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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 護衛兄弟暗躍編 ~

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一種の救済

『お前自身はどう考えるんだ?』


 護衛弟が確認する。


 彼は本当に高田栞(わたし)が最優先だ。

 高田栞(わたし)の望むように、動こうとしてくれる。


 できないものはできないとも言ってくれるけど、まずは、意見を聞いてくれるのだ。


 甘い。

 本当に甘い。


 だから、高田栞(わたし)のように甘い考えになってしまうのだ。

 何があっても、多少の無茶なことでも、この護衛兄弟たちがなんとかしてしまうから。


 いや、自力でなんとかしている面もあるんだよ?

 だから、余計に(たち)が悪いと言える。


 高田栞(わたし)が、何でもかんでも、有能な護衛に甘えてばかりの無力な御令嬢ならば、彼らの心労は今の三分の一で済んだことだろう。


「ん~? ここでのやり取りを完全に覚えていられない現実の高田栞(わたし)がどう判断するかは分からないけれど、回避できるならそれが一番だよね? 聞いた話だと、被害は甚大だって感じだし」


 いくら自分に直接関係ないことにできてしまう話でも、知ってしまった以上何の手当もしないというのは、流石に心に何かを落とす気はする。


 高田栞(わたし)が覚えていなくても、(わたし)は刻み込んでいるのだから。


「ただ同時に、これってウォルダンテ大陸の問題だから、変に口出せないよね? ……とも思っている。それぞれの国が背負うものがあるでしょう? 他国の人間がしゃしゃり出るのも駄目だよね?」


 国の面子みたいなものはあるだろう。


 いくらセントポーリア国王陛下の血を引いていても、「聖女の卵」となっても、高田栞(わたし)の本質は間違いなくの庶民である。


 国のピンチに立ち上がって戦うなんて、勇者や英雄に任せるものだ。

 高田栞(わたし)が動く理由は全くない。


 勿論、シオリ(ワタシ)の影響か、持つべき者の責務みたいな考えも浮かんでいる。


 王族の責任の放棄、危難に気付かず何の対応もしない。

 それを知っていて逃げるなんて、そんなことは許されない。


 普段、守られているのは、衣食住に困らない生活をできているのは、その責務を果たすために生かされているだけだ。


 魔力が強いのは、魔法力が多いのは、戦う力を持っているのは、国の危難をその力で回避するためである。


 その教育を少なからずミヤドリードから教わっていたシオリ(ワタシ)としては、怖いけれど、見捨てられないというのだろう。


 これがセントポーリア……、いやシルヴァーレン大陸での話だったら、シオリは迷わず、護衛兄弟たちに泣きついている。


 問題はウォルダンテ大陸だからだ。


 変に関われば、却って厄介事に巻き込まれることになるのは、シオリ(幼いワタシ)高田栞(成人したわたし)も理解している。


 だから、判断ができない。

 これがわたしの偽らざる本音である。


『国の事情とか、立場とか考えるな。逃げる(ここにいる)か、戦う(戻る)か。好きな方を直感で選べ』


 直感とな!?


「戻りたい」


 それなら、迷わず答える。


「見知った人がそこにいるのに、自分だけが助かろうとするのは、高田栞(わたし)じゃないでしょう?」


 今いる場所にいれば、高田栞(わたし)は助かる。

 でも、あの国にいる人たちはどうなる?


 トルクスタン王子に伝えれば、高田栞(わたし)の友人である双子の王族たちは何も伝えられずに逃がされるとも思っているけど、それ以外の人たちは?


 高台にある城はともかく、城下は蹂躙されてしまう可能性があるだろう。


「こんな面倒な女の婚約者候補となってくれたあの人は、絶対に逃げないだろうからね」


 城下の貴族街にあるあの家は……、あの人は地下にいるからもしかしたら大丈夫な気がするけど、それでも、魔獣が国を襲うなら見捨てられる人ではないだろうし、王族からも「国を守ってお前は死ね!」みたいな酷い命令が出される可能性はある。


 そうなると、いつものようにたった一人で……、いや、付き従ってくれる精霊族と二人で王族たちすら持て余すような脅威の前に立つことになるのだ。


 そこまで容易に想像することができた。


 ああ、なんだ。

 思ったよりも、高田栞(わたし)は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()らしい。


 そこに少しだけホッとした。


『兄貴、オレは主人に伝えた方が良いと思う』

『要検討だな』


 護衛弟の言葉に対して、護衛兄は笑顔でそう答えた。

 無視ではなく、考えてくれるだけでもありがたいだろう。


 後は、現実の高田栞(わたし)次第だ。

 ひたすら甘い護衛弟はともかく、護衛兄は手強い。


 何も知らない高田栞(わたし)がどこまで説得できることやら。


 昔の護衛兄(ユーヤ)はあんなにも可愛かったのに……と、シオリ(ワタシ)の記憶をまさぐった時にあることに気付いた。


 昔の護衛弟(ツクモ)と、高田栞(わたし)婚約者候補(アーキスフィーロさま)はちょっと似ているのだ。


 顔は全く違うから雰囲気?

