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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 船旅編 ~

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紅い髪の精霊

『アツマル』

『アツマレ』

『スガタデタ』

『ミエテル』

『ニンゲンイル』

『コワイノイル』


 ん?

 なんか今、あまり好意的ではない言葉が聞こえた気がする。


『オオイ』

『コワイ』

『モウイイ』

『カエル』

『マタクル』

『キエル』


 そんな言葉を最後に、仄かな光が消えて、声も聞こえなくなってしまった。


「……やっぱり駄目やったか」


 楓夜兄ちゃんは大きく息を吐いてそんなことを言う。


 どうやら、ある程度は予測していたらしい。


「精霊は基本、臆病なんが多いからな。姿が見えん時は遠慮なくチョロチョロ纏わりついとるけど、姿を見せるのは難しいんや」

「……つまり、私のせいか?」


 楓夜兄ちゃんの言葉に水尾先輩がポツリと呟いた。


「いや、多分、坊主も嬢ちゃんもやと思う。少しくらいやったら付き合うてくれるかと思うたんやけど、見込みが甘かったわ」


 ぬ?

 わたしも?


「オレらは精霊と相性が悪いってことですか?」

小精霊(しょうせいれい)みたいな下級精霊はそうやろうな。俺の呼びかけには応じてくれるけど、もともと意思疎通が難しいんよ」

「楓夜兄ちゃんは、なんでそんな精霊を呼んだの?」


 それだけ聞くと、呼び出してもあまり何かできるとは思えない。

 実際、一方的な言葉だけを発して、何をするでもなく、すぐにその姿を消してしまったし。


「どこにでもいる存在で、大きさ的にも一番イメージしやすい精霊やから。源精霊(げんせいれい)微精霊(びせいれい)は精霊って言うより大気魔気って言う方が伝わるやろうし、中級以上は癖が強いのが多いんよ」

「癖が強い?」


 どういう方向性の「癖」……だろうか?


「中級精霊……、普通の精霊は人間を驚かせるのが大好きなんや。人間界の物語に出てくるような種族と考えてくれてええよ」


 ケットシーとかそんな感じかな?


