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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 大樹国家ジギタリス編 ~

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重い言葉で傷がつく

「自問自答で人は成長するわけやからな。そう言う意味では、嬢ちゃんも少し成長したんやろな。見た目、変わらんけど」

「一言、余計だよ……」


 持ち上げたようで、しっかり落とされた。


「嘘や嘘。嬢ちゃんは変わったで? 十分、女らしゅうなっとるよ」


 そう言いながら、楓夜兄ちゃんがじっとわたしを見た。


「え? どこが? 背も低いし……、何も変わってないよ?」

「本人は身長しか気付かへんからな。でも、身体のラインは出来てきているし、顔つきも少し変わったで?」

「身体のラインって……、楓夜兄ちゃんがいうと、なんかやらしい」

「どういう意味や?」


 楓夜兄ちゃんが苦笑する。


 わたしは基本的に身体のラインが分かりにくい服を着ることが多い。


 そして、セントポーリアやジギタリスの下着がそうなっていることもあるのだけど、胸はしっかり押しつぶされているのだ。


 正直、かなり苦しい。


 腰を強調するコルセットのようではないため、もしかしたら、胸を潰すのが魔界の主流なのかもしれない。


 でも……、それでも分かるぐらい成長をしているってことかな?


「でも……、楓夜兄ちゃんと会ったのは5年も前のことだし……。確かに少しは、成長してないと困るな……」

「本人やその近くにいる人間は些細な変化には気付きにくいな。気付いたら……、変わっていたってことも多いで」

「そんなもんかな……?」


 でも、九十九は変わってないって言うし……。


「あの坊主も今はまだガキやけど……。せやな……3年……、いや、5年ぐらい経ったころ、突然、気付くかもしれへんな」

「何に?」

「嬢ちゃんの変化や。俺は占術師やないけど、予言しよう。嬢ちゃんは、後、5年もすれば今よりかなりええ女になるて」

「ホント?」


 それは嘘でも嬉しい話だった。

 年上の男性からそう言われる機会ってあまりないよね?


「ホンマや。俺の目は確かやで」

「たくさんの女性を見てるから?」

「せやな~、ほんの100ほど……って何を言わせるんや!」

「楓夜兄ちゃんが勝手に言ったんだよ」


 そう言って、わたしは笑った。


 いくら何でも、100が多いってことはわたしだって分かる。


 それを見て、楓夜兄ちゃんは言った。


「あの坊主はホンマにまだガキやからな。言葉の重さを知らんのやろ。自分の言葉でどれだけ人が傷つくのか考えられへんのや」

「言葉の重さ……?」


 その辺についてはわたしも少し、無神経な部分があるという自覚がある。

 だから、それはわたしにも言えることだ。


 気を付けないといけないね。


「せやから、嬢ちゃんを傷つけた。でも、嬢ちゃん。多分、嬢ちゃんも無自覚のまま、坊主を傷つけとるはずやわ」

「え……?」


 自らの心を読まれたみたいでドキッとする。


「冗談でも……、ある程度、親しい友人から『大嫌い』は、俺でもあんま言われたない言葉やな。ま、あの坊主の場合、嬢ちゃんに言わせてもうたんやけど……」

「え……」


 わたしのあの言葉で……九十九が、傷ついた?


「そう……かな?」

「あの坊主にしてみれば……、なんでいきなりそないなことを言われたかも分かってへんかもしれんで? なんで嬢ちゃんが傷ついたのかも分かってへんのやろうし」


 そうだとしたら、九十九はわけも分からず嫌われたと思っているってこと?

 なんで?


 いやいやいや、真面目に考えてみよう。


 ある日、突然、ただの友人だと思っていた相手から、何の心構えもない状態からいきなり「好き」とか言われた。


 そして、それを本当に冗談だと受け止めたら、目の前で贈った物を投げ捨てられた上、「大嫌い」って言われた……。


「うわ。最低……」


 意見変わるのが早すぎ!

 ……ていうかすっごく勝手なヤツじゃないか!


「まあ、何が悪いと言うたら、二人の若さが悪いと言うことやろ。それに……、坊主なりに考えての発言やったのかもしれへんし」


 ああ、もう!

 これ以上、いじめないで!!


「自分が想ってもない相手に思わせぶりな態度を取らないのはある意味正しい。期待持たせたかて応えらんのが分かっとるわけやからな。きっぱりすっきりはっきり態度に出して断るのも間違いやない。尤も、もっと言い方はあったやろうけどな」

「……分かってるよ」


 九十九の立場からすれば、彼の言動はそこまで悪くはないのだ。

 ホントに馬鹿が付くくらい正直で、彼は言葉を選ばないだけだって。


 でも……。


「それでも、ちょっと悔しいよ。全く想われていないのは……」


 せめて望みがあるならともかく……、あれなら絶望的じゃないか……。


「嬢ちゃん。一つ聞いてもええか?」

「え?」

「嬢ちゃんは、両想いやないから好きじゃなくなるんか?」


 楓夜兄ちゃんは真面目な顔をしていた。


「人と人との出会いも偶然の重なりや。その中で特定の人が特別になり、またその相手からも特別な存在になれる可能性なんてほとんど奇跡や。それは、生命の誕生の次くらいの確率かもしれへんな」

