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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 人間界編 ~
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高瀬(たかせ)……」


 まずワカが最初に口を開いた。


「元気かね、()()()()()さん」

「見ての通り……って、なんで高瀬がここにいるの?」


 分かりやすく嫌そうな表情のまま、ワカが目の前の少女に問いかける。


「いや、明日が公立高校の受験ってことで、外部受験をする生徒のために、学園(ウチ)も早く終わったから、ちょっと恵奈と高田の激励に来ただけ。すぐ家に帰ってもうるさいのが待っているだけだからね」


 ワカから「高瀬」と呼ばれた少女は笑顔のまま答え、さらに言葉を続ける。


「でも、まさか恵奈がこんなところで、殿方と討論する趣味があるとはね。長い付き合いだと思っているけど……、知らなかったな~」

「殿方にもよるってことよ。一応、他校の生徒が相手だから、学校に連れ込むのも問題かと思ってね」


 ワカは調子を乱されたかのように、眉をひそめた。


「なら、近くの喫茶店とかは?」


 その少女は坂の下にある喫茶店を目線でそれとなく示す。


「ウチの学校は喫茶店禁止だよ、高瀬」


 そこで、ようやくわたしは口を開くことにした。


 3人の目と、周りの視線が同時に集まったのが分かる。


 ううっ……。

 わたしは何も悪いことをした覚えがないのに、なんとなくさらし者になった気分だよ。


「お久し振り、高田。そして、髪の毛切ったんだね。長いのも良かったけど、その短さも私は好きだな」

「久し振りだね、高瀬。それと髪の毛を褒めてくれてありがとう」


 わたしたちが受験ってこともあって、ここの所、彼女とはあまり会えなかったのだ。

 最後に会ったのは、確か……、お正月だったかな?


