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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 護衛兄弟暗躍編 ~

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護衛弟は護衛兄と確認する

 さて、この世に存在する雄型の動物に問おう。

 暗闇の中、自分の好きな女に向かって……。


「少しだけ、キミに触れてみても良いかい?」


 そんな言葉を吐く男が、自分の兄弟だったらどう反応するのが正解だ?


「がへっ!?」


 さらに、こんな血を吐くような奇声を上げたのが、自分の好きな女だった時、オレはどうしたら良かった?


 オレとしては、ツッコミどころを増やしていくな!! と、そう叫びたかった。

 同時に、お前は兄貴相手でもその反応かよ!! と、思った。


 オレだけに残念な女ではなかったらしい。


 いや、そこはどうでもいい。

 本当にどうでもいい。


「そ、それは治療の一環でございましょうか?」


 栞が動揺して、ちょっと変な言葉遣いになっている。

 オレ相手ではそこまでではない。


「そうだね。そのつもりだけど、栞ちゃんが望むなら、それ以外の理由もいる?」

「いりません!!」


 明らかに楽しんでいる兄貴の声。

 そして、即座に拒否をする栞。


 なんだろう?

 それが、妙に面白くない。


 これまでは、平気だったことなのに。


「栞ちゃんが落ち着かないようだから」

「ほへ?」

「人肌に触れたら落ち着くかな? と思って……」


 ……セクハラじゃねえか?


 取り乱している女を抱擁とかで落ち着かせるのは、モテる男にしか許されない。

 もしくは、拒否されない関係性を築いているか……だ。


 普通の男がやれば、ただの痴漢だろう。


「えっと……? それはどういう意味でしょうか?」

「病気とか、心細い時に、手を握られたりすると、安心しない?」


 いや、絶対、別の意味もあっただろう?

 栞が確認したから、そう答えただけだ。


「雄也も病気の時に心細く思ったりしたのですか?」


 栞がそれを口にしたことで、オレは自分の兄が病気らしい病気に罹ったことがなかったことを思い出す。


 カルセオラリア城の崩壊に巻き込まれて、大聖堂で長期療養生活を送るまで、発熱すら、兄貴はなかった。


 それだけ、最初にオレが発熱した時の医師の行動が嫌だったということだろう。

 高熱が出たガキに、即、座薬で対応するなんて、そんな診療は本当に稀なんだがな。


「発熱した時の、()()可愛い話、聞く?」

「聞きます!!」

「聞かせんな!!」


 思わぬ兄貴の奇襲に即座に反応する栞。


 オレの発熱なんて、「発情期」を除けば、人間界で()()()()だ。

 その時の話をするとか、鬼畜か!?


「本人が駄目だって言うから、駄目だね」

「え~?」

「え~? じゃねえ!! 兄貴も余計なことを言うな!!」


 栞の反応は可愛いけど、これだけは許してはならない。

 オレにも恥の概念はあるのだ。


「今にして思えば、人間界で少しでも回復するために、感応症の効果を求めていたのかもね」


 何の話だ?

 ああ、さっきの手を握った話か。


 だが、そっちについてはオレも覚えがない。


 発熱していたのだ。

 意識も朦朧としていたのだと思う。


 座薬の衝撃で吹っ飛んだけどな。

 周囲をふっ飛ばさなかっただけマシだ。


 魔力を抑えていた人間界だったから、逆に良かったのだろう。


「なるほど。九十九が、『お兄ちゃん、手を握って~』って言ったんですね」

「言ってねえ!!」


 栞が言うと可愛いけど、オレが言っても可愛くねえ。


「そんな理由から手に触れさせていただきたいのだけど、良いかい?」


 兄貴は、再度の申し出。


「治療行為ですよね?」

「うん、そうだね」


 兄貴のことだから、それ以外の目的もあるのだろう。

 珍しく、しつこいぐらいに要望しているから。


「それでは、どうぞ」


 栞もそれに気付いたのか、そう言って手を出し出したらしい。

 二人が互いに動く気配がした。


「補助魔法を試してみても良いかい?」

「補助魔法?」


 どうやら、兄貴も栞の体内魔気に干渉することを考えたようだ。


「流石に他者へ自分の体内魔気を直接流し込むのは反発があるからね。でも、魔法を使えば、相手の身体に干渉できるし、拒まれることはない」

「ああ、九十九からもさっき治癒魔法をされましたね」

「既に試しているんだね?」


 兄貴は栞にそう確認した後……。


「それで、九十九。その結果はどうなった?」


 すぐにその声色を変える。


 何故、報告していないのか?

