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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 護衛兄弟暗躍編 ~

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飢餓の魔獣

 魔獣の集団熱(s t a m)狂暴走(p e d e)

 それが、どれだけとんでもない話なのかを紅い髪の青年は次々に告げていく。


 女性も男性も、それに巻き込まれたら、死よりも酷い状況を覚悟しなければならないらしい。


『特にどこかの王族は遠くに引き離しておけ。フレイミアム大陸の感覚でいたら、間違いなく心を折られる』


 さらに続けられたその言葉が、()()()()()()()()()()のかが分かって、思わず、紅い髪の青年を見返してしまう。


『どんなに強い魔法が使えても、心はただの女だ。()()()()()()()()()()()()その()()()()()()()()()()()()()()ような女が、他者が犯される現場を見ても全く動揺しないとは思えない』

「え? 衣服……?」


 なにそれ?

 この紅い髪の青年が言っているのは、魔法国家の第三王女殿下の話だと思う。


 だけど、高田栞(わたし)は知らない。

 あの人が、いつ、そんな恐ろしい目にあった?


 ―――― 本当に?


 幼い頃、発情期の被害に遭いかけたことは知っている。

 ああ、その時は、確かに服を脱がされたような話をしていた。


 だけど、そんな話をこの紅い髪の青年が知っているとは思えない。


 この紅い髪の青年と魔法国家の第三王女殿下が出会う機会は高田栞(わたし)以上にないだろう。

 だが、衣服が破れて悲鳴を上げるなんて事態は…………?


「アリッサム城……?」


 この紅い髪の青年と、高田栞(わたし)の友人である魔法国家の第三王女殿下は、わたしが知らない所で、会っていたと聞いている。


 そして、護衛弟が最初に連れ帰った時、彼女は、護衛弟の服を着ていたのだ。


 その理由は、高田栞(わたし)が服に入れていた通信珠を取り出すためだと聞いていたのだけど……。


「あの時、服が破れていたのって……、まさか、あなたが……?」

『言っておくけど、俺じゃないからな。やったのは中のヤツだ』


 わたしの言葉を紅い髪の青年は不服そうな顔のまま否定する。


 中のヤツと言うと……?

 少し考えて……。


「…………()()()()()()()()()()()さまが?」


 こういう意味なのかなと思って問いかける。


 明確な返答はなかったが、表情も変えず、否定もされなかったということは、間違ってはいないのだろう。


 だが、それはつまり、この青年は、既に肉体を乗っ取られたことがあるってことではないのだろうか?


 ああ! どこに意識を割けば良いのか分からない!!


『そんな()()()はどうでもいい。今を生きる神子様は過去を振り返らず、未来だけを見て突き進むんだろう?』


 混乱しかかっていたわたしに対して明らかな皮肉を吐く紅い髪の青年。


 その話はそこまで昔の話ではない。

 まだ半年と経っていないのだ。


 いや、別に良いんだけどね。


『まあ、集団熱(s t a m)狂暴走(p e d e)がウォルダンテ大陸で発生するまで、セントポーリア城下で犬どもと奢侈(しゃし)淫佚(いんいつ)な生活を送るのが一番、安全だな』

「……奢侈(しゃし)淫佚(いんいつ)……ねえ……」


 ここで、()()()()を使うのはどうなんだろうね?


 まあ、珍しい四字熟語だとは思う。

 だけど、酒池肉林よりも色欲方面が強まった言葉だろう。


 まあ、わざわざ突っ込みませんよ?

 高田栞(わたし)は覚えていられないのだから。


「つまり、関わるなってこと?」

『先ほどの俺の説明を聞いて関わりたいと思うのがおかしいだろ?』


 明らかに挑発的な言い方である。

 だが、同時に正論でもある。


 我が身が可愛いならば、危険と分かっているものに首を突っ込むのは愚かなことだ。


『あるいは、犬どもに狩りを任せて、飼い主は高みの見物をしておくか。まあ、()()()()()()()()()と思うけどな』

「そんなに大変なの?」


 高田栞(わたし)の護衛たちでも足りないぐらいに?