「どういうこと……?」

「分からへん? つまり遊びとかじゃなくてお互いが本気で想い合うような恋人になれるのは、精子と卵子が受精して無事生命が誕生するまでの確率の次くらいに…………」

「うわ~~~~~~~~~~!! ストップ!!」


 奇妙な方向に話が進みそうになったので、慌てて制止した。


 でも、ちょっと遅かったかも……。

 真面目な顔をしていたから完全に気を抜いてた。


「そないに息をきらし……。ほんま嬢ちゃんは可愛ええな~」

「ふ、楓夜兄ちゃん? つまりは何が言いたいの? わたしをからかうためだったら怒るよ!」

「両想いになる可能性は元々低い。それは分かるやろ?」

「さっきの例じゃかえって分かりにくかったけど……、それぐらいは分かるよ」

「せやったら、両想いにはなれんことも多い。それも分かるな?」

「うん……」


 誰もが両想いになれるわけはない。

 寧ろ、両想いになる可能性の方が低いだろう。


 それぐらいわたしにだって分かる。


「確率は、何度も挑戦せな駄目なんやで? 一度や二度くらいでもうどうでもよくなるんか?」

「え……?」


 何度も挑戦する?


「どうするかは嬢ちゃん次第や。何度でも、坊主にぶつかるもよし! 他の誰かに乗り換えもよし! なんなら俺でもおっけ~やで!」

「楓夜兄ちゃんだと……、浮気の心配が……」

「そこで……、嬢ちゃんなりに真面目に考えてくれるのは嬉しいんやけど、少し哀しゅうなるんは何故やろな。でも、要はそういうことや。今の育ち始めた恋をもっと大きくするのもええし、新しいのを芽生えさせるのも一つの道や。それを決めるのは結局嬢ちゃんの心やけどな」

「でも……、また傷つくのは……嫌だよ」


 何度も挑戦すると言うのは、それだけ何度も傷つくと言うことだ。


 またこの胸の痛みを味わうのはちょっときついかも。


「傷つくのが嫌なら恋はできん。ホンマの恋は傷だらけになってナンボや。遊びは火傷してナンボやけどな」

「……火傷の方が多そうだね。楓夜兄ちゃんの場合……」

「本命がつれないと甘える場所も欲しくなるんや……って嬢ちゃん?」

「はい?」


 楓夜兄ちゃんがじろりとわたしを見た。


「俺のことはええって! まったく巧く逃げようとするな~。」

「いや、楓夜兄ちゃんのノリが良くてつい……。でも、もう少し、悩んでみるよ。結論はすぐに無理だけど……」

「せやな。焦らんでええ。焦ると俺みたいに失敗するで」

「うっ」


 返事しづらい言葉を……。


「嬢ちゃんのその顔……。さっきよりは随分マシそうやな」

「うん……。話してるうちにスッキリした」


 わたしが、自分の気持ちばかりで、相手(九十九)の気持ちのことを全然、考えていなかったことも分かったし……。


「なら、コレを返しておこうか。もうポイ捨て厳禁やで」

「うん。分かってる」

「それと……、悪いことに気付いたら、謝るのも大切やからな」

「え?」

「後悔を引きずるよりは、ずっとええ。案外、さっぱりするで」

「……うん」


 楓夜兄ちゃんは九十九とのことを言ってることが、分かった。


 確かに、わたしも傷ついたけど、それで相手を傷つけて良いわけではないのだ。


「分かった。ありがと、楓夜兄ちゃん」


 そう言って、戻ろうとして……、はたと気付いた。


「どうしよう……」

「どないしたんや?」

「いや、どうやって登ろうかと」


 さっきは確か滑り降りた気がする。


 そう考えると、ここから上るって……大変じゃないかな?


「ああ。……って嬢ちゃんはまさか、そこから降りたんか?」

「降りたというか……滑った?」

「阿呆やな~。もっとちゃんとしたルートがあるのに。ああ、それで、その泥だらけなんか。どこかでコケたにしてはえらい派手やと思っとったんやけど……」


 そう言って、楓夜兄ちゃんはわたしの手を取り、崖とは反対方向に進み出した。


「ふ、楓夜兄ちゃん?」

「そないな姿で城樹に戻したら、俺が何を言われるか分からへんからな……」

「え?」

「ここから少し先に行くと、結界外に出るんや。そこで治したるわ。魔法が使えへんのやろ?」


 どうやら、楓夜兄ちゃんは治癒魔法が使える人らしい。


「う、うん」

「まったく……。世話の焼ける嬢ちゃんやな」


 楓夜兄ちゃんは口ではそう言ってたけど、その瞳は優しかった。


 だからかな?


 繋いだ手が凄く温かくて、ちょっとだけドキドキしたのは……。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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