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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 護衛兄弟暗躍編 ~
2614/2618

手紙読了

「シュレッダーするのは、第二王子だけで良かったか?」


 手紙を読み終えた後、九十九からそう聞かれたので……。


「第三王子殿下はいろいろ酷過ぎて、そんな気力も湧かなかった。第四王子殿下はそこまで苛つかなかった。でも……、第五王子殿下からの手紙は妙にモヤっとした」


 素直に読んだ直後の感想を述べた。


 第三王子殿下は自分宛の手紙も、アーキスフィーロさま宛に書かれた手紙も、どちらも本当に内容が見るに堪えないものだった。


 いや、この場合、読むに堪えない?

 寧ろ、ここまで突き抜けていれば、もう現実味がなくなる。


 細切れにするとか、燃やすとか、分解するとか、消失させるとか、粉砕するとか、そんな労力すら起きなかった。


 第四王子殿下からアーキスフィーロさまに宛てられた手紙はある意味、わたしに宛てられたものと大差がなかった。


 パトロンとして、わたしを側に置きたいのは願望だし、ロットベルク家が内部崩壊するのは、ある程度調べれば分かるような事実だ。


 わたしがロットベルク家から出て、第四王子殿下の所へ行っても、恐らくそう遠くない未来に破滅するだろう。


 それぐらい内情が酷い。

 主に金銭面の話。


 アーキスフィーロさまの仕事をお手伝いをしていれば、ロットベルク家のお財布事情はある程度、予測できてしまう。


 これまで、なんとか保っていたのは、一応、ヴィバルダスが第三王子殿下に仕えているため……と言っても、家にほとんどお金は入れていないのだから、これはあまり戦力になっていない。


 アーキスフィーロさまは登城していなかったけれど、第五王子殿下にお仕えしている身である。

 人間界という異世界のような所までお供したのだ。


 その報酬でなんとか数年はもったらしい。

 セヴェロさんから、そんな帳簿をこっそり見せられた。


 そして、最近ではトルクスタン王子からのお金をやりくりしているようだ。

 アーキスフィーロさまはそろそろ、本気で怒って良いと思う。


 そして、第五王子殿下がアーキスフィーロさまに宛てた手紙は、なんだろう?

 当人は第四王子殿下のように事実だけ書いていたのだろうけど、なんか妙にモヤモヤしたのだ。


 こう胸の内がぐるぐるして気持ち悪かった。


「まあ、お前宛のは泣き付くような書き方だったし、ロットベルク家第二子息に対しては友人と言いつつ、実質、臣下への命令だったから、そう感じるのは仕方ねえ」


 九十九はそう苦笑する。


「何より、ロットベルク家第二子息に宛てた方は全部、日本語だったからな。ウォルダンテ大陸言語で書かれた文章よりも、さらにお前には意味が伝わりやすいって部分もあったと思うぞ」

「なるほど!!」


 そうか。

 翻訳の必要がない分、文章に集中できる。


 だから、第五王子殿下の気持ちが直接伝わってくるような気がして気持ちが悪かったのだ。


 ―――― なんて、勝手な人なんだ?


 そんな気持ちでいっぱいになってしまったのだと思う。


 それがはっきり分かったためか、ちょっと気分的にすっきりした。


「それで? 魔法の練習はするか?」


 そう言いながら準備される受け皿、もとい、受け箱。


「いや、必要ない」


 それぞれの王子たちの考え方は伝わった。

 それに、わたしとアーキスフィーロさまに対して態度が違うのは当然だ。


 まさか、互いに届いた手紙を情報共有のために見せ合うなんて、高貴な方々には思いつきもしないだろう。


「雄也。やはり、全てお断りの返答をします。後で、推敲してください」

「承知しました、我が主人」


 おおう。

 久しぶりの敬語と、主人扱い。


「それと、確認なのですが、この様子だとそれぞれが、ロットベルク家を取り潰す算段を練っているようです。大丈夫でしょうか?」


 一つにまとまっていてくれたら良かったが、これらの文面から、その方法が異なる気がする。

 それだと対処が難しい。


 ロットベルク家が潰れるにしても、少なくとも、後5,6年は持ってほしいと勝手ながら思っているから。


「現時点では、まだ手を出してくることはないだろうね。栞ちゃんの意思確認ができていない。だから、返答については、ロットベルク家に戻ってからの方が良いと思う」


 雄也さんはそう言うが……。


「でも、王子殿下たちはわたしが留守なのを知らないのでは?」


 それなのに、返答を遅らせるのは良くない気がする。


「大丈夫。既に、()()()()殿()()()()()()()()()()()()ようだよ」

「へ?」


 何故、第二王子殿下がわたしの留守をご存じなのでしょうか?


