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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 護衛兄弟罰ゲーム編 ~

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自然災害の発生直前

「第三王女殿下の戦い方について、九十九さんからはどう報告されていますか?」


 どうやら、大神官は魔法国家の第三王女殿下の話を続けたいらしい。

 この方にしては意外な話題の選択だ。


 これまでは主人に関して問われることが多かったため、そこが少し気になった。


「状況に応じた戦い方ができる方だと伺っております。弟の拙い指示にも従ってくれるため、やりやすいと言っていました」


 普段の言動から、第三王女殿下が指示して、それに弟が従う形になると思っていた。


 弟は魔獣戦の経験が浅い。

 だから、慣れている彼女の方が指示するのだろうと思っていたのだ。


 だが、実際は逆らしい。


 何でも、お互いに習ってきたことが違い過ぎて、それぞれが出した提案をすり合わせた結果だと言っていた。


 そうなると、恐らく、弟の意見が採用されやすくなったそうだ。


 実戦経験がなかったため頭でっかちではあるのだが、その知識の根幹は情報国家の王族から与えられたものである。


 さらに、誰に似たのか、調べ物が好きで、ローダンセに来る前に、付近の動植物についてしっかりと調査していた。


 行く前に、時間が有り余っていたこともあるだろう。


 二倍の情報が集まったためにかなり分厚い資料が出来上がり、新たな図鑑を編成をすれば、そこそこの小金稼ぎができると思っている。


 どこかの機械国家の王子が喜んで買うだろう。

 ヤツは中身を全く覚えないのに動植物の図鑑を読むことが好きだからな。


「九十九さんは随分、信用を得ているようですね」

「はい、有難いことにそのようです」


 愚弟の話では、初対面で胸倉を掴まれたらしい。

 俺の関係者だという理由だけで。


 しかし、その後、ヤツが命を救ったためか、以後の関係は良好だ。

 これは愚弟が彼女の胃袋を完全に捉えているということかもしれない。


 いや、それだけではないか。

 面倒で難解な感情を向けているというのが正しいだろう。


 そして、それを当人も自覚しているようだ。


 主人の近くにいる人間同士での色恋沙汰は勘弁していただきたいと思っているが、こればかりは理屈ではなく、寧ろ、自然な感情とも言える。


 近くにいる好感を持てる異性に心を向けるのは何もおかしなことはない。

 人間らしいとさえ思う。


 愚弟のように色恋を通り越してもはや執着だろうというような話はどうかと思うが、それについては自分も同じ種類の人間だという自覚はあるため、何も言えない。


 心というのは、他者だけでなく、自分のものですら思い通りにならないらしい。


「私が初めてあの方の魔獣討伐をお見かけしたのは、アリッサムより南の地ヒューゲラでした。魔法騎士団に連れられてきたようです。私が上神官時代……年齢は8歳だったと記憶しているので、あの方は恐らく4歳だったことでしょう」


 愚弟ならこの時点で突っ込んでいただろう。


 この世界は病院も診療所も存在しない。

 そのために、幼児の死亡率は圧倒的に高いのだ。


 だから、どの国でも王侯貴族の子女は5歳までは外部にお披露目をしないことがほとんどだと聞いている。


 その年齢に満たない時代に外に連れ出されている王族。

 それも、ただ外に連れ出されているだけでなく、魔獣の討伐隊に組み込まれているのだ。


 それだけで普通ではないことが分かる。


 愚弟から聞いた4歳の初陣というのは、到底、信じられることではなかったが、当人の記憶違いでもなかったらしい。


(くだん)の精霊族がその地で目撃されたと聞き、巡礼がてら足を運んだ時のことです」


 何故、突っ込まなくても突っ込みたくなる箇所が増えていくのだろうか?

 突っ込まないからか?


 先ほど、この大神官が口にした言葉だけで、その魔獣討伐隊が通常のものではないことが分かってしまうではないか。


―――― その目撃証言のある地に向かうと、何故か、集団熱(s t a m)狂暴走(p e d e)発生目前の場所


「酷い戦略……、いえ、作戦でした。震えていた幼子(おさなご)に向かって、魔法騎士団の者たちが次々に強化魔法と思われるものを施し、そのまま、迫りくる魔獣たちの群れへと走るように指示したのです」


