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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 護衛兄弟暗躍編 ~

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魔獣の進化

 わたしが恐れていた日。


 それが、「闇陽(あんよう)」と呼ばれた日だった。

 惑星(ほし)から光が消え、闇に染まる日。


 そして、その日に神さまと交わった人間は、神さまとの子を産みやすくする(はら)に作り替えられるとも聞いていた。


 それならば、神力所持者であるわたしが警戒するのも当然だろう。


 だが……。


『境界喪失の日は、創造神が眠りにつく時間だ。煩いことを言う上司が見ていないのだから、人間(玩具)よりも、同じ存在である神を狙う方が良いだろう?』


 紅い髪の青年はそう言った。


「創造神が眠りにつく日?」


 そんな話は聞いていない。


 「神の影」さまも言わなかったし、大神官さまからも聞かなかった。


『違ったか? ()()()()()()()()()から、境界が消え、人界、神界、精霊界、聖神界、聖霊界が一つになるという話だった覚えがある。何分、読んだのはかなり昔だ。しかもボロボロの書物だった。絶対ではないが、そこまで外れてもいないと思っている』


 神の影さまを思い出す。


 ……惰眠を貪る。

 言い得て妙な話だと思った。


「創造神さまって、寝ないの?」


 どちらかというと寝るイメージしかないのは、神の影さまのせいだと思う。

 神の影を名乗る少女の姿をしたあの人は、ただひたすらに寝ていた姿を見せてくれたから。


『寝られるわけないだろ? 油断すると、黒羽の神たちが信じられないほどアホ……、いや、勝手なことをするんだぞ? 神扉の管理を人類に任せるのもそんな理由からだ』


 黒羽の神……、黒い羽根を背負った一般的な神のことだ。

 だが、その数が多すぎて、どの神がどんなアホなことをしているかが分からない。


『そんな神々にとって、創造神の目から逃れ、羽目を外せる千載一遇の機会をたかが人間(玩具)に使うなんて勿体ないことをするはずがないだろう?』

「世の中、玩具に手を出したい物好きもいるかもしれませんよ?」


 実際、そのために「封印の聖女」さまが苦労することになったのだから。


『神の意思(欠片)が入っている玩具なら、少しぐらいは可能性があるかもしれんが、数少ない()()を狙える機会だからな。そっちに行くと思う』


 つまり、わたしよりも導きの女神さまに行くってことか。


 単純に境界が無くなるってだけだと思っていたけれど、監視の目がなくなるなら、確かにそちらの方が良いのかもしれない。


 一応、大神官さまに確認しておく必要はあるけど、少しだけ、気は楽になった。


『過去のことを今更、ぐだぐだ言っても無駄だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 わたしはそれが、何を意味しているのか知っている。

 その中身が、今、どんな形で、どこにあるのかも。


「この世界は魔法という奇跡があるのに、時を戻すことはできないんだね」


 だから、それだけに(とど)めた。


『時戻しは、神の領域だ。手を出さない方が良い』


 ……時戻し、一応、あるのか。


「手を出せるとも思っていないけれど、SF小説のように、タイムパラドックス防止のための警察みたいな組織でもあるの?」


 時戻しに手を出さない方が良いってことは、何らかの制裁とか神罰があるのかもしれない。


『そっちを出すとは、なかなか通だな。有名なネコ型ロボットに出てくるものか、その原作者が描いた別のSF漫画が出てくるならまだ分かるが』

「ネコ型ロボットはともかく、別のSF漫画の方は知らないな~」


 有名なネコ型ロボットの方は知っている。

 昔、友人宅で観た映画版で、時間犯罪を追う警察組織が出てきたから。


『この世界では時間犯罪に目を光らせている警察のような組織は存在しないが、時間に干渉すれば、間違いなく神々に目を付けられるぞ』

「わあ……」


 そうだよね。

 そうなっちゃうよね?


