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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 護衛兄弟暗躍編 ~

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護衛弟は整理する

「二人の御子については、セントポーリア国王陛下も気に掛けている。この世界の乳児の死亡率は人間界以上に高い。医療が発展していないからね。そして、魔気のまもり(物理耐性と魔法耐性)も弱い。3歳までは容易に死んでしまう」

「男の子だったら……」


 兄貴の言葉を聞いて、栞の声が震えているのが分かる。

 ただでさえ、子供の死亡率は高い。


 先天性を含めた疾患、不慮の事故、この世界に限れば、魔力の暴走、魔力泥酔など、魔力に関する死因だってある。


 そして、生まれた子が男児だったなら、女児よりも死亡リスクが高まることが、先ほど聞かされたからだろう。


 外的要因(理不尽な事故)による死という可能性が最も高くなる。


 そう考えると、例の王族二人は子ができたことを周囲に知らせることなく隠して、大人相手でもそこそこ抵抗ができるようになる3歳ぐらいまで育ててから公表するべきだったと思う。


 実際、王族のお披露目は5歳以降が多い。


 だが、それでは、クソ王子から婚約者候補を奪い取ったことを伝えることもできないし、何よりそのクソ王子と正妃に向けて宣戦布告ができない。


 だから、子が殺される危険性があることを承知で、公表したのだと思う。

 そして、そのことからも、確かな覚悟を感じた。


 そう。

 これは()()()()だ。


 ―――― お前たちを認めない


 あの赤茶金髪(キャラメルブロンド)瑠璃色(ラピスラズリ)の瞳を持つ男からの。


 宿ったばかりの産まれてもいない我が子を巻き込む考え方は、いただけないと思うが。


 尤も、そこで栞の存在が露見してしまうと、その全てがひっくり返ってしまうことになるだろう。


 まさか、あの真面目で堅物で、いろいろな女たちの訪問を回避していたセントポーリア国王陛下に、既に、成人済み(15歳以上)の子供がいたのだ。


 しかも、それをあのクソ王子が知って、世界中に手配書をバラまいて探していたとか。

 それらを全て知った時は、いろいろな意味で打ちのめされることになる気がした。


 少なくとも、あの赤茶金髪男は栞の存在を知らなかった。

 さらに言えば、婚姻前に会っているのだ。


 クソ王子が会った時、素顔であったが栞の魔力は封印されていた。


 だが、あの赤茶金髪男が会った時は、変装をし、抑制石を身に着けてはいたものの、魔力を封印してはいなかったのだ。


 少なくとも、クソ王子の方が、見る目を持っていたということになる。


「恐らくは、大変な騒ぎになるだろうね。でも、5年以内にはこの国も落ち着くと思うよ」

「5年以内?」


 5年?

 栞の言葉はそのまま、オレの疑問でもあった。


「そう。5年以内に千歳様がこの国を調えてくれるからね」

「母が!?」

 

 栞は驚きのあまり叫んだ。


 確かに千歳さんがいろいろ国について考えていることは知っている。

 だが、それでもたった5年で全てを変えるのは無理だろう。


 それは栞も考えつくことだ。


「だから、栞ちゃんは何も気にしなくて良い」


 これまでの話は多分、全部、前座だ。


 セントポーリアの情勢はともかく、王位継承問題なんて、国に興味、関心のない栞には関係がない。

 なんで、時間があるとはいえ、無駄に長々と栞に言って聞かせているのか分からなかったのだ。


 だけど、先ほどの言葉でオレは理解できた。

 恐らく、兄貴が伝えたかったのはこの言葉だ。


 ―――― あと5年で()()()()()()


 それも、栞の母親である()()()()()()()()()()


