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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 法力国家ストレリチア編 ~

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魔界人と部活動

「少年も随分、さっぱりしたな」

「オレはもともとこれぐらいの長さが好きなんですよ」


 言われてみれば、九十九も小学生の頃はこれぐらい短かった気もする。

 卒業アルバムを見直さなきゃはっきりと思い出せないけど……。


 わたしのアルバムとかは人間界に置いてきたのだっけ。

 貰ったばかりの中学校の卒業アルバムとかってどうなったのだろう?


 人間界での後始末については、わたしは全く手を出さなかったからそれらのことは分からない。


 でも、残していてもしょうがないからやっぱり処分したのだと思う。

 そう考えると、かなり寂しい気がした。


「本当に短いな。まるで、うさんくさいスポーツマンみたいな感じ」

「いや、それ褒めてないですよね?」


 水尾先輩の言葉に突っ込みを入れる九十九。

 先ほどの言葉は確かに褒めているとは思えない。


「ん? 少年はスポーツマンじゃないだろ?」

「オレ、運動は好きですよ。中学校の時も部活だってしっかりやりましたし」

「少年の部活……? 野球? サッカー? バレーやバスケって感じはねえよな」


 まあ、九十九の身長的に、長身が優遇されるイメージが強いバレーボールやバスケットボールはちょっと難しい気がする。


「陸上です。陸上競技」

「へ~、なんか……、意外だな。先輩ならともかく、少年が個人競技とは思わなかった」

「中3の時、県内で100メートルは5位、400メートルも8位の記録持ちですよ」


 県内ということは、少なくとも地区予選を勝ち上がっているということだろう。


 正直、わたしは知らなかった。


 いや、九十九が陸上をやっていたことは前に聞いたけど、その成績については知らなかったのだ。


 でも、普通、自分と同じ競技ではない限り、他校の部活の成績まで把握はしていないと思う。


「へ~、それは凄いな」


 九十九の言葉に水尾先輩が素直に褒める。


「魔界人でも一位はむずいんだね」

「……魔法を使うわけにはいかんからな」

「いや、身体能力的に魔界人って、魔法なしでも凄いでしょ」


 それは歩いているだけでも分かる。

 わたしがもう少し早く歩ければ、もっと早く目的地にたどり着けるのにと何度思ったことか。


「魔界に来ればな。人間界では今の半分も力を出せねえよ」

「半分?」

「人間界にも大気魔気はあるがかなり薄い。大気魔気は魔界人にとってエネルギーなんだよ」

「つまり、本来の半分以下の力なのに県内で入賞記録……、とな」


 それはそれで、腹立たしく思えてしまうのは何故だろう?


「いや、手を抜いたわけじゃねえからな。やるなら、全力だ。あの時のオレの精一杯を出したつもりだよ」


 まあ、確かに九十九は勝負事に手を抜くタイプには見えない。


 周りが真剣ならば尚更だろう。


 わたしがソフトボールで頑張っていた頃、同じ空の下で九十九は別競技に勤しんでいたわけだ。


 でも、部活って競技が違うと試合会場や大会会場が全く違うことも多いから、会うことはほとんどないのだけど。


 それにしても、陸上部……、陸上部ねえ……。

 わたしたちの中学校での陸上部の思い出。


 陸上部員はグラウンドの外周を走っていた気がする。

 でも、あれって結構、わたしたちは困っていた。


 バッティングの練習中にバックネットとかの後ろを警戒せずに走っているのだ。

 何度、ソフトボールの打球が当たりかけていたことか。


 せめて、周囲を見て走って欲しかったと思う。


 まあ、野球部の男子たちは、そんな陸上部員たち目掛けて、鋭いライナー性の当たりを狙って打っていた気もする。


 やり方はかなり乱暴だったけど、あれはやっぱり邪魔だって思っていたのだろうな。


「外周を走る……。あれって結構、他の部活の邪魔だったんだよな~。特に悪ガキが多いサッカーとか野球とかの男子部員は陸上部員の走っている所を狙ってボールを転がす嫌がらせをして学校側から注意が出るぐらいだった」


 水尾先輩が何かを思い出したかのように言う。


 彼女は元生徒会長だけあって、わたし以上に内部事情には詳しかったかもしれない。


 しかし、サッカー部もやっていましたか。


 あれ?

