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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 護衛兄弟罰ゲーム編 ~

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神力所持者

 大神官は告げる。


「貴方と雄也さん、そして、リヒトに神力の気配があります」


 そんな言葉を。


 尤も、オレは先に兄貴から聞いていた。

 だから、驚きはない。


 何の心の準備もなく、いきなり聞かされた兄貴がどう思ったかまでは分からない。


 そして、大神官はいつの間にか、あの長耳族のことを「リヒト」と呼び捨てるようになったんだな~っと、心底どうでもいい感想すら湧いてくる。


 人間は図太い。

 いや、この場合、図太いのはオレだけか。


「雄也さんからある程度は聞いていることでしょうが、改めて、私の口から説明させていただきますね」


 大神官はそう言った。


 確かに、兄貴の報告書も読んでいるためにある程度は分かっているつもりではあるが、やはり大神官から説明された方がオレも助かる。


 疑問がないわけではないからな。


 それに、兄貴からの報告書のほとんどは、オレたちに神力の気配があるという話よりも、集団熱(s t a m)狂暴走(p e d e)の話が主であった。


 兄貴にとってはどうでもよい話だったのかもしれない。


 気持ちは分かる。

 オレも割とどうでもいい。


 だが、一つだけ気にかかっている点がある。

 それだけのことだ。


 その神の力というやつがどれほど凄いかは分からないが、神が絡む以上、人間が簡単に扱えるものではないようだからな。


「これから私はお話することは、神官でも高神官に上がった者しか知らない話となります。他言無用とまでは申しませんが、神官たちの混乱を避ける意味でも公言することは控えていただけると幸いに存じます」


 いきなり厳重とも言える口止めが来た。


 尤も、オレも誰かに話すつもりはないし、兄貴も同じことだろう。

 神官以外に話しても意味がないことだから。


「その上で伺いましょう。九十九さんは、神力所持者は特別な人間だと思いますか?」

「いいえ」


 オレがそう答えると、大神官は満足そうに頷いた。


 昨日まで、兄貴から報告を受けるまでは、神力所持者というのは特別な存在だと思っていたのだ。


 栞のように、大神官のように、普通の人類では届かない領域に何でもない顔で踏み越えていく人間だと。


 だが、違った。

 神力を所持しているだけなら、特別でもなんでもない。


 何故なら……。


「この世界で生まれ、生きている人類は、例外なく、神力をその身体に宿しております。人類の魂が神力によって作られているためです。そう言った意味では、生きとし生ける人類すべてが神力を持っていることになります」


 考えてみれば分かることだ。


 祖神……、その人間の素となった神と姿が似ることがあるのも、神にしか従わないと言われている精霊族が契約を通して人類に力を貸すことも、大気魔気や体内魔気(源精霊や微精霊)を利用して魔法が使えることすら、人類の中に神の一部が宿っているためであることに他ならない。


 単に知らないだけ、細かい部分が伝えられていないだけだ。

 人類の歴史や真実に最も近いとされる神官たちが揃って口を噤むから。


 知っているのは高神官以上。


 そして、上神官に上がれるのは、神々に対して並々ならぬ興味や関心(恨みつらみ)を募らせるような者だけだ。


 その真実を知った奴らは叫んだことだろう、ふざけるな! ……と。


 魔法が不得手でも、魔力が弱くても、魔法力が少なくても、その身に魂が宿っていない人類はいない。


 そして、魂は(自我)でもある。

 その(自我)があるから、人間は生きていける。


 だが、その自分を形作っているモノが、全て憎々しい神々の力によるものだと知った時に思うのは失望か、絶望か。


 どちらにしてもあまり良い感情ではないだろう。


「尤も、その魂が神力の塊であっても、ご存じのように、それを活用できる人類はほとんど存在しません。自分に魂があることは分かっていても、それが身体のどこにあるかを知る者も少ないでしょう」


 ……魂が神力の塊だということは存じませんでした。


 だが、使うことができない。


 確かに魂なんて不確かなものだ。

 それが身体のどこかにあるなんて、誰も断言できないだろう。


 あるのに分からない。

 それが魂だ。


 人間界ではその存在を科学的に証明しようとした人間もいる。

 魂の重量を計測するために臨死の人間の重さを記録しようとしたという医師の話は有名だろう。


 尤も、その実験は標本数の少なさなどから信憑性が薄いものではあるらしいが、それでも俗説として庶民に知られるほどになったのは、人類が魂の存在をそれだけ意識しているからに他ならない。


