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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 護衛兄弟暗躍編 ~

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重要なのは

「そのような理由から、ローダンセはそれまでずっと伝えられてきた王家の秘伝を失っていると考えられる。もしかしたら、それに気付いている国もあるかもしれないね」


 雄也さんはそう薄く笑う。


 既に何度か移動している玉座の間。


 政変そのものは秘匿されても、何度か国王に御目通りをしている他国の使者なら、玉座の移動を知っている可能性はあるだろう。


 そして、他国はその玉座の間の重要性を知っている国の方が多いかもしれないのだ。

 少なくとも、セントポーリア国王陛下は、「玉座の間」と「契約の間」の意味を知っている。


 いずれも、王族が放つ体内魔気によって、大気魔気の調整を効率よく行う場所。


 アリッサムは王女である真央先輩や水尾先輩も知っていた。


 イースターカクタスは知らないはずがないだろう。


 ストレリチアは王家が忘れても、大聖堂がある限り伝わっていくはずだ。


 カルセオラリアは分からないけど、アリッサムの幼馴染がいたのだ。

 そちらから伝わっている可能性もある。


 それにそれ以外の場所でも、大気魔気の調整を王族が行っているという話は聞いたことがある。


 だけど、ローダンセは?


 それらの話を知らなかったから、平気で移動させているし、王族ではない貴族子息だけに契約の間の問題を押し付け、いや、任せていると考えるべきだろう。


「ローダンセで50年前、120年前に政変があったことは理解した。そして、玉座の移動が何度かあったことも。だが、それらと仮面舞踏会が行われた理由が全く繋がらないんだが?」


 九十九が尤もなことを口にする。


「さっきも聞いたが、あの国で2カ月に一度、舞踏会を行う理由は分かるか?」

「元『玉座の間』に、大量の王侯貴族を集めて、大気魔気の調整をさせているってことは理解した」


 雄也さんからの問いかけに、九十九は少し考えてそう答えた。


()()


 だが、雄也さんはそれを否定する。


「重要なのは()()()()()()()()()()()()

「あ?」

「へ?」


 でびゅたんとぼ~る?

 あの15歳以上の貴族子女による初舞台?


 でも、それがどうして重要なのだろうか?


「先ほども言ったように、玉座の間は何度か移動している。古の記録では『藍玉の間』から始まり、『青玉の間』、そして、現在の『星蒼玉の間』へと移り変わった。ここまでは理解できるな?」


 雄也さんからの問いかけに、わたしと九十九が同時に頷く。


「そのことから、ローダンセ城で、大気魔気の調整に適しているのは『藍玉の間』。つまり、デビュタントボールで使用している広間(ホール)だということは分かるか?」

「いや、その辺りは理解している。だが、それならば、円舞曲(ワルツ)の会場をそのデビュタントボールの会場と交換した方が良いって話じゃねえのか? デビュタントボール後の舞踏会の方が、貴族も多いんだろう?」


 それはわたしもそう思う。


 雄也さんが言うように、「藍玉の間」が本来の「玉座の間」であり、王族が放出している体内魔気を効率よく吸収して大気魔気の調整を図ることができるような場所ならば、人が多い方が良いだろう。


「それは王族が、『藍玉の間』の()()()()()()()()()()()()()……の話だな」

「あ?」

「その『藍玉の間』で円舞曲(ワルツ)を踊ると、何故か、大気魔気が落ち着く。ローダンセでは、それぐらいの認識しかないのだろうと推測している」


 雄也さんが眉間に縦皺を刻み込みながら、そう言った。


「無知過ぎないか?」


 呆れたように九十九は言うが……。


「その点に関しては、俺たちは周囲に恵まれすぎているだけだ。普通は、こんなものなのだろう」


 雄也さんはそう肩を竦めた。


 わたしたちの持つ情報源は、魔法国家の王族が持っている知識、セントポーリア国王陛下とその城や城下にある書物、時折気まぐれに送られてくる情報国家イースターカクタスの国王陛下からの手紙、法力国家ストレリチアの王族と王城内の書物、大神官からの指導とそれに関する大聖堂の書物、さらには機械国家カルセオラリアの王族や城内と城下の書物。


 うん、確かに普通ではない。

 寧ろ、異常な量と言っても差支えはないだろう。


 流石に情報国家イースターカクタスほどではないと思うが、かなりの知識が集結してしまっている。


「もっと細かく言えば、『藍玉の間』で、デビュタントボールの参加者が、王族と踊ることに意味があるのだと思う」

「王族が……?」

「理想は、国王陛下だろう。だが、それに耐えられる貴族令嬢が少なかったのだろうな。次いで、魔力の強い第二王子殿下と第四王子殿下辺りか。貴族令息については第一王女殿下だけだっただろうが、今年からは魔力が強い第二王女殿下も参戦してくれるようになった」


