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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 大樹国家ジギタリス編 ~

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占術の結果

「は~」


 今、わたしたちは、ジギタリス城樹の一室の前にいた。


 ここは、城の通路だが人はあまり来ないらしい。


 でも……、廊下の割に、真っすぐはしていなかった。

 床は平らだけど、壁が不自然な形だ。


「商業樹も広いと思っていたが……、ここはなんというか別格だな」


 九十九がもの珍しそうに周りを見ながら言った。

 時々、壁を触ったり、軽く叩いたりしている。


 その気持ちはよく分かる。

 壁はまるで、樹を掘って作りましたというような感じだからだ。


 この辺り、樹の中と感じさせない商業樹とは系統が違う気がする。


「それにしても……、運が良いと言うべきか……」


 そう言うのは雄也先輩だ。


 彼の話によると、確実に未来を見通す目を持つというこの国の占術師は、かなり人気があるため、どんなにお金持ちでもなかなか占ってはもらえないそうだ。


 しかも、占いやすい日にちというのもあるらしいので、何かの奇跡でも起きない限りは無理だろうと先輩は諦めていたということだった。


「ある意味、運は悪いかもしれへんよ。僅かにあった希望が、完全に断ち切られてしまう可能性もあるわけやからな」


 楓夜兄ちゃんは、笑顔で残酷なことを口にする。


 その言葉で、九十九が少しだけ、眉を顰めたのが分かった。


 でも、わたしは平気だと思っている。

 それは、この扉の向こうにいる水尾先輩だって覚悟していたはずだから。


 今は、水尾先輩が一人でこの部屋に入って、占いをしてもらっているところだった。


 何でも占術というものは必ず一対一が原則ということらしい。


 周囲に人が多くなると、その他の人の思念が邪魔をしたりして、集中できなくなったりすると始めに説明を受けた。


 思念とか難しいことはよく分からないのだけど、雰囲気も大事って事かな。


 でも、水尾先輩たちの遣り取りが聞こえないのは少し残念。

 魔界の占いってどんなのか興味はあったから。


 やっぱり、人間界のように水晶を使うのかな?

 それとも運命の導きを伝えるカードかな?


 わたしたちが雑談をしていると……、水尾先輩が部屋から出てきた。

 彼女はその黒い瞳にかなりの量の涙をためているのがよく分かる。


 もしかして……、楓夜兄ちゃんが言ったように、占いの結果が良くなかったのだろうか?


「み、水尾先輩……、どうでした?」


 それでも、聞かずにはいるということはできなかった。

 わたしだって、真央先輩のことが心配なのだから。


 水尾先輩は、重い口を開く。


「い……、生きてるって……。姉貴たちも母様も父様も……」


 それだけ言うと、堰をきったかのように、水尾先輩はその場で声をあげて泣き伏した。


「やっぱり、今まで……我慢していたんですね、先輩」


 そう言って、伏したままの水尾先輩の髪にそっと触れる。


 そこにはいつもの気丈な女性はどこにもなかった。


 本当はこんなに弱いのに、それを隠して強く振る舞っている。

 そんな気持ちも分かっているから、今だけは素直に泣いて欲しかった。


 彼女がずっと我慢していたことは知っている。


 それでも、どうすることもわたしたちにはできなかった。

 下手な慰めを言うわけにもいかなかったし。


 こうして、占いと言う形を通して、ようやく、彼女に希望の光が見えたのだ。


 しかし、残念ながらわたしはいつまでもこうして慰めていることはできなかったようだ。


「次は……嬢ちゃんやな」

「は?」


 唐突な楓夜兄ちゃんの言葉が理解できなかった。


「嬢ちゃんも視たいそうや」


 それってわたしまで占ってくれるという話?

 いや、そんなことは聞いてない。


「でも……、水尾……いえ、ミオルカ王女殿下だけが今回特別で……。わたしには占いをしてもらう権利などないのではありませんか?」


 水尾先輩は崩壊したとはいえ、中心国の王女様である。

 そのことが変わることはない。


 そして、彼女にはそれだけの価値があり、視る内容にしても「中心国の王族(みうち)が存命してるか否か」という各国共がこぞって調べたくなるような内容だった。


 だけど……、わたしにはそんな価値もないし、自分の方にも特別に占って欲しいようなことがない。


「嬢ちゃんに関しては、リュレイア……占術師の個人的興味らしいで」

「はい?」


 つまりは、占術師からの御指名?