「星の歴史上、創人紀と呼ばれる期間に、最初の人類は神々によってその魂と身体が創り出されたと言われております。尤も、魂を作ることができても肉体は難しく、神々の姿を映して作られた例も多くありました。神々は試行錯誤を繰り返し、少しずつ人類を増やしていったようです」


 唐突に始まる神話に連なる歴史の話。

 だが、大事なことである。


 そのために兄貴は大神官に集団熱(s t a m)狂暴走(p e d e)のことを尋ねることができたのだから。


「神は人類を増やすことはしても、減らすことはしませんでした。その結果、人類は星の全てを消費するようになってしまったのです」


 ふざけた話だ。

 神は人間を作るだけ作って、後は知らんふりだったらしい。


 その結果、人類は星を食らい尽くす存在となってしまった。


 しかも、最初の人類は神の姿を丸映しした者……、分身体が多かったのだ。

 精霊族は神の姿をした者に逆らえないし、神も下手に手が出せなくなった。


 自分の姿をした(作品)を消したくはないし、他の神の姿をした人類を消そうにも本物と見分けがつかなかったそうだ。


 本当にアホだと思う。


 もっと考えれば分かっただろうに、一から物を作り出すという工程に対して手を抜いた結果だろう。


「そして、増え続けた人類の収拾がつかなくなり、神々は最初の人類を諦めることにしました。残してもこの星の害にしかならないと、創造神アウェクエアの手により、最初の人類は残らず全て消滅することになったのです」


 更に酷い話である。


 そして、最初の人類に救いはなかったようだ。

 混乱の中、創造神が動くことによって、星は救われたらしい。


 もっと早く動けよと言いたいところだが、創造神だって、好きで最初の人類を滅ぼすことにしたわけではないだろう。


 その結果、人類創造に関して、新たに規則が設けられたそうだ。


 先にある程度の規則を策定しておけと思うが、失敗しなければ分からないこともあるし、それ以上に、神々がそんなに際限なく人類を創造することも想定できなかっただろう。


 趣味(暇つぶし)を制限するのも何か違うしな。

 だが、何事も適度と自重というのは必要である。


「そんな経緯もあり、新たに創られた人類の肉体は、神の姿を模すことはあっても、そのまま写すことはしないようになりました。魂も以前よりは脆く、壊れやすく、染まりやすいモノへと変わったそうです。それでも、神力の塊であることに変わりはないのですけれどね」


 いや、強度や硬度、()()()が変わるだけでも全く違うだろう。


「人類の魂は神力の塊でありながら、傷付き、濁り、(けが)れを纏うようになりました。聖霊界にて魂は浄化や洗浄をされますが、傷付いた魂が癒えるわけではないのです。祖神と邂逅し、その御手によって再生、癒されない限り、魂は擦り減っていきます」


 それは魂には、再生能力や治癒能力がないということになる。


 そうなると、今回のことで栞の魂は少し削られたと聞いているが、戻らないということだろうか?


「聖霊界で生まれる前の魂が、魂の素となった祖神に出会うことは稀です。そして、その祖神が、傷付いている魂を癒すかどうかも分かりません」


 それはそうだろう。


 死後に向かうとされる聖霊界が、どれだけ広いか分からないが、そこに魂が行き、運良く、元となった神と会える可能性があるとは思えない。


 その上、神は基本的に神界か聖神界という世界にいるらしく、人類が死んだ後に向かう聖霊界に行くこと自体が少ないらしい


 そんな極小の確率の中で、巡り合うことができたら、それは奇跡と呼ばれる出会いなのだろう。


 だが、オレが知っているヤツがその奇跡に巡り合ってしまったらしい。

 そして、それ以外の奇跡(巡り合わせ)にも。


 栞は生まれる前に、祖神である導きの女神から神力を分け与えられたと聞いている。

 それが、その魂の再生……、癒しってやつだったのだろう。


 更に、その癒しとどちらが先だったかは分からないが、破壊の神と呼ばれるヤツからも何かされたらしい。


 つまり、栞の魂は再生済み……、傷がないか、傷が少ない状態なのだ。

 栞が神力を行使できるのはそのためだろう。


 ああ、そうか。

 人類は皆、神力を魂という形で持っている。


 だが、その力は人間の意思ではどうにもならない。


 強い意思と、何らかの奇跡が噛み合った時、初めてこの世界に現れる。

 それが神力所持者……、いや、神力行使者か。


 オレがそう一人で納得していると……。


「それ以外に神力が顕在化する可能性としては、()()()()()()()()()ですね。貴方と雄也さん、そして、リヒトは()()()()()()()のでしょう」


 大神官はいつものように、さらりと、とんでもない発言をしてくれたのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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