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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 護衛兄弟暗躍編 ~

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【第130章― 乱筆乱文、乱射乱撃 ―】届いた手紙

この話から130章です。

よろしくお願いいたします。

「正直、俺たちは初日から二日目にかけての栞ちゃんの待遇を見て、ロットベルク家に見切りを付けたかったんだよ」


 雄也さんはそう言って笑う。


「いくら何でもあれは酷過ぎたからね。大事な主人を預けるに値しない家だと思ったのが理由かな」


 わたしはそこまで気にならなかったけれど、雄也さんからすれば、相当酷いらしい。

 そして、恐らく、九十九もそう思っているのだろう。


「だけど、栞ちゃんはアーキスフィーロさまのためにロットベルク家にいることを決意した。その心は(とうと)いものだと思う」


 雄也さんはそう言ってくれるが、わたしのそんな感覚はない。


 貴い?

 そんな綺麗な感情ではないのだ。


「そこで、改めて確認しよう。栞ちゃんは本当にこのままで良い?」

「はい」

「分かった」


 雄也さんはわたしの意思確認をした後、あっさりとそう口にする。


「つまり、それだけ、アーキスフィーロ様のことが心配ということかな?」

「そうですね」


 ロットベルク家は正直、どうでもいいのだ。


 トルクスタン王子の親戚筋だから、ある程度気を遣う必要はあると思っていたけれど、向こうが全く気遣う様子がなかった。


 一応、トルクスタン王子が同行した正式な要請だったはずなのに。

 他国の王族とその連れに対して、あの振る舞いは恐らく、どの国でもありえないだろう。


 でも、わたしにしたことよりも、アーキスフィーロさまにしてきたことの方がずっと酷いものだった。

 雄也さんもそう思ったから、わざわざ何度も確認を繰り返している。


「それならば、栞ちゃんが関わらなくても、アーキスフィーロ様を救う方法があれば、それでも良いかい?」

「へ……?」


 それは、思わぬ方向からの言葉だった。


「あのロットベルク家からアーキスフィーロ様を救う方法は存外、簡単だ。あの家を出れば良いだけだからね。もう18……19になるか。それなら、親の庇護下から抜けること自体は難しくない」

「それは、アーキスフィーロさまに家を捨てろということですか?」


 あの人は、育てられた恩はあると言っていた。

 だから、離れられない、とも。


「アーキスフィーロ様はずっと、それを考えていたと思うよ。だから、自分でなんでもする道を選んでいる。そんな彼にとって誤算だったのは、トルクのお節介だろうね」


 つまり、わたしが来たから、抜け出せなくなったってことだろうか?

 わたしが関わらなければ、あの人は何の迷いもなく、家から出ることができた?


「九十九。アーキスフィーロ様の魔獣退治の腕は見ただろ? どうだった?」

「ふ?」


 アーキスフィーロさまの魔獣退治の腕?

 それは気になる。


 そして、何故か、それを九十九が見ていたことも。


「魔獣相手なら、悪くねえとは思う。多分、この国の王族よりも上……、少なくとも第一王女殿下のように囲まれる無様は見てない」


 しかもかなりの高評価だ。


「人間相手ならどうだ?」

「へ?」


 人間……、相手……?

 何故に!?


「戦い方を何度か見たが、明らかに単独で殲滅型だ。気質としては水尾さんにかなり近い。周囲に人がいると邪魔に思うタイプだろう。連携は不慣れで、守りながらも向いていない」


 ああ、そんな感じがする。


 水尾先輩がそんなタイプってことも。

 それは、きっと、どちらもずっと独りで多くの魔獣を相手にしてきた弊害なのだろう。


 九十九と雄也さんは単独で敵に向かうこともできるし、周囲に合わせた連携もできる。

 わたしを背に置いて、守りながらも戦うことができる人たちだ。


 わたしは、どうだろう?


 模擬戦闘中すら、誰かを守りながらの余裕はない。

 そうなると、わたしも単独で殲滅型になるのだろうか?


「栞ちゃんがローダンセでアーキスフィーロ様と共に在りたいと願うなら、人間相手の戦闘に慣れる必要があるね」

「それは何故でしょう?」


 魔獣相手は分かる。

 アーキスフィーロさまはそれで、自分に必要なお金を稼いでいるようだから。


 でも、人間相手?

 人間と戦闘するのは護衛ではないだろうか?


「アーキスフィーロ様は人間に敵が多いからね。魔法だけではなく、いろいろな面で戦うことが増えるだろう」


 それは分かる。

 寧ろ、魔法で戦う機会の方が少ないだろう。


 世の中、ヴィバルダスさまのような思考を持つ方が少ない。

 特に貴族なら、搦め手を使う方が多いかもしれない。


「いずれにしても、経験が必要なことだけどね」


 そう言いながら、雄也さんは数通の封書を出した。


「さて、ここに、ロットベルク家が()()()()()()がいくつかある」

「ほげっ!?」


 ロットベルク家が潰れる……ではなく、潰される?


