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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 護衛兄弟暗躍編 ~

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意識している

 いつも以上に体内魔気を放出する栞に対して、オレは治癒魔法を使ってみた。

 怪我をしているわけではないため治癒魔法は、ほとんど効果がない。


 だが、魔法を使うことで、オレの魔力……体内魔気は、栞の身体に溶け込むことになる。


 ただそれだけのことだった。

 そのはずだった。


 だが、いつも以上に、魔法力を持っていかれた。

 いや、これは、オレの体内魔気を()()()()()()


「奪われた」


 そうとしか思えなかった。


 オレが自分の魔法力の配分を誤ったとは思えない。

 特に治癒魔法は相手の身体を壊してしまうこともある魔法だ。


 だから、いつも以上に慎重に魔法を使ったのだが……。


「は?」


 栞は不思議そうに問いかける。


「オレの魔法力をいつもよりも持っていきやがった」

「ほへ!?」


 オレの言葉に、栞も状況を理解したらしい。

 そして、これも無意識だったということだ。


「つまり、わたしは九十九の敵!?」

「どうしてそうなった!?」


 だが、その結論は明らかにおかしい。


 確かにオレの魔法力は栞によって、いつも以上に引っ張り出されたとは思うが、それでも違和感という程度のものだ。


 はっきり、そうだと言い切れるものでもなく、少しだけ、通常の治癒魔法よりも魔法力の消費が大きかっただけである。


 多分、精霊族や魔獣に見られる魔力食いと呼ばれるほどのことはされていない。


「いや、MP吸引……って、味方はあまり使わなくない?」

「お前はゲームから頭を離せ」


 栞の魔法の基準がゲームや漫画の影響を強く受けていることは分かっていても、そう言いたくもなる。


 そして、魔法力を「MP」って言うな。

 ゲーム上の使い方を見た限り、そこまで大きく間違っていないけれど、そう否定はしたい。


「単純に、お前の身体が、魔力を欲しているだけだ。周囲の大気魔気だけでは回復しきらないんだろう」


 そこでふと気付く。


「だから、オレの治癒魔法から魔力を吸い取った……? だが、そんなことがありえるのか?」


 治癒魔法は魔力を通して対象となる相手の自己治癒能力を刺激することで、怪我などの回復力を向上させることが多い。


 だが、普通は、相手の魔力をそんな形で奪うことなんてできるのだろうか?

 少なくとも、魔力を奪う魔法はあっても、相手の魔法から吸収するなんてことはないだろう。


 自分の魔法なら分かる。

 元が同じものなのだから。


 魔法を跳ね返されても、体内魔気を操作して、自分の体内に吸収することはできる。


 だが、オレと栞は乳兄妹ではあっても、完全に別の人間、血縁関係すらない他人なのだ。

 そんな相手の魔法から、自分の回復のために魔力を吸収するなんてことが本当にできるのだろうか?