 そう言いたそうな声だ。


 そんな暇はなかったのです、お兄様。


「治癒魔法を使ったら、いつも以上に魔法力を消費した」

「お前の見解は?」

「オレの体内魔気が、栞に引っ張られたと考えている」


 アレは、そういうことだと思っている。


「吸魔のようなものか」

「兄貴も触っているなら分かるだろうけど、触れるだけで、多分、いつもよりも吸収率が上がっている」


 栞は無意識だろうけど、いつも以上に大気魔気と、周囲の人間が放出している微かな体内魔気を吸収しようとしているのだ。


 それが、意識的に自分に向けられたら、もっと吸収しようとするだろう。

 普通は簡単にできることではないが、それだけ、栞が弱っているということでもある。


「はいっ!?」


 だが、その自覚もない女は驚いたらしい。


「普段、吸収しているの?」


 気になったのはそっちの方だったようだ。

 そう言えば感応症に関して、そこまで細かい説明をしたことがなかったか?


「お互い、体内魔気を取り込んでいる。そうじゃなければ、感応症なんて起きない」


 体内魔気は大気魔気とは別の物ではあるが、その根底に魔力……、魔気と呼ばれるエネルギーがあることに変わりはない。


 ただ、自然物か、人間の身体を通して変化したかの違いである。


 栞に近付くだけで、こんなに居心地の良さを覚えるのは、それだけ相性が良いからだ。

 向こうはどう思っているかは分からないけれど、少なくとも、オレは栞の気配が好きである。


「オレにも手を寄越せ」


 体内魔気を意識すると、本体にも触れたくなる。

 兄貴が触れているのだから、問題はないだろう。


「はい」


 だが、何故、全く警戒しない?

 兄貴と違って、何の抵抗もなく手が差し出された。


 この女は、オレの性別を忘れていないか?

 それとも、兄貴が触れたことで、警戒心が薄れているのか?


 それでもくれるならもらっておく。


 オレは両手でその手を捕える。

 柔らかくて、温かくて心地よい手。


 それから伝わってくる体内魔気の気配はいつもよりも微量だ。

 だが、それでも多分、普通の人間よりはずっと量がある。


「なるほど。集中すると、体内魔気が栞ちゃんに流れ込んでいくことが分かるな」


 兄貴がそう言った。


 確かに、意識すると、自分の体内魔気が、栞の方へ向けられていることが分かる。

 まるで、何かを追いかけるような勢いだった。


「ほげ?」

「それでも普段、魔気のまもり(物理耐性と魔法耐性)に使う分の一割にも届かない。意識せず身体の周囲に放出している魔力の一部を渡している感じだな」

 

 意識しても大した量ではなかった。

 魔法を使う時に初めて気付いたようなことだ。


 滲み出ている体内魔気を少しぐらい多くかすめ取られたぐらいでオレの魔気のまもり(物理耐性と魔法耐性)に変化はないように思えた。


 あっても、ティッシュペーパー一枚分の厚さほどの変化ぐらいしかないだろう。

 それだけ少量なのだ。


 それでも、いつもと違った魔力の流れではあるのだけど。


「拘束される重要参考人」

「あ?」


 だが、オレから手を握られながら、栞は奇妙な言葉を口にする。


「くっ!!」


 そして、何故か、栞の向こうの男は吹き出したようだ。

 兄貴の笑いのツボは時々、分からない。


「いや、この図。任意同行される重要参考人みたいだな~と」

「重要参考人は寝台で拘束しないだろう」


 年齢指定系の動画にはありそうだと思ってしまうけれど、栞にそんなことは言えない。


 多分、そういった考えは一切ないだろう。


「重要参考人の段階ではどんなに怪しくても、一般人には身体拘束できる権限がないね。身体拘束……私人逮捕ができるのは、現行犯の時だけじゃなかったかな」


 兄貴は尤もなことを口にする。

 確かに警察以外の逮捕権を持たない人間は、現行犯以外で拘束はできなかったと記憶している。


 痴漢とか、ひったくりとか、目の前で刃物を振り回している人間相手なら、取り押さえる権利があるのだ。


 言い換えれば、その時、重要参考人の段階では拘束できない。


「それ以外なら、暴れる凶悪犯を押さえつける図?」

「犯罪者から離れろ」


 一度、思いついたら、そこから思考が離れなくなってしまうのは、栞の悪い癖だと思う。

 それで、話の方向性がおかしくなるのだ。


「栞ちゃんが本気で暴れたら、俺たちでは抑えられないな~」

 

 確かにそうだが、今はそれを論じている時ではないだろう。


「兄貴、これ以上栞がアホなことを言い出す前に、試せ」


 これ以上、話が停滞する前に!!


「分かった。弟が急かすから、やろうか。栞ちゃん」

「はい」


 ようやく、二人の気配が変わった。


 いや、これは……?

 兄貴の気配が栞の手を通して、オレの方に伝わってくる?


「今のは……?」

「物理耐性強化魔法だね」

「ああ、守備力アップの魔法ですね」


 間違っていないはずなのに、否定したくなるのはどうしてだろうか?

 恐らく、栞の頭には人間界のゲームで使われている魔法名が飛び交っていることだろう。


 兄貴の「物理耐性強化魔法」という言葉では思い浮かばなかったのに、栞の「守備力アップの魔法」という言葉で、何故か、複数の魔法……、呪文が思い浮かんだから。


「それで? 栞ちゃんの身体には何か変化があったかい?」


 兄貴は、そんな答えが分かり切った質問をしたのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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