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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 護衛兄弟罰ゲーム編 ~

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初めてのスタンピード

「十年前、聖騎士団も魔法騎士団もいない時にアリッサム城下の近くで集団熱(s t a m)狂暴走(p e d e)は起こった。そして、知らせを受けた聖騎士団が戻るまでアリッサムの第三王女はたった一人でその場を守り続けたんだ」


 その当事者は、その事実を淡々と告げる。


 それが、俺が知っている集団熱(s t a m)狂暴走(p e d e)と同じ規模だったかは分からない。


 だが、9歳の俺でも、初めて見たあの集団熱(s t a m)狂暴走(p e d e)は身が竦む思いだった。


 絶対的な(セントポーリア)強者(国王陛下)の背に守られた状態でもそうだったのだ。

 たった一人でその場に立つことになった8歳の少女はどれほどの恐怖だっただろうか。


「よく……、そんな真似を……」

「そんな真似って言うけどさ。他に手段はなかったんだ。私にできたのは、リアに聖騎士団と魔法騎士団に連絡して国の有事だから至急戻れと連絡してもらうこと。それと酒場に飛び込んで魔獣の群れが迫っていること、避難指示を伝える。そんな時間しかなかったからな」


 確かにたった2時間(二刻)でできることなんて限られている。

 寧ろ、短時間でそれほどのことができただけでも良かったと言えばそうなのだろう。


「王配はその時、何をしていた?」


 2時間で城下に到達することを予測しておきながら、その全てを娘に押し付けた男は?


「さあ? あの時、あの男が何をしているかなんて確認する余裕もなかったからな」


 本当に興味なさそうな声でそう口にする。


「王配は……、仮にも元聖騎士団長だろう? 戦う力を持っていたはずではないか?」


 それとも、引退したら、王族となればその責任はなくなるとでもいうのか?

 いや、王族だからこそ、国を守る責務はより重くなるはずだ。


 この考え方は、俺が他国の人間だからだろうか?


「あ~、王配は()()()()()()()()んだよ。普通の魔獣すら退治できなくなったらしい」

「それは本人がそう言っていたのか?」

「魔獣退治についてはそうだな。あの頃の王配は、既に魔力が分かりやすく弱っていたから」


 魔力が……、弱っていた?

 ある程度、年を重ねればそうなることもあるだろう。


 だが、加齢以外の理由から、()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「実際、私たちが生まれた頃には、目に見えて魔力が弱体化していたと聞いている。周囲からは子供を作る時に気合が入り過ぎて、一緒に魔力を注ぎ込み過ぎたと皮肉られていたこともあったそうだ」


 それはどこからの噂なのだろうか?

 少なくとも、自分の感覚ならば、未婚の女性王族の耳に入れるようなことではない。


 だが、幼い頃から酒場に出入りしていれば、そんな下世話な話を聞く機会は多々ある気もする。

 特に、周囲が高位貴族や王族に対して敬意を払わない環境なら尚更だろう。


 他者の不幸、不祥事、醜聞を喜ぶ人間は多い。

 自分よりも高みにいる人間を見下せる機会があれば、根拠のないことであっても喜んで広める人間も。


 そして、無関係な他人というほど遠くなく、身内と呼べるほど近い距離にいない相手に対する話題としても王族の欠落や瑕疵などの欠点(弱み)は適度な娯楽ともなる。


「だが、それでも()()()()()()()()。魔力感知に関しては、アリッサムが消失した時期でも国内随一だったと思っている」


 魔力に対する感覚……識覚は、ある程度、魔力の強さに左右されると言われている。


 だが、魔力が強ければ識覚が優れているというわけでもない。

 魔力が強くても鈍い人間は鈍いし、魔力が弱くても鋭い人間はいる。


 いろいろと難があるように聞こえる王配が()()()()()()()()()()()()()のも、ソレがあったからなのかもしれない。


 単純に情によるものだと言われるより、納得できる理由である。


 尤も、それを王配自身も承知していたからこそ、自分の代わりはいないとばかりに、傲慢に振舞っていた可能性もあるが。


「だから、あの時、あの場で戦う力を持つ王族は第三王女しかいなかったんだ。女王陛下と第一王女殿下は結界の維持をしなければならかなったし、何より二人は模擬戦闘を含めて戦闘経験がない。第二王女の事情は、先輩も知っての通りだ」


