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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 法力国家ストレリチア編 ~

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過去の封印

 わたしだって、そこまで何も考えていないわけじゃない。


 誰も何も教えてはくれなかったけれど、いろいろと考えた上で、なんとなくそんな気がしたのだ。


 わたしが過去に魔法ではなく、法力というちょっと特殊な力で自分の記憶と魔力を封じられたという事実がある。


 しかもそれは他の魔界人たちが驚くほど高等技術だったという。


 そして、今から5年前、偶然、出会った少年の一人が、後に「大神官」と呼ばれることとなる。


 法力を操る数多の神官たちの頂点に立つ存在。

 この世界で最高の法力使い。


 それならば……、それらが線で繋がると考える方が寧ろ自然な流れだと思う。


「魔界人は5年に一度……、魔力の変動しやすい時期があるっていうことを前に聞いたことがある。わたしは、5歳の時、自分で魔法を封印して、それから5年後の10歳に兄ちゃんたちと会った。それらの時期が一致するのは偶然かな?」


 ここまで様々なことが重なって、それを偶然の一言で片付けられるとは思えない。


「5年の変動期は人によりますね。魔力が強い人間ほど起きやすい現象だと伺ったことがあります」


 あれ?

 わたしには当てはまったけれど、5年に一度の魔力の変化って誰でもってわけじゃないのか。


 そうなると、わたしの魔力って強いってことなのかな?


 まあ、王さまの血が半分流れているわけだから、弱くはないとは思う。

 でも、今は分からない。


「クレスノダール王子殿下はなんと?」

「楓夜兄ちゃんは何も言わなかった。わたしも聞いてないし……。だから、これは勝手なわたしの予想。だから、もし違っていたらごめんなさい」


 これが違っていたとしたらかなり恥ずかしい話だと思う。


 単純にわたしが自分一人で盛り上がっていただけ。

 「運命」ってやつの巡り合わせに酔っていただけってことになるから。


「そうですか……。特に口止めをするような話でもなかったので、クレスノダール王子殿下は貴女に告げても、問題はなかったのですが……」


 恭哉兄ちゃんは、ゆっくりと目を閉じた。


「貴女の考えた通りですよ、栞さん。貴女のその身に対して勝手に封印を施したのは私の所業です」


 はっきりした口調で、恭哉兄ちゃんはそう答えた。


「そっか……」


 でもこれで、謎の一つが解けた気がして、少しだけすっきりした。


 わたしは5年前。

 楓夜兄ちゃんと恭哉兄ちゃんと出会った時のことはしっかり覚えている。

 そして、彼らに遊んでもらったことも……。


 だけど、その後、どうやって別れたのかその辺りの記憶がぷっつりと途切れていたのだ。


「楓夜兄ちゃんと恭哉兄ちゃんに会ったことは覚えていたんだ。だけど、その後のことを思い出せなかった。始めは、小さい頃だったからかとも思ったけど……。5歳ぐらいならともかく、10歳になってからの出来事が、そこまで不鮮明になるとは思えなくて」