集団熱(s t a m)狂暴走(p e d e)の規模は()()()()()()()()()()()()。どの種類の、どれだけの魔獣どもが狂うかまでは予測できないからな。そのため、その国の王が出張ることも珍しくない』

「それは……」


 王族ではなく、国王自らが出向く事態。

 つまり、それだけ、危険だってことだ。


『事前に予測ができていたら、そこに戦力を集結させてそこにいる魔獣たちを先に叩くこともできるが、それでもその場に王族が一人もいなければ、蹴散らされることは間違いない。一度、発生してしまえば、普段、魔獣退治をしている退治屋や狩人、傭兵程度の力量では数で押される』


 ゾクリとする。

 寒いという感覚がないのに、周囲が冷えた気がした。


 それだけ、集団熱(s t a m)狂暴走(p e d e)というのは、洒落にならない事態らしい。


『どの国も騎士団、兵団を抱えてはいるが、対人戦しか想定されていないため、集団熱(s t a m)狂暴走(p e d e)が発生したら対応できないだろう。まともに相手にできるのは、魔法国家の聖騎士団と魔法騎士団が合同となって動く大規模(Large)軍団(legion)ぐらいだ』

「魔法国家ですら、簡単ではないのか」

『当然だ。魔獣はもともと、身体能力的には人間を圧倒する。人間が魔獣に勝つことができるのは、魔法があるからだ。魔獣も大気中に在る質の良い魔力を大量に食らえば、当然ながら、能力が強化される』


 確かに魔獣は人間よりも身体は大きく力も強い。

 魔法がなければ、人間でも簡単には勝てないだろう。


「事前にそのすたんぴ~どを予測して、そこに戦力を集結させて先に魔獣たちを叩くって言ったよね? 成功事例はあるの?」

『ある。……というか、基本は、()()()()()()から、一般的にはそこまで騒ぎになることがない』

「そうなのか」


 事前対策が大事ってことなのだろう。

 そして、予測ができるなら、その手段も取りやすい。


『ただ問題は、今回、ウォルダンテ大陸の()()()()()()()()()()()()ことが気になった』

「え?」


 どの国も動いていない?


「ローダンセ国内で発生するなら、ローダンセの問題じゃないの? 他国、関係ないでしょう?」

『阿呆。大陸は地続きだ。ローダンセ国内で発生した集団熱(s t a m)狂暴走(p e d e)が絶対に自国に来ないと誰が分かる?』

「あ~、そうか」


 海で隔たれている日本と違って、この世界の隣国との国境のほとんどは地続きである。

 そして、魔獣は陸上を突っ切って海まで向かうらしい。


 その途中に家や畑、城や国があっても、魔獣は気にせず踏みつぶしていくことになるのだろう。


『だから、自大陸に集団熱(s t a m)狂暴走(p e d e)の兆候を掴んだら、どの国も対策に乗り出す。一目散に駆け出す魔獣たちが最短距離で海に向かうことはほとんどない。最悪、発生箇所から大陸横断して真逆の沿岸から飛び込んだ事例もある』

「なんで、魔獣は海に向かうの?」


 魔獣たちが次々と海に飛び込むことで、集団熱(s t a m)狂暴走(p e d e)は終焉を迎えるらしい。

 だけど、その前に正気に返ったりはしないのだろうか?


『海には人間の手がほとんど入っていない。つまり、人間の身体によって()()()()()()()()()()()()()から、ほぼ自然のままだ。加えて、一度、狂った魔獣の暴走は二度と戻らない。だから、混ざり気のない魔力を求めて、周囲の魔力を食らいながら海まで走り続ける』


 なるほど、集団自殺ではなく、魔獣にとっては海へ向かうのは意味がある行動なのか。


「海に入っても、正常に戻らないんだね」


 水とかに触れると、正気に戻りそうなものなのに。

 でも、それは人間の感覚なのか。


『気が狂うほどの飢餓に襲われているのに、海に入ったぐらいで我に返るかよ。寧ろ、その先にある神気穴(しんきけつ)から放出される大気魔気しか目に入ってねえんだからな』

「パン食い競争のパンみたいなものか」

『それは違う』


 高田栞(わたし)の周囲にいる人は、どうしてこうも、突っ込みが鮮やかなのか。


「目的しか見えなくなっている時点で一緒じゃない?」

『飢餓が全く関係なくなっているじゃねえか。自分ではどうしようもない本能的なことだから、集団熱(s t a m)狂暴走(p e d e)は厄介なんだ。人間で言えば……、ああ、()()()()()()()()()()()()()()()な。俺は経験がないから、どれほど苦しいか分からんが』


 そこで意味ありげな視線をわたしの背後に送る。


 それが誰に対する挑発か分かるから、わたしは何も言わない。

 このことで、高田栞(わたし)から庇われたくないだろうし。


 だけど、「発情期」という単語は悔しいが、酷く分かりやすい。


 目的しか見えなくなる熱くて重くて苦しい感情。

 当人にすらどうしようも制御できなくて、外からの助けがなければ自分の思考すら取り戻せなくて。


 あの時、誰かの声を思い出したから、彼は踏みとどまれたと言っていた。


 それが誰だったのかは、今でも分からない。

 でも、自分以外の誰かによって、救われたということだ。


 つまり、自分の力だけでなく、周囲から助けを借りることができるのが、人間ってことなんだろうね。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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