 そんな風に挨拶を交わし合っていると……。


「あら、いつの間にそこにいたの? 高田」

「頼むからこいつ見張っておけよ、高田」


 ワカと九十九が同時に口を開いた。


「いつの間にって言うけど、わたしは少し前から前からいたんだよ、ワカ。ただ、声がかけづらかっただけで……」


 まずはワカの方を向いて答える。


「それに、九十九。わたしにワカの見張りは無理だよ。首のない暴れ馬に手綱をつけろと言ってるのと同じでね」


 さらに九十九に向かってそう答えると、彼は怪訝そうな顔をする。


「首のない暴れ馬ってそいつは死んでるんじゃないのか?」

「やだな~、笹さん。発想力が貧困で」


 そう九十九に言ったのはわたしではなく、ワカだった。


「ど~ゆ~意味だよ」

「馬の手綱は本来どこにあるもんでしょうか? 笹さん」

「どこって……、よく覚えてないが、首辺りにあるんじゃないのか?」

「そう、そこ!」

「どこだよ?」

「あ~あ、わっざわざそこまで言ってあげても分かんない? 手綱があるのは、首辺り。でも、その暴れ馬には首がない。つまり手綱をとることはできない、ってことよ」


 ワカの言葉に九十九は暫く考え込んで……。


「……でも、やっぱ死んでるだろ? その馬……」


 彼は、そう結論づけた。


「はぁ……。例え話にそこまで言ってどうもならないのが分かんないかな~」

「そんなわけ分からん例え話を出されても分かるかよ」


 どうやら、九十九は極端に現実的ではない例え話は苦手なようだ。


 でも、わたしから見れば、非現実的な存在である異星人……いや、魔界人に対して「現実的」って表現もどうかと思わなくもないけど。


「はいはい、そこまで。続きは場所を換えましょうか。周りの目もあるし、先ほどから見守っている高田も大変お困りのご様子」


 その不毛な文系と理系の争いを止めたのが、どちらも持ち合わせているであろう才女、「高瀬(たかせ) 恵乃(めぐの)」という名の少女だった。


 彼女はワカの従姉妹で、この学校から少し離れた私立女学園に通っている同じ学年の少女である。


 頭が良くて、運動神経も良くて、去年は生徒会長を務めてたと噂には聞いていた。


 彼女の口から聞くよりも先に、他校にまでそんな話題が届いていた辺り、かなりの人望や才覚があることは間違いないだろう。


 顔は、血が繋がっているだけあってちょっとワカに似てるけど、髪の長さが大分違う。


 肩までのワカに対して、高瀬は腰まで届きそうなポニーテールだった。

 その髪を下ろすと少し前のわたしの髪の長さと同じぐらいか、もっと長いくらいだと思う。


 でも、性格やそこはかとなく漂う雰囲気に関しては、彼女たちは全然似てないと言っても差し支えはないだろう。


「そして、笹さん、久し振りだね。ちょっと見ただけじゃ分からなかったよ。まあ、3年も経っているのだから、当然といえば当然なのかな」


 わたしたち4人は3年前、同じ小学校を卒業していた。


 だから、お互いの顔を知っているわけなんだけど、同じ小学校出身でない周りの知らない人たちが見たら、確かに、わけのわからない状態だと思う。


 特に、わたしとワカと同じ小学校出身の生徒が、この中学には少ないから。


「久し振りだな。そして、高瀬はあまり変わってないように見えるけど、まだ鬼畜街道まっしぐらしてんのか?」

「おや、人聞きの悪いことをおっしゃる。私は清廉潔白の身ですよ」


 九十九の言葉に気を悪くした様子もなく、彼女はさらりと笑顔で応じる。


「高瀬が清廉潔白なら私は純粋無垢ってとこかね~」

「んじゃ、わたしはなんだろ? 清廉潔白、純粋無垢と来るなら、明鏡止水?」

「お前ら、揃いも揃ってワケの分からんことを……」

「あら、分からないなら説明して差し上げましてよ、笹さん?」


 ワカがにこやかに微笑む。


 これは何か企んでいる時の顔だ。


「いい。若宮の説明は高くつきそうだ」


 心底嫌そうな顔をして断る九十九。


「賢明な判断だね」


 それを見て、高瀬は口元でククッと笑った。


「失礼な。笹さんなら微妙に割り引くのに」

「金を取る気だったんかい。しかも、微妙って……」

「この場合は微細っていうんじゃないかな? 恵奈だから」

「微少だと思うよ、ワカだし」

「お前ら、言葉遊びしてんじゃねえよ!」


 そんな会話をしながらも、4人で校門から離れた。


 これで、ようやく通行止めも解除され、渋滞も解消されることだろう。


 足止めを食らっていた皆さん、大変ごめんなさい。

 ご迷惑をおかけしました。



「あら、笹さん。良い身分じゃない。両手ならぬ、三方に花なんて周りの男子が羨むわよ」

「若宮、自分で言うなよ」


 九十九が呆れたように答える。


「でも、恵奈が言わないと笹さんは言ってくれないだろうね、高田」

「……そうだろうね。」


 九十九の性格上、女性を「花」という言うイメージはあまりない。


「でもまあ、私も両手に花(プラス)α(アルファ)で嬉しい限りかな」


 それに対して、高瀬はこんなことをよく言う。

 これは、女子校の習いというやつだろうか。


「オレは(プラス)α(アルファ)扱いかよ」


 九十九が不満そうに言った。


 そんな彼に対して、高瀬は妖艶に微笑む。


「え? 笹さんも花扱いされたかった? 私はそれでも構わないよ?」

「高瀬、あまり昔みたいに笹さんをからかわない方が良いよ。そこの高田がヤキモチを焼いてしまうかもしれない」


「え?」


 ワカの言葉に高瀬が一瞬、言葉に詰まって……。


「あ、あ~。なんで、笹さんがここにいて、恵奈が絡んでいたかと思えば……、高田と付き合いだしたんだね、おめでとう」


 すぐに状況を判断してくれた。

 いや、なんであれだけで分かるんだろう?


「そうか~。でも、ヤキモチ焼いているのは高田じゃなくて、恵奈だよね? さっきから、面白くなさそうな顔してるから。高田を取られちゃったか」

「いや? 十分、面白い展開だよ。2人まとめてからかうことができるなんて、おね~さん、嬉しいわ~」

「ああ、それは分かる。でも、加減は気をつけないとね」

「その点は分かってる。私がいじりすぎて、2人の仲に亀裂が入ったら、流石に嫌な気分だろうし」


 そんな会話を交わし合う親戚同士。

 ……前言撤回、2人は似てなくもない。


「で、どこに向かうんだ? オレはこの辺り、土地勘があまりないぞ」

「私に任せて! 笹さん。貴方をめくるめく魅惑の桃源郷へ案内するわ」


 ワカが少し恥じらいながら九十九に微笑みを投げかける。


「……何故だろう? すっげ~、嫌な予感しかしないんだが……」


 そう呟く九十九。


 ……うん。

 多分、あなたの予想はそこまで間違ってないと思うよ。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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