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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 護衛兄弟暗躍編 ~

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年の差なんて

「やはり後妻とはいえ、あの情報国家の国王陛下の横に並び立てる気がしません」


 そんな栞の言葉に……。


「別に並び立つ必要はないんだよ?」


 兄貴はそう諭すように言った。


「え?」


 栞は不思議そうに言葉を返す。


「この世界に『王妃陛下』と呼べるほどの存在はいない。『国王陛下』、『女王陛下』の横にいるのは、『王妃殿下』、『正妃殿下』、『王配殿下』と呼ばれる人間ばかりだ。そう呼ばせているのではなく、自然とそうなっている」


 この世界の国王の配偶者は、ほぼ添え物だ。

 国王やそれ以外の王族のような仕事をしているという話も聞いたことがない。


 貴族の中には当主の補助どころか、代行する配偶者もいるらしいが、それらは例外中の例外だし、表に出てくることはほとんどないだろう。


「この世界では、国王の妃に大きな仕事は求められていない。セントポーリアが分かりやすいだろ?」

「おおう」


 セントポーリアの王妃は下手すると、社交すらしない。

 それなのに、どこであの服飾費を使っているのか、オレには分からなかった。


「イースターカクタスの王妃殿下も華やかな場にしか姿を見せなかったらしい。情報国家の人間らしく、情報の操作はお得意だったようだけどね」


 ああ、悪評を流すとか、自分にとって都合の良い噂を広めるとかな。

 確かに情報操作といえばそうなのだろう。


「仕事のできる女性を煙たく思う小さい男も多いけど、セントポーリア、イースターカクタスの王たちは別かな。仕事ができる女性を好んでいるぐらいだ」


 その具体例はどうなのか?


 だが、確かにこれまで話した印象からも、セントポーリア国王陛下も情報国家の国王陛下も、自立した女が好きだとは思っている。


「だから、仮に、栞ちゃんが、もし仮に、情報国家の王族に収まっても、何一つとして、問題はないんだよ。足りない部分は周囲が支え、補ってくれるだろうしね」


 ある意味、絶対王政なこの世界は、時として愚王が頂点に立つこともある。


 それでも、現代まで国家として残っている国は、何らかの形で周囲が国王の補助をしていることが多い。


 しかし、「仮に」を二回言ったな。

 兄貴としては、栞を情報国家の国王陛下の妻にしたいとは微塵も考えていないらしい。


 「妻」ではなく、「王族」と言ったことからもそれは明らかだろう。


「それでも、栞ちゃんが異性として受け入れられないなら、仕方ないとは思う」


 兄貴が楽しそうにクククッと笑った。

 余程、あの国王陛下に含むものがあるらしい。


「異性として……、それもちょっと違う気がするんですよね」


 だが、栞は意外なことを言った。


「「え?」」


 オレだけでなく、兄貴もそれに反応する。


「情報国家の国王陛下がわたしを本気で囲おうとしているのは分かるのです。でも、向こうから見れば小娘でしょう?」


 ちょっと待て?

 お前は何を言っている?


「向こうの方がわたしのことを異性としては……」


 さらに、そんなことを続けようとしたので……。


「見ることはできると思うよ」

「エロ親父、なめんな」


 兄貴とオレがほぼ同時にその言葉を制止した。

 この女はどれだけ、自分を「対象外」としたいんだ?


「お前な~。人間界でも『援助交際』って言葉があっただろう? 中年オヤジたちが自分の娘ほどの女を買うような事例なんか溢れてたじゃねえか。大枚をはたいてでも、若い女好きはいるんだよ」


 寧ろ、その知識があるはずなのに、何故、自分だけは安全だと思い込めるのか?


 男の中には相手の容姿に関係なく、若い女とヤれるってだけで、結構な金額をだすようなヤツもいるのだ。


 不特定多数の人間とそういった行為なんて、どんな病気を持っているか分からなくて怖いとは思わないんだろうな。


 それもある意味、自分だけは大丈夫だと思う謎心理だと思う。


「あ~」


 だが、意外にも栞は納得してくれた。

 品がない例を持ち出してしまったが、彼女にはそれで伝わったらしい。


「栞ちゃんは年齢的に十分、適齢期だよ?」


 そこで、兄貴もさらに続ける。


「それにまだ本当に『小娘』だと思っているならば、『若紫』のように自分好みに育てることもできるから、そこに魅力を覚える男もいるんじゃないかな」

 

 「若紫」?

 なんだ?

 どこかで聞いたことがある気がするが、思い出せない。


 だが、女を自分の好みに育てたいという男の心理は分からなくもないものだ。


 自分の選んだ服を栞が来て笑ってくれるのは嬉しいし、髪や化粧を任されたら、張り切りたくなるからな。


「いや、もっと良い例を上げるなら、女三宮かな? 今の栞ちゃんにはこちらが近いかもね?」


 さらに、兄貴は分からない言葉を続ける。


 だが、栞には何故か伝わったらしい。

 眉を八の字にして……。


「女三宮がわたしなら、別の男性との子を産むことになりますよ?」


 そんなとんでもないことを口にする。


「どうしてそうなった!?」


 思わず叫んでしまった。


 どういうことだ?

