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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 護衛兄弟罰ゲーム編 ~

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届けられた手紙

「しかし、元聖騎士団長殿から書簡が届いていることは知らなかったな」

「うん。トルクもユーヤには言っていないと思っていた。ああ、ルカにも言ってないよ。あの子に伝わると面倒になりそうだからね」


 確かに。

 使者からの真偽不明な言葉によって、一人でカルセオラリアに乗り込むことを決意したような女性だ。


 それも、乗船券の購入の仕方すら知らない箱入りだった王女。

 思慮深いところもあるのに、ふとした所で、短絡的にもなる。


 今回の集団熱(s t a m)狂暴走(p e d e)が良い例だ。


 それが、離れて久しい身内からの……それも金の無心など、見てしまったら、どんな行動に出るか、予測もできない。


「カルセオラリア城が崩れたことを知ったのも最近だったみたいだよ」

「遅いな」


 あれからもう一年近く経つ。

 それだけ、情報を仕入れる手段がないということだろう。


 もしかしなくても、元アリッサムの国民だったことを隠している可能性が高い。


 それでも、千人もの人間がいて、三年以上、身を隠してどの国にも見つかることなく生き延びていたのだから、それなりの人間は付いているのだろうが。


「仕方ないよ。第一王女殿下は国から出たこともなかった正真正銘の箱入り娘だよ? 他国に行ったことがある聖騎士団、魔法騎士団の人間がいたとしても無駄な矜持が邪魔をする。かつて魔法国家アリッサムにいたことなんて、なくなった今、何の意味もないのに」

「意味がないことはないだろう。少なくとも、他国が羨むほどの魔力と魔法を有している」


 そんな俺の言葉に対して……。


「そんなものだけでこの世界を生き抜くことはできないでしょう?」


 真央(リア)さんが薄く笑う。


「だが、箱入りの王族を守るには必要な力だよ」


 だから、俺もそう返す。


 俺自身が主人を守るには、自分の魔法も魔力もまだまだ足りていないことを知っているから。


「ああ、そうか。奴らにも使い道はあるのか」

「かなりあるよ。どこも魔力が強い人間を欲している。特にフレイミアム大陸はね。所属を隠して、雇われるなど、聖騎士団、魔法騎士団で顔が売れていなかった者たちなら可能だろう」


 その魔力や魔法を持つ人間こそ必要とする者は少なくないのだ。


「ユーヤなら、どこでも生き抜けるね」

「そうなるように育てられたからね」

「ああ、自慢の師匠がいたんだっけ」


 あの師のことを、誰かに自慢した覚えはない。

 だが、間違ってもいないから否定はしない。


「それなら、ルカが見つかったことを伝えないのは、やっぱり正解だったってことかな。何に利用されるか分からないからね」

「それは良い判断だ」


 確実に利用される。


 既に第二王女殿下を多額の金銭と引き替えに世界でも富豪とされるカルセオラリアに引き渡した後だ。


 それならば、第三王女殿下は、もっと別の……、彼女たちを血眼になって探しているフレイミアム大陸の王族たちに売りつけられる可能性が一番高い。


 第三王女殿下を差し出せば、第一王女殿下は見逃されると信じて。

 実際は、どちらも欲しいのだから、そんな簡単にはいかないのだろうけど。


「まあ、もう、奴らからは手紙は来ないよ」


 真央さんは大きく息を吐いて……。


「トルクと相談して、指定された場所と時間に使者をやって、『金はやるから、二度とこんな手紙を寄越すな!』って送りつけちゃった」


 そう言いながら舌を出した。


「ああ、それが正しい」


 一方的に指定された時間と場所……。

 その時点で対等と見なしていないし、向こうから信じられてもいない。


 自分たちの居場所を隠すにしても、助けてくれるカルセオラリアにも身内でもある第二王女殿下にすらそれを伝える気はないと言うことだろう。


「だが、金を渡して良かったのか?」

「トルクはルカの身柄を預かるための金だと言っていたよ」

「? だが、伝えてはいないのだろう?」


 俺がそう問いかけると、真央さんはニヤリと笑いながら……。


「『貴方方の珠玉をお預かりする時に御渡ししたあの金額では足りなかったのなら、申し出のあった金額の()()()()()の金額を差し上げよう。但し、今後、お預かりした()()()()()()()()()に干渉は望まない。この受領をもって承諾と見る』。トルクはそう返事を書いたよ」


