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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 護衛兄弟暗躍編 ~

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【第133章― 場外乱闘 ―】異常顕在

この話から133章です。

よろしくお願いいたします。

 どこまでも限りなく続くこの白い白い世界。

 霧のような雲のような白くモヤモヤしたものが辺り一帯に立ち込めて、視界を白一色に染める。


 ここに来るのは初めてではなく、寧ろ、普通よりは常連さんと言っても差支えはないだろう。


 だが、()()()()()()()()()()()()()だった。


「はて……?」


 その場所を撫でる。


 ()()はない。

 だけど、()()()にも分かるほどの事態だった。


 今の自分は、やはり正常ではないらしい。


 自覚はちょっとしかなかったけれど、こんなものを見せられたら、状態異常としか言いようがないだろう。


 だが、こんな状態異常は、ゲームや漫画でも見たことがない気がする。

 これは一体……?


 暫く、考えてみたけれど、自分の中で結論を出すことができなかった。

 聞いたところによると、わたしの魂がおかしなことになったらしいから、これはその影響なのだろう。


 それが、()()()()()()だけマシかもしれない。


 とりあえず、()()()()()()()()()ようだから、暫く待ちますか。


「よっこいしょ」


 そのまま、横になる。


 この世界の地面? いや、この世界の床は、実に不思議だ。

 無機質で硬そうなのに、触れると柔らかく、意外としっとりしている。


 まるで、どこかのキャラクターの紹介文のようだが、本当にそんな感じなのだ。


 床なのに、どこか人肌を思わせるような微妙な弾力。

 そのためか、歩いても足音はならない。


 本当に不思議な床だった。


『よお』


 聞き覚えのある声が上から降ってくる。

 どうやら、本日、わたしをこの世界に招待したのは、彼だったらしい。


「こんばんは?」


 そう言いながら、わたしは身体を起こした。


『こんばんはって……』


 そこで、言葉を切って……。


『…………その……っ、()()()?!』


 わたしの今の状態が分かったのだろう。


 焦ったような声でわたしに掴みかかろうとする。


「ん~? 分かんない。現実では正常だったんだけどな~」


 その手をかわして、わたしはその場所に自分の手を置いた。

 黒く、本当に黒いとしか言いようのないその位置に。


「なんか、()()()()()()()っぽいんだよね」


 わたしの身体……、鎖骨の下で心臓よりちょっと上……胸の上部(デコルテ)と言えるような場所に、黒く、何かに抉られたような丸い凹みがあった。


 だけど、血も出ていない。

 ここまで丸型に凹めば、肉とか骨とかが見えるだろう。


 それなのに、()()()()のだ。


『痛みは?』

「ないよ」


 ただ黒いだけ。

 そこだけ、別空間に繋がっているような黒さだった。


 そして、服は着ているのだけど、何故か、その穴が見えるという不思議。


 服も穴が空いているかと思えば、布地を少し摘まんで浮かすと、黒い穴は消えて普通の服になるのだから、そこだけちょっと異空間に繋がっているような感じなのだろう。


「この通り、()()()()()()()()()()みたいなんだよね」


 わたしは、人差し指をその穴に()()()()


 人差し指はわたしの胸部にできた穴に根元までしっかり呑み込まれた。

 何の感触もない。


 まあ、こんな状態だから、この穴は別空間に繋がっていると思ったのだ。


 うん、この世界は不思議で溢れているね。


『俺も試してみて良いか?』

「嫌だよ」


 胸部である。

 薄くても胸部である。


 そんな所に殿方の指が触れるのは、よろしくはないだろう。


()()()、邪な意思はないんだが……』

「以前はあったってことじゃないか!!」


 そんな危険な思考の殿方に触れさせるわけにはいかない。


 わたしはその部分を隠したまま、後退(あとずさ)る。

 黒い穴には何の感触もない。


 やはり、この穴は別空間に繋がっているのだろう。


『その状態は、俺のせいか?』

「いや? ()()()()でしょう?」


 わたしがそう言うと、何故か、目の前の紅い髪の殿方はその綺麗な顔を歪める。


「選んだのはわたし。突き進んだのもわたし。その選択にあなたは関係ない」


 そう言いながら、紅い髪と紫水晶(アメジスト)のような瞳を持つ殿方を見た。


「後悔もないよ。だから、気にしないで」

『気にするなって……』


 尚もそれを引き摺ろうとするものだから……。


「それより今回の御招待について、()()()お願いします。多分、今回はこんな状態なので()()は無理だと思うからね」

『あ? ああ、そうだな』


 とっとと本題に入ってもらうことにした。


 だけど、そこから何をするのかと思えば、紅い髪の青年は、自分の胸の前で右手に左手を重ねて、片膝を立て……。


『命を救ってくれたこと、礼を言う』


 そう言いながら頭を下げた。

 中国の拱手(きょうしゅ)と呼ばれる礼に近い?


