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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 大樹国家ジギタリス編 ~

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想いは重いもの

 夜中……、突然、目が覚めた。

 これは、わたしにとって、かなり珍しいことだと思う。


 基本的にわたしは朝までぐっすりタイプなのだ。


 時間が経って頭が冷えたせいだろうか。

 どんな理由があっても……、あんな行動はいけなかったと、今頃になって反省する。


「捜さなきゃ……」


 こんなに真っ暗な中で、携帯用に持っている小さな照明効果が付加されている魔石だけで見つかるはずはないのだけど……、それでも、夕方捨てたアレは今、捜さなきゃいけない。


 わたしは何故かそう思って、再びあの場所に辿り着いた。


 アレがあったから……、楓夜兄ちゃんと再会できたのだ。

 アレがあったから……、楓夜兄ちゃんの正体と、これから先の行く先も分かったのだ。


 九十九がわたしにアレをくれたのは、単純に護衛対象へのお護りだった。

 それ以外の感情がなかったことはもう分かっている。


 だけど、わたしにとってはもうそんな単純な話ではなくなっていた。

 今、アレを失うわけにはいかないのだ。


 わたしは、足場と頑丈そうな(つる)を探して、樹に引っ掛け、口に小さな光を放つ石を(くわ)えて、その丘から滑るように降りた。


「ない」


 当然だ。

 何も見えないのだから。


 それでも手探りで捜す。


「ない……」


 当然だ。

 あんなに細くて小さいものなのだから。


 それでも、草木を分けて捜す。


「ない!」


 当然だ。

 どこに飛んだのかもちゃんと見てなかったのだから。


 それでも、勘を頼りに必死で捜す。


「……痛い」


 当然だ。

 腕や足は剥き出しの服なのだから。


 こんな木が多く真っ暗なところを手探りで行動したらどうなるかなんて、分からないはずがない。


「は~」


 大きく息を吐き……、わたしは、その場に座り込んだ。


「ちょっと落ち着こう……」


 よく見ると、自分の腕や足には細かな引っ掻き傷がいっぱいできていた。

 滑り降りた時に掌も擦り剥き、お尻や太股もヒリヒリしている。


「わたし、何をやってるんだろう?」


 魔法感知とやらも、法力感知ってやつも、何一つ自分でできないくせに、一人であんなもののために……。


 情けなくも、泣きたくなってくる……。


 あんな風にキッパリ振られたのに……。

 その人から特別な意味もなく貰ったものにこんなにも固執して……。


 結局、なんだかんだ理由を付けても、アレをくれたのが九十九だったからこそ、ここまで無謀なことをしている気がする。


「わたし、こんなにしつこい女……、だったのかな……」


 人間界にいた頃、同じ中学に憧れた人はいた。


 でも、見ているだけでなんか満足して……、その人と付き合いたいとかそういう感情は本当になかったと思う。


 その人があまりにも、周りに人気がありすぎたためなのかもしれない。


 結局、その人は別の人と付き合い始めた。

 まあ、本音を言うと少しはショックがなかったわけじゃない。


 その人が特定の誰かを選ぶとは思っていなかったし。


 だけど……、元々、自分はそこまで望んでいなかったし、望んだことすらなかった。


 彼女になって、その横に並んで歩きたいとか、どこかに一緒に行って遊びたいとかそんなことをしたいとも思わなかった。


 2人で話しても、そんなに会話を続けることはできないし、何よりも間が保たない。

 だから、そこまでの執着心みたいなものはなかった。


 そんなふうに考えていた自分は淡泊なのかと思ったこともある。


 そこまで異性に対して感情を抱かない。

 男女交際に興味がないわけではないけど、そこまで切望することもなかった。


 いつもの通り、そのうちなんとかなるだろうと思っていたぐらいだ。


 でも、現実は違っていて……。

 自分は思っていた以上にしつこい女だったようだ。


 九十九のことは……、小学校の頃に好きだった。

 初恋だったと思っている。


 一緒にいて楽しかったし、いっぱい笑うことも出来た。


 周りの異性の友人より少し、好きが大きかった。

 小学生の恋心なんてそんな感じがほとんどだと思う。


 でも、正直なところ、小学校の頃は九十九のことを異性だとあまり感じたことがなかった気がする。


 いや、異性だって知っていたけど、その意識や意味があまりなかったというか……。


 確かに、私よりちょっと背が高くて、足が速くて……、男の子の特性は持っていたのだけど。


 でも……、それでも「異性」というのを、そこまで意識していなかったと思う。


 でも、今の九十九は完全に「異性」だ。

 顔や身体付きも全然違うし、声もちょっと低くなって、背も伸びてる。


 考え方だってあの頃とは全然違うことを、今のわたしは知っているのだ。


「あれ……? もしかして……、九十九を好きだって思ったのは……、『異性』だって認識したから?」


 子どもの時と違う今の九十九。

 その差を意識しただけだった?