 別の男性?


 しかも、子を産む……、だと?


「女三宮は不義の子を宿すんだよ。その相手が源氏の君の親友の息子で、結果としてダブル不倫になったんじゃなかったっけ?」


 そんな話は、知らんわ!!

 そう叫びたかった。


 源氏の君?

 源平のことか?


 確か、鎌倉幕府を開いた将軍が平家に勝った源氏の義経だか、頼朝だかそんな名前だったはずだ。


「女三宮は先帝の第三息女で、蝶よ花よと育てられ、精神的に幼く、従順で流されやすかった。だから、忍び込んできた柏木(男性)を拒み切れなかったんだよ」


 先帝は……、多分、先代天皇だよな?

 日本の話だから。


 第三息女……、ああ、それで女三宮なのか。


 だけど、皇居に忍び込むとか、とんでもねえ話だな。

 この世界なら、王城に忍び込んで、王女とヤるってことだろ?


 ……できなくはないのか。

 現にそれに近しいことをやっている男が目の前にいる。


 だが、はっきりと言えることは……。


「そんな女と栞を一緒にするな。不愉快だ」


 そう兄貴を睨みつけた。


 栞は確かに流されやすいが、線引きはしっかりする。

 万一、今、オレが「発情期」になったとしても、今度は流されることなく、完全に拒絶するだろう。


 今の栞には「婚約者候補」がいるのだから。


「フィクションだよ?」


 だが、栞はけろりとそんなことを言った。


 実際にあった話ではなく、フィクションだったらしい。

 真面目に考えたオレは一体……。


 フィクションってことは、何かの物語……、源氏物語か!?

 中学の時、序章部分だけ習った覚えがある。


 でも、オレはその内容をよく知らない。


 あの世界の歴史も怪しい人間が、古典文学まで覚えられるか!!

 試験範囲で手いっぱいだったのだ。


「それでも、不愉快なんだよ。そんな尻軽女と一緒にされることに不快感はねえのか?」

「年齢差や立場が似ていると言っただけであって、性格が似ているとは雄也自身は一言も言っていないからね」


 そう、だったか?

 ……そうだな。


「……そうか。悪い、兄貴。過剰反応した」


 いろいろごちゃごちゃしていた。

 情報国家の国王陛下からの申し入れは、それだけ、オレの精神を混乱させているようだ。


「いや、俺もあの情報国家の国王がどうも、その物語の主人公と重なって不快に思っている部分はある。偶然にも『光の君』だしな」


 兄貴が困ったようにそう言った。


「そんなに酷い話なのか?」

「下半身の緩い男に身分を与えてはいけない典型的な話だな」


 どこの()()()()()()()だ?


「実母によく似ているという義母に横恋慕して、最終的には無理矢理関係を持って子供を産ませる。最初の正室は昔関係を持った女性の生霊に取り憑かれて亡くなる。十歳の幼い娘を義母の面影があるからと連れ帰って養育し、年頃になったら関係を持つ。これが序の口」


 栞がさらに詳しく説明してくれる。


 義母に横恋慕ってことは、自分の父親の後妻に……、子供を産ませてんのかよ!?

 しかも、無理矢理か!?


 ああ、でも、生まれた子に自分の面影があっても言い逃れができてしまうのか。

 酷え話だ。


 最初の正室ってことは、後に継室ができるのか?


 しかし、生霊に取り憑かれるってすさまじいな。

 さらに、十歳の幼い娘を連れ帰って養育って……、ああ、光源氏計画ってやつは聞いたことがある。


 それが序の口とか。


 確かに権力を持たせてはいけないが……、義母のところが一番ヤバい。

 実母によく似ているなら、マザコンかよ!?


「自分の父親の妻に手を出す神経の太さもさることながら、政敵の娘に手を出すのは迂闊としかいいようがない。都から追放され、行きついた先でも子供ができて、その子を自分が囲っている女性に育てさせている。それ以外にも……」


 何故か、兄貴も語りだした。


 主人公の男が好きではなくても、その物語自体は好きなのだろう。

 あらすじとはいえ、いやに詳しいから。


 政敵の娘に手を出すのはまあ、たまに聞くよな。


 日本の話ではないが、ロミオとジュリエットみたいなもんだろう。

 反対された方が燃えるってやつだ。


 追放された先の女に手を出すのも想定内だ。

 完全にイメージが情報国家の色ボケ王子になっているから想像がしやすい。


 しかし、他の女に産ませた子を別の女に育てさせるとか、かなり鬼畜だな。


「もう、いい。その主人公がクズ男なのは分かった」


 だが、これ以上聞いていると、もっと酷いのが飛び出しそうになるので、この辺でやめてほしかった。

手で制して、そのまま顔を伏せる。


「つまり、栞ちゃん。キミに求婚してきたのは、あの物語の主人公のような男だ」


 兄貴がそう言うと……。


「よく理解できました!!」


 栞はかなり良い返事をした。

 だが、どこまで本当に理解しているのかは分からない。


 敵は情報国家の国王陛下だけではないのだ。


 そこを、いや、栞が自分の魅力と価値を理解しない限り、これまでと同じように、何度もこんな会話が繰り返される気がして、オレは深い息を吐くのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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