「王子は中級精霊も呼び出せるのか?」


 水尾先輩が顔をあげる。


 どうやら、精霊への憧れを諦めきれないらしい。


「ここが海の上やからな~。かなり限られると思うで。正直、無害なのは難しいかもしれへん」

「くっ! もう少し早く知っていれば……」


 水尾先輩は相当悔しがっている。


「有害なの?」


 わたしとしてはそちらの方が気になるのだけど……。


「悪戯好きなのが多いさかい」


 そう笑いながら、楓夜兄ちゃんは床に手を付いた。


「我、水に揺蕩(たゆた)う汝に願う


  我が声を聞き


   我が呼びかけに応えよ


    汝は全てを映す眼


     不惑の心を持つ形なき者」


 楓夜兄ちゃんの銀色の髪がふわりと揺れ、青い瞳がその青さを増したかと思うと、その場一体が光り輝く。


「うわっ!?」


 わたしはさっきよりも長文な詠唱に感動する間もなく、思わず目を閉じてその眩い光から目を逸した。


 それから時間にしてほんの数秒くらいだろうか。

 わたしの耳に聞き覚えのない声が届いた。


『あらあらあ、めっずらしいわあ』


 どこか暢気な口調は母を思い出すが、全く別物だとは顔を見なくてもはっきりと分かっている。


 何故なら、母と違って聞こえてきた声は()()()()()()上にかなり声量がある。


 まるで甲子園の応援団のような印象だった。


 恐る恐る目線を発光していた方向に向けると、そこには角刈り、ムキムキな感じの大きな男の人が腕を組んで堂々と立っていた。


 声のイメージに合っていると言えば、合っている。


 惜しむべくはその角刈りが黒髪ではなく、誰かを思い出させるような紅い髪だった点だろうか。


 着ている物は青くやや透けているような作務衣に似た和服を着崩し、まるで一試合終えた柔道家のような格好である。


 いや、これらの考え方にはかなり偏見が入っているとは思うけど。


『クレスノダール~。貴方がアタシを呼んでくれるなんてえ、すっごく嬉しいわあ。相変わらず、良い男のままねえ』


 そう言いながら、彼……、いや、彼女(?)は両手を広げる。

 その行動に楓夜兄ちゃんは少しげんなりとしつつ、熱い抱擁を受けた。


 改めて近くで見ても太い腕とぶ厚い胸板だ。


 抱きしめられている楓夜兄ちゃんは、あまり華奢なイメージなんてないのだけど、この人と比べてしまうと素直に薄いと思えてしまう。


 どんな筋トレやったらこんなに肉が付くんだろう?

 食べる量とかも違うのかな?


 そして、その主食はアミノ酸豊富な筋肉増強剤だろうか。


「今日はまた変わった趣向だな」


 ようやくがっしりした丸太のような腕から解放された楓夜兄ちゃんはそう口にした。


『観客が多いでしょお? アタシもお、張り切っちゃったあ』


 両手を頬に当てて、クネクネする男の人。


 これは、なかなかシュールな絵面というヤツだろう。


 漫画とかでは見たことがあるけど、立体化するとなかなかの迫力だ。

 この人(?)、身長2メートルは越えているだろうし。


「この人が精霊なのか?」


 わたしがぼんやりと考えている間に、先程まで呆然としていた水尾先輩も我に返ったらしい。


『そうよお、()()()()。アタシはアナタたち人類とは別の種族よん』


 水尾先輩の本名をあっさりと看破した。

 これが精霊の力なのだろうか?


 水尾先輩も少しひるんだ様子を見せる。


「そ、その口調は?」


 あ。

 そこに突っ込んだ。


『単なる趣味。この容姿とのギャップが良い感じだとは思わない?』

「あまり」

『あらん、正直』


 にっこりと笑う精霊さん。

 水尾先輩は頭を抑えてすこしだけ下を向くが、すぐに顔を上げて楓夜兄ちゃんを見た。


「王子、説明をしてくれ!」

「水に縁があって、人間に偏見が少なくて、ちゃんと会話が成り立つ少々個性的な精霊を呼び出したんやけど……」

「個性的すぎる!!」


 水尾先輩は隠すことなくそう叫んだ。


『あらあらあ、自分は外見で判断されると酷く怒るのに、貴女自身はアタシを外見で判断しちゃうのねえ。傷ついちゃうわあ』

「王子、もう少し細かく説明をしてくれると助かる。なんで、この精霊は私の名や性格まで知ってるんだ?」

『本人が目の前にいるんだからあ、アタシに聞いてちょうだいよお。せっかく呼び出されたのにい、会話もなしにバイバイなんてえ、淋しくて死んじゃうんだからあ』


 クネクネしながらも、どこかで聞いたことがあるようなフレーズを口にする。


「ごめん。高田……、変わってくれ」


 どうやらかなり苦手なタイプらしい。


 わたしもこんなテレビとかで出てくるような人と会話したことはないのだけど、幸い、そこまでの苦手意識とか嫌悪感とかはないみたいだ。


「は、初めまして」


 なんとなく挨拶をしてみる。


『あらん、可愛らしいお嬢さんね。貴女は……、そうねえ、()()()()()()()()()()ねん」


 その言葉にわたしだけではなく、九十九も少しだけ反応した。


 多分、わたしには偽名があるからだろう。


 もしくは、わたしが覚えていない本名(魔名)と呼ばれるものを言ってるのかもしれない。


『初めまして、シオリ。アタシの名はセドル。水鏡(すいきょう)族よん』

「すいきょう族?」


 酔狂? 水鏡? 酔狂? 水郷?


