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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 護衛兄弟暗躍編 ~

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今までが大丈夫でも

「栞ちゃんがロットベルク家に根を下ろすというのなら、今後は城以外の外に出る機会も増えるだろう」

「貴族令嬢が外に出るのか?」


 雄也さんの言葉に、わたしではなく、九十九が反応した。


 わたしは貴族令嬢ではないが、アーキスフィーロさまの婚約者候補となったために、それに準じた扱いになることは分かる。


 だが、やはり自分に「令嬢」という言葉がしっくりとこない。


「勿論、出ない国もあるが、ローダンセは出る方だな。だから、()()()()()()()()()()()()()があるのだ」


 えっと、確かサークル活動的なやつだっけ?


「確かに城下の貴族街で侍女や護衛を連れている女を見かけるな。あれだけ外に出る女がいれば、逆に危険は少ないか」

「大通りはな。だが、道を一、二本(たが)えれば、危険なのはどの国も変わらん。表沙汰になる犯罪が少ないだけだ」


 それは裏では犯罪が溢れているってことでしょうか?


「あ~、オレや水尾(ルカ)さんが護衛として声を掛けられる機会が増えたのもそういうことか。同性しか同行できないというのは面倒だな」


 もともと護衛である九十九(ヴァルナさん)はともかく、本来、王族として護られる立場にあるはずの水尾先輩(ルカさん)にもお声はかかるらしい。


 いや、当然か。


 水尾先輩(ルカさん)は実戦慣れしている。

 しかも、容姿(見目)がよく、そこはかとない気品もあるのだ。


 貴族令嬢の護衛として連れ歩くにはかなり良い気がした。


「お前はともかく、水尾さんを護衛にしたいというのは、相当、()()()()()()()()()()だな」

「あ?」


 だが、雄也さんはそんなことを言った。


 自信?

 どういうことだろう?


「貴族夫人、令嬢は()()()()()姿()()()()()()()()()()()()()()()。周囲の視線を取られるからな。勿論、同行させる以上、ある程度の見目を気にするだろうが、すぐ後ろに置く侍女ならばともかく、護衛に容姿は必要ない」

「酷えな」

「見た目の美醜など大した問題ではないが、気にする者は気にする。そういう話だ」


 その会話で、九十九は雄也さんの率直な言葉に眉を顰めたが、わたしは別の部分が気になった。


 貴族令嬢、貴族夫人は、平均して見目が良い人が多い。

 わたしが、この世界は美形が多いと感じるのがそこにある。


 高位貴族は、ある程度、選べる立場にあるのだから、容姿だって自分好みで、ある程度平均以上の人間を選んできたのだろう。


 この世界も遺伝の規則性が全くないわけではない。


 祖神が元になっているため、同じ両親であっても兄弟姉妹で全く違う顔になることもあるが、神さま自体、容姿が美麗であることが多い。


 だから、祖神の影響を受けやすい貴族の血筋は平均以上の容姿を持っている人が多いわけだが、雄也さんの言葉を借りると、それでも、()()()()()()()()()()()()()()()()という結論になる。


 これって、あまり口にすることはないけれど、雄也さんは水尾先輩の容姿がかなり良いことを認めていることではないだろうか?


 いや、確かにかなり美人さんなんだけど、雄也さんが水尾先輩に対して、そういった言葉を口にするのはちょっと珍しい気がした。


 わたし?

 水尾先輩と一緒にいて、比較されるのは昔からだった。


 同じ部活、同じ守備位置。

 一緒に立って並ぶ機会は当然ながら多い。


 平均より背の高い水尾先輩と、平均よりも背の低いわたし。

 容姿よりもまず、その身長差を口にされることが多かった。


 だから、水尾先輩が綺麗だと思っても、そこまで女としての劣等感を刺激されることはなかった気がする。


 でも、一般的には気にしてしまうのだろう。


 特に容姿に自信がある人ほど、その上を行く容姿を持つ女性の存在を許せず、嫉妬心から排除しようとする。


 少女漫画や少年漫画にはよくある話だった。


 そんなことから、貴族夫人、令嬢は、護衛であっても、自分よりも美人を側に置こうとしない。


 雄也さんが言うのはそういうことだろうね。


「栞ちゃんが生きようとしているのは、そんな世界なんだよ。表面だけ着飾って、その裏では互いに蹴落とす隙を伺い合う。秀でた者が現れれば、集団で貶め、追い詰めていく」

「見事に女性社会ですね」


 あれだね。

 校舎裏に呼び出して「〇〇くんに近付かないで!」と集団で囲むとか、トイレに閉じ込めるとか、悪い噂を流して追い詰めるとか。


「そうなのか?」


 九十九が呆れたように言うが……。


「女社会は厳しいんだよ」


 見た目が良い異性の友人がいると、特にそれを実感する。


 ―――― 笹さんに近付かないでくれる?