 セントポーリア国王陛下がこれまで、セントポーリア城内外で様々な改革をしていきたことは知っている。


 既に、地方ほど、その変革の成果が上がっているのをオレも書類上ではあるが何度か見た。


 セントポーリア国王陛下は王位を継いで十数年。

 それだけあれば蒔いてきた種から芽吹くのは当然だ。


 その後、千歳さんがそれらに手を加えてきた。

 人間界での知識を無理なく融合して。


 だが、それでも後5年ではすべて解決することは無理だと思う。

 焦った変革は、様々な箇所で(ひず)みを生じさせる。


 それに、5年も待てば、(くだん)の王族同士の子だって、順調に育てば4歳になっている。

 ますます、王位継承問題で国が荒れている可能性が高い。


 それでも、兄貴は言い切った。

 5年以内だと。


 あのクソ王子が譲位の資格を得る25歳になるまでには、片付くはずだと。

 そう()()()()()()を出したのだ。


 兄貴が持っている情報とオレが持つ情報が違うのは当然だろう。


 セントポーリア国王陛下からの信頼も兄貴の方がある。

 城内のツテだってオレには全くない。


 だから、気付かない、気付けないことも多い。


「はあ……」


 栞はどこかぼんやりとした反応を返す。


 そして、彼女も気付かない。

 いや、考えもしない。


 当然だ。


 それだけ、母親とセントポーリア国王陛下から離れている期間は長く、会っている時間も短いのだから。


 だが、ある意味、()()()()()()()()()()()()()()ことだろうと予測する。


 愛国心はあっても玉座に固執しないセントポーリア国王陛下と、いきなり異世界に来ることになって愛国心どころか何もなかった千歳さん。


 そんな二人の意識が変わったのは間違いなくラシアレス(シオリ)の誕生だろう。

 本来、出会うはずがなかった二人が出会い、そして、生まれた導きの(奇跡)


 そして、護るべき者ができた人間は強い。

 それはオレもよく知る感情である。


 だから、チトセ様はシオリの命を守るために、一度は彼女を連れて人間界へ逃げたのだ。


 チトセ様は、シオリと共に人間界へ行くことをずっと考えていたのだとオレは後からになって気付いた。


 そして、ミヤドリードにだけは相談していたのだろう、とも。

 そうでなければ、おかしい。


 人間界に行った後の指示は、ミヤドリードから兄貴に突っ込まれた手紙だったのだから。


 アレは、あの場で書いたものではなかった。

 だから、ミヤドリードも随分、前から準備していたのだと思う。


 どう説得しても、チトセ様はシオリと二人だけで逃げると思っていたから、オレたちを足止めした上で、後から追わせたのだ。


 だが、同時にミヤドリードは()()()()()()()()()()()()()を渡していた。


 記憶と魔力を封印する魔法。

 栞の過去を視た時に、あの魔法を使ったのはチトセ様ではなく、シオリだった。


 そして、シオリとチトセ様が契約していた魔法のほとんどはミヤドリードが教えたものだったと聞いている。


 チトセ様に()()()()()()()()()()()()から。

 栞と違って、シオリは魔法が使えた。


 風属性魔法だけ、無駄に放出してしまうところは同じだが、昔のシオリは他属性の魔法もちゃんと使えたのだ。


 それで、()()()()()()()()()()()()()ということだったのだと思う。


 オレたちがあの母娘(おやこ)を遠く離れた地でも見つけることができれば、これまで通り護り続ければ良いと思ったのだろう。


 だが、あの母娘(おやこ)を知るオレたちからも魔力と記憶を封印することで、その存在を気付かせることなく逃げきれることができたならば、シオリたちは完全にこの世界から離れることができたとミヤドリードは考えたのだと思う。


 あの頃の()()()()()なら、時間はかかってもチトセ様を見つけることはできたとは思うけれど、わずか数日で発見するなんて考えてもいなかったはずだ。


 ミヤドリードの誤算はまだ続く。


 栞の魔力の封印は、危難の際に一度解けた。


 だが、その直後、その場に居合わせた(のち)に大神官に上がるような高神官によって遥かに強化された封印を施されてしまったのだ。


 多分、追手に見つかった時のために、解けるような封印にしていたのだと思うが、さらに強化されるなんて完全に計算違いだっただろう。


 まあ、ソレもピンチの時は一時的に解けて、さらにもう一度封印し直されるというもっと効率的なものになったっぽいが。


 さらに言えば、栞の魔力の暴走については、計算に入っていなかったのだと思う。

 ミヤドリード自身が()()()()()()()()()()()こともあるだろう。


 もしくは、封印していれば魔力の暴走を引き起こさないと思っていたか。


 だが、未来を視通(みとお)す女が言った。

 あのままでは、周囲を巻き込んだ大暴走を引き起こした、と。


 そんなことが未来に起きると分かっていたら、チトセ様はシオリを連れて人間界へ逃げ込むことなんてしていなかっただろう。


 自分の事情に赤の他人を巻き込むことを良しとしない方だから。


 オレたちを巻き込んだ時も、何度も、謝られた。

 そして、今も、謝られ続けている。


 栞にはそれを言っていない。

 オレとしては、自分がやりたいからやっていることなんだがな。


 こうして、整理し直すと、改めていろいろなことに気付かされる。


 今だから見えること。

 知ったから分かること。

 学んだから判断できること。

 オレのこれまでは無駄じゃなかったこと。

 これからも無駄にしてはいけないこと。


 そんな風にいろいろ思い起こしている時だった。


「栞ちゃん」


 闇の中、悪魔(兄貴)は囁く。


「少しだけ、キミに触れてみても良いかい?」


 そんな甘い言葉を。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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