 特に中学時代の婚約者候補(アーキスフィーロさま)はよく似ている。


 あまり話さないし、表情も変わりにくいし、常に怒っているのかと聞きたくなるほど雰囲気も尖っていた。


 今の護衛弟(九十九)は一体、どんな進化を遂げたのか?


 小学校入学式時点では既に、今の原形がある。

 昔の護衛弟(ツクモ)はどこに消えた? と聞きたくなるぐらいに。


 尤も、その変化を高田栞(わたし)が知ることもないのだろうけど。


 そして、それはこの目の前にいる紅い髪の青年もそうだ。

 何の魔法を使ったのか? と思うぐらい変化している。


 いや、事情は予想できるよ?


 わたしは、シオリ(ワタシ)から消されてしまった記憶も、高田栞(わたし)が忘れていることも記憶している存在だから。


 でも、それをこの紅い髪の青年自身が言ってくれるとは思わないんだよね。


 この人には時間がない。

 だから、焦って行動した。


 その結果が、今のこの胸の穴だ。


「すたんぴ~どの話よりも、あなたに聞きたいことがあるんだけど、良い?」


 すたんぴ~どの方はなんとなく、理解したから良い。

 そして、その判断を護衛兄に丸投げする方向にした。


『聞くだけなら』


 それは答えてはくれないこともあるってことだろう。

 でも、この人が答えてくれないなら、わたしは一生分からない。


 だから、返事はなくても、聞いておこうとは思った。


「あなたは、自分で死ぬことは考えたことはないの?」

『……なかなか酷いことを言うな』

「いやいや、何度も言っているけど、あなたに死んで欲しいわけじゃないんだよ?」


 寧ろ、生きて欲しいと願っている。

 胸の穴がその証だ。


 魔法力が減って、自分の異常に気付きながらも最後まであの祝詞を止めなかったのは、高田栞(わたし)もそう思ったからだろう。


()()()()()()()でしょう? だから、どうにもならない現実から逃げたくて死のうと思ったことはないかなって思ったんだよ」

『本当に死が救済になるなら考えたかもしれんが、何の救いにもならん。水差しの封印が、俺に変わっただけだ。仮にこの器が失われても、別の器になる上、状況は確実に悪化する』


 紅い髪の青年は、自身の左手の甲を撫でながらそう言った。


「悪化……」


 なんとなく、そんな気はしていたけれど、やはり、良い方向には転がらないらしい。


『俺が死ねば、腹いせにこの魂が壊された上、()()()()()()()()に取り憑く可能性が高い。器としては、神力を持った俺の方が良いが、破壊の気質としては奴の方が上だ。馴染みも良いはずだからな』


 その言葉で、この紅い髪の青年が死んだら、次はどの器が選ばれるのかが分かってしまう。


『ただでさえ面倒な神が受肉する。それも権力のある人間に成り変わって……だ。どうなると思う?』

「わたしが予想している人物に変わってしまえば、『導きの聖女』と呼ばれる高田栞(わたし)が真っ先に狙われるだろうね。あの迷いの森に行く前に襲撃されたものが、様子見ではなく、大規模になるかな?」


 一国の王が本気で狙うなら、もっと動員するだろう。


 あれは、恐らく様子見だった。

 「聖女の卵」とその周辺の人間たちの実力を図るために。


 ……多分。


 でも、あれはミラージュが隠れたままでいるための人数でもあった。

 隠れることを止めたなら、総力戦も可能となるのだ。


 それも神さまが受肉した人間を先頭にして。


 尤も、あの神さまが人間の思い通りになるとも思っていない。

 受肉は恐らく、当人の肉体だけではなく、意識も奪う。


 下手すれば、作り替えられて元の形は残らない。


 そうなれば……、ミラージュと言う国はどうなってしまうのだろうか?


『最悪なのは、高田栞(お前)の友人である双子だな。魔力の馴染みが良すぎる上、器としても優秀だろう。俺よりも真価を発揮するかもしれん』


 「大いなる災い」の素となったのは、魔法国家の王族の魔力だったと思われる。

 それならば、あの双子の王女殿下たちの魔力に近しいだろう。


『ああ、これまでの行動からそこの犬どもって可能性もあるな。高田栞(お前)の魔力に馴染んでいるだけでなく、高田栞(お前)に最も近しい存在だ。尤も、取り憑いても、器としては強度が足りないとは思うがな』


 その言葉で、この紅い髪の青年が、この護衛兄弟の出自を掴んでいないことが分かる。

 神力を持っていなくても、王族の血を引いている護衛たちなら、耐えられる可能性はあるのだ。


 尤も、そんな未来は望んでいない。


 だから、これで良い……、はずなのに、どこか割り切れないのは、高田栞(わたし)の意識だけではなく、シオリ(ワタシ)の記憶も邪魔しているからなんだろうね。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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