 でも、わたしはボールを転がすなんて露骨な行動は見ていない。


「酷い学校だったんですね。でも、それだから、野球もサッカーも県大会すら出られないんすよ」

「詳しいな。確かに弱小だった。まあ、サッカー部はともかく野球部は予選で私立と当たりやすかったから仕方がない面もあったけど」


 水尾先輩は元生徒会長として思うところがあるのか、一応のフォローはする。


「女子ソフトボール部は運が良かったんですよね。競技人口が少ないせいか、野球部ほど地区予選で戦うことがないから」


 わたしたち女子ソフト部は、地区予選で一回勝つだけで県大会に出場することができた。


 それは、他の部活に比べてもかなり恵まれていたと思う。


 まあ、男子ソフトソフトボール部になるともっと競技人口が少なくなるから、実は、予選無しで県大会出場できたらしい。


 しかも、さらに上の地方ブロック大会すら予選無しでいける可能性もあったと記憶している。


 尤も、わたしたちの中学校に男子ソフトボール部はなかったからその辺り、そんなに詳しくは分からないけど。


 男子は小学校でソフトボールのスポーツ少年団に入っていたような子も、軟式野球を選ぶ傾向にあるようだ。


 ソフトボールだって楽しいのにね。


「因みに、兄貴は中学の時、野球部でしたよ」

「「はい!? 」」


 わたしと水尾先輩の声が重なった。


「い、意外過ぎる……」


 水尾先輩も知らなかったようだ。


「ああ、それで……あれだけ打てたのか」


 わたしは雄也先輩とバッティングセンターに行った時のことを思い出す。

 豪快で、迫力あるスイングだった。


 なるほど……、経験者なら納得だ。


「お前は兄貴が野球やっていたこと知ってたのか?」

「いや、それは初めて知った。ちょっとバッティングセンターに連れて行ってもらったことがあっただけ」


 あの日は、九十九、いなかったしね。


「部活か~。なかなか懐かしい響きやな。俺はバレー部やったで」

「おぅ、クレスが部活をやっていたことがこれまでで一番、驚きの事実なんだが」


 水尾先輩が「王子」と言いかけて訂正する。


 ここはもう他国の領土だ。

 誰が聞いているかも分からない。


 だから、楓夜兄ちゃんも水尾先輩のことを「ミオルカ」ではなく、「ミオ」に呼び変えていた。


「ベオグラもバレーやっとったで」

「……それはそれで、別方向での驚きだな。大神官って運動しなさそうなんだけど」

「バレーボールって……、恭哉兄ちゃん、眼鏡をしてなかったっけ?」


 わたしと会った時は眼鏡をしていた気がする。


「それは、顔面がヤバいな」


 水尾先輩が想像したのか顔を撫でる。


 確かに眼鏡をしていたら顔にボールが当たった時、痛そうだ。

 バレボールはソフトボールより大きいから当たりやすそうだし。


 ああ、でも、おでこや後頭部にうっかりソフトボールを当てるよりは痛くなさそう。


「ああ、あれは伊達眼鏡やったんよ」

「……なんだと?」

「あれ? そうだったんだ」


 恭哉兄ちゃんはおしゃれで眼鏡をかけるみたいなことをするタイプには見えなかったんだけど……。


 ああ、でも楓夜兄ちゃんなら分からなくもない。


「伊達眼鏡は許せんな~。眼鏡は目が悪いやつが掛けるから良いんだ」


 水尾先輩が何やらぶつぶつ言っている。

 どうやら、何か譲れないものがあるらしい。


「男女避けのために俺がさせたんよ。アイツの素顔、人間にとっては目の毒らしゅうて」

「め、目の毒レベルで?」


 確かに恭哉兄ちゃんはかなり顔が良かった気がするけど、そこまでだったっけ?


「い、いや、突っ込むところはそこじゃねえ気がするんだが? (だん)ってなんだよ、(だん)って」

「女顔男子の宿命や」

「そんな宿命は嫌だな」


 同じく中性的な顔で中学生時代、苦労された水尾先輩が肩を落とす。


 同性まで惹きつける顔って凄いよね。


「眼鏡をかけさせることによって、少しは緩和されたさかい、許したってや。本人も目が悪うないのに眼鏡を掛けることに抵抗がなかったわけやないんや」

「い、いや……、そんな事情なら仕方ねえだろ」

「あの眼鏡に、そんな理由が……」


 そこでふと思い出すことがあったのだ。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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