『二番目が正解。四番目は新鮮な感じねえ。でも、一番目と三番目は同じじゃない?』


 わたしの思考にまで的確な突っ込みを入れてくる。


『精霊界の水に住んでいる精霊族よお。よろしくねえん』

「こ、こちらこそ、よろしくおねがいします」


 思わず頭を下げる。


 上からごつい男性の姿をした人(?)に見下ろされるのって迫力があるね。


『先ほどのミオルカの言葉だけどお、アタシが貴方たちのことが分かるのはあ、単純に心が読めるからよん』

「心が読めるんですか?」


 先ほどの会話からもなんとなくそんな気がしていたけど、やっぱり間違いはないようだ。


『精霊族は基本的にその能力を持っているわねえ。まあ中には未来が視えるとかあ、過去が視えるとかもあるけどお、アタシは時間に関することはさっぱりよん』


 そういえば、人間界の物語にも妖精は心が読めるってのがあった気がする。

 エルフだってテレパシーで会話するって聞くし。


「他にはどんなことができるんですか?」

『心の内から分かる記憶とかあ、ちょっとした透視とかあ。今、身に付けている下着の色や形までしっかりと分かっちゃうわあ』

「……へ?」


 今……、なんとおっしゃいましたか?


「ちょっと待ったあああっ!! 精霊ってのは変態なのか!?」


 深く考えるよりも先に、わたしと精霊さんの間に割り込むように九十九が入ってきた。


『あらん! ()()()()()()()()()あ』


「「へ? 」」


 九十九とわたしの声が重なったのと、九十九が目の前の精霊さんに熱烈な抱擁を受けるのはほぼ同時だった。


()()()()()()()()()()()()()んだものお。アタシ、切なかったあ』


 どうやら、精霊さんは九十九がお気に入りのようだ。


 先ほど見た楓夜兄ちゃん相手よりも抱擁が激しい気がする。


『可愛いわあ、貴方はツクモねえ。黒地に黄色の紅葉柄とは風流だわあ』

「変態だ!!」


 その言葉に抱擁から逃げようとしていた九十九の一瞬、動きが止まった。


 そして、その顔が彼にしては珍しいほど、紅葉のように紅くなっているところを見ると、どうやら、下着を当てられたらしい。


「風流ってより、派手かな」


 わたしは素直に感想を言う。


 柄がどれくらいの大きさかにもよるけど。

 でも、イメージはなんとなくトランクスかな。


「お前も聞いてるんじゃねえ!!」

「この距離で無茶言わないでよ」


 聞きたくて聞いたわけでもない。


 わたしは殿方の下着を想像して喜ぶような趣味はないのだ。


「……ってか、助けろ!」


 九十九は必死で抵抗しているようだけど、どうやら、簡単に脱出することはできないみたいだ。


 やっぱり精霊さんは見た目どおりの力持ちさんってことだろう。


 非力なわたしにできることは、九十九に怪我がないように祈るのみである。


『大丈夫よお。怪我しない程度に締めてるからあ。ああ、クレスノダールと違って、まだ瑞々(みずみず)しい感じがとってもス・テ・キ』


 楓夜兄ちゃんとの状況よりもより、ちょっとだけ犯罪的な絵面になっている気がするのは気のせいでしょうか?


 楓夜兄ちゃんは20歳だけど、九十九は15歳。

 立派に少年と呼ばれる年代である。


 そして、目の前の精霊さんは年齢不詳ではあるけれど、外見だけでも、楓夜兄ちゃんより上に見える。


 うん。

 どの辺りに需要があるかは分からないけれど、犯罪ちっくなのには変わりないとわたしは思考を別方向に飛ばした。


 こんな状況、まともな思考で耐えられるわけがないのだ。

作者本人も、実際、目撃したら、ドぎつい絵面だろうなと思って書いております。

そして、この後にさらにドぎつい場面がありますので……、耐えていただければと思います。


ここまでお読みいただきありがとうございました。

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