「例の仮面舞踏会から、既に数日経っているからね。アーキスフィーロ様はその間、登城し、いつものように第二王子殿下の突撃を受けたらしい」


 そうか。

 あれからもう5日は経っていた。


 そして、わたしがいなくても、アーキスフィーロさまはちゃんと登城したらしい。

 やはり、強い人だと思う。


「第二王子殿下の突撃って……、アーキスフィーロさまはご無事ですか?」

「肉体には傷、一つ付いていないね。精神的には分からないけれど」

「あ~、あの第二王子殿下のお相手は疲れますからね」


 確かに精神的に疲弊はしていることだろう。


「第二王子殿下が言うには、アーキスフィーロ様はとうとう『ヴィーシニャの精霊』に愛想をつかされたらしいよ」

「へ?」


 愛想?

 何故?


「第二王子殿下は城の至る所でそう叫んでいたらしい。今こそ、救い出すのは俺だという言葉とともにね」

「それは……」


 確かに城中で叫べば、他の王子殿下たちの耳にも届くだろう。

 しかし、本当に傍迷惑な「拡声器」もあったものだ。


 どこまでアーキスフィーロさまを貶めれば気が済むのか。


「だから、栞ちゃんは後10日ほど、ここでのんびり過ごそうか」

「へ?」


 雄也さんからの提案に、一瞬、思考が停止した。


「アーキスフィーロ様には二週間ほど(いとま)を頂いている。それだけ重症だったということも添えてね」

「そんなに?」


 それはちょっと貰い過ぎではないだろうか?

 その間にもアーキスフィーロさまの不名誉な噂が広まってしまう気がする。


「阿呆」

「ほへ?」


 なんか、今、酷い言葉を別の方向からいただいたような……?


「あの『ケダカクウツクシイモレナ様』も言ってたじゃねえか。休養しろと。お前の状態がちゃんと落ち着くまでは、二週間過ぎても戻る気はねえからな」

「え……、でも……」


 その間、アーキスフィーロさまは一人で……、いや、セヴェロさんと二人で、あのロットベルク家とローダンセ城で戦うことになるのだ。


 その一因ともなったわたしが、こんな場所でのんびり過ごすのは申し訳なかった。


「栞ちゃん。キミに自覚はなくても、生命の危機に瀕したんだ。そして、あの『気高く美しいモレナ様』も、今代の聖女に休養を与えよと言った。何より……」


 雄也さんは珍しく、ニッと笑って……。


「完全回復しない状態で、セントポーリア国王陛下や大神官猊下にお会いして、誤魔化しきれる自信はあるかい?」


 そんな決定打を放つ。


「ぅぐっ! ありません」


 心境的に、二死(ツーアウト)走者(ランナー)二塁から、中堅手(センター)前へ同点となる適時打(タイムリーヒット)を打たれた気分だ。


 逆転されたわけではないが、気を抜くとひっくり返されてしまうような状況。


 自分でも分かっているのだ。

 血族であるセントポーリア国王陛下は、わたしの体内魔気の変化に気付くだろう。


 そして、大神官である恭哉兄ちゃんは、わたしの魂の状態まで見抜きそうだ。


 心配をかけてしまった以上、二人に会わずにローダンセへ向かうなんて選択肢は当然ない。

 完全回復をした姿を見せなければ、二人も納得しないだろうから。


「それと、ここまでは()()だ」

「え?」


 前座?


 前座って、あれだよね?

 講談とかの前置き、小説で言う序章みたいなやつ。


 あるいは、落語で最初に登場する掴み役の演者。


「本命はこちら」


 そう言って、雄也さんがわたしに差し出した封書は、どこかの国の「王家の紋章」と見覚えのある印章が並んでいる。


「これは……」


 ソレを取る手が震えた。


 ()()()()()()に押されているのは、本人を示す印章だけ。

 でも、これには国章とも言える「王家の紋章」まで並んで押印されている。


 つまり、()()()()()()だ。


「イースターカクタス国王陛下よりセントポーリア国王陛下に宛てられた外交文書の中にあった栞様宛のものだよ」


 雄也さんはそれまでの笑顔を消して、わたしにソレを手渡したのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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