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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 護衛兄弟暗躍編 ~

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手のひら返し

「ああ、大事なことを聞いておこうか」


 雄也さんがそう言いながら、わたしを見る。


「栞ちゃんは、もし、アーキスフィーロ様の気が変わったらどうする?」


 アーキスフィーロさまの気が変わったら?


「それは、婚約者候補の契約解消の話と言うことでしょうか?」


 現状ではその可能性は高い。

 次々と厄介事を引き起こす相手なんて、わたしなら嫌だ。


 しかも、隠し事が多すぎて、後から後から、マイナス要素ばかりが追加されていく。


 どんなに人の好いアーキスフィーロさまでも、そろそろ、考えを改める方向に動いていても驚かない。


「いや、そちらではなく、最初に栞ちゃんが言われた言葉だよ。契約段階では『妻として愛することはできない』と言って、それが条件でも構わないか? と、言う話だった。だけど、それが撤回された時はどうしたい?」

「撤回? それって……」


 わたしがさらに確認しようとした時、妖艶なる美形は微笑みながら……。


「栞ちゃんに向かって『愛しき妻として永遠の愛を誓いたい』と、そう乞われた時だね」


 色気がだだ漏れまくった声でそんなことを口にする。


「ふわっ!?」


 一気に自分の体温が上がり、血液が顔に集中した気がした。


「兄貴!?」


 九十九も、その言葉に驚いたのか叫んだ。


「例え話だよ。栞ちゃんの意思が分かっていないと、そういった時に俺たちが動けなくなるからね」


 雄也さんはそう言って笑うが、本当にびっくりした。


 一瞬、()()()()()()()()()()()のかと、錯覚してしまったほどだ。


 例え話ね、例え話。

 そして、九十九も同じように受け止めたのか、彼にしては珍しい表情と叫びだった。


 表情も珍しかったのだけど、体内魔気の変化が目まぐるしく変化して、上手く、読み取れなかったほどだ。


 まるで、怒るような、咎めるような……、いや、これは()()()()()()()()()()()()……?


 それを見て、上がった体温が、一気に冷やされてしまったことは理解できる。


 それだけ、護衛が主人に想いを寄せるってことは、()()()()()()()()()()()()()()()なのだろう。


 あるいは、セントポーリア国王陛下と()()()()()()()()()のかもしれない。


「それと、お前もいちいち騒ぐな。これぐらいのことに耐えられなくて、どうする?」


 雄也さんも九十九の変化に気付いて、そう窘める。


「い、いや、悪い」


 だが、そう言いながらも口を押えている九十九の顔はどこか、蒼褪めている気がした。


「九十九? 気分が悪い?」

「そんなんじゃねえ」


 そう言いながら、わたしから顔を逸らす。


「休む?」

「大丈夫だ。悪い、兄貴。続けてくれ」


 わたしを制止して、雄也さんに向かって、先へ進めるように促す。


 彼はわたしにあまり弱音を吐かない。


 気分が悪い時ぐらい、休んでくれても良いのに。

 でも、そう口にしたところで、頼ってはくれないんだろうね。


 そのことが悔しかった。


「それで、栞ちゃんはどう思う? アーキスフィーロ様が前言撤回をした時は、どう動きたい?」


 雄也さんは先ほどの続きを口にする。


「すみません。()()()()()()()()()()()()()()()()ので……」


 顔色が悪い九十九のことは気にかかったけれど、ここで話が止まることを彼が望まないなら、このまま雄也さんの言葉に答えるしかないだろう。


「でも、そういう方向で気が変わったのなら、()()()()()()()()()ですよね?」


 一度は「愛することはできない」と言われた。

 でも、それが変わったなら悪いことではないだろう。


 やはり、嫌われるよりは好かれたいと思うから。


「つまり、そうなったら受け入れると言うことで良いかな?」

「はい」


 逆に受け入れない理由はないだろう。


 尤も、()()()()()()()()()()()

 あの人には、想い人がいるのだから。


 わたしとはタイプが全然違う女性。


 それが、急激な方向転換ってことはかなり難しいはずだ。

 あったとしても、年単位先の話じゃないかな。


「分かった。俺はキミの意思に従おう」


 雄也さんはそう言ってくれた。


「ところで、俺たちは、その協力をした方が良いかい?」

「協力?」


 はて?

 どういうことでしょう?


「栞ちゃんがアーキスフィーロ様に()()()()()()()()()()()()が良い?」

「ふごっ!?」


 協力ってそういうこと?