 悪戯が成功したような顔を見せる。


 確かにその文面ならば、問題はない。

 ちゃんと、珠玉の()()()を支払うと書いている。


 さらに、炎は一つではないとも告げているのだ。


 そして、使者がその書簡を確認せず、渡された金額を受領して、そのまま返済しなければ、成立することだろう。


 後に、第三王女殿下の存在が明るみに出たとしても、その返書がトルクスタンを守る。


 嘘偽りは書かなかった、と。

 詳細を確認しなかったそちらに非はある、と。


 何より、指定した二倍の金額を受け取っておいて、後から、第三王女殿下だけを返せとは言わないだろう。


「なるほど。その文面はトルクが?」

「うん。トルクが考えた。私が考えると、どうしてもあちこちから棘を抜くことができなくて……」


 その辺りは性格もあるだろう。


「こうね? 返答を考えようとしてもいろいろなモノがフツフツとね? 分かるでしょう?」

「分かるよ」


 備えの第三王女殿下だけでなく、第一王女殿下の控えでもある第二王女殿下すら実験体としか見なさなかった国だ。


 思うものは多いだろう。


「何よりね? ルカをあんな極端な思考に育てた国に渡したくないって言うのもあって……どうしてもね?」

「そうだね。ルカ嬢は関わらない方が良いだろう」


 先ほども思ったが、動きの予測ができない。


「それで、散々、悩んで私自身からは『トルクスタン王子殿下から外部とのやり取りを禁じられましたので、このような書簡を書くことはこれが最後となります』って感じの文章を送った」

「トルクを悪者にするのかい?」


 そこはちょっと意外だった。


「私は嫌だったんだけど、トルクがそうしろって。まあ、もし、トルクに婚約者がいたなら、出しゃばらず、トルクの機嫌をとって、仲良くしろって文章もあったからね。トルクの顔を立てるために連絡できません、と書けば、向こうも何もいえなくなるだろうってさ」


 トルクスタンからの指示だったらしい。

 向こうからは、外部とのやり取りすら禁じる偏狭な王子に見えるだろう。


 同時に、アリッサムの関係者との連絡にも腹を立てるほど、マオリア王女殿下を囲い込んで大事にしているようにも思えるはずだ。


 それならば、マオリア王女殿下を後になって返せとも言わないだろう。


 中心国でいられるかは分からないが、それでも、カルセオラリアは大国であることに変わりはない。

 そんな国に喧嘩を売るだけのモノは彼らに残されていないのだから。


 そして、トルクは自分が悪者になることで、マオリア王女殿下の立場を守ることを選んだ。

 そのやり方は、少しばかり不器用だとは思うけれど、ヤツらしいとも思えてしまう。


 それでも、やっぱり不器用だと思ってしまうのだけど。


「私はユーヤに相談することも考えたんだよ? でも、書簡が届いたのは、あの仮面舞踏会の騒ぎの直後だったからね。トルクが、そっちに集中させたいって」


 どうやら、何も連絡がなかったのはヤツの意向だったらしい。

 向こうの指定日時が近くても、ヤツからの伝書は届くのだ。


 そして、仮面舞踏会から今日までの間にもヤツとは伝書の遣り取りを行っている。


「俺を気遣うぐらいの余裕は出てきたのか」


 セントポーリア城で会ったのは十年前。


 第二王子とは言え、本当に頼りないと思った。

 趣味の調薬に一生懸命で、協調性はあまりない。


 カルセオラリアには第一王子がいたから、第二王子は伸び伸びと育てられたことがよく分かると思ったものだ。


 その評価を変えたのは、カルセオラリアを襲った流行り病の時。


 セントポーリア国王陛下相手にも一歩も退()かず、何度も威圧のような体内魔気をその身に食らいながらも、幼くも拙い交渉を繰り返していた姿を見かけた覚えがある。


 国に帰ることができなかったヤツにとっては不服だろうが、あの時のセントポーリア国王陛下の判断によって、カルセオラリアの第二王子を守れたことは確かだ。


 母である王妃殿下は感染し、その命を落とした。

 兄である第一王子殿下も感染して、無精子症になった。


 カルセオラリア国王陛下については分からないけれど、第一王女殿下も初期に感染し、発症したと聞いている。


 あの時、あの国にトルクスタンがいても、何らかの形で感染し、発症していただろう。


「どうしたの?」


 真央(リア)さんが不思議そうに俺を見た。


「ユーヤがトルクを穏やかな顔して見るのは珍しいね。いつもはもっと生温い表情を向けていることが多いのに」

「少し昔のことを思い出していた」


 それが顔に出ていたらしい。


「ああ、『こいつ、いつまで寝たふりしてるんだ?』じゃないんだ」

「気を遣っているのだろう」


 真央さんが俺と会話をしたがっているのは分かっていたのだ。


 寝たふりなら、二人きりでもない。

 何かあれば、飛び起きるだけだ。


「過保護だよね?」

「そうなる気持ちはよく分かるから、ノーコメントかな」

「ああ、そうか。同類だったね」


 真央(リア)さんは楽しそうに声を出して笑った。


 同類。

 そうか。

 他の人間が見ても、同類なのか。


 まあ、それも悪くない。

 そう思える程度に、俺はこの男のことを気に入っているのだから。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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