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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 護衛兄弟罰ゲーム編 ~

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魔法国家の対策

「それでも、幸い、魔獣に食われる恐怖とかそう言ったものを感じたことはなかった。私がそんな本能的な恐怖を初めて味わったのはアリッサム城だったからな」


 フレイミアム大陸で最も集団熱(s t a m)狂暴走(p e d e)を知る王女はさらに語る。


「アリッサム城? 例の集団熱(s t a m)狂暴走(p e d e)かい?」


 だが、集団熱(s t a m)狂暴走(p e d e)の時は、城まで入らせることはなかったと聞いているが……。


「……まあ、そんなところだ」


 キィーンッ


 金属を軽く叩いたような音が聞こえ、少しだけ目の前の女性が仄かに光った。


 ああ、なるほど。

 俺は今、嘘を吐かれたらしい。


 集団熱(s t a m)狂暴走(p e d e)とは関係のない所で、魔獣に食われるような恐怖……、あるいはそれに似たような種類の恐怖を覚えるようなことがあったのだろう。


 考えられるのは、王配が関わっているか。

 魔獣を倒すことはできなくなっても、彼女に対して何かすることは可能だろう。


 弟の話では、この第三王女殿下はアリッサム城にいた頃に、魔封石ディエカルドを使用された経験があったらしい。


 それに付随してる何かがあったのかもしれない。

 それなら、変な詮索はしない方が良いか。


「それでは、集団熱(s t a m)狂暴走(p e d e)の兆候が出た地域で、ずっと魔法騎士団や、あるいは、聖騎士団から身体強化をされた後、特攻をしていたという戦い方はいつまでしていたかを伺っても良いかな?」


 俺がそう問いかけると、ミオルカ王女殿下は話題が変わったことで、分かりやすくホッとした顔をした。


「強化されて突っ込む……は、2,3回ぐらいだったか? 流石に効率が悪くて、設置型の魔法に替えた」

「設置型と言うと?」

集団熱(s t a m)狂暴走(p e d e)中の魔獣って、通常の魔獣よりも頭が悪いのか、真正面から向かってくることしかしないんだよな。こちらからの攻撃を避けるとか、障害物の回避すら頭からなくなっている印象があるんだ」


 俺も同じことを考えている。

 だから、魔法も相手の動きを計算して……など、頭を使う必要がない。


「だから、地面を緩ませて落とし穴とか、目に見えて分かるほどの炎の壁を作っても、やつら突っ込んでくるんだよ」

「なるほど……」


 彼女は模擬戦闘の時に透明な炎を好んで使う。

 その原型がそれらなのだろう。


 だが、人間は集団熱(s t a m)狂暴走(p e d e)中の魔獣とは違う。

 だから、目に視えない炎に変えた……そんなところか。


「6歳から7歳ぐらいがそれだったか。だけど、それって結構、無駄に魔法力を消費するんだよ。聖騎士団や魔法騎士団も、それよりは準備に時間はかかるが、大規模複合魔法の方がいっぺんにまとめて処理できるとも言っていたからな」

「確かに思うところに突っ込んでくるとも限らないからね」


 視界を埋め尽くすほどの魔獣たちだ。

 全て対処できるように、できるだけ横に長く、広範囲の魔法にしたことだろう。


 だが、魔獣が来なかった箇所は無駄になってしまう。


「7,8歳ぐらいまでは、聖騎士団の複合魔法の完成を待つようにしたかな。その方が魔法力の節約もできるって気付いたから。それに聖騎士団や魔法騎士団も手柄を立てる必要があることも知った」


 この辺りが、大神官が言っていた、他の人間にも花を持たせるようになった部分か。

 だが、8歳まで?


「8歳の中旬だったか? 聖騎士団や魔法騎士団の人間が信じられなくなった時期があった。その頃は、もう聖騎士団長の魔法の威力を越える魔法も使えるようになっていたからな。広範囲の魔法を効率よく使うようになった」


 ……8歳の中旬?


 アリッサムで発生した集団熱(s t a m)狂暴走(p e d e)は9歳だと聞いているが、それ以外にも何かあったということだろう。


「だけど、その後、アリッサムで集団熱(s t a m)狂暴走(p e d e)が起きて……、結局、一人では限界があるって気付いたんだよな~。だから、私が大きな魔法を使って、聖騎士団や魔法騎士団には打ち漏らした魔獣の相手を頼むようになった」


 そこで、さらに戦い方を変えたらしい。

 打てる手が多いというのは強い。


 セントポーリアと似たような手段ではあるが、周囲にいる人間たちも戦い慣れているために、中心となる人間の負担は全く違う物となるだろう。


「それで、12……、いや、13歳になった辺りだったかな? ()()()()()()()()()()を知って、身体強化を聖騎士団や魔法騎士団にかけて、私は補助に回るようになったんだ。戦線が崩れそうなところは、私が魔法を使ったりして助けたりもした」

