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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 護衛兄弟暗躍編 ~

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護衛兄弟は試す

「そこまで大きな変化はなかったってことで良いかい?」


 雄也さんからそう確認されたので……。


「回復とはいかないまでも、少しは変わった気がします」


 そう答える。


 完全回復には程遠いし、違和感はあるままだ。

 でも、何もしなかった時よりはずっとマシだと思う。


「それなら……」

「ふえ……?」


 雄也さんから手を引かれて……。


「ふぎゃっ!?」


 思わず声が出た。


「何、された!?」

「今の……、ほっぺた?」


 柔らかいような、でもちょっとざらついたり、チクチクッとするような?

 そんなモノにわたしの手が触れたのだ。


 暗いからはっきりとは断言できなかったけれど、その感触が九十九の頬に触れた時の感覚に似ている気がした。


 いや、今のは雄也さんの……?


 そこまで考えて……、急速に羞恥の熱がこみあげてくる。


 真っ暗で良かった。

 雄也さんのあの(かんばせ)に自分の手が触れるとか、恥ずかしすぎる!!


「うん、()()()だね。何か違う?」


 雄也さんは動じることもなく、そのまま話を続ける。


「い、いや……、あまり……」


 わたしとしては、それどころではなかった。


 手が触れた状態で、喋らないでほしいと思う。

 口を動かせば、当然ながら一緒に頬も動く。


 わたしの手に震動が伝わってくる。

 そうなると、雄也さんの顔に触れていることを、嫌でも意識してしまうのだ。


「おい、セクハラ兄貴。何してやがる?」

「接触を増やせばあるいは……、と、思ったのだが、そんなに単純な話でもないらしい」

「ああ、そういう……」


 九十九がどこかぼんやりとした声を出した。

 その時点で嫌な予感しかしない。


「それなら……」

「ひぎえっ!?」


 右手にも左手にも同じような感触。


 ちょっとだけ違うのは、雄也さんはわたしの掌を、九十九は手の甲をそれぞれ自分の頬に付けたらしい。


 明るい所で見たいけど、見たくない!!

 多分、正視できない!!


 こんな美形からスキンシップをされるお姫様な状態は、女性向け恋愛ゲームぐらいしか許されませんよ!?


 いやいやいや!

 これは治療行為ですから~!!


「オレでも駄目か?」


 だから、そんな台詞はおかしいよね!?

 しかも、今、すりって、手の甲を動かしたでしょう!?


 わたし、動かしてないのに、動かされた感触(かんしょ)……。


 思考が……、止まるかと思った。

 いや、多分、2,3秒は止まった。


「ふぇえ……」


 手の甲に……、多分、口付けられた。

 分かっている。


 今、治癒魔法も施された。

 だけど! 暗闇で!! 口付け!?


「栞ちゃん? 今、愚弟から何か、された?」


 よく分かりましたね、雄也さん。

 あなたの弟さん、わたしが何も見えていないのを良いことにとんでもないことをしましたよ!?


「た、多分……、()……、いや、治癒魔法?」


 口からだったけど。


「この方が、伝わるだろう?」


 ちょっと待って?

 なんで九十九は、声色に、更なる色を追加し始めてるの?


 今、いらないよね?


「栞は、感じやすいからな」

「ほげっ!?」


 なんで、そんな言葉を選んだ!?

 確かに口からの治癒魔法の方が効果的なのは分かった。


 この部屋に来る前に明るい場所で手を握られた時よりも、真っ暗な中で手の甲に口付けられながら治癒魔法の方が、九十九の魔力の流れがはっきり伝わったから。


 でも、これって、わたしが敏感になったというよりも、九十九の魔法の使い方だよね?

 九十九の治癒魔法は手よりも口から使う方が、効果があるってことだよね!?


 だから、もう一度、言おう。

 何故、そんな言葉を選んだ!?


「治癒魔法はさっき使ったから、もうやらなくても良いのに……」


 わたしはなんとか言葉を……、雄也さんが聞いても不自然ではない言葉を選んだ。


「へえ……、二人きりの方が良かったってか?」

「言ってない!!」


 なんで?

 今日に限って、なんでそんなに意地悪なことを言うの?


 雄也さんの側だよ?

 変な風に受け取られるじゃないか!!


「まあ、()()()がいるからな」


 さらに邪魔とか!?


 なんで?

 今日の九十九、おかしい!!


 深夜のハイテンション!! ってやつ!?


()()()


 背中がゾクリとした。

 誰かの、何かに触れたような……、そんな気配……?


「お前がその気なら、()()()()()()


 受けて……?


「ふぎいっ!?」


 て、手の平に、柔らかくて、(あった)かくて、ふにゃっとした感触が!?

 そして、同時に……、凄い勢いで、何かが走り抜けたような……?


 今の……?


「なるほど。確かに、効果的だ」


 雄也さんも、唇から……、多分、物理耐性強化魔法を使ったのだと思う。


 だけど、もう、わたしはそれどころではなかった。

 頭と視界が真っ暗な中、ぐるぐると回っている。


 どんな女性向け恋愛ゲームだ!?

 しかも、年齢、高め設定ですよね!?


 タイトルは何!?

 「暗闇でドッキリハプニング! 美形兄弟による唇から魔法(マジック)!?」


 ああ、駄目だ!!

 かなりダサいタイトルで売れる気がしない!!