 第二王女殿下……、真央(リア)さんは魔力が強くても、長い間、普通の魔法が使えなかった。

 攻撃魔法の真似事ができるようになったのは、最近だ。


 その時代の集団熱(s t a m)狂暴走(p e d e)には対抗できなかったことはよく分かる。


 時間がない中、第三王女殿下がとった手段は単純なものだった。

 城下に向かって襲い来る魔獣たちを、魔法でもって蹴散らす。


 剣術という物理攻撃も可能なセントポーリア国王陛下と異なり、彼女にあるのは魔法だけだ。

 そうなると、魔法力が尽きれば、ごく普通の少女と変わらない。


 だから、彼女自身も言っていた。


 ―――― ()()()()()()()()()、第三王女は()()()()()()()()()()()()()()()


 それは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということになる。


 できたのは時間稼ぎ。

 聖騎士団が戻るまでの間しか、彼女は守ることができなかったらしい。


 だが、俺はセントポーリア国王陛下とアリッサム女王陛下の会話を聞いている。


 ―――― 聖騎士団と魔法騎士団は呼び戻せなかったのですか?


 ―――― 私は戻すようにお願いしたのですが、王配がそれを取り消したらしいのです


 この違いはなんだろう?


「第三王女殿下は、聖騎士団が戻るまでたった一人で戦い続けたのか?」

「そうらしい」

「? らしい……とは?」


 「らしい」は推量や、伝聞に使われる助動詞だ。

 それをこのタイミングで使われたことに疑問が生じた。


「第三王女は、魔法力枯渇でぶっ倒れてからの記憶がないんだよ」

「記憶が……ない?」

「でも、最終的には生き残ったし、その後、聖騎士団のやつらによって助けられたってことはそう言うことだろうなって話だ」

「それは……」


 別の可能性があるということではないか?


「その当時の聖騎士団長が第三王女を抱えて城に戻った。その時、第三王女の魔法力は枯渇し、身体も傷だらけで意識不明の重体だった。そうなると……、それ以外の可能性って考えられないだろ?」


 俺が疑問を持っていたことに気付いたのか、そんな風に確認してきた。


「…………第三王女殿下が()()()()()()()()()()()()()()()は?」

「あ~、極限状態にはなったから、多分、引き起こしている。ああ、引き起こしたから魔法力が枯渇していたのかもな。でも、身体がズタボロだったのは確かだ。魔力の暴走で肉体が損傷することはないだろ? だから、当時の聖騎士団長に助けられたことは確かだと思う」


 既に終わったことだ。

 そして、当人は全く気にしていない。


 だが、どうしても何かが引っかかる。


 あの時、セントポーリア国王陛下とアリッサム女王陛下の会話を聞いてしまったから。


 だが、当事者がいない今となっては、どうしても推量、憶測以上の話にはならないだろう。

 そして、今は自分の考えを押し付ける時ではない。


「毎回、集団熱(s t a m)狂暴走(p e d e)の兆候が出たら、そんな風に第三王女殿下が一人で魔獣の群れに突っ込んでいたのかい?」


 俺がしなければならないのは、集団熱(s t a m)狂暴走(p e d e)の対策を聞き出すことだけ。

 それ以外は余分なことである。


「いや、魔獣の群れに突っ込んだのは始めだけで……、確か、ヒューゲラ? そこで魔法騎士団のやつらから身体強化されて……、ああ、うん。あの時、確かに魔獣たちの群れの中に突っ込めって言われたな。最初の王配の指示通りだった」


 記憶を探りながらの答えだった。

 十五年も昔のことだ。


 覚えていなくても仕方はない。


「よく分からないまま、魔獣たちが集まってるところに向かって魔法をぶちかました。その結果……、まあ集団熱(s t a m)狂暴走(p e d e)の前兆段階でも、魔獣は怒るよな? 仲間をいきなり殺され(やられ)たんだから」


 つまり、何の説明もなく、いきなり、実戦。

 大神官から聞いてはいたが、本人の口から語られても、信じ難い話である。


「さらに、まだ魔法の使い方の配分を考えずに使いまくったから、魔法力が枯渇した。あの時も、魔法騎士団長に抱えられての帰城だったな」


 周囲の助けも碌になければ、魔獣に対して魔法を使うしかない。


 しかもそれに対する助言もないのだ。

 恐ろしい魔獣を前にすれば、全力を尽くすしかなかっただろう。


 俺が集団熱(s t a m)狂暴走(p e d e)に同行した時は、ありがたいことに周囲からの指導や教示の言葉はあった。


 向かってくる魔獣がどんな攻撃をするとか、何が苦手だとかそういった特性は、対応したことがなければ分からないからだ。


 お互いに効果的な対策を見つければ、すぐにそれも叫んだ。


 集団熱(s t a m)狂暴走(p e d e)の狂化によって通常とは違う魔獣に変質していても、これまでの対策は全く効果がないとか、少しは意味があるとか、そういったことぐらいは分かる。


 だが、この王女殿下にはそれすらなかったのだ。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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