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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 護衛兄弟暗躍編 ~

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このメッセージは

「ふわっ!?」


 そんな栞の叫びと共に、彼女の手にあった黄色い紙が炎を上げだした。


「栞ちゃん!?」

「栞!?」


 兄貴とオレが同時に反応する。

 直前まで魔法の気配はなかったのに。


 そして、そのまま、その炎は消え、後には残らなかった。


 だが、物質が燃えたというのに、それはあり得ない。

 紙に含まれる成分が酸素と結合して燃え残り、灰とはるはずだ。


 この辺り、人間界もこの世界も変わらない。


 それなのに、完全に消えてしまったということは、あの紙自体が、魔法で作られた紙だった可能性が高いだろう。


「こ、これは……」


 栞は目の前で起こったことが信じられなかったのか、震えている。


 だが、身を護るための「魔気の護り(自動防御)」が発生しなかったと言うことは、あの炎は見せかけだけの、害のない物だったのだろう。


 そうなると気になるのは……。


「隠蔽魔法か?」


 その魔法の方であった。


 栞の手からは見事に何の痕跡も無い。

 魔力の残滓すら。


 それを形成していた魔力は、周囲の大気魔気に混ざったのだろう。

 見事に消えている。


「分からん。だが、今のは実に興味深い仕掛けだな」


 兄貴もそう思ったのか、栞の手の平を見つめていた。


「えっと、手紙の内容については話さなくても良いですか?」


 そんな途切れがちな栞の言葉に、オレたちは優先順位の誤りに気付く。


「そうだった。内容は話せそうかい?」

「忘れないうちに紙とメモをください!!」

「いや、話せばオレが記録するよ」


 オレがそう言うと……。


「先に整理しておきたかったけど、仕方ないか」


 そう肩を竦める。


「情報国家の国王陛下からの手紙の内容は、やはり、九十九が事前に聞いていた通り、継室……、いや、この世界では継妃でしたっけ……の、申し入れでした」

「やはり、そうか……」

「やっぱりか」


 栞の言葉は予想通りのものだった。


 思った以上に行動が早い。

 兄貴もそう思ったことだろう。


 オレと会って話してから、一週間と経っていないのだ。


 その後に、書類を準備、作成した上で、セントポーリア国王陛下に送りつけ、さらに栞宛の手紙に仕掛けをして添える。


 書類系は前もって準備していても、栞宛の手紙は……、それも準備していたのかもしれない。

 どれだけ用意周到な国王だ?


 そんなことを考えていたからだろう。


「但し、ローダンセが落ち着いてから、直接、返答を寄越せと言うことです」


 栞の言葉に……。


「は?」

「あ?」


 オレと兄貴は、揃いも揃って間の抜けた反応を返すしかなかった。


 直接?

 どういうことだ?


「イースターカクタスまで来いってことだと思います」


 いや、ますます分からない。

 だが、それ以上に……。


「ローダンセ……、落ち着くのか?」


 思わず兄貴に聞いていた。


「いや、無理だろう」


 兄貴も難しい顔でそう答える。


 そうだよな?

 あんなにめんどくさいこと山積みなあの国が、そう簡単に落ち着くとは思えない。


「そうなると、別に来なくても良いって解釈をとっても良いと思うか?」

「何をもって落ち着くと書いたのかが分からんな」


 だが、あの情報国家の国王陛下が何の根拠もなく栞にそう伝えるとも思えなかった。


 つまり、何かを掴んでいるのだ。

 オレと兄貴がまだ知らない情報を。


「栞、情報国家の国王陛下からの文章を思い出せるだけ思い出してくれないか?」


 本文を知ればマシだろうか?

 幸い、栞は文章に強い。


 だから、覚えている限りを教えてもらえば、また違った意見に気付けるかもしれないと、そう思った。


「最初の宛名と最後の署名はシルヴァーレン大陸言語だったけれど、本文は日本語で書かれていた」

「「は?」」


 栞の返答にオレと兄貴の声が重なった。


 いや、おかしいだろ?


 シルヴァーレン大陸言語を理解しているのは分かる。

 他大陸言語は、王族の教養だから。


 だが、日本語は違う。

 この世界では、知る人間の方が圧倒的に少ない言語だ。


「綺麗な漢字と平仮名だったよ」


 しかも、漢字と平仮名を使いこなしているのかよ!?


「つまり、本気ってことだな」

「ほへ?」


 オレの言葉に栞は不思議そうに首を傾げた。


 分からないのか?

 この世界で必要のない言語を勉強する意味が。


「そうだろうな。僅かな誤解も起きぬよう、相手の国の言葉で文書を作成したのだろう」


 兄貴も険しい顔で応じた。


 栞に宛てられた手紙の内容を一刻も早く知る必要がある。

 彼女が忘れてしまわないうちに。


「えっと、始まりに宛名があって……、その次の文章から口にしますね」


 その宛名はなんと書かれていただろうか?