「でも……、何を?」


 いきなり言われてもすぐに視て欲しいものなんて思いつかない。


 占いなのだから思い切って恋愛とか金運とか……ってわけにもいかないよね?


「占術、言うより、なんや嬢ちゃんに話があるみたいな口振りやったんやけど」

「話?」


 ……???

 わけが分からないよ?


 その人とは会ったこともないはずだけど、またも人間界での知り合い?


 でも……、占術師のような年代の女性に知り合いは……、いなくはないけど、あの人とは多分、違う気がするし……。


 結局、わたし自身は、わけが分からないまま、部屋に入ることになってしまった。


*****


「何で……、高田を?」

「さあな。後で聞けば良いだろう」


 九十九の疑問に雄也もなんとも言えない顔をする。


「せやせや。案外、たいしたことやないかもしれへんで」


 そうは言ったものの、そんなはずがないと王子自身は思っている。


 今まで、彼女が自分から話をしたいという人間はいなかったのだから。


「魔力の有無か……?」


 雄也は真っ先に思い当たったのは別のことだったが、普通に考えれば、これが一番可能性が高いだろう。


「ああ、あの魔力のなさは魔界じゃ余計に不自然だからな~」


 九十九もそれなら、納得がいくと続ける。


「……まあ、あの封印は、当時のアイツが持てるだけの法力と技術、知識を注ぎ込んだ結晶やからな。しゃ~ない。アレを簡単に破られてしもたら、さしものアイツでもその表情を崩すやろうな。あ~、それはそれで見物かもしれへん」

「「「は!? 」」」


 不意に発せられた王子の言葉に、兄弟と、先程まで泣いていた水尾までもがそろって、彼を見た。


「な、なんや……。いきなり注目されると照れてまうやんか……」

「いえ、そこではありません、王子殿下……」


 雄也はいつになく慌てていた。


「い、い、今……、なんて?」


 九十九も食いつくように王子に迫る。


「は?」


 黒髪兄弟の突然の慌て振りに、王子も驚いた。


「クレスノダール王子……。今の口調は、あんたが高田の記憶と魔力を封印した人間を知っているという風に聞こえたが……?」


 いつの間にか、落ち着きを取り戻した水尾が代表して王子に問いかける。


 つまり、先程の発言はそれだけ、3人にとっては衝撃的だったといえるのだ。


「え? ああ。あの封印の術者な。勿論、知っとるで」

「いつ? どこで? 誰が? どうして?」


 さらに畳み掛けるような九十九の勢い。


「九十九、落ち着け。相手は王子殿下だ」


 そう言う雄也も動揺からか、彼にしては珍しく、弟の行動を完全に止めることまで頭が回っていない。


 しかし……、その状況が飲み込めたのか、逆に王子の方は落ち着いていた。


「せやな。嬢ちゃん自身が覚えてへんことを、第三者が知るわけはない……か」


 そう言って、彼は歩き出した。


「ど、どこへ?」

「俺の部屋や。こんな所で立ち話もなんやし、そこで話そやないか。嬢ちゃんの方も終わり次第、案内させるわ」

「確かに……、占術師とはいえ、女性の部屋の前でいつまでもこんなに待ち伏せているのも失礼な話……ですね。」


 雄也もようやくいつもの落ち着きを取り戻す。


「お、なんや、兄ちゃん。話が分かるやんけ」


 王子は途端に笑顔になった。


「うわ。同族……」


 水尾が不快な顔を見せる。


「類友……って感じですね」


 九十九も、やや呆れ顔だった。


 しかし……、そんなことを口にしながらも、王子以外の3人の胸中は、ほぼ同じだったといえる。


『彼女自身が覚えていないことを何故、この王子が知っているのだろう?』


 そんな疑問を抱きながら、3人は王子の私室に案内されたのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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