 雄也さんは淡々と語る。

 だけど……。


「第二王子殿下と第四王子殿下も、()()()()()()()()()()()ですよね? 多分、アーキスフィーロさまよりも魔力が落ちませんか?」


 第二王子殿下は契約の間でしょっちゅう、わたしの専属侍女たちにやられているイメージが強い。

 アーキスフィーロさまを相手にも瞬殺であった。


 そして、第四王子殿下にもお会いしたことはあるが、そこまで魔力が強いと思えなかった。


「栞ちゃんの()()()()()()()()()()()()

「まあ、日頃、接しているのが、水尾さんと真央さんだもんな。それ以外でもトルクスタン王子殿下に、若宮とかセントポーリア国王陛下……。ああ、栞の周囲には異常者しかいない」


 雄也さんも九十九もなかなか酷いことを口にしている。

 だが、あえて言うならば、あなたたちもその異常者の一員ですよね?


 ローダンセの王族よりもアーキスフィーロさまの方が、魔力も強いってことだろうけど、さらに、わたしの護衛たちはその上を行っている。


 まあ、彼らの血筋を考えれば……。


「わたしの周囲に()()()()()()()()()のか」


 そう結論付ける以外、なかった。


「だけど、なんで、そのデビュタントボールで、王族たちが踊ることに意味があるんだ?」

「多分、国王陛下限定だと思いたいが、あの仮面舞踏会の最中、栞ちゃんと踊っている時に身体強化魔法を使われていた。まあ、つまり、円舞曲(ワルツ)中に魔法を使っていたわけだな」

「「身体強化魔法……」」


 わたしと九十九の声が重なる。


「デビュタントボールが実際、どんな形になっているかは分からないが、参加者はまず、それぞれの相方を踊った後で、王族と踊ると聞いている。それは間違いないよね?」

「はい。わたしも国王陛下と踊りました」


 あれを踊ったと言って良いかは謎であるが。

 投げ飛ばされたという印象の方が強すぎる。


「つまり、あれか? その『藍玉の間』とやらで、国王陛下が身体強化魔法を使ったから、大気魔気の調整ができたことを、その広間(ホール)で王族たちが円舞曲(ワルツ)を踊ったから大気魔気の調整ができたと考えたってことか?」


 九十九がそう整理する。


「雑な結論ではあるが、そういうことだろうな」


 雄也さんもそれを認めた。


「阿呆か?」

「同感だ」


 護衛兄弟たちはなかなか酷いことを言い合っている。


 ここがローダンセから離れたセントポーリア城下の森にあるコンテナハウスの中で良かった。

 ローダンセの……、ロットベルク家でする話ではないだろう。


「実際、舞踏会直後に大気魔気が少しだけ安定しているらしい。それもここ数年で一番、安定したのが、直近の『花の宴』後。つまり、アーキスフィーロ様と栞ちゃんのデビュタントボールだ」


 よりにもよって!?


「近年で一番、デビュタントボールの参加者が少なかった日であったにも関わらず、そんな状態だったことに、国王陛下は悩んだ。自分が踊ったためか、高魔力所持者のアーキスフィーロ様が踊ったためか判断が付かなかったってことだろうね」


 そう言えば、土壇場で参加キャンセルが相次いだと聞いている。


 その次に行われた仮面舞踏会はでびゅたんとぼ~るに参加したことがある貴族子女全てに招待状が送られたらしいから、参加を見合わせた人たちは困ったことだろう。


「そう言えば、栞しか白いボールガウンを着た女がいなかったな」


 九十九が思い出したかのようにそう言った。


「事前調査では、5組はいたはずなんだが……」


 いつの間に、そんな調査をしていたのだろうか?

 いや、15歳以上と決まっているのだから、その辺から絞ることはできるのか。


「ああ、急遽、アーキスフィーロ様が参加されるという話を聞いて、その5組の子女は参加を断ったそうだ」


 そんな気はしていた。

 アーキスフィーロさまのあの国での扱いはそれだけ酷かったから。


 魔力が強く暴走するために怖がられている……というよりも、幽霊を見たような反応をされるのだ。


 まるで、一度、()()()()()()()()()()()()()


「……何故に?」


 九十九も雄也さんのように顔をしかめ、その眉間に縦皺を刻み込む。

 彼のような真っすぐな人間は、そういった他者の行為は好きじゃないのだろう。


「単純な話だ」


 雄也さんは一瞬だけ、わたしを見て……、それを口にする。


「アーキスフィーロ様は『懲罰の間』で死んだとされる『呪われた黒公子』の生まれ変わりらしいからな」

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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