「いやいやいや! 結構です!!」

「おや?」


 何故か、雄也さんは意外そうな顔をした。


「アーキスフィーロさまを()()()()ってことでしょう? そんなことをされても嬉しくありません!!」


 そんなわたしの言葉に……。


「洗脳……」


 雄也さんは苦笑し……。


「お前は兄貴を何だと思っているんだ?」


 九十九は呆れた目をわたしに向ける。


「え? アーキスフィーロさまがわたしのことを好きになるように、()()()()()()()って話じゃないの?」


 少しずつ、そうと気付かないようにその意識の奥深くに浸透させていくぐらい、雄也さんなら可能だろう。


 わたしを誘導するのがとても巧い人なのだから。


「兄貴なら()()()()()()()だが、普通に考えたら、侍女として()()()()()って話じゃねえのか?」

「お前も俺を何だと思っている?」


 雄也さんは弟から言われるのは嫌だったらしい。


「栞ちゃん、他人の心はそう簡単に動かせないよ」

「動かさなくても、きっかけは作れますよね?」

「九十九が言ったような手段の方ならね」


 ああ、侍女としてわたしを磨くって話か。


 それなら、確かにわたしの侍女たちは得意そうだ。

 化粧、上手いし。


 ただ、わたしが多少着飾ったぐらいでは、アーキスフィーロさまの心が動くことはないだろう。


 それぐらいで心が動くなら、でびゅたんとぼ~るとか、仮面舞踏会の時に、とっくに動いているはずだ。


 自分でも、あのドレス姿はそこそこ貴族令嬢っぽくなれた気がしたから。


 でも、いずれの時も、アーキスフィーロさまは綺麗だと褒めてくれたけれど、変化はなかったと思う。


 貴族子息として、着飾った女性を見慣れているのだろうね。


「お気持ちだけいただきます。わたしを多少、磨いたところで、あまり変化はないでしょうから」

「ああ、栞ちゃんはそのままで十分、魅力的だから必要ないね」


 ここにも社交辞令がお上手な殿方がおります。


 異性をさらりと褒められるのは、お貴族さまには必須なスキルかもしれない。

 アーキスフィーロさまもそうだしね。


「ただ、個人的な意見としては、アーキスフィーロ様からそんな風に前言撤回をされたところで、()()()()()()()()()()()とは思う」

「え?」


 それは「妻として愛することができない」から、「妻として愛したい」に変わっても許すなってこと……だよね?


「当然だな。いくらなんでも、栞を()鹿()()()()()だ」

「そうなの?」


 それはお貴族さまによくある面子(めんつ)的な話だろうか?

 先に貶めておいて、今更、掌返しだと? ってやつ?


 でも、アーキスフィーロさまにそんな意識はなかっただろうからな~。

 単に素直すぎただけだと思っている。


 好きな人がいるから……なんて言えないだろうしね。

 しかも、その好きな人は自分の元婚約者で、既に次の婚約者がいるらしい。


 わたしたちのように候補でなく、想い人にはれっきとした婚約者がいるのだから、流石に、応援はできない。


「そうなの? ……って、お前な~」

「まあ、栞ちゃんが傷付いていないのなら良いんだよ」

「傷付く?」


 どこに傷付く要素があるのか?


「ただね?」


 雄也さんが笑みを深める。

 この人は、この表情の後が怖い。


「栞ちゃんが傷付かなかったことと、俺たちが腹を立てることは()()()()()だ」


 それは理解できる。


 わたしのことで、彼らに腹を立てるなと言うことはできない。

 別の人間だからね。


 でも……。


「だから、仮令(たとえ)、この先、何が起きても、()()()()()()()()()()()()ということだけは覚えておいてね」


 そんなことを笑顔で言われて全く気にしない人間などいるだろうか? いや、いるまい。


()()()()()()()にしか聞こえなかったのはオレだけか?」


 いや、わたしにも聞こえたよ。


「お前は本当に俺を何だと思っているのだ?」

「詐欺師のような暗殺者」


 兄に向かってさらりととんでもないことを口にする弟。


()()人間を()ったことはないんだが?」

「まだってなんだよ?」


 うん、わたしもそう思った。

 まだってなんですか!?


()()()()()()()あまり手を汚したくはないが、()()()()()()()()()()()()()()()からな」


 雄也さんが苦笑しながらわたしを見る。


「まあな」


 そう言いながら、九十九もわたしを見た。


 え?

 わたしのせいで何かあるの?


「まあ、()()()だね」


 そんな雄也さんの言葉が、何故か妙に耳に残る。


 もしかしたら、そう遠くない未来。

 そんな局面があるのかもしれない。


 でも、願わくは、彼らが、わたしのためにその手を汚すことがありませんように。


 そう思ってしまうのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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