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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 護衛兄弟暗躍編 ~

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【第131章― 乱反射 ―】利益と不利益

この話から131章です。

よろしくお願いいたします。

「栞ちゃんとアーキスフィーロ様の間で交わされた約束は、双方にとって利もあるが、不利益もある。それらについての認識をもう少し深めておこうか」


 雄也さんの言葉に、わたしは頷いた。


 先ほどわたしがかなり興奮してしまったせいか、近くには気分を落ち着かせるための薬草茶が置かれている。


 そして、同じく興奮してしまった九十九も、同じ物を手にしていた。

 そのために、雄也さんにも飲み物が準備してある。


「まずは、アーキスフィーロ様の利点を上げよう。栞ちゃんは分かるかい?」

「えっと……、虫除け?」


 雄也さんから問いかけられて、真っ先に出てきたのはコレだった。


「いきなりそれかよ?」

「え? アーキスフィーロさまは、あの魅惑の魔眼のせいで、これまで苦労していたのでしょう? それならば、結構、重要だと思うけど……」


 少なくとも、「花の宴」でも、この前の仮面舞踏会でも、変な女性に絡まれることはなかった。

 どちらかと言えば、絡まれてしまったのはその相方として参加したはずのわたしである。


「じゃあ、九十九は何があると思う?」

「激しい魔力暴走にも耐えられる頑丈な嫁が手に入る」

「嬉しくないな~」


 いや、頑丈ですよ?

 だけど、それは褒めていないよね?


 でも、もっと、こう、喜ばせて欲しいというか?


「他には、本人が知らない間に強力な後ろ盾を得ることができるな。下手すると、世界を動かせるかもしれん」

「いや、動かせないよ?」


 どこの支配者ですかね?


「それ以外だと……、そうだな。居心地の良い場所と、家族を得られる」

「家族?」


 はて?

 居心地の良さというのは褒められたのだろう、多分。


 でも、家族?


「ロットベルク家第二子息は血縁に恵まれてねえ。だから、家族というものに憧れがあるように見える」


 九十九は難しい顔をしながらそう答えた。


「どうしてそう思ったの?」

「お前が挨拶をするだろう? その時に、()()()()()()()()()ことに気付かないか?」

「挨拶……?」


 九十九に言われて思い出す。


 朝、出会った時の「おはようございます」。

 何かをしてもらった時の「ありがとうございます」。

 ちょっと失敗してしまった時の「ごめんなさい」。

 見送りの時の「いってらっしゃい」。

 出迎えの時の「おかえりなさい」

 寝る前の「おやすみなさい」。


 そんなごく普通の挨拶でも、口元を綻ばせているアーキスフィーロさまの姿が頭に思い浮かんだ。


 わたしが言葉をかけると、アーキスフィーロさまは微かに驚いた後、言葉を返してくれるのだ。


 でも、九十九から言われるまでそのことを全く意識していなかった。

 なんで、彼の方が気付くのだろう?


 その表情の変化を、わたしの方がもっと近くで見ていたはずなのに。


「他には?」


 雄也さんがさらに促す。


「後は、ロットベルク家の相続権か。最低限、婚約者がいなければ後継者にはなれなかったよな?」


 そう言えば、そんな話もあったね。


 ローダンセは家を相続する際、婚約者がいる人間を後継者指名して、婚姻している状態で後を継ぐとかなんとか?


 だが、雄也さんはその答えだけでは納得していないようで、まだ九十九を黙って見ている。


「書類仕事のサポートができるよな?」


 事務仕事……。

 ああ、アーキスフィーロさまは苦手だって言っていたね。


 それが出てきたってことは、九十九はわたしの事務処理が、ちゃんとあの人の助けになると思ってくれているようだ。


 絵しか描いていないわけではないからね。


「それ以外となると、ああ、()()()()()()()()()()()……か?」

「絶対的な味方?」

「お前は、敵しかいないあの男……、ロットベルク家第二子息を裏切ることはないだろ?」


 九十九から問われると、わたしは頷く。


「縁談相手なんだから当然でしょう?」

「警戒せずに自分の背中を見せられる相手って、意外と少ないんだぞ?」


 わたしのことを、いつもその背で庇ってくれる護衛はそんなことを言った。


 あれ?

 今のは、かなり、褒められたってことかな?


「背中を撃つ相手は貴族に多いからな」

「ああ、『(うし)()』ってやつだね」


 敵に内通して味方の背後から矢を射かけるなんて、戦国時代ではよくある話だった。


「お前は、時々、武士になるよな」

「いや、『後ろ矢』は普通に裏切ることだからね?」


 九十九が言った「背中を撃つ」と意味も変わらない。

 だから、武士になった覚えなどないのだ。


「他には?」


 雄也さんは更に九十九に問う。

 九十九は少し考えて……、首を振った。


「ロットベルク家第二子息の利としては、これ以上、思いつかん。それ以外の理由を上げるなら、()()()()()になる」


 ほ?