 普通に考えれば「Shiori」と書かれているはずだ。

 だが、求婚の手紙なら、魔名を書くのが一般的だと思う。


 そして、多分、情報国家の国王陛下は栞の魔名を知っている気がした。

 だから、栞もこの場でそれを口にしなかったのかもしれない。


 千歳さんが教えることはないだろう。

 セントポーリア国王陛下の子であることは隠しているのだから。


 だが、情報国家の国王陛下はセントポーリア国王陛下やミヤドリードという情報源もあったのだ。


 どちらからか伝わっている可能性が高い。

 だから、()()()()()()()()()気がする。


 栞自身に魔名の存在を印象付けるために。


「【このような文を我が息子より年若い栞嬢に送るなど、恥ずべきことではあるが、決していい加減な気持ちからではないことを、先に明記しておく。】」


 ああ、一応、恥の概念はあったのか。

 その上で、軽く思われないように釘を刺したらしい。


「【事前に、栞嬢の従者にこちらの状況については伝えたつもりなので、それを前提として話を進めさせてほしい。万一、聞いていなければ、職務怠慢だと伝えておいてくれ。】」


 オレに向かって話したことが、栞に伝わっている前提、か。

 どこまで書くつもりだ?


 栞が後でオレや兄貴に伝える可能性は考えているだろうから、あまり踏み込んだことは書かないと思いたいが、あの情報国家の国王陛下のことだ。


 自分にとって有利になるように話を進めようとする気がする。


 できれば、栞にはオレたちの問題の方には関わって欲しくない。

 自分のことだけ考えて欲しいと思っている。


 それだけ、厄介な案件なのだから。


「【現在、栞嬢を取り巻く情勢は心安らかなものではないだろう。その原因が、子の気持ちを無視した両親の勝手な行いにあるのは明確な事実ではあるが、それぞれが其方のことを考えた末の言動であることは理解している。】」


 言われてみればそうだな。


 千歳さんが栞をセントポーリア国王陛下の御子だと認めれば、そのほとんどは解決してしまう話なのだ。


 だが、それをしてしまうと別の問題が生じる。


 ―――― セントポーリアの王位継承問題


 それに栞が巻き込まれることは間違いないだろう。


 そして、本気で巻き込む決意をしたなら、セントポーリア国王陛下は攻撃型に変わるとオレは思っている。


 迷わずクソ王子が自分の子でないことを公表し、王妃ともども徹底的に排除する。

 そうしなければ、千歳さんも娘である栞のことも守れないから。


 だが、そうなれば、確実に栞に群がる人間が増える。

 セントポーリア国王陛下も千歳さんもそれを避けたいから、こんな状態なのだ。


 肝心の栞の意思を何一つとして確認もしないで。


「【そのため、友人であっても第三者である我が身は余計な口を挟むつもりはない】」


 それを情報国家の国王陛下は理解している。

 他国の問題である、と。


 だが、この文章を信じるなら、情報国家の国王陛下はそれをあまり良くないと思っている気がした。


「【だから、両親とは別の方法で栞嬢を守らせてほしい。どの国であっても、貴族子息では其方を守ることはできないだろう。それよりは、我が許に収まることをお勧めする。】」


 このことは、オレにも言っていた。


 貴族子息の配偶者になったぐらいでは、あのクソ王子は怯まない、と。

 そして、同時に情報国家の国王陛下の継妃なら、流石に手を出すことはないとも。


「【当初は養子縁組も考えたのだが、自分の立場上、逆に良からぬ輩を引き寄せる可能性が高いため、愚考した次第だ。何より、其方の実の両親は、やはり、いい気はしないだろうからな。】」


 セントポーリア国王陛下が強引に娘としないのは千歳さんの意思を尊重しているためであり、決して、栞を実子と認めたくないわけではない。


 だから、他の人間に「父親」を取られるのは嫌だろう。

 まあ、栞の配偶者に「父親」がいれば、「義父(父親)」となってしまうわけだが。


「【それに、栞嬢は魅力的な女性だ。我が子とするよりも我が妻としたい。】」


 厚かましいこと限りない話だ。

 我が子にしたら、手を出せないが、妻なら手を出し放題だからな。


「【勿論、そのことで別の苦労を掛けることもあるとは思うが、これ以上に、其方を守る場所はないだろうと自負している。】」


 悔しいが、それは本当のことだ。

 オレにも兄貴にもないものを、情報国家の国王陛下はその手にしている。


「【既に、傍に置くことに慣れた護衛たちもいるようだからな。奴らが異性であることは気にかかるが、考えようによっては同性のように栞嬢の足を引っ張ることは少ないだろう。その者たちも傍に置いたままで良い。だから、少しは検討してくれないだろうか?】」


 流石に、「共有」の話は持ち出さなかったか。


 栞が覚えている文章に間違いがないなら、オレたちを護衛として側に置くという意味にしかとれなかった。


 しかし、これらがどこまで本心から書かれているのかも分からない。


 文章からではオレは嘘を見抜けないのだ。

 せめて、文字を見たかったが、既に燃えてしまった。


 だから、栞の記憶だけで判断するしかなかった。

 仕方なく、オレは続きを聞くのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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