「そして、当然ながら潰れたロットベルク家の子息には、栞ちゃんを守る後ろ盾などないわけだ」

「そ、それは……」


 確かに、ロットベルク家そのものが無くなるというのなら、わたしがアーキスフィーロさまの婚約者候補でいる理由がなくなってしまう。


「まだ現段階では大丈夫だ。だけど、今後、ローダンセ国内で、ロットベルク家を排除する動きは加速するだろう」


 そう言いながら、まるで、カード占いのように、雄也さんは持っていた封書を一通ずつ、裏返して丁寧に並べていく。


 そこに出された封書は4通。


 差出人が分かるように裏に向けられているが、それぞれに、見覚えのある印章が押されていた。

 これは一体……?


「さて、これが何か分かるかい?」

「ローダンセ第二王子殿下、第三王子殿下、第四王子殿下、第五王子殿下の押印があるように見えます」


 その方々からは、既に何度かお手紙をいただいている。

 だから、見間違えることはないだろう。


「その通りだ。この四通の書簡は、全て栞ちゃん宛と思われ、その内容は似たようなものだった」


 その時点で嫌な予感しかしない。


 第一王子殿下を除く、成人済みの王子殿下たちから届いたわたし宛の手紙。

 これまで頂いたのは会って話してみたいとかそんな内容だった。


 だけど、今回はそうではないらしい。


側妻(そばめ)の申し入れだよ」

「…………」


 側妻(そばめ)……、つまりは側室の申し入れ。


 ああ、うん。

 なんで?


 第二王子殿下は分かる。

 直接、似たようなことを言われているから。


 百歩譲って、第四王子殿下も分からなくはない。

 面識はあるから。


 だが、第三王子殿下にはお会いしたこともないし、第五王子殿下は数年前に面識はあってもそこまで親しかったわけではなかった。


 寧ろ、第五王子殿下については、自分も苛立ったせいか、うっかりいろいろ言っちゃって、目の前で魔力の暴走をされるところだったと記憶している。

 それなのに何故!?


 愛妾の申し入れではなかっただけマシだが、それも何の慰めにもならない。


「えっと、拒否はできますよね?」


 恐る恐る尋ねてみる。


「できるよ。但し、取り扱いを間違えると、ロットベルク家は潰されることになるらしい」

()()()()()()()()()()方々に、一貴族を潰すような権力があるのですか?」


 わたしがそう言うと、雄也さんが何故か破顔した。

 九十九は苦虫を噛み潰したような顔をしているけど。


 でも、国王陛下の意向に従わないと言うならともかく、後継者でもない王子たちが、国内の貴族を自分の私情だけでいちいち取り潰していたら、ローダンセから貴族がいなくなってしまうだろう。


 あるいは、貴族の家など、替えが利くものと認識しているのか?

 もし、そうだったなら、ローダンセは国そのものが本当に危険な状況なのだと思う。


「ないよ。でも、内容的にはそんな感じだった」


 つまり、王子たちが勝手に言っているだけらしい。


「何より、その内容を精査したところ、ある程度、教育を受けた令嬢なら、これを受け入れることはないだろうね」

「え?」

「まず、彼らは栞ちゃんの名前を知らなかった。この内、3通は、『ヴィーシニャの精』、『紅き花』、『白き歌姫』と書かれていたからね。唯一、第五王子殿下だけ、人間界の名前を書いていたけど、4通とも宛先はロットベルク家だった」


 つまり、ロットベルク家にいることは分かっていても、わたしの後見人をご存じないということである。


 わたしのローダンセ国内での後見人は、カルセオラリアの第二王子であるトルクスタン王子だ。

 ロットベルク家に居候中ではあるが、後見人がいる以上、そちらに宛てるべきだろう。


 つまり、アーキスフィーロさまは第五王子殿下にすらそれを伝えていないし、ローダンセ国王陛下も、王子たちに伝えていないということらしい。


 お世話になっている貴族の家が後見、庇護者だと判断すること自体は不自然ではないが、それも調査すれば、分かることだ。


 まさか、庶民にしか見えないわたしの後見を、他国の王族が担っているとは、思ってもみなかったってことだろう。


 でも、仮に後見人の存在を知っていたとしても、カルセオラリアの王族相手に「あなたが庇護している女を自分の側妻(そばめ)」にしたい」などという恥知らずな申し出は、真っ当な神経をしていれば無理だとも思う。


「庶民相手だから、適当で良いってことですかね」

「まあ、庶民相手に書簡を宛てるのも、本当ならば、おかしいのだけどね」


 雄也さんはそう言って困ったように笑うのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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