 この時、わたしは完全に油断していた。

 本当に完全に、隙だらけだったのだ。


 だから……。


「栞ちゃん、もう一つ、()()()()を使っても良いかい?」


 そんな美声の言葉に対して……。


「はぃいっ!?」


 そんな珍妙な言葉を最後に……、()()()()()()()()()()()()ことになる。


****


「そこまで大きな変化はなかったってことで良いかい?」


 そんな兄貴の言葉に……。


「回復とはいかないまでも、少しは変わった気がします」


 栞はそう答えた。


 確かに完全回復ではないが、一人でいた時に起こった体内魔気の大放出に比べれば、十分、落ち着いている。


 だが、兄貴はもっと検証したくなったらしい。


「それなら……」


 そんな声と共に、栞が引っ張られるような感覚があり……。


「ふえ……? ふぎゃっ!?」


 戸惑ったような声が、すぐさま、奇声へと変わった。


「何、された!?」

「今の……、ほっぺた?」


 オレの問いかけに、どこか茫然とした声で答える栞。

 だが、ほっぺた?


「うん、俺の頬だね。何か違う?」


 兄貴が自分の頬に栞の手を当てさせたらしい。


「い、いや……、あまり……」


 分かりやすく栞が混乱している。


「おい、セクハラ兄貴。何してやがる?」

「接触を増やせばあるいは……、と、思ったのだが、そんなに単純な話でもないらしい」


 オレの問いかけも、どこか心ここにあらずと言ったように、何の感情も込められていない声で答えを返す。


 恐らく、今、兄貴の頭は思考の渦にあるのだろう。


「ああ、そういう……」


 兄貴がそれなら、()()()()()()()()やるべきだろう。


 うん、兄貴のためだ。

 いや、栞の回復のためだ。


 だから、()()()()


「それなら……」


 そう言いながら、オレは握った栞の手を自分の頬に当てる。


「ひぎえっ!?」


 その反応はどうなのか?

 いや、兄貴の時も悲鳴が上がっている。


 それにしても、この女。

 見えないのに、何をされているのかは分かるんだな。


「オレでも駄目か?」


 そう言いながら、栞の手に頬ずりをした。

 今度は声が上がらない。


 でも、微かな震え。

 声も出なかったか。


 それなら、これはどうだ?


 オレは栞の手に口付けて、そのまま治癒魔法を施す。


 文句は言わせない。

 これは治療行為だ。


 邪な気持ち?

 あるに決まっているだろ?


「ふぇえ……」


 栞から漏れるどこか情けなくも力の抜ける声。


「栞ちゃん? 今、愚弟から何か、された?」


 兄貴が思考の渦から戻ってきたらしい。


 しかし「愚弟」ってなんだ?

 しかも、「愚」を強調しやがったな?


「た、多分……、()……、いや、治癒魔法?」


 流石に「口付け」という言葉は避けたらしい。

 そして、治癒魔法だったことも伝わっていたようだ。


「この方が、伝わるだろう?」


 実際、伝わっているようだしな。


「栞は、感じやすいからな」


 オレが囁くようにそう言うと……。


「ほげっ!?」


 面白いように栞は反応してくれる。


 恐らく、顔は真っ赤だろう。

 見なくても、分かる。


 栞の体内魔気は分かりやすく荒れだした。

 でも、放出はされていない。


 オレの治癒魔法による、体内魔気の注入は、()()()()()()()()()ことがよく分かった。


 先ほど、そう感じたのは気のせいではなかったらしい。


「治癒魔法はさっき使ったから、もうやらなくても良いのに……」


 栞がぶちぶちと小声で抗議する。

 だが、その大きさでも、兄貴には伝わっているだろう。


「へえ……、二人きりの方が良かったってか?」


 オレが挑発するようにそう言うと……。


「言ってない!!」

 

 栞はムキになって否定する。


 ちょっと傷付くな。

 でも、仕方ない。


「まあ、邪魔者がいるからな」

 

 本当に、邪魔だ。

 だから、栞はずっと上を向いたままだし、これ以上、引き寄せることもできない。


「ほう?」


 オレの言葉を挑発と受け取った兄貴は……。


「お前がその気なら、受けて立とう」


 そう口にして……。


「ふぎいっ!?」


 さらに、栞の手を口にしたらしい。


 多分、試したな。


 口から魔法なんて、普通は使わない。

 使いどころが限られるからだ。


 そして、そんなことができると分かった以上、試したくなるのが兄貴と言う人間だ。

 それも予想していたから、栞の悲鳴に驚くこともない。


 ()()()()()()()()と言われなかっただけマシだろう。


「なるほど。確かに、効果的だ」


 本当に効果的だ。


 オレがした時よりも、栞が混乱している。


 これ以上やると、間違いなく、()()()()()()程度に体内魔気が嵐のように荒れ狂っている。


 頃合いだな。

 兄貴もそう思ったらしい。


「栞ちゃん、もう一つ、補助魔法を使っても良いかい?」


 栞にそう確認すると……。


「はぃいっ!?」


 栞が奇妙な返答をした。


 ()()()()()()

 それなら、やることは一つだ。


「「誘眠魔法(Sleep)」」

「ふわ……っ?」


 左右からの誘眠魔法。


 何の抵抗もなく、栞の意識は深く沈んでいく。

 いまだかつてないほどの魔法の効きだった。


 ……また言われるんだろうな、護衛が一番の敵だって。

 そう思うと、オレ自身の気持ちも沈んでいくような気がするのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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