 禁忌に触れる(他者と違うことをする)人間なんて、暇を持て余している神さまはにとっては大好物のはずだ。


『そんな夢のような手段を探すよりは、真っ当な方法で集団熱(s t a m)狂暴走( p e d e)に対応した方が良いとは思う』

「いや、流石に時を戻すことまでは考えていなかったけど」


 時を戻しても、多分、無駄だと思うしね。


 半年前から兆候があって、ゆっくりと魔獣たちは育ってきたのだ。

 変質……、ある意味、大気魔気が濃い環境に適応するために進化したとも言える。


 そんな魔獣たちに様々な手段で対応していくという、これまでの人類はそんな歴史を積み重ねてきたのだ。


 今回、その教訓を生かしていないだけということになる。

 つまり、対処していない人類が悪いということになるだろう。


 原因があって、過程があって、その結果となる。


 そんな流れを人間にとって都合が悪いからという理由だけでひっくり返そうなんて、因果関係を無視するようなことを神さまは許さない気がする。


「それに、本来、ウォルダンテ大陸にある国々が考えるべきことだよね?」


 何を考えて、対抗策を取っていないのかは分からない。

 でも、城下の人たちは、魔獣の変化に気付いていても、それがどんなに危険かは知らないのだと思う。


 話を聞く限り、そんなに頻繁に起こるものでもないっぽいし。

 少なくとも、高田栞(わたし)は3年間、一度も聞いたことがない。


 有能な護衛たちが気付かないように、関わらないようにしてくれていたかもしれないけれど。


「因みに、ウォルダンテ大陸で一カ月前に気付いて、完全に防いだ事例はある?」


 念のために確認しておく。


『俺が知る限りはない』

「ないのか」


 はっきり言い切られてしまった。


『正しくは、集団熱(s t a m)狂暴走(p e d e)自体が、()()()()()()()()()()()()()だ。半年前から気付いて対処していっても、直前で集団熱(s t a m)狂暴走(p e d e)の発生箇所が変わったり、発生源が増えたりするなど、予想外のことも少なからずある』

「位置が変わるのはともかく、増えるのは困るね」


 一箇所でも大変そうなのに、それが複数箇所になるってことだ。

 それは、対応する人たちも頭が痛いだろう。


『結局は自然災害だからな。日本なら地震みたいなものだ。台風と違って、予測が困難だっただろ?』

「なんで増えるの?」


 でも、地震と言う例は大変、想像しやすい。


 国内で同時期に複数の震源地で発生することもあるし、台風よりも発生のタイミングが予測できない災害だ。


神気穴(しんきけつ)の場所も数も変わらんが、大気魔気の素となるものの放出量が変わることはある。そして、大気魔気の濃度の変化は神気穴(しんきけつ)だけが原因ではない。人類の行動や精霊族たちの気まぐれで大気魔気は濃くなったり薄くなったりもする』

「迷惑な……」


 人間の行動がどんなものかは分からないけれど、精霊族の気まぐれで変化するのは本当に困る。

 まあ、精霊族と人類は考え方とかも違うから仕方のない面はあるのだけど。


『そういった理由から減災はできても、完全に防災することはできん』

「川の氾濫を防ぐために堤防を作ることはできても、予期せぬ洪水は起こるってことだね?」


 地震が例に出たせいか、そんなことを言ってしまう。


『そうだな。事前準備が早く、長ければできることも多いが、前準備もほとんどなくいきなり戦に臨むのは馬鹿のすることだ』


 そうは言っても、歴史上、そんな馬鹿は珍しくない。

 準備もなく敵が攻めて来たら迎え撃つか、逃げるか、恭順するかしかないのだ。


 そう考えると今回のすたんぴ~どは自然災害でありながらも、考え方としては、戦に近いのかもしれない。


 そして、言葉が通じない相手なので、恭順という選択肢は始めから選べないし、選びたくもない。

 そうなると、迎え撃つか逃げるかの二択になる。


 少し考えて……。


「判断を雄也に委ねて良いですか?」


 わたしは丸投げすることにした。


『主人が従者に責任を押し付けるのか?』


 責めるのではなく、確認するような口調。


「押し付けるというか、この世界での出来事をわたしは覚えていられないからね。仕方ない」


 そう言って……。


「改めて、お願いして良いですか? そのすたんぴ~どのこと」


 護衛兄へと向き直る。


『私は主人に伝えず、このまま城下の森に留めるかもしれませんよ?』


 おや? 敬語?

 ああ、主人としてってことかな?


 まあ、護衛なのだから、主人の安全確保を一番に考えるのは当然だろう。


 特に高田栞(わたし)は予想外の行動に出ることがある。


 状況判断ができないわけではないのだ。

 単に感情を最優先してしまうだけである。


 それを知っているから、伝えないというのがある意味、一番の守りだとは思う。


 尤も、全てが終わった後、それを知った高田栞(わたし)が、どんな感情を抱き、どんな行動に出るのかは予想できない。


 それを知った上で……。


「それなら、雄也でも()()()()()()()()()ということでしょう。()()()()()()()()()()のなら、防ぐどころか減らすこともできないと判断します」


 そう判断したなら、何の手立てもないってことだろう。


 そして、高田栞(わたし)よりもこの世界のいろいろなことを理解している護衛兄でも難しいなら、わたしがいくら考えたことで、下手の考え休むに似たりというやつだ。


『煽ってるぞ、番犬の飼い主』

『そうだね』


 いや、今のは紅い髪の青年の方が煽っていると思う。


 わたしは煽っていない……よね?


 あれ? でも、護衛兄は苦笑しながら肯定した気がする。


 え? どこが煽りに聞こえた?


 わたしはそう首を捻るのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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