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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 護衛兄弟暗躍編 ~

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知らなければ学べ

「確かに栞ちゃんの倫理観だと、アーキスフィーロ様は悪くないということになるな。ローダンセ貴族の思考にいい意味で染まっていないし、人間界の現代日本の倫理観も持ち合わせている。そういった価値観は大事だからね。そこはちょっと盲点だったな」


 改めて、雄也さんがそう言う。


「でも、それならば、わたしはローダンセ貴族の思考も学ばないといけないということですよね?」


 受け入れるかどうかはともかく、敵の考え方を知らなければ、対策もとれないだろう。


「そうなるね。文化、習慣を知るだけでも全然、違う。全てを読み解くことはできなくても、何故、そうなるのかは少しだけ理解できるようになるよ」


 常にそう言ったことを考えている護衛はわたしにそう教えてくれる。


 知らなければ学べ。

 理解できなくても知る努力をしろ。


 そう言われているような気分になるのだ。


 本当に、厳しくも優しい家庭教師だと思う。


「ローダンセの王族たちに対して、どこまで従うべきでしょうか?」


 貴族なら王族に従うべきというのは分かる。

 だけど、個人的には嫌だった。


「栞ちゃんの場合、ローダンセ国王陛下より、王族たちへの暴力的排除の許可も下りてるからね。だから、意に添わぬことは従う必要はないよ」


 そして、あっさり挫かれる出端(でばな)


「そういえば、アレはなんで許可が下りたのですか?」


 王族相手に実力行使とか。

 普通は許されないと思う。


「アレについては、トルクの功績だね」


 雄也さんがそう言って笑った。


「栞ちゃんがアーキスフィーロ様から私室を頂いてすぐ、ヤツはローダンセ国王陛下に謁見の申し込みをしている」

「そんなにすぐ!?」


 わたしがアーキスフィーロさまから部屋を貰ったのは、カルセオラリアに来て次の日だった。


 その前夜……、カルセオラリアに来たその日の夜に、わたしが寝ている時間帯に、ロットベルク家が準備した客室の方に侵入者騒ぎがあったことを知ったアーキスフィーロさまが用意してくれたのだ。


「ヤツが自分の親戚に大事な友人を預けるから、王族が手を出さないようにローダンセ国王陛下に交渉をしたのが始まりだ。アーキスフィーロ様と行動を共にする機会が増えれば、王族から絡まれる可能性が高いと思ったらしい」


 トルクスタン王子がそんなにも前から、わたしに対してそこまで気遣って対応してくれていたなんて思わなかった。


「その時、初めてローダンセ王家から、トルクとその同行者を城に招き入れる話があったことも知ったらしい」


 ああ、勝手にロットベルク家が断っちゃったやつだね。


「ただ、トルクのその交渉は、ローダンセ国王陛下の興味も引いてしまったようだね。ただ、それも含めて、全体を見れば悪くなかったとは思っている。アレのおかげで、王城限定ではあるけれど、遠慮なく俺たちは王族に対抗できるからね」