 小学生時代、そんな風に言われたのは一度や二度ではなかった。

 九十九の側にいた女子生徒はわたしだけではなかったのに。


 そして、小学校高学年になると、わたしから九十九に近付くのは、朝と帰りの挨拶ぐらいだった。

 九十九の方から近付いてくるのだから、どうしようもない。


 今にして思えば、それも護衛活動の一環だったのだろうけど。


「気にするのは貴族女性たちだけじゃないよ。今後は、どこでどんな罠が仕掛けられるかは分からない。常に警戒した方が良いだろうね」

「罠……?」


 雄也さんの言葉に首を傾げる。


 頭の中に出てきたのは、点々と置かれたお饅頭を拾い集めていくと、落とし穴に落とされるというRPGだった。


 そんな罠に嵌ってしまう主人公はどうかと思うが、幼稚園の卒園試験中の話だったし、プレイヤーとしても、RPGでアイテムが落ちていたら、かなりの確率で拾ってしまうだろう。


 他には、宝箱が画面ギリギリ見える位置に置いてあって、それを開けながら奥まで進むと、宝箱に擬態している即死魔法を携えたモンスターがいるとかね。


 だが、そんな子供だましのような罠ではないのだろう。


「先ほど読んだローダンセ王族たちからの乱筆駄文な書簡への返答は、全て断るだったよね?」

「はい」


 いきなりの話題変更だったが、何も考えずに即答する。


 しかし、乱筆乱文ではなく、乱筆駄文とは酷い。

 ……そう言いたくなる気持ちも分かるけどね。


「王族からの誘いを断るというのは、その周囲から恨みを買いやすいんだ」


 雄也さんが溜息を吐きながらもそう説明してくれる。


虚仮(こけ)にされたと思い込む愚者もいるし、自分は誘われないのにと嫉妬する輩もいる。それ以外にもいろいろな感情や事情から、栞ちゃんを逆恨みすることもあるだろう。これまで好意的であっても、突然、態度が豹変するかもしれない」


 そんな言葉に思わず、ごくりと喉が動いた。


 そうだ。

 これまで築き上げたもの、積み重ねた日々が、ある日突然、崩れることをわたしは知っている。


 だから、わたしはこの世界にいるのだから。


 今までが大丈夫だからって今後もそうとは限らない。

 特に人間の感情が絡めば、雄也さんでも予想が難しいということだろう。


「ローダンセ国王陛下は栞ちゃんやアーキスフィーロ様に友好的な態度ではあるけど、そのこと自体を妬む人間もいるだろうね。これまで以上に、キミは隙を見せられなくなるだろう」

「はい」


 わたしが選ぶのはそういう道だった。


 それを覚悟してきたつもりではあったのだけれど、雄也さんから改めて口にされると、そんなもの、全く意味のないものに思えてしまう。


 わたしの覚悟など、誰かに言われただけでも揺らいでしまう程度のものだと言われているような気がしてならない。


 そんなの、自分の錯覚だって分かっているけど。


「俺たちもできる限り、キミを助けよう。だから、今回のように自分から火中の栗を拾うような真似はしないでほしい」

「気を付けます」


 絶対にやらないとは言えない。

 わたしは自分の感情が先走ってしまうことを知っている。


 今回はその最たるものだった。


「でも、仮にわたしを罠に嵌めるとしたら、どんな手段がありますか?」

「「()()()()」」


 わたしの問いかけに対して、ほぼ間をおかずして返答をする護衛兄弟。

 しかも、見事に重なった。


「栞ちゃんは現状、ほとんどロットベルク家の地下から出ない。出たとしても、その大半は登城する時で、アーキスフィーロ様が必ず一緒だ。そうなると、栞ちゃんだけを別の場所に呼び出すという手段を選ぶだろうね」

「実際、お前は昔の友人からの誘いで、一度だけ城下に出ている。それを知っていれば、同じように手紙を書いて呼び出す……、というのが妥当だと思う」


 雄也さんと九十九の考えはほぼ同じらしい。


 でも……。


「呼び出されたからって、ほいほい一人で出かけるってアホじゃないですか?」


 マリアンヌ=ニタース=フェロニステさまからの招待をお受けしたのは、わたしが知っている人間である確率が高かったからである。


 しかも、アーキスフィーロさまの元婚約者だ。

 見知らぬ人間からの誘いに乗るのとは意味が違うだろう。


「栞ちゃんは思慮深く、常識も良識もある程度は弁えている」

「常識?」


 雄也さんの言葉に何故か、九十九が首を傾げた。


 なかなかに酷い護衛である。

 だけど、そんな弟の反応を無視した上で……。


「そんな栞ちゃんならば、登城中に国王陛下の名前で別室まで呼び出されたら、無視はしないだろう?」


 雄也さんはそう言って、怪し気な笑みをわたしに向けるのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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