 実際、目の前で見せられても、どこか信じられないものがあった。


「つまり、ずっと、九十九の治癒魔法から魔力を奪い続ければ良いの?」

「たわけ」


 あまりにも酷い言葉に、何の捻りもない言葉が口を()いて出てしまった。


「そんなことをしたら、多分、オレの魔法力が先に枯渇する」


 吸い取られたと言っても、大した量ではない。

 そして、栞の状態もそこまではっきりとした変化はなかった。


 周囲の大気魔気や、オレから自然に放出されている体内魔気を吸収する方が栞にとっては良いだろう。


「体内魔気の放出の方を抑えられないとどうにもならんな」


 いずれにしても、吸収したところで、栞から放出されてしまえば無駄にしかならない。


 それでも、少しは留まるだろうが、やはり、この放出量を抑えられない限り、栞の魔法力は回復しないのだろう。


「オレと兄貴がいるだけで、それが防げるようだが……」

「それって、感応症のおかげってこと?」

「多分な」


 つまり、感応症ってやつは、相手の体内魔気……、魔力を吸収した結果ということになるのか。


 これまで深く考えたことはなかったが、それなら納得できることもある。


 他人の魔力を吸収することで、自分の魔力も刺激され、相性が良ければいろいろ強化されるということだろう。


 近くにいる身内や他者から、無意識のまま微かに身体強化されているようなものだ。

 その増幅、増強量が意識的な身体強化よりも少ないから気付かない。


 だが、感応症……、相性が良い他人の魔力なら、栞の身体に効果があるのなら……。


「兄貴が言っていたんだが……」

「ぬ?」

「あの気高く美しいモレナ様の言ったことを実践してみるのもありかもな」

「ほげっ!?」


 オレの言葉に栞が流石に驚愕したらしい。


 そのことに安堵する。

 これで、あっさりと了承されても、複雑なだけだろう。


「いや、流石に抱き締めて寝ることはしないぞ?」


 だが、一応、これだけは言っておく。

 兄貴もそう言っていたからな。


「感応症が働く距離にいれば、効果があるってことだ。部屋を離すと効果が薄くなるようだが、同じ部屋ならそれなりに大丈夫みたいだからな」

 

 変に警戒されても、今は困るのだ。

 そして、栞の立場から複雑になるのも分かる。


「同じ部屋っていうのもあまり良くはないだろうが、オレたちはそれを口にする気はないから、見逃せ」

「ぬ?」


 オレがそう言うと、栞は不思議そうな顔をした。


「ロットベルク家第二子息に悪いからな」


 この森に来てから、そのことをずっと気にしていることは分かる。

 オレや兄貴に口止めをしたほどだ。


 あの婚約者候補の男に隠そうとするってことは、栞は、相手から悪く思われたくないと考えていることになる。


 つまりは、意識しているのだ。


「それで、どうする? お前が嫌なら、オレも兄貴も無理強いはしない」


 オレたちの意見は治療行為のためだと一致している。

 だけど、事はそう簡単な話ではない。


 だから、選択肢は与えた。

 選ぶのは栞だ。


 そして、栞はこう見えても、合理的な部分がある。

 感情はともかく、治療行為と言えば、絶対に断ることはない。


「いや、こちらの方からお願いして良いかな?」


 やはり、栞は迷わなかった。

 しかも、自分から望むと言ってくれている。


 それだけで、罪悪感はなくなることはしないけれど、薄れてくれる気はした。


「あまり良くないことだって分かってはいるんだけど、今の状態って、結構、きついんだよね」

「……分かった」


 栞の言葉で、やはり、本意ではないことはよく理解した。

 同時に、それだけ、今の状態が辛いということも。


「治療行為だからな」


 そう、これは治療行為なのだ。

 だから、栞に非は全くない。


「うん。二人には迷惑をかけるね」


 オレの言葉に、栞は困ったように微笑んだ。


 治療行為と分かっていても、栞自身はどこかに引っかかるものがあるのだろう。

 そして、それは正しい。


 何も考えず、オレたちの意見に従ってしまうのは、盲目的なナニかであって、信頼とは言えないから。


「いや、何も考えず、お前は治療に専念しろ。そのための助力は惜しまないつもりだ」


 だから、変に意識をしないで欲しい。

 オレも頑張って、意識しない努力をするから。


「分かった。頑張って、早く治す」

「いや、頑張るな? 寧ろ、お前は余計なことを何一つとして考えるな?」

 

 栞は頑張ろうとすると、必ず……、そう、()()、妙な方向へ向かうのだ。

 それは、彼女の思考が独特だとしか言いようがないほどに。


 だから、何も意識させない方が良い。


「頭を空っぽにしろってこと?」

「治癒魔法も変に意識しない方が、治りも早いし効果も高いんだよ」


 治したいという治療する人間の強い思いと、治らないかもという怪我人の不安な気持ちがその体内で戦っているのかもしれない。


 そう考えると、改めて、魔法というものは、人間の「思い」を形にしたものなんだなと思う。


「頭が空っぽだった方が、夢も詰め込めるらしいよね」

「オレは突っ込まないぞ」


 栞は多分、あの少年漫画が好きなのだ。

 割とよくネタにするから。


 気持ちは分かる。

 オレも好きだったから。


「その時点で、突っ込んでくれているよ」

 栞は楽しそうに笑う。


「それでは、申し訳ないけど、治療行為をよろしくね」

「承知しました。我が主人」


 だが、オレも栞も、この先にあんなものが待ち構えているなんて、思いもしなかった。


 とりあえず、ソレを見たオレに言えることは……。


()()()()()()、クソ兄貴」


 そんな言葉だけだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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