 ―――― ローダンセ王城内に限り、主人を守るためならば、王族に弓引くことを許す


 あの書状を持っている限り、雄也さんと九十九は、わたしを守るという名目の(もと)で王族相手であっても攻撃することができる。


 それが、過剰防衛と言われるほどでも。


「それでも、よく、許されましたよね」


 普通は、王族相手に攻撃して叩き伏せる許しなんて出さないだろう。


「栞。普通の庶民では王族相手にまともな抵抗もできないことは分かるな?」


 今度は九十九からそう問われた。


「それだけ、権力があるからでしょう?」


 庶民は王侯貴族からの理不尽な命令にも従わなければならない。

 だから、トルクスタン王子はそれに対抗するための策をとってくれたのだと思う。


「いや、普通に考えれば、庶民の力では魔法でも物理でも、王族相手に毛の先ほどの傷も与えられないんだよ」


 魔力の大きさも、魔法力の多さも、魔気のまもり(物理耐性と魔法耐性)の強さも、王族は貴族たちと比べても、桁が違うからだろう。


 しかし、毛の先ほどの傷も無理なのか。


「でも、あなたたちは普通じゃないよね?」


 だから、その前提が成り立たない。

 庶民でも手強い人間はいるのだ。


 いや、彼らは血筋が庶民ではないから、ある意味、詐欺のようなものである。


「そんなことを、トルクスタン王子が交渉に行った時点で、あの国王が把握していると思うか?」

「おおう?」


 言われてみれば、そうだ。

 それでなくても、わたしたちは抑制石で体内魔気の放出をかなり抑えている。


 城下に入る時、王都への門で簡易的な審査を受けているけれど、体内魔気の強さを見抜かれたことはこれまでに一度もなかった。


 つまり、国王陛下も、わたしたちがそこまでの魔力の強さとは分からなかったのかもしれない。


「それは同時に、カルセオラリアの王族であるトルクスタン王子はともかく、その同行者であるお前やその従者となる人間たちのことをなめていたってことだ。まさか、本当に王族相手に実力で排除できるなんて、あの国王だって想像もしていなかったと思うぞ」

「あ~」


 そうだったのか。

 まさか、本当にそんなことはできるとは思っていなかったから、あっさり許可を出したのか。


 第二王子殿下がいきなり庶民の侍女の手によって、倒された報告を受けた時は、さぞかし、驚いたことだろう。


 しかも、その侍女が城下で話題になり始めているような女性なのだから。


「その後、お前たちが三日に一度、登城することになったからな。トルクスタン王子はまた謁見を願って、あの精霊族分も追加交付してもらったらしい」


 つまり、登城が決まる前から、護衛たちはあの書状を既に持っていたのか。


 そして、わたしが王族たちと関わることも予見していたらしい。

 トルクスタン王子は先見の明があるってことなのだろう。


 いや、これはこれまでの経験からだろうか?


 カルセオラリア城の崩壊に始まって、世界会合、海難事故、音を聞く島、リプテラ……。


 トルクスタン王子が同行を始めた後も、結構、いろいろあった。

 一国の王子をいろいろなことに巻き込んでしまって本当に申し訳ない。


 それを言ったら、水尾先輩や真央先輩もそうなんだけれどね。


「恐らく、ローダンセ国王陛下は、既に栞ちゃんの出自……、いや、父親に気付いている。逆に母親については、まだ半信半疑だろうけどね」

「へ?」


 雄也さんの言葉にちょっと驚いた。


「ローダンセ国王陛下は、世界会合でセントポーリア国王陛下と対面している。しかも、あの論戦の中で各国の王たちは、それぞれが体内魔気の威圧を飛ばし合っていた。それにより、ローダンセ国王陛下はセントポーリア国王陛下の体内魔気を知っているということだ」

「あの会合で体内魔気の威圧を……?」

「あのような場ではどんな手を使ってでも意見を通した方が正義だからね。使えるモノはなんでも使う。だから、後半、魔力で劣るクリサンセマム国王陛下やその背後で指示を出していたはずの従者たちもまともな意見を出せなかっただろう?」


 単に言い負かされたというだけではなかったらしい。


 わたしたちが見たのは、画面越しだった。

 だから、そんなやり取りが行われていたことまで分からない。


 でも、同じ条件下……、いや、病床の身に等しい状態で見ていた雄也さんはそれに気付いたのだ。


 わたしは思わず同じ場所にいた九十九を見たが、彼は無言で首を振った。

 どうやら、九十九も気付いていなかったらしい。


 そして、そんな状況で、魔力が弱いはずの母はよく無事だったなとも思った。


「そして、それから時を経て、デビュタントボールにて円舞曲(ワルツ)を踊るために栞ちゃんの身体に触れている。抑制石が抑えるのは、体内魔気の放出だからね。身体に接触すれば、魔力の質は、余程鈍くない限り分かるだろうね」


 わたしとセントポーリア国王陛下の魔力の質は凄くよく似ているらしい。


 誤魔化しようのないほど濃密な風属性の魔力。


 あれほど綺麗な風の気配にとてもよく似ていると言われるのは嬉しいけれど、今は素直に喜べないのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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