 言い直したのは、戦略と呼べるほどのものではなかったからだろう。

 控えめに言っても、頭の悪い特攻の指示だ。


 尤も、その先陣を切る務めを仰せつかったのが、魔法国家の王族ならば、それでも圧倒的な強さを持って、目の前の魔獣たちを叩き伏せることだろう。


 その王族が、まだ幼児でなければ。


「そのまま駆け出した幼児は炎を纏って魔獣の群れに突撃を図りました。そして、その後は足を止め、次々に大規模な魔法を放っていました。一緒にいた魔法騎士団はそこから離れた場所で、その魔法から逃れた魔獣たちを掃討する役目だったようです」


 能力向上の補助魔法は、最初の一度のみ。


 そこから更に大規模魔法を連続で放つ。

 それだけでも普通なら息が切れる。


 しかも狂ったように自分へと向かってくる魔獣たちが相手なのだ。

 極度の緊張感の中に身を置いていただろう。


 その感覚に覚えがあった。


 自分は良い。

 腹を括るまでは、周囲から守られた。

 そんな余裕と優しさはあったのだ。


 だが、その第三王女殿下は?

 俺の初陣よりも半分ほどの年齢だった幼児は?


 この話だけではその心情は読み解けなかった。


「いくら、精鋭が揃っている魔法国家の魔法騎士団であっても、あんな戦い方では、勇往邁進した幼子がすぐに潰れてしまうと思いました。その当時の私は、それが王族だと夢にも思っていませんでしたから」


 それはそうだろう。


 真っ当な考えを持つ国なら、まさか、そんな愚策を立てて、貴重な王族を危険に晒すなんて思いもしない。


 いや、真っ当な思考を持ち得ないから愚策を立てたのかもしれないが、その話はそうではないのだ。


 まるで、貴族の格上潰し(足の引っ張り合い)である。

 自分では手が届かなければ、相手に堕ちてもらう愚痴無知で軽挙妄動な思考。


 それでも、幼児相手にやるようなことではない。

 仮に上からの命令であっても、従う方も愚かだ。


 王侯貴族は日々戦っている。

 騙し討ち、駆け引き、情報操作、思考誘導、同調圧力、権力乱用などが日常茶飯事な心理戦の世界。


 だが、その土俵にも立てない庇護の対象を叩き潰すなど、相当、性根が狂っている。


 魔獣たちと同じように濃い大気魔気を浴びすぎて、頭のネジが108本ほど緩むどころか捻じれ切っていたのかもしれない。


「私は本務遂行を優先したため、その戦いを最後まで見ておりません。ですが、その二か月後に、ピラカンサでもお見かけしたので、ご無事であったことは確認しております」


 大神官……、当時、上神官のこの男は、神気穴を塞ぐこと(根本的な対処)をしたらしい。

 大気魔気が濃くなり過ぎなければ、狂う魔獣も減る。


 それ以上増えることがなくなるため、その時点で狂っている魔獣たちさえなんとかすれば良くなると言うことだろう。


 そして、今度はピラカンサでも同様のことがあったようだ。

 他国の集団熱(s t a m)狂暴走(p e d e)に対して、魔法国家の王族の派遣。


 その国はさぞ、魔法国家に感謝したと推測できる。


 自分たちの手の打ちようがないほど恐ろしい自然災害。

 それを、貴重な王族を遣わして、対処してくれるのだ。


 少しずつ、その国の王族は集団熱(s t a m)狂暴走(p e d e)に対応できず、魔法国家頼りになっていく。


 さらに大気魔気の調整も重要視していないのだから、魔法国家がいなくなれば立ち行かなくなるだろう。


 そうして、魔法国家は感謝し、頼られる存在となる。

 王位に就く可能性が少ない幼き王女を犠牲にして。


 そんな風に思考を組み立ててしまうのは、俺が捻くれているからだろうか?


「その後も何度か、遠目から拝見する機会がありましたが、そのほとんどが火の地の集団熱(s t a m)狂暴走(p e d e)が発生目前の場所ばかりでしたね」


 一度や二度ではないなら、それはもう偶然ではない。

 だから、大神官も話している。


「その間に、第三王女殿下も少しずつ戦い方が変化し、突出の数を減らして、魔法騎士団や聖騎士団の大規模融合魔法の詠唱の時間稼ぐなど、それぞれの騎士団に花を持たせるような姿も見られるようになりました」


 花を持たせる……、大神官の目にそう映っていたのなら、そうなのだろう。


 魔法騎士団だけでなく、聖騎士団すら第三王女殿下によってその栄誉を分け与えられるようになっていく。


 それを見た()()はどう思っていたのだろうか?

 同じ舞台上に立つこともしない小者はどんな気持ちで光り輝く主役の成長を見続けたのだろうか?


 自分に理解しがたい思考の持ち主の考えなど、生涯知る由もないのだけど。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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