「分からない」


 考えれば考えるだけ、頭の中がモヤモヤしてくる。


 ―――― 本当に自分は九十九が好きだったのか?


 そんな基本的な部分が分からなくなってきた。


 いつから、好きだったのだろう?


 どこが、好きになったのだろう?


 何が、好きになったきっかけだろう?


 なんで、好きだと思ったのだろう?


「あ~! もう、わけ分からん!!」


 大声を出してもスッキリしない。


 それに……、例え、九十九が好きだからって……、結局のところ具体的に、彼と何かがしたいとかそういうことは一切、考えられないのだ。


 少女漫画のような恋に憧れはあるけれど、わたしは彼とくっつきたいとかキスしたいとか、そ~ゆ~のも特に求めていない。


 ただ、まあ、今のままが気楽だから、そう思っているだけで。

 そ~ゆ~意味では、九十九のことが好きだというのもただの錯覚なのかもしれない。


 同じように近くにいる雄也先輩に対してはどうなのだろう?


 わたしと2つしか違わないのに大人で異性の感じも醸し出している。

 雄也先輩のことも嫌いじゃないけど、その感情は九十九とは違うものだとは分かっている。


 あの人といると妙に悔しいのだ。


 いつも、一歩先を読まれて、わたしが言うことも大半は「予測できてるよ」なんて余裕っぷり。


 九十九なら「阿呆か」と言うようなところでも、やんわりと対処してくれる。


 そして、誰に対しても優しい。

 わたしでもちゃんと女の子扱いしてくれるし、水尾先輩にも気遣っている。


 母さんみたいなおば……年上の女性が相手でも、嫌な顔をせずに目上の女性としてきちんと接していた。


 好きになるなら、雄也先輩の方が理想なのだと思う。

 顔も整っているし、いつも2,3歩以上先を進んでいる。


 一緒にいて、その仕種や言動にドキドキすることもある。


「だけど……」


 何故だろう?

 あの人と一緒に歩く姿は想像できなかった。


 いや、普通に歩くことは実際あるのだけど、雄也先輩が恋人としてわたしの横にいる図はなんとなく考えられないのだ。


「歳の差……?」


 たかが2歳なのに……。


 九十九とは一緒に歩くところも想像できる。

 それは今のまま、何も変わらない図なのだけど。


 以前、人間界で(仮)の彼氏だったせいもあるのかな?


 だけど……、そんな単純なことが「好き」という感情に直結するのは単純だし、早計というものではないだろうか?


「ああ、もう!」


 変な話。


 うっかり当人に、「好き」だと零しておきながら、それに対する絶対的な根拠がないなんて。


「『冗談』や『世迷い言』って言われても仕方……、ないのかもしれないね」


 思わずそう言ってしまった。


 いや、待て。

 それとこれとは別問題だ。


 言われても仕方なくても、言って良いことじゃない!


 冗談で、「好き」だと言った相手に対してでも、あんな冷たい返答をよこすようなら、キレても罪はない!


 ……多分。


「わたしが……、どこか変なのかな?」


 そう思いながら、捜索を再開した。


 心なしか、さっきまでよりは視界が広がった気がする。

 だけど……。


 ―――― ガサガサ


「ん?」


 何か……、ここ以外から音が……?


 ―――― ガサガサガサッ!


「え……?」


 先ほどよりはっきりとした音。


 まずい……。

 あんなことがあったから通信珠なんてちゃんと持ってきていても、使うのはかなり気まずい。


 だけど、この音の主が猛獣とか、この前みたいに野盗、盗賊の類とかだったら……、わたし一人じゃどうしようもない。


 少しずつ後ろに下がるが、背が樹に当たってしまった。


 ―――― ザッ!


 木々の影から黒い何かが飛び出した。

 目を瞑って、身体が硬直してしまった。


 逃げることも叫ぶことも出来ない恐怖を私に与えたモノの正体は……。

正体については次話までお待ちください。

いつものように、本日22時更新です。


ここまでお読みいただきありがとうございました。

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