 でも、アレは直立だし、その手は曲げてないし、拳を握り込んでいる形でもないけど、合掌ではなく、左手の甲を右手で覆い隠すような形はそんな感じに思えた。


「おや、素直」

『俺だって礼を言う口はある』


 頭を下げたまま、紅い髪の青年……ライトはそう口にする。


「分かっているとは思うけど、時間稼ぎにしかならないよ?」

『十分だ』

「お節介かと思ったのだけど……」

『十分だ』


 その言葉を聞けただけで高田栞(わたし)は、救われた気がする。

 なんとなく、黒い穴に手をやる。


「本当に気にしなくていいよ。高田栞(わたし)がやりたくてやったことだし。まあ、告白のお礼みたいなもの?」

『随分、軽いな』

「重いよ? この()()()()()()()()()()()って、普通はないんじゃない?」


 まあ、本人にその自覚はなかったのだから、やはり軽くはあるのだろうけど。


 それでも、この人にはこの言葉の方が良い。

 ほら、表情が変わった。


 この世界に来ると、この人は分かりやすく素直な反応を返してくれるね。

 それは、この場所では取り繕う必要がないからだと思っている。


 まあ、わたしが「高田栞(わたし)」ともちょっとだけ違う存在っていうのもあるのだろうけどね。


「あなたからの御礼を受け取りましょう。だから、頭を上げてくれる?」


 わたしがそう言うと、紅い髪の青年は素直に顔を上げて……、奇妙な顔をした。


『この距離はなんだ?』


 どうやら、わたしが離れた所にいたのが気になったらしい。

 距離にして、5メートル?


 彼が頭を下げている間に、少しずつ距離を取らせていただいたのだ。


「警戒心の表れ」


 わたしがそう言うと……。


『成長したようで何よりだ』


 特に気にした様子もなく、紅い髪の青年は笑った。


 警戒心が強くなることをわたしの成長だと言う辺り、なんとなく皮肉が入っている気がしてならない。


「一応、聞いておきたいんだけど、あの時、あなたは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

『おお』


 知っていたのか。

 それで、あの行動。


『俺には時間がなかったからな』


 だが、そう言われては、これ以上、高田栞(わたし)は強く言えない。


 ここで、そんなの関係ない!! ……と、啖呵を切れる女だったら、多分、高田栞(わたし)の周りに人は今より少なかったのだろう。


 相手の気持ちを考えてしまうような娘だから、高田栞(わたし)の周囲に人が集まる。


 放っておけなくて。

 いつか、痛い目に遭いそうで。


 尤も、周囲が思うほど、高田栞(わたし)は優しく甘い女でもないのだけど。


「それは、高田栞(わたし)に関係ない話でしょう?」

『そうだな。だが、高田栞(お前)の事情は俺に関係ない』


 なるほど。

 それも確かに。


 紅い髪の青年の寿命とかは高田栞(わたし)に関係ないし、高田栞(わたし)と婚約者候補殿との仲良し度なんて、この紅い髪の青年には何の関係もないことだ。


 いや、どちらかと言えば、邪魔したい立場なのか。

 うむ、納得!


「理解した」


 わたしがそう言うと……。


『いや、()()()()()よ』


 紅い髪の青年は呆れたようにそう言った。


「好きな人が他の異性を向いているなら、邪魔したい心理は当然だと思う」

『間違っていないが、はっきりと()()()()()のは複雑だな』


 分析?

 そうか、これは分析になってしまうのか。


『だが、少しそれは違う。俺は邪魔をしたいのではなく、気持ちを伝えたかっただけだ。以前、誰かさんから「卑怯だ」と言われたからな』

「言い逃げをしようとするからじゃないか」


 この世界での出来事を、現実の高田栞(わたし)はあまり記憶していられない。


 心の深いところに刻み込まれてはいるようだけど、それは現実世界の高田栞(わたし)には、ふとしたところで思い出す朧げな記憶でしかないのだ。


 それは多分、この世界のわたしは高田栞(わたし)とは少しだけ違う存在だからなのだろう。

 実体験とは違うのだ。


『いずれ完全にいなくなる男の想いなんて、邪魔なだけだろう?』

「そうかな? 高田栞(わたし)なら、多分、ずっと忘れないと思うよ」


 そう言いながら、わたしは自分の胸に手を当てる。


『思いっきり、穴、いてるじゃねえか』

()いてるねえ……」


 わたしは自分の鎖骨より下にある黒い穴を撫でる。


「ねえ、これを塞ぐ方法って分かる?」

『何故、俺が知っていると思うんだ? ()()()()()()()なんて、()()()だ』

「いや、その知識があるだけで十分、助かるからね」


 この状態を一目見てそう判断したのだ。

 それで全く知らないってことはないだろう。


()()()()()()()()()()()()()()()()()。後は、自然治癒に任せろ』


 そして、やっぱり教えてくれる。


「らじゃっ!!」


 だから、わたしは元気よく、高田栞(わたし)らしく、応えるのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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