「ほう?」


 チームプレー……。

 その言葉に懐かしさを覚えた。


 久しく聞いていなかった言葉でもある。


「先輩?」

「いや、懐かしいと思ってね。ああ、そうか。貴女は、主人と同じくソフトボールをやっていたんだったな」

「生徒会と二足の草鞋になったから、中途半端だったけどな。連係プレーとかお互いの失敗をカバーするとか、これまでそんなことをしたこともなかったから、すっげ~、楽しかった!」


 そう言って拳を握りしめる。


「ああ、でも、生徒会の方も楽しかったんだ。上に立って、誰かの意見を聞くとか、何かを成すための指示の出し方なんてこれまで考えたこともなかったからな。あれはあれで勉強になったと思っている」


 その言葉に悔しさを感じさせる後ろ向きな感情はなかった。


 ソフトボールも生徒会も、楽しんで後悔もなかったのなら、彼女の言う二足の草鞋も悪くはなかったのだろう。


集団熱(s t a m)狂暴走(p e d e)については、こんな所か。詳細がいるなら書き出すぞ? 先輩たちは記録が好きだもんな?」

「いや、結構。大体のことが分かれば良かったんだ」


 やはり、セントポーリアの対処法に似ていることが分かった。

 それだけで良い。


 予算とか、人員などは、今回、必要はないのだ。


「だが、貴女が頑張る前はどうだったんだろうな?」


 これまでの話を聞いた限り、アリッサムはフレイミアム大陸の集団熱(s t a m)狂暴走(p e d e)の兆候段階で、全て第三王女殿下が中心となって潰していたらしい。


 だが、それは彼女が4歳になって以降だ。

 それ以前は王配がその役目を担っていたんだろうか?


「聖騎士団や魔法騎士団と……、先代王配殿下だな。女王陛下の父親だ」


 これまで、自分の父親に対しては「王配」としか呼んでいなかった。

 だが、「先代王配」には「殿下」が付くらしい。


「ああ、なるほど」


 そこで普通に納得しかかって……、気付く。


「……なるほど」

「なんで、2回言った?」

「いや、()()()()()()()だったのかと思っただけだよ」


 俺がそう言うと……。


「なんで、分かるんだ?」


 緑髪の女性は、その綺麗な顔の眉間に不似合いな皺を寄せる。


「王族の系図は頭に入っている。何が役に立つか分からないからね」


 アリッサムの先代女王であったエナレス=スティーラ=アリッサム陛下は、スクリア=カミル=アリッサム女王陛下に譲位をして間もなく、亡くなったと聞いている。


 第二、第三王女殿下たちだけでなく、第一王女殿下が生まれる前の話だったそうだ。


 そして、その配偶者であったダルシア=ラマンカ=アリッサム王配殿下は、第二、第三王女殿下たちが4歳の頃に亡くなっているはずだ。


 それは、先代王配殿下が亡くなったから、魔獣と戦えない王配ではなく、その娘である第三王女殿下が集団熱(s t a m)狂暴走(p e d e)に引っ張り出されたと受け取れなくもない。


 尤も、そんな単純な話でもないのだろうが。


「先代の王配殿下について伺っても良いかい?」


 俺が知っているのは、書類上の話だ。

 尤も、彼女も4歳の時に亡くなっているのだから、そこまで覚えてはいないだろう。


「先代女王陛下に心酔していた頼りになる()()()()


 だが、思いの外、具体的な言葉が返ってきた。


「あのじーさんは、『アイツが愛した全てを守るためだけに俺は生きている』という重っ苦しい言葉が口癖だったよ。まあ、実際、強かった。あのじーさんが使う基本魔法の火魔法(Fire)には、今も届く気がしない。私の最大級の火属性魔法でも互角になるかどうか……」

「それは凄い」


 基本火属性魔法相手に、最大級火属性魔法でも届く気がしないなど、相当な魔力差がなければありえない。


 俺が知る限り、最強級の魔法使いがその足元に及ばないほどの魔法というのは想像もできないが、少なくとも、この魔法国家の第三王女殿下は本気でそう思っているようだ。


 4歳児視点だったからだと思いたいが、こと魔法に関しては、彼女が見誤るともあまり思えなかった。


 しかも、魔法国家は出自に関係なく、その魔力の強さでもって王配の座に就くことも珍しくない。

 大袈裟、誇張だと思わない方が良いだろう。


 同時に、それだけの御仁にお会いすることができなかったことは、残念だとも思うのだけど。

今話で語られている第三王女殿下の「本能的な恐怖を味わった体験」と言うのは、902~904話で主人公に向けて語られております。

それを助けるために、第二王女殿下が後に聖騎士団長になる男に向かって、花瓶を振り下ろした話でもあります。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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