 10歳と言えば小学生だ。

 その頃にあった出来事全てを覚えていなくても、ちょっとした出来事なら思い出せる。


 九十九と同じクラスになったとか、ワカが熱帯魚を飼い始めたこととか、高瀬が公立ではなく私立の中学校を受験すると言っていたことまでしっかりと。


 彼らのことも同じだ。


 親戚のお葬式のために大阪に行った時に出会った。

 一人でいたところを楓夜兄ちゃんに声をかけられ、三人で一緒に遊んだのだ。


 一緒に遊ぶと言っても、今にして思えば、彼らをわたしの遊びに付き合わせたというのが正しい。


 公園でシャボン玉とか、竹トンボだって生まれて初めてやった。


 それだけ細かく覚えているのに……、彼らに対して、別れの言葉を口にした覚えがない。


 不自然なまでに、別れの場面を忘れていることをはっきりと確信したのは、さっき恭哉兄ちゃんに会った時だった。


 楓夜兄ちゃんの時も同じように思ったけれど、その声や顔は全然忘れていなかったのだ。


「でも……、恭哉兄ちゃんはどうしてそんなことを?」


 何か、あったはずだのだと思う。

 あの時、わたしが覚えていないだけで、何かそのきっかけとなるような出来事が……。


 恭哉兄ちゃんは、ゆっくりとその口を開いた。


「危険だったのですよ……、貴女が」

「は?」


 我が耳を疑うような言葉が返って来た。


「先程のクレスノダール王子殿下と同じことです。貴女に施されていた封印。それを、貴女自身がされていたということは、今、初めて知りましたが……。それは不完全なモノでした。私たちと会ったときには既に綻びが生じていたようなのです」


 まあ、封印を施したっていうのが当時5歳だから、雄也先輩風にいうならば、未熟……だったということなんだろう。


 ぐぬぅ。

 なんとなく、ちょっと悔しい。


「本来、魔法や法力は、精神力や感情の変化に左右されやすい不安定なものです。しかし、不完全とはいえ、封印されている以上、そう簡単に行使することはできません。それについては分かりますか?」

「なんとなくは……」

「しかし……、本来、人間には『防衛本能』と呼ばれる『自衛能力』が備わっています。自らの身に命の危険が生じたとき、その身体は知っている限りの能力を引きずり出し、自身を護ろうとするのです」


 それは分かる。

 俗に言う「火事場の馬鹿力」というやつだろう。


「あの時の貴女はまさにその状態でした。あの時……、貴女は綻びの生じた封印を力尽くで破砕しようとしたのです」

「ちょっと待って!」

「はい?」

「それって……、わたしが死にかけたってこと?」


 恭哉兄ちゃんの話をそのまま自分に置き換えると、あの時、わたしは命の危険にさらされたということになる。


 でも、そんな危険な目に遭った覚えはない。


 いや、封印されているのだから覚えてないのは当たり前だけど、人間界で死にかけるなんて……、事故や事件に巻き込まれない限りはあまり考えられなかった。


「死にかけたと言うより……、襲われたのですよ。……黒く大きな犬に……」

「……犬……」


 その言葉でなんとなく察する。


 それは、確かにかなり命の危険を感じただろう。


 ただでさえ、わたしにとって犬という生き物は、この世で一番苦手な生き物だと言っても過言ではない。


 犬一匹と、蛇100匹のどちらがいる部屋に入るかという選択なら迷わず蛇100匹を選ぶ自信すらあるのだ。


「それで、わたしは封印を破っちゃったわけ……か……」


 犬に襲われて魔力を暴走させ、封印を破るとか……、力技にも程があるというか、なんとも恥ずかしい話でもある気がする。


 わたしは、どれだけ犬が苦手なのだろう。


「封印は身体にではなく精神に作用するものだったみたいですからね。主に、記憶封印を前提にし、魔法の方は少し抑える程度のものだったようです」

「わたしは記憶がなくてもある程度、魔法が使えたってこと?」


 でも、小学校時代にそんな覚えもない。


「いいえ、記憶がなければ魔法も使うことはできなかったと思います。それに、抑制されていたため、余程の事態がない限り無意識に魔力を使うこともなかったでしょう。本来は、肉体の方も完全封印する方が確実なのですが……」


 そう言って、恭哉兄ちゃんは少し首を捻っていた。


 でも、わたしはその理由が分かってしまった気がする。


 過去のわたしは、その「余程の事態」ってやつも想定していたのだと思う。

 わたしは何者かに狙われていたために母とともに人間界へと逃れた。


 その存在のことはおいておいても、セントポーリアの王妃がわたしや母の命を狙っていた可能性が高い。


 その人は、執念深い人だと聞いている。

 人間界に追っ手を放つことも考えたのだろう。


 だから、万一、どこからかの刺客が自分たちの前に現れたとしても、命の危険を感じれば、その封印を解くことが出来るように……、と。幼いなりにそう考えたかもしれないのだ。


 いや、今のわたしより昔のわたしの方が頭は良いかもしれない。

 特に根拠はないのだけど、なんとなくそう思ったのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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