……。


「あ、あれ? ちょっと……!?」


 慌てるようなこの声にもどこかで聞いた覚えがあった。


 しかし、その声の(ぬし)の姿を自分の目で確認する前に、声も出すこともなく、わたしの意識は暗闇に沈んでいったのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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