 九十九の私情?


 それはそれですっごく気になるよ!?


「まだあるだろう? 先ほどお前は後ろ盾と言ったが、それ以外の手蔓(てづる)……、人脈も得る」


 雄也さんはさらりとそう言った。

 ああ、コネってやつですね。


 確かにカルセオラリアの王族という分かりやすい後ろ盾、セントポーリアや大聖堂という隠された後ろ盾以外にも、アリッサムの王族、ストレリチアの王族、ジギタリスの王族とも縁がある。


 最近なら、イースターカクタス国王陛下も縁ができた。


 それ以外には有能な専属侍女がいる。

 彼らが近くにいてくれるだけで、わたしはかなりのモノを持っていると自負できる。


「そして、知己から得たローダンセにはない栞ちゃんの知識は、アーキスフィーロ様も無視できないだろう」


 その辺に関しては、ローダンセが知らなすぎるというのもある。

 あまりにも大事なものを失い過ぎだよね。


「それ以外では、そうだね。()()()()()()()()()()()()()()。これは大変大きな利点だと個人的には思うかな」

「ふごっ!?」


 笑顔でそんなことを言わないでください。


「私情じゃねえか」


 そ、そうか。

 護衛としての立場上、そこは言っておかなければいけない部分なのかもしれない。


 なんとなく、九十九を見た。


「まあ、先の人生、退()()()()()()になりそうだよな」


 そう言いながら、九十九はわたしから視線を外した。


 それって、遠回しに厄介ごとに巻き込まれることが増えるって言ってない?

 経験談だね!?


 そして、九十九の私情って、こういうことだったか!!


 確かに私的な意見だ。

 わたしと長く接しているからこそ分かる話。


 だけど、個人的にはもっと、雄也さんよりの意見が欲しかったと思うのは贅沢だろうか?


 贅沢だね!

 分かっているのです!!


 でも、ちょっとぐらい期待させてくれても良いのに、本当に嘘の吐けない護衛だ。


「まあ、他にもいろいろあるけど、誰の目にも分かりやすいのはこんな所かな」


 誰の目にもというか、先ほどの言葉には雄也さんの欲目があることは分かった。

 そういった意味では九十九の方が冷静に判断してくれていると思う。


「だけど、当然、利点があれば、不利益になることもある。そちらも確認しておこうか」

「はい」


 良いことばかりではない。

 それは分かっている。


 そして、先ほど九十九が口にしたのも、どちらかといえば不利益だ。

 厄介事を引き起こす嫁なんて平穏を望むあの人にとっては迷惑以外の何ものでもない。


「まず、確実に、ローダンセの王子たちを敵に回すだろうな」


 九十九の言葉に思わず、顔を顰めたくなる。

 アーキスフィーロさまとわたしにそれぞれ宛てられた手紙。


 それからも、分かることではあるのだけど……。


「敵に回すことは分かっているけど、なんでそうなるんだろうね?」


 アーキスフィーロさまは敵とするよりも、味方とした方が良さそうなのに。


「自分の意に従わなければ排除。分かりやすい理由だろ?」

「清濁併せ呑むことも王侯貴族には必要だと思うのだけど」

「あの国の王侯貴族が、そんな度量の大きいヤツばかりなら、120年の間で二回も政変なんて起きてないと思うぞ?」


 そんな言葉に閉口するしかない。

 つまりは、短絡的、我慢ができない国民性ってことだ。


「狙った女を臣下に奪われることも我慢できないだろう。身分格差にうるせえ国だからな」

「狙った女も何も、アーキスフィーロさまとの婚約については、カルセオラリアから事前にローダンセ王家には話だけは伝えられていて、わたしが王子たちに会ったのはその後なんだけど?」


 アーキスフィーロさまと縁がなければ、わたしはローダンセの王子たちを関わることはなかった。


「あの国の愚王子たちにはそんな順番とか、正当性とか関係ねえんだよ。過程ではなく結果が全て。話を聞き、手紙を読んで、真っ当な思考を持っていると思うか?」


 わたしの護衛は本当に口が悪い。


 でも、同感だ。

 あの国の王子たちに普通の対話を求めてはいけない。


 それぞれ独自の思考回路をお持ちのようだから。


「どうしてそうなった?」

「知らん。教育の問題だろう」


 口の悪い護衛はさらに重ねてそう答える。


 でも、それだけだろうか?

 なんだか、根本的な問題を見落としているような気がして、わたしは溜息を吐くのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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